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バカが並んでやってきた

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第22章


『おかしいわね……秋将軍が消えたということは、闇の結界が消えたということよね……どうして、まだ融合していることができるのかしら?』
 フレリア・アルカトルは呟いた。暗黒秋将軍との戦いの最中にヴェルリア・アルカトルと行なった融合が、まだ持続している。
『そうですね……まだ秋将軍の力が持続している……ということでは……存在は消えても、その力が残っている……?』

 柊 真司はその言葉を聞いて呟く。
「つまり……まだ先があるな……よし、行こう。まだ力が残っているならば、集まる先は奴らの首領……春将軍のところだろう」

 ウィンターの分身によって、その場所は分っている。一行は急いで移動を開始した。


                    ☆


「おのれ……まさかここまで苦戦するとは、思わなかったぞ……」
 閃光春将軍は自分以外の将軍達、すなわち夏将軍、冬将軍、そして秋将軍の敗北を察知し、苦々しげに呟いた。

「はん、まさかまだ勝てるつもりやないやろなぁ?」
 七枷 陣は相変わらずの軽口を叩く。
「黙れ、下郎……今までのは、ほんの戯れにすぎん……!!」

 閃光春将軍が怒号を上げると、周囲の空気が明らかに変化を始めた。
 街中から夏将軍の炎熱、秋将軍の闇黒、冬将軍の氷結が集まってきた。それらは閃光春将軍を中心に集中し、やがてひとつの人型を形作っていく。


「これこそが我が本来の姿……四つの季節と天候すべてを統べる……季候大将軍よ!!」


 そこにいたのは光輝、闇黒、炎熱、氷結の4つのエレメントを兼ね備えたエネルギーの塊がいた。
 4つの核をひとつに融合した季候大将軍はのベースはやはり春将軍にあるようで、男の声が響き渡る。

「……そろそろ良かろうスプリング……いや、ウェザー。我が元へ帰らぬか」

「――なんだと?」
 春将軍と対峙していた天城 一輝は聞き返す。背中で共に戦っていたスプリング・スプリングの身体が明らかに硬直した。
「そういえば、元から知った顔のようだったな?」
 同じ様にスプリングのガードに回っていた朝霧 垂も疑問を口にする。

「あー……あんまり知られたくはなかったんだけど……ピョン」
 スプリングは、ばつが悪そうに呟いた。
 そこに、闇の柱の中から這い出してきたアキラ・セイルーンも加わった。
「あのさぁ、その意味では俺も聞きたいことあるんだけど、いい?」
 アキラの顔を見たスプリングは、苦笑交じりで答えた。
「……うん、いいでピョン。気になるだろうし」
 その返事を得て、アキラは質問する。
「この近辺の春と冬はスプリングとウィンターが担当してるんだろ?
 夏担当のサマーや秋担当のオータムはいないワケ? ウィンターはいないって言ってた。何の疑問もなく……な」

 そこまで聞いて、スプリングは軽くため息をつく。
「分った、全部話すでピョン……そもそも、今回地上から精霊たちが侵攻してきたのは、ある意味では私のせいなのでピョン」

「どういうことだ?」
 一輝の当然の質問。スプリングは淡々と答える。
「そもそも、春将軍という存在は存在せず、地上の季節を担当する精霊がいただけだった。
 そして私は、その精霊をサポートする役目の天候の精霊……ウェザー・ウェザーという存在だった……でピョン」
 そこに、ツァンダ付近の山 カメリアと融合したザナドゥの地祇 メェと融合した南部 ヒラニィが声をかける。
『ほう……スプリングというのは偽名だったのか』

「……誰でピョン?」

『かくかくしかじか』
「……ああヒラニィか。相変わらず扱いヒドいでピョンね」
『そうなのよーこいつらわしを何だと思っておるのかと』
「うん、まあいいでピョン」

『おぬしもたいがいヒドいな』

 ヒラニィに構わずスプリングは続けた。
「まぁ……偽名といえばそうでピョンね。
 私はいずれ地上からパラミタへと侵攻する尖兵として、季候大将軍から送り込まれた……いわばスパイだったのでピョン。
 パラミタには各季節を管理するという精霊のルールはなかった。だから、私がまず入り込んでパラミタの季節をも支配しようと、そういう企みだったわけでピョン」
 今さら隠してもしょうがない、という風にスプリングは語った。
 そして、当の季候大将軍も言葉を繋ぐ。
「そう……そしてその企みは成功し、ウェザーはスプリングと名を変えてパラミタの地に馴染んでいった。
 そしてウィンターという部下をも作り……我を裏切ったのだ」
 忌々しげに語る大将軍。しかし、スプリングの表情を見た一輝は、改めて尋ねる。
「……ウィンターを作ったのは……天気の精霊……のような存在、じゃなかったのか……?」
 以前、あまりにも仕事をサボるウィンターをたしなめるため、ウィンターが冬を管理する資格を剥奪されそうだ、という話を皆に持ちかけたことがあった。その時のスプリングの説明によれば、天気の精霊様、というような存在がいたはずである。
「ゴメン……あれはウソでピョン。その天気の精霊というのは私のこと……そう、ウィンターを作ったのは……報われない子供たちの魂を集めて、ウィンターという精霊を作ったのは……私なのでピョン」
 その話に、垂も頷く。
「ああ、だからウィンターを自分で助けることに、ムキになっていたのか」
 こくりと頷くスプリング。
「そもそも、冬を担当する精霊が天候の力を操れることに矛盾があると思わなかったでピョン?
 季節と天気とはまた別のもののはずでピョン。冬の担当のはずのウィンターが太陽のブーストを使えるのもおかしな話だし……」
 そこまで聞いて、アキラは大きく納得した。
「ああそうか。だからスプリングとウィンターしかいなくて、サマーやオータムはいないんだ」
「そういうこと。ウィンターには自分がパラミタの季節を担当する精霊だと教え込み、ボロがでないように他の季節の精霊はいない、と暗示をかけた。そこまでして……」
 スプリングは、改めて季候大将軍を睨みつけた。

「私はパラミタの季節を地上から守りたかった……。
 この地に来て分った。パラミタにはパラミタの季節がある。私達のくだらない精霊同士の争いに巻き込んじゃいけないって、そう思ったのでピョン。
 いつか、地上から季候大将軍が襲ってきたときには、この命に代えてでも追い払い……パラミタの季節を守るのは、ウィンターに任せるつもりだった。ウィンターは、私の分身でもあり……娘でもあったのでピョン」

「それが地上の精霊……季候大将軍に対する裏切り、というワケか」
 話を聞いた垂は、スプリングの傍らに立って肩をポンと叩いた。
「うん……本来なら私は季候大将軍のスパイとしてパラミタの季候を操り……いずれ来る大将軍の侵攻に協力しなければならなかった。
 けれど、私はこのパラミタを気に入ってしまって……私がパラミタの精霊になってしまった。だから、この地は大将軍には渡せない。
 私はもうウェザー・ウェザーじゃない。このあたりの春を司るひとりの精霊、スプリング・スプリングなのでピョン」


『――そういうことだ。さあ、おしゃべりは終わりだ、ウェザー!!
 最後のチャンスをやろう。我が軍門に下り、この地を支配するのだ……手始めに、この邪魔な地球人どもを一掃する!!』

 宣言する季候大将軍を前にして、ルカルカ・ルーは一歩前に出た。
「……バッカじゃないの? ここまで聞かされて、誰が黙って一掃されるもんですかって……ねぇ、スプリング?」
 首だけで振り向き、軽くウィンクを決める。その横には、スプリングを庇うようにダリル・ガイザックが立ちはだかった。
「その通りだな。スプリングが元の名を捨ててまで、この地の季節を守ろうというのなら……俺達がスプリングを守ることに、何の異論があるというのだ」
「……二人とも……」
 スプリングの肩に手を置いたまま、垂もまた前に出る。
「ま、そういうことだな。大筋は理解したよ……つまるところお前は、スプリングを取り戻しに来たけど、スプリングに帰る気はない……単純な話じゃねぇか。大怪我しないウチにとっとと帰んな」
 垂は片手を払って、しっし、と合図をした。

『……良かろう!! そこまでコケにするというならば……我が力の全てをもって、貴様らを皆殺しにしてくれる!!』

 季候大将軍が吼える。だが、ここにおいて無言を貫いている少女がいた。
 その少女――ウィンター・ウィンターの分身がようやく口を開いた。

「……待つでスノー!!」
 その横には、親友であるノーン・クリスタリアの姿がある。
 本当はノーンも冬将軍と戦いに来ていたのだが、途中からスプリングの様子がおかしいことに気付いたウィンターが、ノーンを留めて様子を見ていたのである。
 ノーンもまた叫んだ。
「そうよ、スプリングちゃんは渡さないし、ウィンターちゃんもきっちり復活させてもらうんだからっ!!」
「その通りでスノー!!
 正直、いろいろあって混乱しているし、私を作ったのがスプリングだというのも初耳でスノー……でも、今はそれどころじゃないのも分るでスノー!!
 だから、私は私にできることをする……私を助けてくれる友達と共に、戦うでスノー!!!」

 ウィンターの分身とノーンは手を取り合って、融合を開始した。

 まだ秋将軍の張った闇の結界の影響はうっすらと残っている。融合が使えるロスタイムはあとわずかだが、それでも季候大将軍との戦いには充分な時間が残されていた。

 そっとノーンに付き添っていた御神楽 舞花はノーンにカリアッハの杖をそっと手渡した。あらかじめ調律改造を施したのである。
「さあ、ノーン様のステッキ、強化完了しました。どうかお受け取りください!!」
 そして、手渡されたメモを軽く流したノーンは、ポーズを決めつつも高らかに宣言した。
『変身……!!』
 ウィンターの分身と融合したノーンは17歳くらいの姿に変身し、季候大将軍をビシッと指差した。

『愛するツァンダの街を、親しき友を守るため!! 極凍の魔法少女 超アイシクルノーン!!』
『冬の精霊、ウィンター・ウィンター!!』
『共に氷臨!!』

『ふざけるなあああぁぁぁっ!!!』

 怒りに狂う季候大将軍は一気にウィンターと融合したノーンへと襲い掛かる。四つのエレメントを駆使して、光弾と闇の触手、炎熱の剣と氷結の波動を同時に繰り出してきた。
 しかし、そこにルカルカとダリルが割り込み、ノーンとウィンターを庇った。
「おっと、黙ってやられるわけないって言ったでしょ! ダリル!!」
「任せろ、ルカ!!」
 二人の息のあった忍術『火門遁甲・創操焔の術』と『風門遁甲・創操宙の術』が再び炸裂する。

『うおおおぉぉぉっ!!!』

 互いに効果を高めあう強力な忍術が発動し、溶岩柱とプラズマの嵐が巻き起こった。季候大将軍の攻撃を防ぎ、本体にもダメージを与える。

 そこにフレリア・アルカトルと融合したヴェルリア・アルカトルが駆けつけた。
『どうやら間に合ったようね……ウィンター! 今度はブーストよ!!』
 融合した二人はウィンターの分身のブーストの力を借りて、ショックウェーブを叩き付けた。強力な衝撃波が迫り来る季候大将軍を押し留める。

『行くよ、イングリットちゃん!!』
 イングリット・ローゼンベルグと融合したままの秋月 葵も同様だ。
 季候大将軍の中心目がけて全力の攻撃を放つ。
『いっくにゃーーーっ!!!』
『シューティングスター、フルバースト!!!』
 ウィンターの分身によってブーストされたシューティングスターが、季候大将軍を真正面から捉える。

 そこに、涼介・フォレストが割り込んだ。
「さて、春将軍……いや、季候大将軍よ。そろそろ決着をつけましょうか。
 ……古に伝わる龍王よ。汝が真名と血の契約において、我、涼介が命ず。
 今ここに顕現し、汝が力を示せ――召喚! バハムート、ベヒモス」
 涼介の求めに応じ、二体の龍王が召喚された。空と地上の強力な龍を従えた涼介は、冷ややかな瞳を季候大将軍に向ける。
「言った筈だ……きっちりツケの支払いをしてもらうとな」
 涼介が合図をすると、一対の龍王はそれぞれに強力なブレスを吐き出した。

『ぬうううぅぅぅっ!!!』

 ドラゴンのブレスは、実体を持たない季候大将軍にも充分に有効で、他のメンバーの攻撃と合わせて大ダメージを与えていく。

「さぁウィンターさん……決めてくれ」
 涼介はノーン融合しているウィンターを振り返り、言った。
『みんな、ありがとうでスノー! ノーン、いくでスノー!!!』
 気合を入れるウィンターに、ノーンのパートナー、御神楽 陽太がノーンの『流凍刃』を投げ入れた。
「ノーン、これを使ってください!!」
『ありがとう、お兄ちゃん……いくよっ!!!』

 ノーンとウィンターは融合したまま、数々の攻撃を受けてひるんだ季候大将軍へと突撃した。
 カリアッハの杖による斬撃が古代シャンバラ式杖術により放たれる。
『やあっ!!』
 続いて流凍刃から放たれた凍気が、無数の刃となって季候大将軍を襲った。

『二人の力を合わせれば、この凍撃は……全てを凍らせる……!!!』
 元より氷結の精霊であるノーンと、冬の精霊であるウィンターとの相性は抜群に良い。かつ互いの能力を最大に高めることができる成長した肉体に変身した二人の全力の氷結攻撃は、季候大将軍の防御能力を上回るものであった。

『ノーン、一気に押し込むでスノー!!!』
『もちろんだよ、ウィンターちゃん!!!』


『いっけえええぇぇぇっ!!!』


「バカな……バカなあああぁぁぁっ!!!」


 裂帛の気合が、季候大将軍を押していく。光も闇も炎も氷さえも凍らせる二人の攻撃は、やがて季候大将軍の存在そのものを消し去って行った。