校長室
選択の絆 第一回
リアクション公開中!
神殿群探索『西』 西側の神殿群。神殿入り口付近。 ハイナ・ウィルソン(はいな・うぃるそん)、馬場 正子(ばんば・しょうこ)両名を筆頭に神殿内へ進入した探索隊は、早速遺跡の調査探索を開始していた。 「ふぅむ。こんなものかねぇ」 山田 太郎(やまだ・たろう)は、イベント【『撃墜王は誰だ!?』トトカルチョ】の様子を放送する為の設備を整えていた。 【装輪装甲通信車】でイベントを中継。車内スピーカーだけではなく、大型の外部スピーカーも接続し、その様子を放送しながら移動する、といった感じである。 「これで”生の活力”は何とかなるか」 と、その時、山田 虎未(やまだ・とらみ)の呟きが太郎の耳に入る。 虎未はうーんと考え込む顔をしながら、神殿を見据え、 「ここも、もう私の知ってる未来とは違う……。でも、これからの選択が未来に大きな影響を与えるのが分かるよ」 と呟く。しかし太郎には聞こえなかったようで、ただ、どうした、と声をかけた。 「あ、何でもないよ、お兄ちゃん! さ、早く行こう!」 「まぁそう急くな。今ここらの調査をしている。それが終わってからだねぇ」 太郎の言うように、遺跡の調査に勤しむ者が多数いた。うさぎを抱きながら遺跡をうろうろしている川村 詩亜(かわむら・しあ)、川村 玲亜(かわむら・れあ)も遺跡の調査に勤しんでいるようだ。 「えぇと……とりあえずここはどこ? お姉ちゃん……。それと、この遺跡さんって一体何なの?」 迷子にならないように、常に片手を詩亜に握られている玲亜はおどおどしながら問う。 「えぇと……私にも分からないわ」 「わかんないのっ!?」 「で、でもとりあえずほら、この神殿っぽいのを探検すればいいと思うし! さっきからこの【わたげうさぎ型HC】でこの辺りの地図を作っているのよ!」 玲亜に向けて、見た目は完全にうさぎの形をしているHCを自身満々に見せながら言う。 「……でも、ソレ端から見たらうさぎ抱きしめてうろうろしてるだけだよね……」 そんなことないわよ! と怒る詩亜に、その様子を遠目で見ていたフィリーネ・カシオメイサ(ふぃりーね・かしおめいさ)が声をかける。 「あら、マッピングしてくれてるの? ありがとうね!」 「あ、変な格好の人」 「へんっ!?」 純真無垢な幼女に自分のアイデンティティを否定され、落ち込むフィリーネ。魔法少女の格好は詩亜たちにはお気に召さなかったらしい。 「うぉぉ……悪意が無い分さらにへこむわ……」 しかし落ち込んでいるのはお構いなしに玲亜が質問する。 「フィリーネさんは何してるの?」 「え、あぁ、そこらにある碑文や壁画をメモしたり写真を撮ったりしているのよ。トラップや敵がいるかもしれないし、それらの対抗策の手がかりになればと思って」 「あそこの男の人と?」 詩亜が指差す方向には、フィリーネのパートナーである上條 優夏(かみじょう・ゆうか)が壁画の写真を撮っていた。上條は、「こんだけ神殿が多いならきっとHIKIKOMORIの「ネ申」の神殿もきっとある! 探しだしてやる!」と叫びながら一心不乱に写真を撮り続ける。 「フィリーネさん、HIKIKOMORIって?」 「知らなくて良いわ」 「ネ申って?」 「知らなくて良いわ」 詩亜たちの質問を躱すフィリーネ。純粋な幼い子供に変な情報を与えてはいけない。 相も変わらず「俺のHIKIKOMORIにかける青春をなめるな!」などと口走る上條に、「その青春って果てしなく空しいと思うけど」と言いながら、フィリーネは作業に戻って行った。 ■■■ 少しして、調査の結果。 マッピングは大体済んだものの、遺跡については不明な部分が多かった。主に戦闘武装無しの裏椿 理王(うらつばき・りおう)、桜塚 屍鬼乃(さくらづか・しきの)らがデータ解析にあたった。結果、魔法的な部分が多かったのだが、体系があまりに違う物のため、パラミタの魔法知識では解析が出来なかった。この神殿にはパラミタともニルヴァーナとも違う技術が使われているということだけは確かだった。つまりは、今の我々では何をどうすることもできないということが分かっただけであった。 そんなわけで。 一行はただ、神秘的かつどこか不気味なこの遺跡群を、ひたすら前に進む他になかった。 何事も無く進んでいた一行に、異変が起きた。 それは、引き続きデータ解析に勤しみながらも馬場正子の護衛をしていた裏椿が最初に気づいたことだった。 いや、気づかされた。何故なら。 彼の真上から、目の前に大胆にも、しかし音も無く慎重に、何者かが降って来たからだった。 「――ッ!!?」 思わず裏椿はたじろぐ。少し遅れて、周りの人間も異変に気づく。 降って来たのは、顔から足まで黒ずくめの人間。第一印象として忍者という言葉が浮かぶ。忍者がすばやく取り出したるは、黒く鈍い光を放つ刃物――、くない。 それを見て、周りの人間は判断する。この忍者は敵であり、奇襲されているのだということを。 忍者の一番近くにいた裏椿は咄嗟に【ブレード・フォン】を取り出し、迎え討とうとする。しかし――、 「うあぁッ!?」 あっさりと、武器を弾かれてしまった。 忍者はそのまま裏椿にくないを振ろうとするが――。 「あんまり調子に乗ってんじゃぁねぇぞッ!!」 天城 一輝(あまぎ・いっき)がショットガンを忍者に向け、撃抜く。超至近距離。零距離といっていい。 しかし、当たらなかった。忍者がとんでもないスピードで避けたからだ。 「!? 速いッ!!」 天城は焦るが、すぐに冷静を取り戻し、パートナーであるユリウス プッロ(ゆりうす・ぷっろ)に援護を求める。 「ッぉお!!」 うなり声と共にユリウスは槍を横に薙ぐ。未だに体勢を取り戻していない忍者の横腹に槍の柄がめり込む。ミシィッという嫌な音が鳴り、忍者はくの字に折れながら吹っ飛んだ。吹っ飛んだ先の壁にうちつけられ、やがて動かなくなった。 「……何者かは分からないが、敵だってことだけは確かだな。それに……全員周りをみろ」 天城の言う通り、その場の全員が周りを見回し、気づいた。 いつの間にか、周りを囲まれている。それも数人単位ではない。数十人、下手すれば100人前後はいるかもしれない。 囲んでいるのは、先程の忍者や、屈強な兵。皆、槍や刀などの武器を構え、殺気を飛ばしている。 「さっきの忍者は、吹っ飛ばされる寸前にまきびしを撒いていた。まぁ俺が処理したが……。敵さんはそういうトラップ系統の武器も駆使している。全員気をつけろ。来るぞ!」 天城の声に合わせ、周りの忍者、侍が一斉におそいかかる。 ■■■ 天禰 薫(あまね・かおる)は襲い来る忍者や侍に少しばかり恐怖を感じていた。 (ちょっと怖いのだ……。でも、ううん、怖いなんて、言ってられないのだ!) 彼女は少しばかり勇気を振り絞る。少しだけでもいい。みんなの力になりたいと、弓を引く。 (ひとまず、まだ隠れている忍者さんがいるかもしれない。それをあぶり出してやるのだ!) 「行くぞ! 考高! 【神の目】!」 叫ぶと、強烈な光が放たれる。同時に、影に隠れていた忍者の姿が露になった。 「よし、今だ」と呟き、熊楠 孝高(くまぐす・よしたか)は 【隠形の術】で姿を隠す。 姿が露になった忍者に隠れながら近づき、 「【魔障覆滅】」 目にも止まらぬ早業で忍者を切り刻んだ。 「天禰と共に戦う……連携する……何だか、心躍るな。侍だろうが忍者だろうが関係ない。俺たちが相手になってやる!」 ■ 「敵の正体が分からない以上、下手に手を出すと危険かもしれない。先ずは敵を知る事から始めるとしよ――」 「ひっ……、何よこいつら!? 気持ち悪ーい!!」 きゃあきゃあと騒ぎながらもカノン・エルフィリア(かのん・えるふぃりあ)は弓を連射する。 それを見てレギオン・ヴァルザード(れぎおん・う゛ぁるざーど)は 「あぁ……。まぁちょうどいい。情報収集の為に彼らの亡骸を回収したかったところだ」 言いながらレギオンはカノンが倒した侍の亡骸をあさる。 「レギオンってば何してんのよ! 平然と何回収しちゃってんの! あぁもう嫌! こんな仕事早く終わらせなさいよーっ!!」 ■ 一行が突然現れた忍者や侍に戸惑い、悪戦苦闘しているのを見ながら、シオン・グラード(しおん・ぐらーど)は対抗策を練る。 「見た所、操られた亡者のようだし、【忘却の槍】で記憶を一時的に奪ってやれば案外簡単に片付けられるんじゃないか? 目的を見失ったがために襲う理由がなくなる、とかそんな感じで」 ぶつぶつと分析を続けてなかなか行動しないシオンに苛ついたのか。 いや、それとも、こんな雑魚程度に苦戦しつつある一行に苛ついたのか。または両方か。 何か不快な表情をしたナン・アルグラード(なん・あるぐらーど)が呟く。 「ちまちましやがって」 彼は双剣を構え、吼えた。 「【ヴァンダリズム】ッッ!!」 瞬間、ドゴォオッ!! と鈍い轟音が炸裂する。 侍やら忍者やらを、周りの壁ごと破壊した音だった。 「鬱陶しい三下どもに用はない! 強いやつを出せ強いやつを!」 ただ単純な力による破壊をもたらした戦闘狂は、強者を求めて動き出す。 戦況がさらに、加速する。