空京

校長室

戦乱の絆 第二部 第二回

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戦乱の絆 第二部 第二回
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リアクション


■ポータラカのミツエと良雄

 ポータラカのドック。
 そこにはUFOやら、ずんぐりとしたフォルムのイコンらしきモノやらが、ずらりと並んでいた。

(ふぉーー、なかなか面白そうじゃん)
 丸っこいぷよぷよとした物体が身を捩らせる。
 ポータラカ人の技師らしい。
 技師として効率的な姿ではなさそうだが、ナノマシンによる機械操作がほとんどなため問題はないという。
「……興味を持っていただけて良かったです」
 白滝 奏音(しらたき・かのん)は自前のノートパソコン【オラクル】に映し出されたデータを進めていた。
 天御柱学院で収集されたイコンの戦闘データだ。
 結構な数の個体データが収められている。
 当然、学長には許可を取ってある。
 奏音は頃合いを計って、一度データを閉じた。
(ああんっ)
 と、ポータラカ人がもどかしげな声を上げる。
「……今、見ていただいたデータは、ほんの一部になります。
 私たちを手伝っていただければ、全て差し上げます。
 ……代価として、足りませんか?」
「俺達は戦う力が欲しい」
 天司 御空(あまつかさ・みそら)が言う。
「そして、俺達が戦えば、あなた達は新たに作った物の稼働データをまた得ることが出来る。
 俺達は協力し合えると思う」
(一理も二理もあるねぇ)
「じゃあ……」
(交渉は成立ってことで。
 まあ、それで無くても興味のある機体ではあるけどね)
 丸っこいのが見やった先には、ミツエのイコン・饕餮(トウテツ)があった。
 整備の準備をしていた雨月 晴人(うづき・はると)が振り返る。
「面白そーな機体だろ?」
(うん。ただ……正直、君たちが言うほど凄いイコンには見えないんだよねえ)
「は?
 こいつが大したイコンじゃない?」
「どういう事よ!」
 にょきっとトウテツの下から生えてきたミツエに、ポータラカ人がビクッと震える。
(い、いや……確かにそれなりの力は持っていそうなんだけど……そこまで並外れてる感じはしない)
「つったって、こいつは帝国のヒュドラ使いのギュスターブとかってのを一撃で屠ったりしてるんだぜ?」
「納得の行くように説明しなさい」
 整備用具片手にずいずいとミツエが迫る。
(ふぬ……操縦者が特別ってことは?)
「は?」
「どういうことだよ?」
(“そういう能力”を持つ地球人が存在するって話がある)
「そういう能力?」
 晴人の視線が、なんとなくミツエの方を見やる。
 ミツエは「納得がゆかん」という表情で、じとっとポータラカ人を見据えていた。
(ま、このイコンを見てみれば分かることだからいいさ。
 それより、どんな風に弄りたいんだい?)
 丸っこいのの言葉にミツエが、んびしっと整備用具を掲げ。
「それはもう、すごく素晴らしく凄まじいパワーアップよ!」
 晴人がグッと身体を割り込ませる。
「それも勿論やってもらうとして――
 まず、リモコンを本人以外で使えないようにセキュリティを施すのが第一な。
 コクピットももっと広く改装してやりたい。
 それから……これは改造とは、ちょっと違ぇけど、出来たらポータラカで、このトウテツの量産型を作ってもらえねぇかなって」
(ふんふん、出来ないことは無いね。
 量産型っていうのもやってみようかな。
 面白いデータを貰う礼もあるし、コレの操縦者の差も知りたいし、作ってみよう)
「やりぃ!
 喜べ、ミツエ!!
 レプリカが作られるのは有名人の証だぜ!」
「フッ――見えたわ。
 トウテツの軍団を前に跪くアスコルドの姿が!」
(じゃ、早速始めようか。こっちの作業、手伝ってみる?)
「当然!」
 晴人が腕を捲る。
(って言っても、ほとんどナノマシン操作だから君たちにやってもらえる事って、あんまり無いかもなぁ)


 ポータラカ人の技師と晴人たちがトウテツを弄り始めてから、しばらくして――
 アンジェラ・クラウディ(あんじぇら・くらうでぃ)は、空港に入って来る一隻の魔法船を見上げていた。
「あれは……」
(エリュシオン帝国、アスコルド大帝の御座船『スキーズブラズニル』ですよ)
 傍に居たポータラカ人らしき人が伝えてくる。
「大帝の船?」
 アンジェラは、そばのポータラカ人の方へと視線を下ろした。
 そして、円と四角と三角を組み合わせた幾何学的な姿のその人に言う。
「ポータラカにあるナニカを取りに来たのかも。
 協力を拒むと攻撃されるかも。
 ……ポータラカ壊滅の危機?」
(いえ、彼は我々に呼ばれて来たのです)
「……?」
 首をかしげたアンジェラの前で、三角形の顔が揺れる。
(しかし、片方はロストしたまま……どうなることやら)
 そして、その向こうでは――

 大帝の到来に全く気づかず、トウテツの整備に勤しむミツエの姿があった。




 御座船内――
 第七龍騎士団団員の東園寺 雄軒(とうえんじ・ゆうけん)は バルト・ロドリクス(ばると・ろどりくす)と共に、アスコルドの傍らに居た。
「ヘクトル様のことは――」
「捨ておけ」
 アスコルドの言葉には絶対の自信が感じられた。
 ヘクトルが迷いを抱えている様子だったこと――雄軒は、それをアスコルドに伝えていた。
 ヘクトルがそう易々と裏切るとは思えなかったが、知らせるべきだと彼は判断したのだ。
「計算の内だと?」
「重要なのは、奴が我に取って必要な駒であるのか否かということだ。
 我の元を離れるのだとしても、それもまた絡み合う運命の網目の中の出来事。
 いずれは我の望みを叶えるための、数ある事象の一つとして呑まれるに過ぎん」
「運命、ですか」
「ご報告致します!」
 帝国兵が駆け込んでくる。
「ポータラカ空港に、シャンバラのものと思われる飛空艇が停泊しています」
「なるほど……ポータラカの連中らしいナ。
 素直に我らに情報を渡すことはあるまいと思っていたが、やはり何やら企んでいるらしい」
 クック、とアスコルドが喉で笑い――ふいに、その笑みを引いた。
 顔を上げ、魔法で映し出されていた外のポータラカの風景へと視線を向ける。
「――……何故、この距離に?」
 独り言めく。
 しばしあって。
「あの時、か……」
 アスコルドは一人得心したように呟いた。




「ポータラカ……恐るべしっすよぉ」
 良雄が、はぁ、とため息を零しながら言う。
 ポータラカに着いた途端に小用を催したのは良雄だった。
 案内の剣の花嫁に訴えようにも、何か皆とシリアスな空気を醸し出していたので、言い出すに言い出せなかった。
 そんなわけで、良雄は日下部 社(くさかべ・やしろ)たちに付き添ってもらって、こっそりとトイレ探しに抜け出していたのだった。
 その後、適当にほっつき歩いてみたのだが、街のほとんどがナノマシンで操作する物ばかりだったために、ろくに入れる場所も見つからず……
 先ほど限界を迎えた良雄は、建物の影で用を足したばかりだった。
 そして。
「それにつけても見事に迷ったですぅ〜」
 望月 寺美(もちづき・てらみ)が語尾に星を飛ばす。
「空港までは戻れるとしても、皆がどこに行ったのかは分からないっすね……」
「しっかし、これで皆のところへ無事戻れたとしても――ポータラカ人に何されるかなぁ」
 社は良雄の肩にもたれながら、ふぅヤレヤレと首を振った。
「哀れ良雄……お前の人生はもう風前の灯火やな……」
「あぅぅぅ、そんなのってアリっすかぁー……」
「だがしかし! 安心せぇ!
 俺もずっと一緒についてお前を助けたるからな!
 大船に乗ったつもりで任せとき!」
「…………その船、微妙に不安っす」
 その社の笑顔に、良雄は嫌な予感をひしひしと感じているようだった。
 と――
「おい……あれ、あの目玉だらけ、アスコルドちゃうか?」
 社が指差した方、そこには確かにアスコルドご一行が居た。
「あれが帝国の大帝……何の用事っすかね?」
「さあな……。
 よし。せっかくや、一言物申したろうや!」
「は? いやいやいやいやいや、ふっつーに怖いっすよ!」
「まあまあ、ええからええから」
 ずいずいずいずいと、良雄はあえなくアスコルドの方へと社に引きずられていったのだった。
「寺美は逃走の準備をお願いな」
「ああ、良雄さんの不運さには泣けてくるですぅ〜」
「泣くほど同情するなら助けてほしいッス〜〜〜!」




(――被験体βを再び捕捉)
(まさか自ら接近してくるとは……我々にとってはありがたい誤算だが、不可解だな。接近の目的も不明)
(やはり、彼の力は正常に働いていないのではないか)
(第一次干渉によっての損傷自体は軽微なものだった筈では?)
(既に接近可能距離が変化していることが認められている。
 ならば、質に何らかの変化が起きている可能性もある)
(質の変化は認められていない。
 そもそも第一次干渉自体が、有り得ないことだったはずだ)
(答えは未だ得られていない。
 しかし、この好機を逃す手はあるまい)




 アスコルドたちは、どうやら立ち往生しているようだった。
 球体都市へと続くエレベーターの扉が開かれないらしい。
 ポータラカ人の無礼に憤る帝国兵の中で、アスコルドは不敵に笑みを浮かべていた。
「よく分からんけど、チャンスやな。
 パッとかまして、パッと帰るで」
 建物の影に潜んでいた社が、良雄をぐっとアスコルドたちの方へ押し込んだ、その刹那。
 凄まじい衝撃が虚空に爆ぜた。
 衝撃に弾かれた良雄ごと、社はごろごろと地面に転がった。
「つぅ――お、おい、良雄。大丈夫か?」
 ふらふらと身体を起こし、ぐったりとした良雄へと駆け寄って、その頬を叩く。
「バ……バビッと来たっす……バビッと」
 勢い良く目を回しているが、別段命に支障はないようだった。
「っし、問題無し」
 社は、あっさりと予定通りに作戦を決行することに決めた。
 光学迷彩で身を隠し、良雄の両腕を持って、その身体を支える。
 そして、彼は、ぐったりとした良雄の身体を建物の隙間から、ずるりとアスコルドたちの方へと突き出した。
 ぶん、と良雄の片手を振って、威勢良く――
「やいやい! お前ら!!」
 社はエリュシオンに喧嘩を売った。
 かくかくと良雄の身体を操りつつ、
「今まで引き籠ってた奴らのくせに最近ずいぶん粋がってるそうじゃないっすか!
 大帝だか童貞だか知らないっすが――
 この御人良雄様が、その目玉を種モミ花粉で充血させてやろうかっす!」
 ずびしぃ、とアスコルドを指ささせる。
(これで、新たな良雄伝説、『単身で大帝に喧嘩を売った』の完了やな)
「はれ……?」
 良雄の意識が戻った気配。
「って――俺は何をしてるっすか!?」
 と、アスコルドの声が響く。
「そうか……そういうことか。
 クックックック――
 ァアーーーーッハッハッハッハッハ!!!!」
 ひとしきり笑った後、アスコルドが、ニィと良雄を見やる。
「御人良雄。
 我らは、一つとなるべきなのかもしれんナァ」
「…………」
「…………」
 良雄が思いっきり引いたの分かった。
「ひ、一つって……」
「まんまの意味やろ?
 格別に濃ゆい伝説を作ってもうたな……」
 社自身もドン引きしていた。
「ま、それはともかく――バックれるで〜!!」


 バルトを含む帝国兵たちが良雄らを追っていく。
 エレベーターの扉が開かれ、アスコルドは護衛たちと共にエレベーターへ乗り込んだ。
「奴らの好奇心とやらも、時には役に立つものだナァ。
 餌はたっぷりとくれてやった筈だ。
 我が満足するまで奴らの知識を絞り出させてやるとしようカ」


 一方、良雄。
「おぃぃぃぃぃ!!
 何でポータラカ人じゃなくて帝国兵に追われてんだぁぁぁぁぁッ!?」
「ははははは話しは後っすぅううう!!」
 いつの間にか消えていた良雄たちに気づいて、探して、ようやく見つけたと思ったら、彼らは帝国に追われていた。
 何がどうしてそうなるのかサッパリ理解できないまま、夢野 久(ゆめの・ひさし)佐野 豊実(さの・とよみ)は良雄たちと共にポータラカの街並みを逃げていた。
 ちなみに先行を切って来ていたバルトは寺美の援護で足を止め、豊実らとのコンビネーションで先ほどシバき倒した。
「どうしてこう、少し目を離した隙に致命的なことになっているかねえ」
「俺が聞きたいっすよぉーーー!」
「ともかく冗談じゃねぇ!
 ポータラカだろうが帝国だろうが御人を持ってかれてたまるか!」
「た、頼もしいっすーー!」
 両手を合わせた良雄が、るーーっと涙を流す。
「お前はれっきとしたパラ実の顔の一人なんだよ!
 心酔してる奴も一杯居る、もしもの事があったらどんだけの奴が泣いて、パラ実が盛り下がると思ってやがる……!」
「いや、ほんまやで」
 しれっと頷く社。
「あんた元凶ッスよねぇ〜〜〜〜〜?」
「空港はこの先を右ですぅ〜!」
 だばだばと涙を流しつつ社に訴えかけた良雄はさておき、寺美がスナイパーライフルで後方の帝国兵を牽制しながら言う。
「いや、待っておくれ。
 あちらは扉があったね」
 豊実が、ふむ、と思い出すように人差し指の先を額に触れさせる。
「あれを私たちで開けられるかは分からないな」
「つったって、んなこと言ってたら、何処からだって空港に入り込めねぇぞ!」
「確か、ミツエ君たちはドックとおぼしき方へ向かっていた筈だ――」
「よく見てるッスねぇー」
 素直に感嘆した良雄の方へ豊実が口端を上げる。
「全く未知の土地だからね。注意深くもなるよ」
「良雄たちのことは見事に見逃したわけだけどな」
「それは社君たちが付いていてくれたから。
 ともあれ、私は助けを得られるかもしれないドックの方へ向かうことを提案しよう」
「場所は検討が付いてるんだな?
 他に選択肢があるわけじゃねえ!
 そっちへ向かうぞッ!!」
 そうして、彼らはドックの方へと向かったのだった。

 ドックには既にミツエたちの姿はなかったが、そこに居た丸っこいポータラカ人の技師の計らいにより、
 彼らは空港への道を開いてもらうことになる。
 しかし、いまいち意図が上手に伝わらなかったらしく、そのポータラカ人はそのまま帝国兵も通していたりした。




 ポータラカ空港、シャンバラの飛空艇内。
「大帝の船が来てた!?」
 すぐさま飛空艇の外へ向かおうとしたミツエを関羽がつまみ上げる。
「御人良雄も戻って来ていない今、貴殿まで何処ぞへ行かれては困る」
「というか、横山。
 トウテツの改修は終わったのか?」
 スレヴィの問いに、ミツエが関羽につまみ上げられた格好でもがきながら。
「出来上がり次第、運んでもらうように発注済みよ!
 というか、離しなさい!
 アスコルドが来ているんでしょ!?
 がつん、と一発かましてやるチャンスだわ!」
 ミツエのわめきを横に、関羽が思案するように髭を一撫でする。
「……やはり、御人良雄を探すべきか」
 ポータラカ人は用が済んだら良雄を返すつもりだと言っていた。
 しかし、未だに良雄たちが戻って来る気配は無かった。
「何かトラブルを抱え込んでいなければ良いが――」
「あ、良雄さんたちです!」
 アレフティナが外を指差す。
「……帝国兵に追われてる?」
 スレヴィが言った横では、関羽が何やら片手で顔面を抑えていた。
 すぐに関羽が顔を上げる。
「出港の準備を急げ!
 彼らを回収次第、すぐに出る!
 ゲートを開くようにポータラカ側へ伝えろ!」

 そして、彼らはドタバタとポータラカを出港したのだった。