空京

校長室

ニルヴァーナの夏休み

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ニルヴァーナの夏休み
ニルヴァーナの夏休み ニルヴァーナの夏休み

リアクション

 この日は学内見学ツアーなるものも行われているようだが、風羽 斐(かざはね・あやる)翠門 静玖(みかな・しずひさ)は自分たちだけで気ままに校内を散策していた。
「さて、何か面白い学科はないかな?」
「学科見学ですか」
 フラフラと教室の壁やら案内板を見回すを横目に静玖が「分かった。校舎内にいる生徒に声をかけてみれば良いんじゃないか。なぁ、ちょっと見学してみたいんだけどってさ」
「なるほど。それは良いアイディアだ」
 奇抜さの欠片もない案だが、どうやら気に入ってくれたようだ。
「なぁ、ちょっと見学してみたいんだけど」
 聞いたままの文言を口にしては部屋を覗き込んだ。そこは「医学資料室」と銘打った部屋だった。
「えっ、あの……いや、私ですか?」
 振り向いた時からすでに高峰 結和(たかみね・ゆうわ)は見事に慌てていた。隣で欠伸をしているエメリヤン・ロッソー(えめりやん・ろっそー)に何度も助け船を求めたが、彼は応えてはくれなかった。
「あ、その……実はですね」
 意を決したか。結和が大きく息を呑むのが見えた。
「わ、私たちも見学に来たんです。少し前に来たばかりで……ですから、その、申し訳ありません」
 見学の是非は分からない、という意味で言ったのだが、は「同志」という点に喰いついた。
「なるほど。それで、ここにはどんな面白いものがあるのかな?」
「面白いもの……ですか?」
「興味を引くものがあると聞いた、もしくは実際に見たからこそこの部屋に入ったのだろう? 何か見つかったかい?」
「あ、いえ私たちはここの機材に興味があって来たんです。進学先を考えている最中でして……」
「なるほど、決め打ちというわけか」
「さっきから入り口で何をごちゃごちゃ言ってんだ?」
 部屋の奥から声がした。顔を覗かせたのはラルク・アントゥルース(らるく・あんとぅるーす)だ。「初めからじゃねぇが話は聞かせて貰った。ここには面白いものなんて何も無いぜ」
 言うとラルクはすぐに手元の資料に目を戻した。
「俺もこっちの医学に興味があったんだがな、思ってた通りだ、本も資料もパラミタの物と何ら変わらねぇ。何もかもこれからって事だ」
 確かに機材も施設も最新の物が揃ってはいるが、彼が期待するような「ニルヴァーナ特有の医学」に関する物は皆無のようだ。そもそも、この地を生きた者が少ない上に、その者が医学の知識を有しているとも限らない。
 だからといって諦める理由には到底ならない。
「見学したいんなら勝手に見ればいい。許可は貰ってる」
 ラルクのぶっきらぼうな物言いにガイ・アントゥルース(がい・あんとぅるーす)が「すみません」と頭を下げた。
「あぁ言ってはいても、何かあるのではと期待しているのです」
 時間と共に気が立つのが厄介ですが、と付け加えて苦笑いを見せた。
「あぁ、見学の許可を貰っているというのは事実です。なにぶん「戦闘訓練科」も体験授業を行うようでして、水上騎馬戦もありますし教員も医療班もみな出払っているのです」
 エメリヤンなんかは簡単な応急処置程度の知識はあるようなので、現場に手伝いに行けば良いのかもしれないが、結和が言ってみても彼はソッポを向いただけだった。



 「空中闘技場」と言えば……完全に言い過ぎだ。
 この日のために設置された「特設ステージ」であることに違いはないが、その実は深めのプールの上空に10m四方の平面な足場が組まれただけの、それはそれは簡易なステージがそこに立っていた。そこで「最強の計略発表大会」が開催されるのだ。

「これは良い階段だ」
 鳥人型ギフトが分かったような顔で言った。ステージの足場に併設された階段を登ると、正面の奥に「審査員席」が用意されている。本発表会の審査員を務める鳥人型ギフトはそこに座り、発表者と対峙するというわけだ。
「はい、どうぞ」
 鳥人型ギフトが席に着くや否や、早川 あゆみ(はやかわ・あゆみ)が茶を出した。
「ほぉ。実に気の利いた―――」
「はぃどうぞ」
 言い終えるより前に次なる茶が出てきた。先程の「ひんやり爽やかな冷たい緑茶」に続いては「夏の定番ミネラルたっぷりな麦茶」だ。そして更に「ほっと一息アイスレモンティー」に「芳ばしい香りのジャスミン茶」「温かいお茶」を入れたカップが矢継ぎ早に目の前に並べられてゆく。
「いや……あの……」
「先は長いですから」
 ニコリと微笑まれて、鳥、撃沈。きっと彼女は「天然さん」なのだと解釈する事にした、そうする事にして処理をした。「最強の計略発表大会」という名のボケ大会は既に始まっているのかもしれない……。
 お茶菓子のつもりだろうか、メメント モリー(めめんと・もりー)がこっそり『エアチョコ』を長机に置いていた。モリーの手だけがピョコピョコ動いて見えたが、同じく長机に着いたミルキー・ヘミングウェイ崩城 亜璃珠(くずしろ・ありす)は、微笑むだけにして司会者席へと瞳を向けた。
「皆様、大変長らくお待たせしました。本日、司会進行を務めさせていただきますマルティナ・エイスハンマー(まるてぃな・えいすはんまー)です。どうぞよろしくお願い致します」
 観客たちへ一礼、続けて「ルールの説明」と「開会宣言」を順に行ってゆく。彼女のおかげでミルキーの出番が無くなったわけだが、当の本人は「それならそれでゆっくり休めそうですね」なんて笑って言っていた。彼女は亜璃珠と共に鳥人型ギフトの判定補佐役を務めるようだ。
「よろしくね」
「こちらこそ、よろしく」
「ふむ、よろしく…………って、あれ? 我輩……除け者?」
 二人の間に座っている鳥人型ギフトが華麗なるスルーを食らった所でちょうど、各種説明と宣言が終わったようだ。
「それでは早速始めましょう! トップバッターの方、よろしくお願いします!」