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リアクション
第四章 激突! 大臣護衛隊vs天魔衆
薔薇学の瑞江 響(みずえ・ひびき)とアイザック・スコット(あいざっく・すこっと)、百合園生高潮 津波(たかしお・つなみ)とナトレア・アトレア(なとれあ・あとれあ)は、ハイサム外務大臣が身を隠す飛空艇の周りに罠を仕掛けているところだった。
機晶姫であるナイトレアが被っていたウィッグから拝借した長い髪の毛をつなぎ合わせ、木々の間に張り巡らせる。途中途中に小さく削った木をぶら下げれば、即席「鳴子」の完成である。
黙々と準備を進める響達を物陰から見つめる天魔衆がいた。隠れ身のスキルを使った白菊 珂慧(しらぎく・かけい)とその相方の吸血鬼ラフィタ・ルーナ・リューユ(らふぃた・るーなりゅーゆ)だ。
ふわふわの巻き毛に瑠璃色の瞳。見るからに儚げな美少年である白菊は、一見薔薇学の生徒のように見える。それ故、万が一、哨戒中の者達に発見されても、薔薇学生だと言い張り逃げることができるだろう、と偵察を任されたのだ。
信長に言い渡された予想外の大任に、白菊は小さくため息をついた。
「…鮪先輩。小型飛空艇で遊びにいくだけだって、言っていたはずなのになぁ…」
半ば鮪に騙されて連れて来られた白菊は、まさかこのような大騒動に巻き込まれるとは思ってもみなかった。それも地球の偉い人が乗っている船を墜落させるなんて…。自分も鮪達と一緒に襲撃に参加していたことが他校の生徒に知られたら、指名手配ものではないだろうか?
白菊は自分の横で「昔の血が騒いだぞ」と笑っているラフィタを睨み付けた。
「タシガンまで遠乗りに出かけると聞いたときは、気乗りしなかったが。まさかこんなことになるとはな」
そう言えば、鮪から目的地はタシガンだと聞いたとき、ラフィタは露骨に顔をしかめていた。常日頃、白菊の過保護な保護者気取りであるラフィタが、「俺はいかぬぞ」と頑なに拒んでいたほどだ。そう言いつつも何だかんだとここまで付いてきてくれてはいるけれど。
「ねぇ、ラフィタ。なんでそんなにタシガンに行きたくないの?」
白菊はかねてから胸に秘めていた疑問を投げかけた。
小首を傾げながら問いかけてくる白菊に、ラフィタは言葉をつまらせる。
「…う…うぬ…」
「ねぇ、なんで?」
悪気など欠片もない白菊に見つめられ、ラフィタは渋々重い口を開いた。
「苦手な伯父がいるのだ…」
「ラフィタは伯父さんが嫌いなの?」
「顔を合わすたびに、お前の行動は一族に相応しくないと、煩くてな。極力近づかないようにしているのだ」
「そんなに大きなお家なんだ。ラフィタの実家って」
「あぁ。あくまでも俺は傍流だが、伯父はタシガンを統べる領主だからな」
「へぇ〜すごいんだね……って、えぇ?!!!!」
一度はあっさりと聞き流したものの、ラフィタの言葉の意味を性格に理解した瞬間の驚きと言ったら!
「ラフィタってご領主様の一族なのっ?!」
思わず立ち上がった白菊は、隠れていることも忘れて盛大な叫び声を上げた。
「馬鹿ッ! 大声を上げるなっ。立ち上がるなっ! 居場所がばれる!」
そのとき白菊の額に細い糸のようなものが触れた。
瞬間、白菊の頭上で、先ほど響達が仕掛けた鳴子が盛大な音を立てた。同時に闇が支配する空に小さな光が飛び上がったかと思うと、時計が秒針を刻むようにくるりと回った。それは迎撃側が事前に決めた、空賊の襲撃を知らせる合図だ。
「そこに隠れているのは誰だ?!」
音を聞きつけた者達が一斉に駆けつけてくる。ラフィタは白菊の手を握り、その場を逃げだそうとするが、時すでに遅し。恐らく白菊の叫びが響いた時点で彼らの存在は敵に感づかれていたのだろう。四方から突きつけれた白刃に、両手を挙げて降参の意を示すこと以外、二人に選択肢などありはしなかった。
「ちっ、薔薇学の連中もなかなかやる」
空へと打ち上げられた光の合図に、物陰に身を隠したレオンハルト・ルーヴェンドルフ(れおんはると・るーべんどるふ)は小さく舌打ちをした。至る所に罠が仕掛けられており、大臣がいる飛空艇周辺には即席のバリケードが作られていた。
しかし、有り難いことに一部の者達は囮である白菊の方に向かったようだ。その他の連中が自ら討って出てこないというのならば、誘い出すまで。
レオンハルトは火術の詠唱を始めると、周囲の木々を狙って呼び出した炎を放つ。
その一方では、ショットガンを構えた南 鮪(みなみ・まぐろ)が奇声を上げながら派手に暴れ始めた。
「ヒャッハァ〜〜女狩りだぁ!!!」
ショットガンを乱射する鮪の姿は人目をひく。天魔衆の構成メンバーを薔薇学連中に知られてしまう可能性は高いが、もともとレオンハルトは空賊の背後を探るために信長に荷担しているのだ。波羅実の連中がどうなろうと知ったことではない。むしろ彼らが捕まることで、信長のさらに背後にいる者達が動き出してくれることをレオンハルトは期待していた。
だが、シャンバラ教導団員である自分が裏で動いていることを薔薇学サイドには知られたくない。些か都合が良すぎる考えではあったが、どのみち島を立ち去るための足は必要なのだ。明日には到着するであろう救援隊との交渉材料を確保しておく必要があった。
飛空艇内部にはすでに自分の契約者であるシルヴァ・アンスウェラー(しるば・あんすうぇらー)とルイン・ティルナノーグ(るいん・てぃるなのーぐ)を忍ばせておいた。そろそろ彼女たちも動き始めることだろう。
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