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リアクション
『ハロウィンの夜、貴女の最も大切にしている物を戴きに上がります。――怪盗舞士グライエール』
カードにその一文だけ記された予告状。
最もシャンバラの王に近い家系と誇るヴァイシャリー家の一人娘、ラズィーヤ・ヴァイシャリー(らずぃーや・う゛ぁいしゃりー)の元に、その予告状が届いて数日が過ぎた。
ラズィーヤは予告状のことを、父には話していないようだ。
「お父様にお話ししたら、過度に心配されて軟禁されてしまうかもしれませんもの。それでは静香さんを守れませんでしょ」
ラズィーヤはそう説明をして余裕の笑みを浮かべる。
パートナーで校長の桜井静香(さくらい・しずか)は、まさか本当に自分がターゲットということはないだろうと思いながらも、不安な毎日を送っていた。
たとえ毎日いぢられ、いぢめられていようが、ラズィーヤは大切で大事なパートナーだ。彼女の大切な物が本当に奪われてしまったら、彼女は酷く落ち込むだろうから。……そんなラズィーヤの姿は見たことはなけど。
「お迎えに伺う親族について、教えていただけますか?」
「お会いしたことのない方でしたら、分かりませんもの。お写真はありますでしょうか?」
白百合団所属の、氷川 陽子(ひかわ・ようこ)とパートナーのベアトリス・ラザフォード(べあとりす・らざふぉーど)が、校長室でラズィーヤに訊ねる。
「生憎、写真などはもっていませんが、百合園女学院の制服を着ていけば、向こうが気づくと思いますわ」
「では、お名前、性別、年齢、それからラズィーヤさんとのご関係、ヴァイシャリー家での立場などを教えていただけますか?」
「あとは、職業やお住まいの場所、性格なども教えていただければ粗相のないよう努められると思います」
陽子とベアトリスの問いに、ラズィーヤは紅茶を飲みながら少し考えた後、校長室から声が漏れないよう小声で二人に説明をしたのだった。
「わたくしの、実弟です。名はレイル。年齢は確か6歳。その他のことは必要時にお話します。執事や、護衛も同行しているはずです。表向きは護衛として同行している遠縁のパイス・アルリダという青年の方を護衛していただいた方がよろしいかもしれませんわね。……この件は団員以外には話さないでくださいませ」
実弟――ヴァイシャリー家の当主の娘はラズィーヤただ1人だが、息子の存在はあまり知られていない。妾腹の子供が数多く存在するという噂もある。
「……分かりました。気を引き締めて任に当たります」
「ラズィーヤさんご自身も十分ご注意下さい」
陽子とベアトリスは深く頭を下げた。
彼がラズィーヤにとって大切な人であるのかどうかは、彼女の反応からは読み取れないが、怪盗に大切な存在と判断されてもおかしくはない。
予告日までまだ時間はあるが、不審者の存在などに注意をしておいた方がいいだろう。
「それでは、行って参ります」
陽子はベアトリスと共に、ドアへと向かう。
「頼みますわね」
ラズィーヤはいつものような余裕のある笑みで、2人を送り出すのだった。
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