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リアクション
【心覚】
2025年――晩夏。
夕日の綺麗な時間だった。
赤く燃えるような太陽が最後の光りで照らすのは、紅色の髪。
虹色メタリックなホログラムの翼をひらめかせ、ラバーソールが踏みしめるのは誰の記憶からも忘れられた小さな遺跡。
その墓所と思われる一角である。
ルーシー・ドロップス(るーしー・どろっぷす)の滴る様な緋い瞳が見つめているのは、墓石に刻まれる潰れかけた文字だ。
それは探し求めていた相手。彼女の仇敵の名である。
(色んな決着がついて、平和になって――)
「見つけた結果が……まあこれだよなあ」
誰にぶつけるでもない怒りに似た感情を渦巻かせ、虚無感から墓石に触れもせずに、花を手向けた。
「――仇のオレがこんな事するのおかしいか?」
思わず口をついて出た言葉は、そこからぽつりぽつりと溢れて止まらなかった。
「お前は知らないだろうけど、もうアレから五千年も経ってて
もう戦争も終ったし世界も滅ばないし平和になったんだよ
もうオレらが敵同士だったとか関係ねーよな、多分」
自重気味に嗤って、ルーシーは墓石の名前を見つめ続ける。この下に、あの面が眠っているのだろうか。
そう思えば胸に渦巻く感情は何なのだろう。否、ルーシーは知っている、とうの昔に解っている。
解っているからこそ、分からないのだ。
「どうしてあの時オレを殺さなかった?
どうして力を奪って封印なんてしたの?
オレが女だからって優しくしたつもりか?
それで自分は死んで、墓になって、忘れられてぼろぼろの遺跡になって……」
緋色の瞳は夕日に血のように赤く染まり、涙を零す前のように歪んでいる。
「どうせのうのうと生きて老衰かなんかでくたばったんだろ
まさかオレをこんな目にあわせておいてみすみす戦死とかしてねえよな」
胸元に揺れるクロスを握りしめ、叩き付けるように吐き出すと、ルーシーはそれきり声を発しなかった。
ただ落ちて行く陽を静かに見つめ、時の流れに身を委ねる。
あれから、あの日から、どれだけ経っただろうか――。
「あの日もこんな夕日だった
逆光で、お前の顔見えなかったな
笑ってたか泣いてたかも、もうわからないな」
彼女が最後に墓石に向けた表情は、遂に訪れた暗闇に消え、泣いているのか微笑んでいるのかカミサマにもさえ分からなかった。
思い出から踵を返し、東條 カガチ(とうじょう・かがち)らパートナーが待つ場所へ『少女』は帰って行く。
燃える様な紅い髪に 滴る様な緋い瞳
虹色メタリックなホログラムの翼
ドクロにクロスにラバーソール
手には相棒リリィとアリス――火を噴く天使のリボルバー
ルーシー・ドロップス
ロックでフリーダムな守護『しない』天使ちゃん。