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『君を待ってる~封印の巫女~(第3回/全4回)』

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『君を待ってる~封印の巫女~(第3回/全4回)』
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第4章 伝えたい気持ち
「(彼女に悪意はない……でも、この状況は……私は、どうすればいいの?)」
 アリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)は石化に蝕まれるパートナー天穹 虹七(てんきゅう・こうな)の傍らに膝をつき、俯いた。
 これが夜魅の引き起こした事であると、悟っていた。
 だがそれでも、夜魅を憎む事は出来なくて。
(「虹七ちゃんがこんなに苦しんでいるのに、私は……」)
「……私は大丈夫だから……夜魅ちゃんを、助けてあげて……」
 そんなアリアにけれど、当の虹七が告げた。
 その青い瞳に映る自分が、元気を……勇気を取り戻していくのが分かった。
「信じて……私を、みんなと、みんなの大切な人との、絆を……」
「そうだね……行ってくるわね。みんなが笑顔でいられる明日を守る為に」
 勇気を取り戻したアリアは立ち上がり、虹七にそっと口づけをして花壇へ駆け出した。
「……絶対みんなで夜魅ちゃんと遊ぼうね……あのきれいな花壇で……」
 虹七の、精一杯の笑顔で見送られながら。

「このバジリスクってば、きっとまた夜魅の仕業だよね。だったら、夜魅に会ってバジリスクを止めてもらわなきゃ!」
 そう思い花壇に夜魅を探しに来た久世 沙幸(くぜ・さゆき)は、大量のバジリスクに思わず言葉を失った。
「わわっ、すごい事になってるね」
 言いつつ、とりあえず一枚、とシャッターを押すのは羽入 勇(はにゅう・いさみ)だ。
「あの子……夜魅、だったっけ。彼女を放っておくのはあまり得策ではない気がするけど」
 アリア・ブランシュ(ありあ・ぶらんしゅ)はパートナーリュート・シャンテル(りゅーと・しゃんてる)の言葉に俯きそうになり。
 けれど、その顔をしっかりと上げた。
「ごめんなさい。でも私は夜魅さんを放っておく事が出来ないです。」
 触れて知った、夜魅。一人にしておけないと、そばにいてあげたいと思った、小さな怯える魂。
「バジリスクとか、危険かもしれないよ」
「我侭言ってごめんなさい、でももし彼女と話が出来なかったら私きっと後悔するから……」
「そっか。なら、もう止めないよ」
 アリアの思いを認め、リュートはその背中を押した。
「行って、気持ちを伝えておいで」
「はい、行ってきます」
「正直、夜魅が説得に応じる可能性は限りなく低いと思う」
 リュートはアリアの背中を見送り、そっと溜め息をついた。
「けどアリアは諦めていないようだし……参ったね」
 華奢な身体が今日は強く見えて、止める事など到底出来なかったから。
『わわっ沙幸に勇、アリアも……みんな、おとなしくしなくちゃダメだよ』
 夜魅が言うと、バジリスク達は一応、大人しくなったのだけれど。
「やっぱりこんな事、止めなくちゃ」
 勇はパートナーのラルフ・アンガー(らるふ・あんがー)を安心させるように一つ頷くと、説得を試みた。
「ねぇ、外に出る為には悪いことしないと駄目なのかな?」
『……え?』
「ボク夜魅ちゃんと友達になりたいのに、ううん、もう友達だと思ってるけど、ラルフや他の皆の大事なパートナーさんが大変な事になってるから悲しいよ」
「そうですよ。こんなことをしなくても君をそこから出す方法は必ずあります。ですから、こんな誰も報われない事はやめてください!」
「そうだよ! 私は夜魅と友達になりたいんだもん。もちろん、ここにいるみんなも同じことを思っているはずだよ」
 勇と同じ思いで、御凪 真人(みなぎ・まこと)と沙幸も懸命に呼びかけた。
「夜魅だって、本当はみんなと友達になって一緒にいたいと思っているんじゃないかな? でもこんなことを続けていたら、夜魅が元の姿に戻れたとしても夜魅と一緒にいたいって思う人がいなくなっちゃうよ」
『沙幸……』
「ねぇ、ボク達も君に近づきたいから、君もボク達に近づいて欲しいな。それが皆が困る方法じゃないならきっともっと友達も増えるよ! 格好いい男の人とか!」
『勇……』
「友達だと思うならその人の喜ぶ事をするのが一番ですよ。友達の笑顔って素敵じゃないですか?」
『笑■が、■敵……』
 夜魅の声に走るノイズ、ラルフは微かに眉をひそめた。
「この間も、確か……」
「誰かを傷つける力は自分を、そして自分の大切な人をも傷つけてしまうんです」
『ダメ真人、きちゃダメ』
 一歩踏み出した真人に、夜魅は首を何度も振った。
「一人で考えず、俺達を頼ってください。きっと良い方法がありますから」
 この間泣かせてしまったからだろうか、少し悲しく思いつつ歩を進める真人。
「友達には本当の楽しさ、嬉しさを知って欲しいと思うのです」
 このままでは本当に、夜魅は災いとされてしまうから。
 そんな真人に、バジリスクが襲いかかった。
『真人っ!?』
「この程度の傷、どうってことありません」
「夜魅! お願いだからバジリスクを止めて。私や他のみんなと一緒に別の方法を探そうよ」
『ごめん、なさい……ごめん……でも、止まらない、止められないの』
 泣きだしそうに顔を歪める夜魅。
「え? バジリスクが言うことを聞いてくれないの? うーん、何か心当たりとか、こうなったときの対処法とかないかな?」
『分かっ……なく……て……だって……力の集め方しか……知らな……』
「あぁ、うん、苛めてるわけじゃないから、泣かないで。大丈夫、ここにいる人たちは突拍子もないお人よしだから、きっと何とかしてくれるし、もちろん私だって頑張っちゃうよ!」
『……うん』
 沙幸が励ますと、夜魅はようやくコクリと頷いたけれど。
「でも、どうしよう……?」
「夜魅さんが消えれば、災厄は収まる……そうではないですか?」
 静かに言葉を発したのは、ライ・アインロッド(らい・あいんろっど)だった。
「本気じゃないよね?」
「一人を殺すことで学園が救えるのなら喜んで私はこの手を汚しますよ」
 勇に答えるライは、あくまで静かだった。
 静かであるからこそ、沙幸や真人達はライの本気を感じ取る。
「止めて下さい!」
 故に真人は、ライから夜魅を守るように動いた。
「彼女を傷つけたからといって解決するなんて保障はどこにもありませんよ」
「もし悲しみや同情で彼女を助けようとしているのなら止めておきなさい。どちらも不幸になるだけですよ……」
 そう……ライとて夜魅や白花に同情を覚えないではなかった。
 だが、闇の中にいる夜魅を負の感情をもって救おうとしても、それは救いにはならないと思うのだ。
 寧ろよりいっそうの悲劇を生む……最悪、真人達自身が、夜魅の闇に囚われてしまう可能性だってある。
 それは、それだけは許してはならなかった。
「違うよ、同情じゃないもの! 友達だから……友達だから、守りたいんだよ!」
 だが、勇もまた両手を広げてライを阻もうとする。
 正直、災厄とされている夜魅を守る事に矛盾を覚えないでもない。
 だけど。
「ボクだっていつもラルフに守られてるから……だから自分にできるんならラルフや大事な友達を守りたいよ」
 災厄でも、夜魅は大事な友達だから。
「ボクねぇ、白花ちゃんと夜魅ちゃんと二人も一緒に、皆でこの前やったようなお茶会をやりたいんだ! それを記事にしたらきっとみんな注目するような素敵な記事になるよね」
 言いつつ、涙がにじみそうになる。
 それは何て幸せな光景なのだろう。白花がいて夜魅がいてみんなで笑ってお茶を飲んで。
 けれど、それは今は遠くて。
「でもボクは、希望は捨てたくないんだ」
「貴女がそれを選んだのであれば私は止めませんよ」
 ラルフは勇を守るように、その背を支えた。
(「それで例えこの身が石化しても後悔はありません。唯一貴女を守れなくなるのだけが悲しいですがね」)
 上手く動かなくなりつつある足に、勇が気付きませんように、と祈りながら。
「それに、彼女が全部悪いと決まった訳じゃないし! 彼女を倒したから事態が好転するというのが確実でもないんだから!」
「では、彼女を殺す以外でこの事態を収める具体的な方法を、誰か言えますか?」
 ライの指摘に答えられる者はいなかった。
「結界を壊さず、夜魅さんとも触れ合えるようになる方法があれば……」
「現実的に、今そんな方法は無い……そうですよね」
「……ですが」
 ライに即座に返され、アリアは堪えるように唇を噛みしめた。
 確かに、そんな方法は見つからない。
 集めた力だって、夜魅自身でさえ制御できないのである。
「それでも、私は諦めたくないです。皆のことも、夜魅さんのことも、どちらを諦めることなんて出来ないから」
「ではその願い事、彼女を打ち砕きます」
 構えた銃。その銃口は僅かたりともブレる事無く、ピタリと夜魅に狙いをつけ。
「……お願いです引いて下さい。でないと……こちらにも考えがあります」
 辛そうに顔をしかめつつ、真人の手に、魔力が集まる。
「ダメっ!」
 そこに……ライを庇うようにヨツハ・イーリゥ(よつは・いーりぅ)が飛び込んだ。
「ヨツハ、何故?」
 ライは僅かに驚いたように、自分のパートナーを……置いてきた筈のヨツハを見た。
「ライ、本当にあの子倒しちゃうの?」
「ええ、それしか解決策が見つかりませんから」
 花壇に向かう時からライは心を決めていて、ヨツハは迷っていた。
「でもボクは……」
「わかっています、ヨツハはどこかに避難していなさい。貴女まで悪役になることはない」
 ライは止まらない、それを悟ったヨツハの胸は痛んだ。
 ライとて、好んで夜魅を排除したいわけではないのだ。
 だが、ライは白花が消えてしまった事に責任を感じている。
 そして、学園の平和の為に……多くを救う為に一人を排除する、その辛い役目を追おうとしているのだ。
「ライが頑張ってるのにボクだけ見ているのは嫌だ!」
 ヨツハの中、未だ迷いはあった。けれど、ライを一人で戦わせるのは、それは嫌だった。
「夜魅さんを排除します。それが現状、唯一の方法ですから」
 一人を救うために十人の犠牲が必要だというのなら、ライはその一人を排除することを選ぶ……もしそれが、過去あった過ちの繰り返しだとしても。


「このままじゃ平行線だぜ。味方同士で争ってどうするっていうんだ」
「仕方ないよ。みんな、それぞれ守りたいものがあるんだもの」
 憤るベア・ヘルロット(べあ・へるろっと)マナ・ファクトリ(まな・ふぁくとり)は宥めた。
「私だってもしベアに何かあったら、冷静じゃいられないもの」
「だがグズグズはしてられねぇだろ。夜魅だって困ってるし、白花だって何とか助けなきゃならない」
「とは言っても、先ずはこのバジリスクを何とかしなくちゃ」
「そんなん関係ねぇーぜ! 突っ込んで叩き降ろすだけだろ?!」
「あのね、ベア。バジリスクっていうのはね、石化光線を放つと体液も毒だしで、本当に危険なのよ……って、ちょっ! 何一人で突っ込んでるの!?」
「どわっ?!」
 みなまで聞かずに駆けだすベアに、思わずハンマーで突っ込むマナ。
「とはいえ、彼氏の言う事も一理あるぜ」
 そんなマナに、バジリスクの群れとその向こうの夜魅を眺めていたエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)が声を掛けた。
「見た感じ、どうも夜魅はバシリスクの制御が手に余るようだし。数が減れば影響も少なくなるんじゃないか?」
 あれでは夜魅に「バジリスクを引っ込めろ」と言ってもムダだろうな、とエースは早々に悟っていた。
「ああ、俺もそう思う」
「ベアはそこまで考えてないでしょ、絶対」
「ともかく、このままじゃ状況が悪化するだけだぜ。そこで……」
「あいつらを一掃するしかないって事だ」
「そういう事だ」
 頷き合うベアとエースに、マナはため息をついてしまう。
 走り出したベアを止められないのは分かっている。
 だとすれば後は目的を果たすまで走り続けさせる事、それがマナの役目だった。
「はぁ、仕方がない付き合うか」
 ため息を一つつくマナだったが、その口元は誇らしげに微笑みを形作っていた。
「クマラはどうす……」
「この期に及んでオレだけ仲間外れってのはナシだよん」
 先んじて、クマラ カールッティケーヤ(くまら・かーるってぃけーや)はベ〜だ、とイタズラっぽく舌を出してみせた。
「オイラはねぇ。今のところ元気なので、直接戦闘力からっきしダメダメなエースの手伝いをしてあげるよ……オイラがついてないとやっぱダメじゃん?」
 でしょ?、と見あげられエースは降参した。
 実際、クマラがいてくれた方がありがたいし。
「OK、じゃよろしく頼む」
「りょ〜かい!、っと♪」
 ガードラインを発動したエースの後ろ、クマラが冷気をまとう。
「オイラが居ないとエース困るじゃん。だからオイラ、気合で頑張るからね」
 そして放たれた氷術が、バジリスクの動きを止め。
「こりゃ良いぜ」
「といって、気を抜かないで下さいね」
 豪快に大剣を振り回すベアと、ぺしゃんこにし損なったバジリスクを屠るマナと。
 互いの視線だけで動きを合わせ、二人はバジリスクに挑み。
「俺達が道を開く。だから夜魅を頼む!」
 ベアは剣を振るいながら、後続の者達に託した。
 夜魅を白花を、そして世界を救う為に。

「そういう事なら協力しないと、環菜会長に怒られてしまいます」
 影野 陽太(かげの・ようた)は言って、バジリスクに射撃攻撃を仕掛けた。
 せめてここで足止めしなければ、学園中に被害が広がり、環菜様だって困るのだ。
「空の裂け目は気になりますが、とりあえず今はバジリスクを退治し、学園に平穏を取り戻さなければ」
「どういう状況かイマイチ分かりませんが、放ってはおけないですよね」
「うん!」
 いつものように花壇を訪れた新川 涼(しんかわ・りょう)ユア・トリーティア(ゆあ・とりーてぃあ)も、ベアや陽太達を手助けするべく行動を開始した。
 漂う不穏な空気と大量のバジリスクとに困惑しつつ、それでも戦っている者達がいるから。
「同感です。協力し合いましょう」
 本郷 翔(ほんごう・かける)はサポートすべく、罠を発動させる。
 花やエース達を避け、バジリスクだけが炎に包まれる。
「動きが鈍ればしめたものです」
 自らは、ライターの火をスプレー噴射に合わせてつける……簡易火炎放射だ。
「こちらも行きましょう。バジリスク退治の基本は鏡ですよね」
「ん〜、鏡で視線を反射させるんだっけ」
 どこまで効果があるかは分からないが、気休めでも。
 思いつつ、涼は武器を構えた。
「行きますよ、ユア!」
「りょ〜かい!」
「ちょっ、ユアちゃん! 前に出たらダメだ!」
「……え?」
 翔のパートナーであるソール・アンヴィル(そーる・あんう゛ぃる)の珍しく切羽詰まった警告。
「ユアちゃん!」
「ソール前に出ないで下さい!」
「って、女の子ちゃんの危機を放っておけるか!」
 咄嗟にユアを引き戻そうとしたソールと、ソールを留めようとした翔と。
 だが、それらをあざ笑うかのように、バジリスク達がソールとユアを捕捉した。
「ユア? どうしたんです……?」
「ごめ……足が動かなくて……」
 バジリスクと闘っていた涼は即座にユアを抱え、戦線を離脱し。
 そこで、翔から事情を聞いた。
「キス? キスすれば良いんですか?」
「ダメだよ、涼。涼の命を削るなんて……んっ」
 涼は一瞬たりとも躊躇しなかった。
「後、キュアポイゾンかけておこう……キスつきでも、可だよん♪」
 ソールは真っ赤な顔のユアに、解毒の魔法をかけると座り込んだ。
「……ソール」
「いやちょっとヘマしたなって」
 ヘラヘラと笑うソールに、翔は大きく溜め息をついてみせた。
 正直、キスはちょっとあまりかなり、やりたくない。
 だがこの場合……仕方ない。
「なになになに? もしかして御褒美くれんの?」
「本当に仕方なくですよ、決して心配だなんてことは……わかってますよね?」
「うわぁその笑顔が怖い」
 言いつつ、実に嬉しそうに翔の唇をねだる。唇と唇が近づき。
「……ん? ん〜! んんん〜!!!」
「気持ち良かっただろ? ごちそーさん♪」
 調子に乗り舌を入れておいて全く悪びれる様子のないソールに、翔の怒りの鉄槌が下ったのは……言うまでもなかった。

「衰弱したパートナーにキスで生命力を送り込めば、石化を一時的に遅らせることができる……だけど一時しのぎの方法では、いつかパートナーたちが石化してしまうもの」
 小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)の脳裏をよぎるベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)……今、石化に苦しむ大切なパートナー。
「きっと美羽さんが何とかしてくれますから……」
 信じて待っていますと微笑んでくれた。
 救う為、美羽はバジリスクに光精の指輪の光で目くらましをお見舞いしてから、ライトブレードで攻撃していた。
「光条兵器はベアトリーチェに負担をかけてしまうかもしれないもの」
 思うたび、不安が胸をかすめる。
 バジリスクの向こう、夜魅が見える。
 苦しんでいるように見える……だけど。
「夜魅!」
 堪え切れず、美羽は声を上げた。
 ライの主張も決して間違ってはいないのだ。
「私も夜魅が閉じ込められているのは可哀想だと思うけど……。でも、だからって夜魅がベアトリーチェの……みんなの命を奪ってもいい理由にはならないよ!」
 ぶつける、大切なパートナーを苦しめられている怒りと悲しみ。
 のろのろと顔を上げた夜魅の顔が歪んだ。
「いいねぇ。どこもかしこも石化していく人だらけ、あっちからもこっちからも諦めや抵抗の声が聞こえるよぉ。たまらないねぇ! ゾクゾクするねぇ! なぁ、夜魅殿もそうなんだろ?」
 美羽の叫びに硬直する夜魅をなぶるように、マシュ・ペトリファイア(ましゅ・ぺとりふぁいあ)はクツクツと笑った。
『違っ……あたしは……』
「違わないだろ? これはみぃんな、夜魅殿がやってる事なんだからさぁ」
『あたし……あたしは……ただ……』
「それにしても夜魅殿は分かってるのかなぁ? このまま制御しきれずバジリスクが暴れ続ければ、シャンバラの人間である夜魅殿自身も石化の対象となるって事。そう、実体が戻った瞬間にねぇ」
 それは本末転倒だよなぁ、と楽しそうに夜魅を見るマシュ。
「まぁ、個人的にはバジリスクがこのまま暴れ続けてもいいんだけどねぇ。沢山石化していく人観れるし、夜魅殿が石になっていくの観たいしねぇ」
 そうして、マシュは震える夜魅に殊更優しく囁いた。
「想像できるかい? 足先から感覚がなくなってくんだ。涙は砂になり、息はできなくなる。喋りたくても喋れない、逃げたくても動けない」
『っ!?』
 息を呑む夜魅の中、闇が弾けた。