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バカが並んでやってきた

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第6章


「ブレイズ……貴公は何の為に戦った? 悪を倒す為か? 誰かに認めてもらう為か?」

 雨が降り始めていた。

「あの日……貴公がその拳の中に感じたのは……そんなものだったか?」

 その雨の中を、一台のバイクが走る。

「貴公は覚えているか……我との出会いを……その拳を握り締めた時……」

 男はそのバイクを駆り、街の人々を襲う冬将軍へと向かっていた。
 人々を襲うアシガルマの群れ。
 それを率いる冬将軍。
 今まさにその男はバイク『マシン シルバージョン』を止め、冬将軍の前に立ちはだかった。

「……邪魔だ、下がれ」
 冬将軍は、その男を睨みつけた。
 長い黒髪を後ろで束ねたその小柄な男は、威圧する冬将軍を前に静かに構える。
「……下がるのはそっちだ」
 静かに重く、男は応えた。
「何ぃ?」
「この先には我の後輩がいる。あいつが立ち上がって、ここに来るまでは――我がここで食い止める」
 す、と男は片手を前に出した。
 その気配に、冬将軍は反応する。
「――貴様が一人で戦おうというのか?」
 男が腰に装着した、変身ベルトが静かに作動した。

「――その通りだ――」


 その男――風森 巽(かぜもり・たつみ)はコントラクターである。

「――変、身――!!」

 人々の平和と自由が脅かされそうなその時、彼は変身スーツに身を包み――

「蒼い空からやってきて、夢と正義を護る者――」

「やれぃ!!」
 冬将軍の号令で、アシガルマの群れが一気に襲いかかる。
「……!!」
 しかし、素早い身のこなしでアシガルマの第一波を避ける巽、そのまま回し蹴りを放つと、周囲のアシガルマが一掃された。
 その様子を見た冬将軍は、敵としての実力を認め、口を開く。
「――名を――聞いておこうか」


「――仮面ツァンダー、ソークー1!!!」


 人間の平和と自由のために戦うのだ!!


「ここから先は、一歩も通さん!!」


                    ☆


「ぬぅ……」
 襲い来るアシガルマの群れにコア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)は辟易していた。

 一体一体の強さは大したことはなく、いかに能力が制限されているとはいえ遅れを取る心配はない。
 しかし、それはあくまでコントラクターであれば、の話。

「危ないっ!!」

 いくら数で押しても押し切れないハーティオンに、アシガルマの群れは標的を変えることで対応した。
 すなわち、ハーティオンが守ろうとする街の住人を狙い始めたのである。
「くっ……私一人ならばいいが……こう数が多くては、とても守りきれるものでは……」

 パートナーのラブ・リトル(らぶ・りとる)も街の人々に呼びかけて避難を誘導するが、やはり一人では限界がある。
「はいはーいみんなー、あたしの言うこと聞いてー、大人しく避難してねーっ!!」
 日頃からアイドル活動に精を出す彼女だが、この非常時に一般市民を効果的に誘導するのはやはり至難の業だ。
 一部の市民が恐怖心からパニックに陥ろうとしたその時。


「みんな、聞いて――!!」


 突然、大音量の音声が響き渡った。
 声の主は、綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)である。
 元よりコスプレアイドルデュオ『シニフィアン・メイデン』のライブイベントとしてツァンダの街を訪れていた彼女とアデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)は、屋外ライブの施設を利用して一般市民への呼びかけを始めたのである。

 次いで、音楽。

 彼女達の持ち歌をワンコーラス。
 ともすれば歌など聴いている場合かという意見もあるだろうが、まずはこちらに注目を集めることで人々の視線と耳に指向性を持たせるところから始めた。
 注目を集めればすぐに、指示も出しやすいというもの。

「いいですかみなさーん――敵から襲われにくくするためには単独行動をとらないで――固まって移動してくださーい」
 さゆみの元気な声がマイクを通して人々に届き、少しずつ落ち着きを取り戻していく。

「安心してください――いま、この状況を打破すべく多くの人が動いています――わたくし達は――それを信じて待ちましょう――」
 アデリーヌの優しい声が、安堵感を更に増していった。しかし、一部パニックが収まっていないあたりから不安の声が漏れていた。

「これだけの数の敵が攻めて来てるんだぞ、何が安心なものか!! いいから先に安全な場所を確保して、俺達だけ運べよ!!」
 戦う手段を持たない一般人としては、気持ちは分るが何とも身勝手な言い草である。
 言い捨てるようにして一部の人間は列を離れ、自分達だけ逃げようとする。

「あららら、言うこと聞けない悪い子は――」

 さゆみはステージから降り、素早く懐から『まじかる☆ますけっと』を取り出した。まっすぐ、逃げ出して走る男へと狙いをつける。
「おいおい――」
 事態を遠くから見ていたハーティオンだが、この場からそれを止めることはできない。
「ばんっ!!」
 さゆみの掛け声と共に、銃弾が発射される。

「――うわあっ!!」
 それに気付いた男が叫び声を上げるが、その銃弾は男の横顔をかすめ、物陰に潜んでいたアシガルマに命中した。

「おお、そんなところに潜んでいたのか!!」
 驚きの声を上げるハーティオンに続き、アデリーヌが大人しくしている人々の誘導へと向かった。
「さあ、行きましょう。道はわたくし達が作ります!!」
 アシガルマ達の包囲網に穴を開けるべく、アデリーヌはファイアストームで一部のアシガルマを溶かして進む。
「よっし、こっちも行くよっ!!」
 さゆみもそれを固める形で、シュレディンガー・パーティクルでサポートした。

 一般市民の誘導が始まったのを見て、ハーティオンは改めて自らの武装、勇心剣を握り締めた。
「よし――市民の誘導は大丈夫なようだ――ウィンター!! 私にもその力、貸してくれ!!」
 同行していたウィンターの分身を呼ぶ。
「了解でスノー!! こちらも負けてられないでスノー!!」

「頼むぞ――とぅっ!!」
 ハーティオンは空高くジャンプした。そこにウィンターも追い、雪だるマーとして次々に装着されていく。

「――合体!! ウィンタ・ハーティオン!!」

 各部位を雪だるま状のアーマーで覆われたハーティオンは、着地と同時にスケーティングを開始する。
「行くぞ――うおおおぉぉぉっ!!!」
 勇心剣を握り締め、雪だるマーのスケーティング能力を利用したハーティオンは、そのままスピードを乗せてアシガルマの群れに突撃した。
 更に、まるでフィギュアスケートの選手のように滑りながら回転を加え、その回転力を剣の威力に加えていく。


「必殺!! 旋風大回転斬りーーーっっっ!!!」


 雪だるマーの力を借りたハーティオンは次々にアシガルマを切り裂き、市民の誘導を助けていくのだった。


                    ☆


 一方その頃、冬将軍にひとり戦いを挑んだ風森 巽は。


「ソゥクゥッ!! イナヅマ!! キィィッックッ!!!」


 必殺のキックが冬将軍へと炸裂する。だが。

「――効かんなぁ!!」
 平然とした顔の冬将軍に、軽く舌打ちをする。
「ちっ、この闇の結界のせいか――」
 町全体を覆っている闇の結界が、巽の肉体能力を著しく低下させていた。このままでは冬将軍を打ち倒すことは至難の業だ。

「今度はこちらからいくぞぉっ!!」
 冬将軍は反撃とばかりに、両手の刀で巽に切りかかる。
「危ないでスノー!!」
 ウィンターの分身は声を上げ、素早く雪だるマーとして巽に装着された。
「ありがとうウィンター――思えば、正義の味方として雪だるマーを装備するのは初めてだな――」
「来るでスノー!!」
 眼前まで迫った冬将軍の刃に、しかし巽は両手を小さく構えて応戦した。


「青心蒼空拳――梅花」


「おらおらおらぁっ!!」
 激しい冬将軍のラッシュの中、巽は最小限の動きでその無数の斬撃の威力を逸らしていく。
「す……すごいでスノー」
 不壊不動――その鍛え抜かれた技の冴えに、ウィンターは呟いた。
 ダメージがないわけではない。だが、巽の構えは敵の攻撃を最小限の威力に押しとどめ、致命傷を防いでいるのだ。
「でも、このままじゃいつかはやられてしまうでスノー!!」
 叫び声を上げるウィンター。その言葉通り、周囲には冬将軍のほかにアシガルマが迫ってきていた。
 しかし、巽は穏やかに応える。
「大丈夫……後輩があれだけ頑張ったんだ。そう易々と倒れたんじゃ、立つ瀬がなくなっちまう」

 冬将軍の両の刃を篭手で受け止めた。冬将軍は巽の眼前にその不気味な面頬を寄せる。

「うわははは、貴様一人でいつまで持ち堪えられかな!? 我が斬ったあの若造を待っているのなら――」
 無駄なことだ、と冬将軍は哂った。
 しかし、巽の両手は動かない。じっと冬将軍の攻撃を耐え忍び、時を待った。
「いいや、来るさ。あいつはきっとな――」
「ほぅ、何故そんなことが言える!?」

 ふ、と軽く微笑んで。

「我の拳が夢と正義を守る拳なら――アイツの拳は夢と希望と、勝利を掴む拳だからだ! だから来る! 必ずな!!」

 巽は叫んだ。