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横山ミツエの演義(第2回/全4回)

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横山ミツエの演義(第2回/全4回)

リアクション



クイーン・アリス


「回せー、権造様は不健全動画を求めておられる!」
 ピシャーン、と鞭を床に打ちつけるのはアリスの服を着てはいるが、腰は曲がり顔も手もしわくちゃのばあさんだった。それにしても大きな人だった。縦も横も。身長はニメートル近くあり、体重も百キロはあるように見える。
「あ、あなたはいったい……?」
「見りゃわかるだろう。空中幼彩先生デザインのアリスだよっ」
 アーライ・グーマ(あーらい・ぐーま)の問いに、カッと目を見開いて返したアリス(?)だが、目を見開きたいのはアーライ達アリス解放組のほうだった。
「あんた達、アリスを奪おうというんだろ? このクイーン・アリスが全員返り討ちにしてやるよ。ヒヒッ」
 いやらしく笑うクイーン・アリスに、アーライ達はようやく衝撃から立ち直る。
 クー・ポンポン(くー・ぽんぽん)が慌てて仲間達を見回した。
「ボク、どうしたらいいかなっ」
 兵の指揮なんてクーは知らない。
 すると、趙雲 子竜(ちょううん・しりゅう)から声がかかった。
「まずはあのクイーン・アリスを倒しましょう」
「わかった!」
 アリスのもとへ行くにはクイーン・アリスが巨体で塞いでいて近寄れないのだ。
「爆発するかもしれませんから、周りのものはあまり派手に壊さないようにしましょう」
 そう言う橘 恭司(たちばな・きょうじ)の口調がどこか歯切れが悪いのは、このフロアの出入り口付近の惨状のせいだ。
 恭司は木刀を、趙雲はエペを構えた。
 クイーン・アリスはせせら笑うと、鞭を一振りする。
 わざと二人からはずした鞭は、乗り込んできた不良達を一度に数百人も打ち払った。
「とんでもないね……」
「ネギの刑にふさわしいですね。ふふ」
 リア・ヴェリーに傷を治してもらったのだろう、明智珠輝が恭司の横で、ややくたびれたネギランスの切っ先をクイーン・アリスに向ける。その時、珠輝はクイーン・アリスには聞こえないくらいの小声で恭司に何事か囁いた。
 はいっ、という珠輝の合図の直後、リアの放ったバニッシュにより辺りは閃光に包まれた。
 ギャッとクイーン・アリスの悲鳴があがる。
 あーる華野筐子が一瞬防師をクイーン・アリスに投げ飛ばす。
「今のうちに制圧です……だっちゃ!」
 アイリス・ウォーカーが言い直しながらトミーガンのトリガーを引く。
 何発かはクイーン・アリスに当たったようだが、それがかえって彼女をいきり立たせてしまったようだ。めちゃくちゃに鞭を振り回してきた。
 周辺の機械も敵も味方も打ち壊していく。
「何て物騒なばあさんだ」
 アーライが機器を盾にぼやく。隙をついてはシャープシューターで狙いをつけるが、標的が暴れすぎて定まらない。
 その頃、筐子に放り投げられた防師は、クイーン・アリスの頭にしがみついていた。
「ばあさん、そっちは崖でござる! 右、右へ進むでござるよ!」
 いまだ視力の回復もできず混乱しているクイーン・アリスは、耳に飛び込んできた防師の声をうっかり信じてしまった。
 その途中もブンブンと鞭を振り回すので、被害拡大は止まらないが防師の導くほうへ行ってもらわないと困るのだ。
「その先に、にっくき敵がいるでござる」
「お〜の〜れ〜っ」
 敵と聞き、頭に血が上ったクイーン・アリスは完全に防師を味方と思い込んでいる。
 そうしてクイーン・アリスが移動したおかげで、囚われのアリスへの道が開いた。
 クーがすかさず駆け込んでいく。
「今のうちに行こう! 権造お兄ちゃんを助けに行かなきゃ!」
 契約主に忠実なアリスを思って誘導しようとしたクーだったが、何故か返ってきたのは疑うような眼差しだった。
「あの人の使いなの? 私達より不健全動画を選んだようなあの人の?」
「あ、あれ? みんな、権造お兄ちゃんが大好きなんじゃ……?」
 アリス達に気まずい空気が流れた。
 クーはすぐに態度を改めた。
「ごめんっ。みんなと権造さんの関係を勘違いしてた。ボクはみんなをここから助けようとして来たんだよ。こんなところ、早く出よう!」
 この言葉のほうがよほどアリスの心に素直に届いたのか、彼女達は抜け出す決意をした。
 その時、一際大きな破壊音があった。
 見れば、いつの間にか乗り込んできた味方達が傷だらけになっている。
 クイーン・アリスの鞭による傷がほとんどと思われるが、リアとポポガが機械を滅茶苦茶に壊しまくったせいもあるようだ。
「あんなにしたら、使い物にならなくなるんじゃ……」
 クーがミツエの反応や不良達への報酬のことを少し心配した時、何故か珠輝、リア、ポポガの三人が突然バンザイをしはじめた。
「アリスのみんな、私に力を……!」
 あっ、と気づいたのは何人いたか。
 そのポーズは地球で何十年か前に大人気となった少年漫画の主人公が使う技の一つのものだった。
 しかし、それを知らないアリス達はぽかんとしている。
 クーがそっと耳打ちした。
「助けてって言ってるんだよ」
 得心したアリス達は、珠輝達三人だけでなく助けに来てくれた者達全員にアリスキッスを施していった。
「恥ずかしい……」
 恭司はぽつりと呟いて、しかし気力が回復したことはアリスに感謝して趙雲と共にクイーン・アリスにとどめを刺しにバーストダッシュで一気に間合いをつめた。

 趙雲に鞭を柄から切り落とされ、恭司に木刀を脳天に打ち込まれて昏倒させられてやっとクイーン・アリスは倒れた。
 しかしまだ終わりではない。
「それ以上壊してはいけません!」
 恭司が、目に入った機器に手当たりしだいに水をぶっかけて一生懸命洗濯しようとしているポポガ・バビを急いで止めに入ったため、どうにか半壊程度ですんだが果たして正常に機能するかは怪しい。すぐにでも電源が落ちてしまうかもしれない。
「そんなに不健全動画が欲しいか! 腐ったやつらめ!」
 突如、アリスの群れの中から鋭い声が上がる。
 その声の主をアリス達が振り返ると、中心にいたのはアリスの格好をして怒りに肩を震わせている緋桜 ケイ(ひおう・けい)だった。
 パートナーの悠久ノ カナタ(とわの・かなた)に、権造がアリスを百人も囲っていることからロリとショタは嗜好において表裏一体に近いものだというどこかの学説を自信たっぷりに語られ、半ば唆されて女装し、可愛らしさをアピールして権造に雇ってもらい、信用を得て……といろいろ計画を立てていたのに、権造は三次元の女に興味を示さず、それならばと関が原でのことを話せばあっさり雇ったりで、ケイの努力は空回りだったこととか、権造よりもクイーン・アリスの信用を得るほうが大変だったとかその他諸々で、やや八つ当たりの気もある怒りだ。
「そんなもの絶対手に入らないようにしてやるっ」
 待て、と恭司が止める間もなくケイは手加減なしに雷術でまだ生きている機器を破壊してしまったのだった。
 飛び散る破片から身を守りながら、筐子が「本物の電撃鬼娘!」と喜んでいたとか。