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【未来シナリオ】大切な今日

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ブラヌの夢

 若葉分校で庶務をしていたブラヌ・ラスダーは、パラ実を卒業してからも、若葉分校に留まっていた。
 今は、妻の牡丹・ラスダー(ぼたん・らすだー)と一緒に若葉分校側に手作りの小さな家を建てさせてもらい、地代を払いながら暮らしている。
「ブラヌさん、お茶を淹れますよ、休憩にしませんか?」
 牡丹がブラヌの仕事部屋に顔を出す。
「うわっ」
 ブラヌは慌ててパソコンのブラウザを閉じた。
「……ブラヌさん、もしかしてまたそういうサイト見てたのですか……」
 牡丹が悲しそうな声で言う。
「いや、その……仕事だからなっ。分かってるだろ、俺が牡丹一筋だってこと」
「ふふ、わかってますよ」
 牡丹はすぐに、明るい笑みを見せる。
 ブラヌの書斎には、牡丹が見たくないようなものが実は沢山あるのだけれど、彼の仕事がアダルト……までは行かない、マニアックなサイトの運営なのだから、仕方がない。
 牡丹と結婚してからは、牡丹から通信について教えてもらって、今では自分でプログラムまで出来るようになっていた。

 畑が見える居間に行き、ブラヌがテーブルの前に腰かけると、牡丹は彼の湯のみにお茶を注いだ。
「近くの御茶畑で採れた茶葉のお茶です」
「ああ、もうそんな時期か」
 ブラヌは牡丹が淹れてくれたお茶を飲み、ふうと息をついた。
「あのさ」
「はい」
 牡丹は自分の湯のみにお茶を注ぎながら返事をした。
「さっきの……もう隠す必要、なかった」
「はい?」
 急須を置いて、牡丹は不思議そうな目でブラヌを見た。
「実は俺、今出会い系サイト作ってるんだ」
「はい……」
「なんつーか、怪しいのじゃなくて、健全なやつ! そろそろパラ実的な商売からは足を洗おうかと思ってな」
 ブラヌには夢があった。
 牡丹と結婚して、彼女がブラヌのもとに――若葉分校に来てくれると約束し、契約を果たした時からの夢だ。
「ほら、地球には当然あるコミュニティツール! パラミタはまだネットはそんなに普及してないからさ、俺が作ってやろうと。パラ実の奴らは馬鹿だけど、バイクの改造とかじゃ、普通の学生にゃ負けないんだぜ。んで、出会いとか、騒ぐのとか、大好きなんだ!」
 お茶を飲むのも忘れて、ブラヌは目を輝かせて語る。
「だからさ、若葉分校を出会い系サイトの本部にしたいんだ。ネット上の出会いだけじゃなく、地球やパラミタや、世界各地に居る奴らと、実際に会うんだ!」
「……要するに、若者たちのコミュニティサイトを作っていたんですね?」
「ああ!」
 壮大な夢ではなく、大きな稼ぎにもならないだろう。
 だけれど輝いている彼の目には、未来の若葉分校の姿が映っていた。
(若者たちの出会いの場。きっと総長も支持してくれるでしょうね)
 ブラヌが健全な夢を持っていたことに、牡丹はほっとした。
 そして、これからも変わらず彼の側で、自分は彼と共に歩いていくのだと、再確認した。
「それで、実はだな」
「はい」
「既に会員数が1万人を超えてるんだ」
「ええっ!?」
「無料のサイトだけど、アフィリエイトの収入が結構入ってて。地球の銀行の口座に入ってるんだけど、それ換金したらそこそこの額になるから」
「はい……」
「そろそろ、あれだ」
「……」
「ガキが欲しいなって」
 顔を赤らめながらブラヌは言った。
 牡丹は突然のことに戸惑いながらも――首を縦に振った。
「牡丹っ!」
 途端、ブラヌが飛びつくように牡丹に抱き着いた。
「愛してるぜー、俺の天使!!」
 牡丹は彼と幸せに抱かれながら、そっと目を閉じた。

「ヒャッハー! 四天王の俺様が来てやったぜー!」
 ……しかし、2人の甘い時はいつも長続きはしない。
「おっと、茶店にお客サンが来たようだ。ちと行ってくるな」
 腕をまくり、ブラヌが玄関に向かう。
 随分と逞しく、勇ましくなった彼を、牡丹は穏やかな顔で送りだす。
「いってらっしゃい、ブラヌさん。お茶が冷めないうちに、帰ってきてくださいね」
「ああ!」
 笑みを残して、ブラヌは分校へと走っていく。
 ブラヌは牡丹と契約をしてから、自分を磨いてきた。
 そして若葉分校の守衛として、その力を発揮している。