空京

校長室

選択の絆 第三回

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選択の絆 第三回
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リアクション


イーダフェルト防衛、そして……

 救助隊が救助に専念している一方、戦線は更に激化していた。いや、敵の数が増しに増していた、といったほうが正しいだろう。
 そのため、敵からの攻撃はより激しさを増し、それによる負傷者や艦へのダメージも見て見ぬふりはできない状態になりつつあった。
 ラントシュテーム・ネーダーラントもその例外ではないが、それをバックアップする者たちが奮起していた。
「そちらの修理は後にして。動力に直結するこの部分の修理が先よ」
 メカニックとして乗艦していた水原 ゆかり(みずはら・ゆかり)。その傍らにはマリエッタ・シュヴァール(まりえった・しゅばーる)の姿もあった。
「この艦は作戦の要。絶対に落とさせてはいけないわ。
 辛いと思うけれど、皆の修理に未来がかかっていると思って。だからこそ、危険な破損箇所から対処していくわよ」
 ゆかりの激励と、的確な指示が飛びかう。これらが兵士のやる気を底上げ、また技術不足な面もカバーしていた。
「過労死するのだー」
「ブラックなのだー」
 が、ポムクルさんにはそんなことは関係ないようで、相変わらず可愛い顔で憎まれ口を叩きまくっていた。
「まあまあそう言わないで。……そうだ! ほらーポムクルさんたちの体がどんどん浮いてくよ〜?」
 そう言いつつサイコキネシスを使用して、ポムクルさんたちを浮かせるマリエッタ。それだけでポムクルさんの疲れが吹っ飛ぶか。
「すごいのだー」
「やる気がむくむくとわいてきたのだー」
 吹っ飛んでいた。恐るべし精神力、ポムクルさん。
 その精神力に感謝しつつ、ご機嫌を取りながら修理するのが難しそうな場所へとポムクルさんを誘導するマリエッタ。
 二人のおかげで、ラントシュテーム・ネーダーラントは今しばらく持ちそうだ。
「……うん、これで平気よ。もう少し頑張ってくださいですわ」
「はい、ありがとうございました」
 戦艦内部で怪我を負った者の手当てを行う者、シャレン・ヴィッツメッサー(しゃれん・う゛ぃっつめっさー)ヘルムート・マーゼンシュタット(へるむーと・まーぜんしゅたっと)の活躍も大きい。
 大きな怪我人はこれまでまだないものの、手当てが出来る者がいるという安心感は何物にも代えがたい。
 それだけではない。艦内部に設営された簡易のベッドなどのシーツは常に清潔に、包帯や衣服も同様。
 怪我を負ってきた者に対して、今もっとも何が必要なのかを見極め迅速に対応。これにより艦内部での人手不足は発生していない。
 その他の負傷者に対しても、現状ではヘルムートのヒールでどうにかなっている。しかし激化の一途を辿るこの戦場、最早何が起きてもおかしくはない。
「す、すいません! こいつ、さっき被弾した時の反動で思いっきり頭を撃ってから意識がないんです!」
「……これは、危険ですわね。すぐに軍医を呼んできます。下手に動かさないでください、命に関ります。ヘルムートは他の方の救護を」
「了解です」
 ここは更に慌しくなる。しかしシャレンがいるのならば、こちらも今しばらくは平気だろう。

「敵戦艦防衛ラインを次々と突破、イーダフェルトへ接近中!」
「な、なんて量だ……対して艦長は僕……うう」
 松井 麗夢(まつい・れむ)の言葉を聞いたゴットリープ・フリンガー(ごっとりーぷ・ふりんがー)が顔をうつむかせる。
「……顔を上げて。そんな情けない姿、部下に見せてどうするの? 慰めてもらうの?」
「えっ?」
「確かに、責任重大よ。だからって押しつぶされちゃダメ。自分を信じて。キャプテンにまでなった自分自身を信じ、部下たちの前で毅然と振舞うこと。できる?」
 麗夢の言葉を自分の脳内で反芻させるゴットリープ。
「……僕に出来る、僕だから出来る。……だからこそ、相手を、未来を見据えなきゃいけない……」
 ゴットリープがゆっくりを顔を上げて、迫り来る敵艦隊を見る。しかしその目には先ほどまであった恐怖はなかった。
「……星辰波動砲を使います! 目標は接近中の全敵戦艦です! 発射準備を整えてください!」
 その言葉に部下たちは待ってました!と言わんばかりの顔で頷き、急ピッチで発射準備を整えていく。
「ね、皆あなたを信じているわ。自信持ちなさい」
「はい。……麗夢、ありがとう」
「いいえ、これが私の担当ですもの」
「艦長! 発射準備が完了したであります! 号令を!」
 部下の一人の声が艦内に響き、それを聞いたゴットリープが静かに、大きく息を吸い込んだ後、右手を水平に凪ぎ、声を解き放つ。
「星辰波動砲、撃てぇーっ!」

キュイィィィィン……ヒュンッ
ドゴオオオオオオオオオオオオオオン!!!

「う、うわあ!?」
「これ、が星辰波動砲……」
 向かい来る敵戦艦を飲み込んだ星辰波動砲。その軌道上にいた敵戦艦及びイコンは瞬く間に撃沈。イコンに至っては跡形もなく消滅し、戦艦もほとんどが大破。
 また射出したラントシュテーム・ネーダーラント内の揺れも激しく、一部のシステムに一時的な異常が起こるほどの衝撃をきたした。
 これにより、向かってきていた敵部隊はほぼ壊滅。残った敵部隊もゴットリープが率いていた僚機戦艦の攻撃により迎撃、防衛に成功。
 これで終われば、いかに楽か。
『全部隊へ通達、敵機動要塞【万魔殿】及び……エピメテウスの姿を確認。更なる増援を率いてイーダフェルトに接近中。これを何としてでも迎撃し、撃退せよ!』
 再度鋭峰が全部隊へと通信。どうやら、敵の主力が到着したようだ。数キロに及ぶ体躯を持つソウルアベレイター“エピメテウス”。
 未だ多くの情報は得られていない敵の本拠地、機動要塞【万魔殿】。この二つが、イーダフェルトを飲み込まんとしていた。