空京

リアクション

■エピローグ

ニルヴァーナ創世学園。

「今回の創世祭をキッカケにして、沢山の人がニルヴァーナに来てくれると良いなぁ」

ラクシュミは創世祭で撮られた画像データを閲覧しながら呟いた。

競技やライブの様子、プールや屋台、学校内の様子。
映し出される皆の表情は様々で、でも、楽しそうな雰囲気で溢れている。

普段、難しそうな顔をしているリファニーやメルヴィアも、
皆と騒ぎ、どこか楽しそうな表情をしているように見えた。

ラクシュミの隣に浮いていたファーストクイーンの幻影が微笑む。

『ニルヴァーナに活力が溢れるほど、大地はその力を取り戻していきます。
　この創世学園の地に地祇が生まれたように』

「そういえば、ミラボーもニルヴァーナで生まれたのかな？」

『遥か昔、ニルヴァーナからパラミタへ渡ったのかもしれませんね。
　そして、眠りについていたのが……ニルヴァーナへ戻ろうとする“空京たいむちゃん”に惹かれ、空京万博で見つかったのではないでしょうか』

「あの子たちもギフトみたいなものなのかしら……。ずいぶん変わった人が造ったものみたいだけど」

ラクシュミは独り零して、北の方を見やった。

「私たちは、パラミタを救うために、未踏の北ニルヴァーナを探索しなければならない。
　そして、それは、このニルヴァーナで生き抜くためでもある」

『ええ、インテグラルが更なる進化を終えれば、彼らは再び南ニルヴァーナへの侵略を開始するでしょう。

　一刻も早く見つけなければなりません。
　ギフトたちが持つ真の力を開放する方法、そして……――』



海京。

長曽禰はラクシュミの依頼で、ミラボーが地下遺跡で得たデータを持って天御柱学院を訪れていた。

（なるほど……興味深い内容だ）

データを確かめたコリマ・ユカギール（こりま・ゆかぎーる）からテレパシーで語りかけられ、長曽禰はコリマを改めて見やった。

「このデータに記された“膨大なエネルギーを必要とするギフト”を見つけたとしても、俺たちが扱うためには、現状、かねてから計画されていた新たな構造を頼るしかない」

（ツインリアクターシステムの応用なら、と踏んだか。
　確かに問題は無いだろう。ニルヴァーナで発見される古代技術やファーストクイーンの解析協力により、既にシステムの安定稼働についても実現の域に入っている）

「頼む。

　地下遺跡に北ニルヴァーナへ向かうための回廊があることが分かった。
　北ニルヴァーナのどこかに、インテグラルの本拠地がある。
　……おそらく、パラミタを崩壊させようとしている『巨大な影』に繋がる何かも」

（ふむ……。

　可能な限り早い段階で、第三世代機のプロトタイプをニルヴァーナに送れるように手配しておこう）



■□■

パラミタの何処か――。
　
「世界統一国家神様」

グランツ教の最高指導者であるカーディナル――
本名エレクトロンボルトは、その“存在”を前に傅いていた。

「我が目、我が耳を持って確かめて参りました。
　……かの者らの力、やはり我々の持つ“過去の記録”より導かれた想定の内に」

彼は口元に強い笑みを浮かべて続けた。

「成功率に揺らぎはありません。
　大いなる目的のため、“我等の未来”と等しくこのパラミタの統一を始めましょう」


■□■



創世祭が終わってから数日後。

地下遺跡の回廊の起動が成功し、
メルヴィア率いる先遣隊は北ニルヴァーナへ向かった。
その中にはリファニーの姿もあった。

しかし……
北ニルヴァーナで彼女達を待ち受けていたのは、絶望だった。


「インテグラルナイト……」

回廊を出た彼女たちは、不意を突かれる形でインテグラルナイトに襲われた。
隊はほぼ一瞬で壊滅状態となり、リファニーは怒りに打ち震えていた。

「彼らは、“同じ学校の仲間”だった……。
　一緒に笑い合い、1万年を超えて出来た新たな“友人たち”だった……。
　お前たちは、いつも私の大切な人を奪っていく……お前たちだけは――！！！」

瞬間、
リファニーの身体から溢れた眩い光が、巨大な人型となって空に翼を広げた。
放たれた凄まじい『波動』が空間を捻り、地を震わせながら彼方へと渡っていく。

六枚の巨大な翼をゆっくりとはためかせ……
空に姿を表した大天使は、インテグラルナイトへと拳を放った。
光の拳はインテグラルナイトを捉え、音を飲み込む爆大な力で圧し潰し砕き、やがて、その存在を消滅させた。

「……っ、これほどまでの力を秘めているのか、熾天使というのは……！？」

隊員を撤退させていたメルヴィアは、その神々しさに目を奪われていた。

と、不意に上空から現れた大槍が太く大気を千切り、一瞬の間に、

「――ッ」

光輝く大天使を貫いた。
人型の光が崩壊し、リファニーが地に倒れる。

空には、槍を放った格好の巨大なインテグラルが、その『翼』を広げ、佇んでいた。

そして、それは“破壊の光”を降らせ始め、
メルヴィア達はリファニーを助けることの出来ぬまま、命からがら南ニルヴァーナへと撤退したのだった。


■

ニルヴァーナとパラミタを繋ぐ回廊『ヴィムクティ』が開かれている、パラミタのゴアドー島。
ニルヴァーナへ向かおうとしていたマリエル・デカトリース（まりえる・でかとりーす）は、彼方より届いた波動に身を打たれ、胸を抱いた。

「な、なに……？　この感じ……」

内側から溢れようとする、何か原始的な力が大きな鼓動となってマリエルの身体を揺らす。
見れば、周りにいる守護天使やヴァルキリーたちも、皆、マリエルと同じ様子だった。

リファニーが放った波動は、ニルヴァーナ中だけではなくパラミタまでにも届き、
守護天使やヴァルキリーたちの中に眠る『古代の力』を呼び覚まそうとしていたのだった。