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横山ミツエの演義(第2回/全4回)

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横山ミツエの演義(第2回/全4回)

リアクション




牙攻裏塞島発電所アリスの間前


「さあ行くわよ! いつまでもあの三人を待たせておけないわ!」
 ミツエの号令で再び軍は動き出した。
 あの三人というのは、城壁周辺で小競り合いを続けて本軍が来るのを待っている劉備、曹操、孫権のことだ。再びティターン族が立ちふさがることはないだろうが、あまりグズグズしていては別のものを権造が送り出してくるかもしれない。
 ずっとこの時を待っていた小牧 桜(こまき・さくら)は、頬を上気させ目をキラキラさせてミツエの横につくと、関が原の時とは打って変わった溌剌さで言った。
「わたくし……命を賭けてミツエ様に尽くしますわ! そして、功なりとげた暁には必ずわたくしの恋人になってくださいませ。約束ですわ!」
 思いも寄らない申し出に目を丸くしたミツエの返事も聞かず、桜は進軍速度の上がる本軍の先頭に踊りだし、声を張り上げて正門に突撃をかけた。
 その声が軍の中ほどにいるミツエにも届いてくる。
「行け! 行け! ミツエ様の大願なしとげた際には、わたくしが百合園の制服でビデオ出現してさしあげます! わたくしのあなた達、今ここで死になさい!」
 百合園の乙女に触れることなど一生ありえないだろうパラ実の不良達は、戦闘への高揚感も加味していっせいに声を上げた。
 桜の陰にひっそりとついていたパートナーのアルト・アクソニア(あると・あくそにあ)が暗い瞳でミツエに微笑みかけ、桜を追いかけていった。その後に、相変わらず不気味な風体の小牧 桜(こまき・さくら)がどこを見ているのかわからない目でニタニタ笑いながら続く。こちらの桜は「怖いから」という理由で、今回は兵の一人として参戦していた。
 またアルトも生まれ変わったような桜の勇姿をデシカメに収めるため、五千の兵は桜に預けていた。
 突っ走る桜に追いついたアルトは、何かを企むように笑みパートナーを煽る。
「もろ肌脱ぎでさらに兵の士気を上げるのです」
 バッと百合園の制服の上半身を肌蹴させる桜。
「そう。正門前に今ぱんつを投げるのです! 死も恐れぬ欲で突撃を行うのです!」
「ミツエ様ー! 見ていてくださいませー!」
 桜はアルトに言われるままにぱんつを投げた。滅多にない興奮状態に、自分が何をしているのかよくわかっていないのだろう。
 女子学生の脱ぎたてぱんつに敵も味方も殺到する。
 本来の目的から大きくそれて別の戦いになっていたが、そんなことはアルトにはどうでもいい。
 その様子をアルトがしっかりデジカメに撮っている。
 アルトはニタリと歪んだ笑みを刷いた。
「後でばら撒きましょうね。そしてこの下品さでミツエに嫌われるといいのですわ」

 先頭の兵の異常なほどの盛り上がりは、ミツエのもとにも届いていた。ただ、何が起こっているのかまでは伝わっていなかった。
 ほどなくして派手な爆発音が響いてきたが、伝令によって正門に仕掛けられていた爆弾に桜が引っかかってしまったとのことだったが、その本人は爆発などまるで気づいていないかのように奥に突っ込んでいったという。
「爆弾はきっと権造の返事を待っている時にでもこっそり仕掛けられたんでしょうね」
 風祭優斗の言うことは当たっていると思われるが、それにしてもわからないのは桜の精神状態だ。
「みっつんと桜ちゃんが恋人に? メールの君は? オレももっと積極的になるべき!?」
「今はそんな時じゃないでしょっ」
 ミツエにちょっかい出そうとした伊達恭之郎に天流女八斗のメイスの柄がヒットした。

卍卍卍


 発電所およびアリスのいる中央塔地下に着くまでの敵兵を桜が蹴散らしている間に、明智 珠輝(あけち・たまき)あーる華野 筐子(あーるはなの・こばこ)がそのフロアに通じる分厚い鉄扉を変形させて壊し、中に殴りこんだ。片方はネギを巻いたランスを持ち、片方はダンボールの鎧をまとっているという異色の二人だった。
 低く機械音がうなり薄暗い室内。見ただけでは用途のわからない機体や、色も太さも様々なコードが無数に壁や床を這っている。
 ずっと奥から、ゴリゴリガリガリという不気味な音が途切れ途切れに伝わってきていた。
 そこに奴隷のようにこき使われている百人のアリスがいるのだろう。
 珠輝と筐子はそちらを目で示しあい、悪い足場を一歩二歩と進んだ時、二人の後ろからついて来ているはずのパートナー達から悲鳴があがった。
 振り向くと、リア・ヴェリー(りあ・べりー)アイリス・ウォーカー(あいりす・うぉーかー)が足を取られて宙吊りになっていた。
「おやリアさん。禁猟区はどうしたんです?」
「そんなの、ここに入った時から危険だらけだよっ」
「つまり、どこから危険が迫っているのかよくわからなかったのですね?」
「おしゃべりはいいから、とっとと助けろぉ!」
 ジタバタともがくリアを、それでも珠輝は呑気に見上げていた。
 一方、アイリスはもう少しおとなしく困っていた。
「さすがB級四天王、やることが陰険だっちゃ」
 やや恥ずかしそうに語尾を変えるアイリスは、案外落ち着いているのだろう。筐子も一瞬 防師(いっしゅん・ぼうし)も困ったふりをしながらのんびり構えている。
 落ち着きがないのはリアとポポガ・バビ(ぽぽが・ばび)だった。
 騒いだりオロオロしたりと忙しくしていると、馬鹿にしたような笑い声があたりを満たす。
「いい眺めじゃねぇか。えぇ? あっさり引っかかってくれて嬉しいぜ」
 角柱型の機体に寄りかかりニヤニヤとしているのはカーシュ・レイノグロス(かーしゅ・れいのぐろす)だった。
「キミが権造?」
「俺が引きこもりに見えるのか?」
「見えないね」
 カーシュに凄まれた筐子だったが、ケロッとしていた。
「ワタシ達はアリスを助けに来たっちゃ! そして後で懐かしの電撃鬼娘のコスプレさせて、配下のレディース隊に編入させるっちゃよ。邪魔はさせないっちゃ!」
「それで角なんか付けてんのか。残念だな、アリス共は将来俺のハーレムに入れること決定なんだよ! 引っ込んでな!」
「そこもくっちゃべってないで僕達を降ろせぇ!」
「早く切り刻みましょうよ」
 筐子とカーシュの言い合いに、リアとエリザベート・バートリー(えりざべーと・ばーとりー)が加わり、その瞬間四人の声が反響して何倍にも響き渡った。
 耳を押さえるポポガの横で、前回に引き続きネギランス装備の珠輝が不気味に笑う。
「ふふ、ふふふ……! この先に進まないと、私の計画も成せませんからねぇ! く、ふふ、ふはははははあははははは!」
 目を見開き狂ったように笑いながら一見ネギなランスをカーシュに向けて突き出す珠輝。
 カーシュがその切っ先をよけるより先に、ハルトビート・ファーラミア(はるとびーと・ふぁーらみあ)がカルスノウトでそれを受け止めた。
「女性に無体はしたくありませんが、敵になるなら仕方ありませんね……!」
 怪しく光る珠輝の目。
 逆さ釣り真っ最中のリアが血が上って赤いはずの顔を真っ青にして叫んだ。
「珠輝っ、何考えてんだ! やめろ! 女の子の尻に……!」
「私は胸より尻派なんです」
「そういう意味だったのかー!?」
 意味はわからないがハルトビートに無体なことをしようとしていることはカーシュにもわかった。とたんに苛つきが増したのも。
「俺のペットに手ェ出すたぁ、いい度胸じゃねーか……。どいてろ、ハルトビート」
 ハルトビートを押しのけて前に出たカーシュは、右手にバットを左手にリターニングダガーを持っていた。
 どういうわけか珠輝のほうが悪者に見える構図になったが、二人がぶつかり合ったのがきっかけで、エリザベートもようやく『アイゼルネ・ユングフラウ』を思う存分開放できる喜びを得た。
 かつての拷問器具『鉄の処女』により、関が原の時が再現される。
 それらをうまくかいくぐりながら、筐子はアイリスとリアの足を捕らえている縄を切って床に降ろした。
「ありがとう。それにしても、あいつら周りの被害とか考えてないな」
「あの機晶姫がそれだけ大切だったんでござろう」
 リアのぼやきに答える防師は、愛だの青春だの呟きながら一人頷いていた。
 しかし、いつまでも足止めされているわけにもいかない。
 珠輝の一万は彼と同じように緑髪のツインテールのキャラクターにコスプレしながら、何故か戦うでもなく好き勝手に動いているのであてにならない。
 となると、リアとポポガの兵と筐子達の兵で何とかするしかない。後がつっかえているのだ。
 五人は頷きあうと、協力して進むことにした。

 数で押し切られた形で捕まってしまったカーシュ達三人。
 カーシュと珠輝はかなりやり合ったようで、どちらもボロンチョになっている。ついでに二人が戦った周辺も機体が壊れたりで酷いありさまだ。もっと凄惨なのはエリザベートのところだったが。
「アリス達にひどいことは……」
「ワタシ達はアリスを助けに来たっちゃ。こんな最悪なとこ、早く出してあげるっちゃ」
 カーシュも心配だがアリスも心配なハルトビートの不安に、筐子は明るい声で答えた。


 ようやく進むことのできた彼らは、ひらけたそのフロアで巨大な石臼のようなものを百人がかりでようやく回している哀れなアリス達と、彼女達を鞭で脅しつけているこれまた巨大なばあさんを目にした。