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第2章 ぷーるにきたこどもたち

 カメラ小僧もどきのブラヌ・ラスダーは、今日の撮影は悪友たちに任せて、プールに訪れていた。
 というのも、今回の遠足にはななななんと、新妻である牡丹・ラスダー(ぼたん・らすだー)がついてきたからだ!
 新幹線に乗る直前までは仕事もする予定だったブラヌだが、牡丹の
「ふふふ……ブラヌさんと結婚した後に地球に行くなんて……何だか新婚旅行みたいですね!」
 という言葉を聞いた途端!
 今日は仕事は休んで、牡丹との新婚旅行気分を満喫することにしたのだ。
 ただ……。
「ブラヌさん、こっちのプール、大人用みたいです。あっちの波のプールいきましょー」
 リーアからもらった薬が子供化する薬だとは知らず。間違って飲んでしまった牡丹は可愛い子供と化していた。
 売店で買ったワンピース型のフリルのついた水着がとっても似合っている。
「うきわもってはいればだいじょーぶだろ。おれはいくぜー!」
 ブラヌも勿論子供と化している。外見年齢的にはブラヌの方が幼ないようだ。
 牡丹が自分のお嫁さんだということは理解している為、カッコいいところを見せようとブラヌは、売店で買ったキャラクターものの浮き輪を持って、大人用のプールに飛び込んだ。
「ブラヌさん、ここうきわきんしですよ……あっ!」
 プールサイドを走っていた子供とぶつかり、牡丹はプールの中に落ちてしまった。
「ん……ぐ……」
 そのプールは水深が1メートル以上あって、牡丹の今の身長では水の中から顔を出すことが出来なかった。
「お、おい、ぼたん!!」
 気づいたブラヌが手すりを掴み、流れに逆らって必死に牡丹に近づく。
「そのままながれにのって、おれのうきわにつかまれー!」
 言葉は良く聞こえなかったけれど、ブラヌのいる方向だけはわかっていた。
 牡丹は流れに身を任せながら、ブラヌの方に手を伸ばす。
「あぷ……っ」
 ぐいっと牡丹の手が力強く引っ張られた。
「だいじょうぶか、ぼたん!」
「はあ……はあ……っ」
 牡丹はブラヌに腕を引っ張られ、浮き輪の方に引き寄せられていた。
 浮き輪を掴んで顔を上げて、牡丹は力強く頷く。
「ここは、浮き輪禁止ですよー。出られますか?」
 スタッフが2人に気づき、声をかけてきた。
「おう! わるかった」
 ブラヌは素直に謝って、先に牡丹をプールからあがらせてから、自分もあがったのだった。

「さっきは、しんぱいかけてごめんなさい」
 プールから出た後、牡丹はしゅんとしていた。
「ううん、おれがばかだった……ぼたんがあぶないめにあうようなことして」
「いえ、わたしがわるいんです。これからはきをつけます!」
「おれもぼたんがいっしょのときはもっときをつける!」
 2人はそう約束しあって微笑んで。
 プールサイドでちょっと休憩をした後、子供用の波のプールに行って遊んだ。
 それから、牡丹が作ってきたお弁当を食べたり、パラソルの下でおしゃべりしたり、また泳いだり。
 2人だけの初めてのプチバカンスを存分に楽しんだのだった。

「子供のカップルか、微笑ましいな〜」
 南臣 光一郎(みなみおみ・こういちろう)は、普段の姿のまま、訪れていた。
 近くには、子供のカップル――ブラヌと牡丹の姿があり、牡丹がお弁当を「あ〜ん」とブラヌに食べさせてあげていたり。
 「ごはんのあとはやすまなきゃな、ひざまくらしてくれよ〜」
 などと、ブラヌが牡丹に甘えたり。
 大人だったら爆発させたくなるほど、いちゃいちゃしていたけれど、子供同士ならば微笑ましく見える。
 それにいくら可愛くても、今の牡丹は光一郎のターゲットではなかった。
「プールは【エロいヤルガード】のホームグラウンドっ! だからな。
 夏は俺様の季節だぜ」
 光一郎は妖しく微笑みながら、プールサイドのお姉さんたちを眺める。
 いつも何かと邪魔をしてくれるパートナーのオットー・ハーマン(おっとー・はーまん)と一緒に訪れているが、オットーはリーアの薬を飲み、幼児化してしまっているので、今日は光一郎にとって無害なのだ。
「地球に来るのも久しぶりだな〜。地球のプールといえば、ぴちぴちの人間の女の子だよなあ」
「ん? ぴちぴち」
 ぴちぴちと音が響き、光一郎は後ろを振り向いた。
「いや、ぴちぴちといっても鯉くんのことじゃなくてね。というか、鯉くんは小さくなっても鯉くんなんだね」
「それがしこいさんではなく、どらごにゅーとである!」
 言いながら、ぴちぴちとオットーは体を動かす。
「頭身がさがって金魚みたいだ」
「きんぎょ?
 ええい、これほどいってもわからぬともうすか〜!」
 かぷりと、オットーは光一郎に噛みついた。
「はっはっはっ、全然痛くないよー。はーい、魚(ウォ)ータースライダーいきますよぉ。たかいたかい〜。けれども、おれちゃまくんがついていますからね〜」
 光一郎はぴちぴちしているオットーの身体を軽々と持ち上げてウオータースライダーへと連れて行く。
 普段は身長2メートル以上で、体重100キロ以上のオットーだけれど、4歳くらいの幼児に化した今はとっても軽かった。
 そして、光一郎の言う通り、姿は魚に他ならない。直立歩行する金魚のようだ。
「う、魚(うぉ)〜た〜すらいだ〜? それがしこわくはない、こわくはないぞ」
 ぶるぶる、オットーは震えていた。
「そんなにふるえなくてもだいじょうぶですよぉ〜」
「ええいっ、ふるえてるようにみえるのは、むしゃぶるいだ!
 それがしおよぎはとくいゆえ、なにをおそれることがあろうかっ!」
 えいっと、オットーは光一郎の手から離れて、1人でウオータースライダーに挑戦。
 ぴちぴち、ぴちぴち跳ねながらすべって、プールの中へと落ちていった。
「ほ、ほら、だいじょうぶであろう〜」
 一旦顔を出して強がりを言った後、オットーはプールの中を泳いでいく。
 でも姿形は金魚だけれど、直立歩行の生き物なので……。
「ん、んぐおう……!」
 立とうとした時、足がつかないことに気付き大慌て。
 浅い場所に戻ろうとするが上手く方向を変えられない。
「鯉くん……? まさか」
 微笑ましくのんびり眺めていた光一郎だけれど、オットーが溺れていると気づいた瞬間。
 真剣な表情でプールに飛び込み、脇目も振らずオットーのもとへと泳いだ。
「かぷかぷかぷ……」
「大丈夫か?」
 そして、普段では考えられないほどの超マジモードで、オットーを掬い上げた。
「ふ、ふぐ……げほっ。だいじょうぶである」
「おいおい、今度は俺様が助ける番になっちまったなぁ」
 にかっと、光一郎はオットーに笑いかけた。
 2人には、盛大に溺れた光一郎をオットーが助けたという過去がある。
「こういちろ……」
 そして2人はそのまま見つめ合い。
「俺様は確信した。やっぱりお前、鯉だな。金魚じゃなくて」
 コイに落ち……いやいや、鯉が落ちたのである。