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砂上楼閣 第二部 【前編】

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砂上楼閣 第二部 【前編】

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別の部屋では、
黒崎 天音(くろさき・あまね)と入れ替わって薔薇学の制服を着た、
黒髪の剣の花嫁の周りに、学生達が集まっていた。
「やはり波長の合う方が居ないと、目覚めてはくださらないんでしょうか……」
ティエリーティア・シュルツ(てぃえりーてぃあ・しゅるつ)は、
機晶技術と、先端テクノロジーで、
黒髪の剣の花嫁の身体を調査する。
パートナーのスヴェン・ミュラー(すう゛ぇん・みゅらー)は、その間に、
集まった人達に紅茶を入れて回る。
「この方達は、どの様な経験をなさっているのでしょうか……。
 起きていらしたら、是非お話してみたいですね」
スヴェンは、その間にも襲撃を警戒し、
ドアや窓などに注意を送る。
「わかりました!」
ひととおり調べ終わったティエリーティアは言う。
「この方達の身体には、機晶技術も地球の技術も使われていません」
「うん、剣の花嫁だからね……」
清泉 北都(いずみ・ほくと)は、超感覚で周囲に警戒するため、
タレ犬耳とくるくる巻き尻尾を出したままで言う。
「私のティティは本当にかわいいですね!」
スヴェンは、ティエリーティアの頭をなでる。
「それもそうでしたね……って、スヴェン、子ども扱いしないでくださいよー」
ティエリーティアは言う。
「えーと、朝ですよ。起きて下さーい」
「えーっと……朝ですよ? 起きて下さい?」
北都とティエリーティアは、同じことを言って、黒髪の剣の花嫁に呼びかける。
北都のパートナーのクナイ・アヤシ(くない・あやし)は、
禁猟区で周囲を警戒する。
(交流を深めるのはよい事ですが、
 こんな状況下で行うのは……何か校長の裏の意図を感じますね)
クナイは思う。
「あとは……えーっと……人工呼吸……じゃなくて心臓マッサージ……でもなくて。
お伽話で言うところの王子様のキス……ですか?」
首をかしげて言うティエリーティアの言葉に、北都は耳と尻尾を反応させる。
(そういえば、クナイとパートナー契約したときに、
 キスする必要があるって言われたんだっけ。
 いや、でもあれは嘘だし、目覚めさせるのに必要なはずないよ!
 声をかけ続けても起きそうにないけど、周りに皆いるし、
 何よりクナイがいるし……っ!
 って、何意識してるんだろ)
感情を顔には出さない北都だが、耳と尻尾には思い切り出ている。
(北都……まさか、本当にキスするつもりじゃないでしょうね。
 契約時の『嘘』が本当になるなんて、そんな事あってたまりますか。
 『嘘』だったことを告白して、
 北都の態度が少しずつ変わってきている中、
 割り込まれて奪われるなんて冗談じゃありません)
クナイも、心中穏やかでない。
そんな中、ティエリーティアは、
耳元でささやきかけたり、胸に手を置いて話しかけたりしていたが、
膝枕して話しかけ始めた。
「花嫁さーん」
「……そんな事私にはして下さらないのに……」
スヴェンは嫉妬する。
「やっぱり、キスしなきゃダメなんでしょうか」
そうつぶやいたティエリーティアを、スヴェンは抱き上げて黒髪の剣の花嫁から引きはがす。
「きゃー!? スヴェン、何するんですかー?」
「そんなことダメに決まってるじゃないですか!
 ティティのキスなんて、
 私がぜったい許しませんよ!」
(やっぱり、キスしなきゃだめなのかなあ。
 うーん、でも……)
側で、北都は悩み続けていた。


早川 呼雪(はやかわ・こゆき)は、
剣の花嫁の護衛をしていたが、
替え玉作戦を実行している天音がさらわれるよう仕向けようとしていた。
そのかわり、金髪の剣の花嫁は死守するつもりでいる。
物々しさの緩和をするため、アコースティックギターを持ち、
眠る金髪の剣の花嫁の側で演奏を行う。
タシガンの民に、地球の音楽文化を伝えるのも目的であった。
呼雪の甘いバラードが、部屋に響く。
(アーダルヴェルト卿の黒い思惑があるというのもわかるが、
 正直、辛いし人間というものが嫌になる。
 遺跡でずっと眠ったままでいた方がこんな事に巻き込まれず、
 利用される事もなくすんだかも知れないのにな……)
子どもに子守唄を歌うように、呼雪は優しいまなざしで金髪の剣の花嫁を見つめる。
側では、エメが声をかけ続けている。
パートナーのファル・サラーム(ふぁる・さらーむ)は、大河と仲良く警備をする。
「大河が薔薇学に来てくれてうれしいよ♪
警備、大変だけど一緒に頑張ろうね!」
「ああ、俺も、ファル達と同じ学校に通えることになってうれしいよ。
 俺とアディーンは一応パートナーになったんだし、
 同じ遺跡に眠ってたんなら、
 剣の花嫁の人達は、アディーンの兄弟みたいなもんだろ。
 パートナーの兄弟は守らないとな」
大河は元気よく答える。
(うん、兄弟は……守らないとね)
ファルは、古王国が崩壊した際に、
住んでいた小さな浮島が何者かに襲われ、
仲間や兄弟を失った過去を持つ。
だからこそ、今の友達や仲間達と一緒の薔薇学は、とても大切に思えるのだった。
ファルは、ディテクトエビルを使用して、周囲に害意を持った者がいないか警戒する。
(襲撃後も、怪しい人がいるかもしれないからね。
 ちゃんとチェックしないと!)
ユニコルノ・ディセッテ(ゆにこるの・でぃせって)は、アディーンに言う。
「警備も重要な任務ですから、ご一緒して頂けますと助かります。
 無事に終わりましたら、ゆっくりと過ごす事も出来るでしょうから、
 喫茶室でお茶でも如何ですか?」
「行く行く!」
アディーンは尻尾を振らんばかりの勢いで言う。
「では、そうしましょう。変熊様もご一緒していただいたらうれしいですね」
「って、なんでアイツが出てくるんだよ……」
アディーンはがっくりと肩を落とす。
「でも、今日はユニちゃん、なんで男の格好してるんだ?」
ユニコルノは、声を落として言う。
「学舎では性別の事は秘密にして頂くようお願いします。
 薔薇の学舎は本来、女人禁制ですので」
「ああ、なんでそんな規則なのかよくわかんないけど、
 ユニちゃんと会えなくなるのはイヤだからな。
 わかったぜ」
アディーンはうなずく。