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横山ミツエの演義(最終回)

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横山ミツエの演義(最終回)

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 意識がそれたからか、和希はみるみるもとのサイズに戻ってしまった。
 城を守っていた李厳も問題に夢中になっていて、バリアはすっかり消えている。
 それを指摘するはずの諸葛亮も紙を睨みつけている有様だ。
 すると、いつの間に接近していたのか朝野未沙が乗った戦車が一台迫っていて、車体の上に立つ彼女が拡声器でミツエに命じた。
「横山ミツエ、あたしのところに来なさい!」
 意識は問題に集中しながらも、ミツエの足はフラフラと未沙のもとへ向かった。
 それを、この謎の現象から逃れていたナリュキ・オジョカン(なりゅき・おじょかん)が引き止める。
「待てミツエ。どこへ行くのじゃ」
「未沙のとこー」
「ちょっと、邪魔しないでよ。あたしにはミツエを所有する権利があるんだから」
「わらわにはミツエの成長させるという崇高な使命がある。お前がその権利を振りかざしても、わらわの使命の邪魔はさせんぞ。というわけで、ついていくにゃ」
 お邪魔虫め、と未沙はげんなりした。
 そして戦車から降りた未沙は、紙片を睨みつけてブツブツ言っているミツエをそっと抱き寄せる。
「ふふ、思った通り。いい抱き心地……」
「そうじゃろう。胸がもう少しあればもっと良いであろうにゃ。こんなふうに……」
 ナリュキはミツエの背後から腕を回すと、文化祭の時に触れなかった分も堪能するようにミツエの胸を両手で包み込んだ。
 さすがに数式にばかり集中できなくなったか、ミツエの肩がピクリと震える。が、それだけだった。やはり数式のほうが大事なようだ。
 抵抗がないのをいいことにナリュキはやさしくミツエの胸を揉む。
 すると。
「え? 本当に大きくなった?」
「ふふふ。教胸係の腕前、どうじゃ」
 そんな馬鹿なと言いたくなるほど、小振りだったミツエの胸はあっという間に「胸が大きい」の部類に入るほどになっていた。
「う〜ん、まだまだ」
「ちょっとちょっとちょっと」
 焦る未沙の声はナリュキに届いていない。
 ミツエのブラウスのボタンは今にも弾け飛びそうだ。
「これ以上は許さないよっ」
 そう言えば、ナリュキの手はピタリと止まる。
「それなら、お前の胸も育ててやろう」
「え!?」
 すでにミツエの胸は彼女を抱きしめることは不可能なほどに成長していたため、未沙は手を引いてナリュキの魔の手から逃げようとしたが、突然首筋にひやりとしたものを当てられ足を止める。
「ミツエさんを離してくださいね」
 声はすれど姿は見えず。
 けれど、未沙の首に当てられているのは刃物。刀だ。
 ミツエの周りに禁猟区を張っておいた鬼灯 歌留多(ほおずき・かるた)である。彼女は光学迷彩でずっと姿を消していたので『MATH NOTE』に名前を書かれることはなかった。そしてそのままナリュキについてきていたのだった。
 姿こそ見えないが、和服美人である。
 うかつすぎたと後悔する間もなく、未沙の胸にナリュキの手が伸びていた。
 あっ、と思った時には未沙の胸は特注サイズになっていて……。
「重い……」
 まさかの重さだった。


 参道で戦っていた、息を吹き返した董卓軍はいよいよここを突破しようとしていた。
 バリアが消えたことでドラゴンの攻撃も効いているし、戦車隊からの砲弾の雷電属性も打ち消されたりはしていない。
 そしてこのことが、用も済んで城壁から離れようとしていたドルチェ・ドローレに災いした。
 ここを離れる前に新たに知った乙軍の者の名前を書いておこうと広げたノートを、破壊された城壁の一部が貫いたのだ。
 安全な場所にいたのだが、破壊速度が上回っていたようだ。
「何てこと!」


 数式の虜になっていた者達が一斉に我に返る。
 李厳は半壊状態の城に再度バリアを張り巡らせた。
 参道では残り少ない兵を集めて張飛を中心に何とかしのごうとする。
 ほぼ壊滅した夏野衆には張遼隊から一部有志が加わった。無茶は承知の命知らず達だ。
 そしてミツエは絶叫していた。
 そこに巨大化した和希とひなが地面を揺らしながら迫ってきたため、未沙は踏み潰される前に退却することにしたのだった。