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リアクション
そのころ、ゴールでは。
皆が渦に巻かれるなか、ゴットリープとクライスが息をつめていた。
クライスは、オートガード、オートバリア、フォーティテュード、をフル稼働させている。強力な力を持った心は、クライスの身体を大きく見せている。
まるで、ゴール枠全体がクライスで埋まっている錯覚まで起きる。
ゴットリープは、心を無にして、その僅かな隙間にボールを投げ込もうとしたとき、クレア・シュミットがスライダーから滑り降りてきた。顔面は蒼白だ。
「大丈夫?!」
「私は大丈夫だ、エイミーが助けてくれた」
後から落ちてきたエイミーは傷だらけだ。
「銃が使えないから打撃戦になったんだよ」
そのとき、渦が消える。
クレーメックの作り出した渦によって、動きの取れなかった皆が一様にボールに向かう。
「ローレライ!」
ゴットリープが叫んだ。
何処からとも無く現れた人魚が、敵チーム全員に魅了呪文をかける。
「シュートをお願いします!アシストは僕が!!」
ゴットリープの言葉に、クレアが反応した。
必殺シュート「スプラッシュシュート」を打つ。これは、いわゆるバウンドシュート。水面に当たった瞬間の水しぶきに光術を使って幻惑し、キーパーを目くらましするシュートだ。
クライスは一瞬、油断した。
渦が消えたことで、最大限まで高められていた緊張感がいったん途切れたのだ。
「このゴールは、イーシャン皆の…破らせるものかぁ!」
しかし、その隙間を縫い、ボールはゴールを揺らした。
大きな歓声が沸きあがる。
「ゴール!ゴールです」
翡翠が叫ぶ!
審判は頭上にいる。空を飛ぶ審判が片手を高々に上げる。ゴールの合図だ。
ボールは、弥十郎に渡された。
ゴットリープも力が尽きている。待機していたレナ・ブランド(れな・ぶらんど)は、ゴットリープを休ませため、代わりにプールに入った。
観客席では、天津 幻舟(あまつ・げんしゅう)が、歓喜の祝詞を上げている。巫女装束を着用し、玉串を手に、西シャンバラ代表の勝利を祈る幻舟は、このゴールを確信していた。
しかし、疲れ果てたゴットリープが心配だ。
無事を祈り、神楽を舞い、八百万の神々とシャンバラ女王に対して、選手たちへの加護を厳かに祈願する幻舟。
観客のなかには、この儀式にちゃちゃを入れるものもある。
「なんだぁ、あれ!」
幻舟の反応は早かった。
「この罰当たりどもめが!シャンバラの国家神であらせられる女王陛下への祈りを何と心得ておるのじゃ!」
綾小路 麗夢(あやのこうじ・れむ)も応援に加わっている。
「東チームの応援がチアリーダーなら、西は魔術よ」
火、氷、雷を使って、効果音をだして、盛り上げる。ゴールの瞬間、麗夢は、雷を使い、鮮やかな祝福の空を作り出した。
流れるプールでは展開が速い。
既にボールは自陣のゴール前まで動いている。
決定的なチャンスのないままボールはまた流れてゆく。
ゴール前にいたマーゼンは自分の余力があまりないことに気がつく。
「金団長!」
「なんだ?」
「自分はいったんベンチに戻る」
マーゼンはアム・ブランド(あむ・ぶらんど)と替わる予定だ。
「ついては、団長もここはいったん上がり、最終ピリオドに勝負をかけるのが得策かと。ちょうど・・・」
目の前に、山葉聡が流れてきた。
「ゴールキーパーを団長と替わってはくれぬか」
「えーーーー!ほんと?」
マーゼンの申し出に聡は嬉しそうだ。
マーゼンは試合が最後までもつれ込むと予想している。金団長はそのときの切り札となるはずだ。
ボールは再び、東チーム前に来ていた。
ゴールポストに投げ込まれたボールを素早くカットしたのは、ブルーズ・アッシュワースだ。分かりにくいが、いつもより身体が締まっているように感じる。
観客席にいた黒崎 天音(くろさき・あまね)は、その様子見て驚いた。
「おや、ブルーズは補欠選手だったはずだが…なぜ出ているんだ?」
「先発メンバー選びに難航したんだ」
佐々木 八雲だ。心を通じて、弟の弥一郎から情報を得ている。
「まあ、相手が相手だからか」
「じゃぁ、ブルースの活躍を楽しもうか」
五分袖の白ワイシャツに黒のソフトデニムパンツ。手にはうちわという姿で日差しを避けて、天音は座っている。
八雲が急に胸を押さえだした。
仁科 響は、薔薇の学舎から離れた会場内ということもあって、女の子っぽい格好をしている。なかなか愛らしい。
既に行列になっていた公式ショップで、響はバニラと苺のアイスを買ってきた。
両手にアイスを持って八雲のもとに戻る響は、歪んで胸を押さえる八雲の表情を見た。
「大変だ!」
走り出す。
会場内で公式マスコットとして愛想をふりましていた自称ろくりんくんことキャンディスも慌てて駆け寄る。
「佐々木!」
強化人間の響は時折発作を起こす。
「響!」
響は、八雲を思いっきり殴り気絶させる。
「ありがとう。あとはお前が楽しめ」
八雲は、意識を失う寸前、最後のメッセージを弥一郎に送った。
天音は、事の成り行きを見守りながら、傍らにきたキャンディスに関心を持つ。
「暑いのに大変だね。君も食べるかい?」とカレー煎餅(山吹色の菓子)とスポーツ飲料のペットボトルをキャンディスに差し入れる天音。
「アリガトー、好みどーりデス!」
キャンディスは、天音の傍らに座ると、顔を隠しながら、そのせんべいと飲み物を口に入れた。
その頃、ブルースはボールを持ってプール内を暴走していた。キーパーの弥一郎からは、響が資料検索を使用して、一人一人の特徴、得意技、癖などが分かりやすいように纏めたデータを教わっている。
最新の情報だと、銃器を持ったメンバーが消え、金団長も交代したという。
「今がチャンスだ」
ここ数日、食事は自分で作った物以外口にせず(食事・飲料への下剤等の薬物混入の対策)体調管理を行ってきただけに、身体にキレがある。
この時を待っていたのは、牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ) 。これまでスライダー内で敵チームを襲っていたアルコリアは、いよいよ作戦を遂行する。
東ゴール前のスライター入り口、ブルースがボールを持って猛スピードで流れてくる。
後を追うのは、クリストバルとアム・ブランド、それに金団長の変わりに出てきた本能寺 飛鳥(ほんのうじ・あすか)だ。
三人ともSPの補強要因で、戦闘要員ではないが、現在の戦力を考えると戦わないわけにはいかない。
三人とも全力でブルースを追う。
アムは、魔法による攻撃をブルースに掛ける。
使用する呪文は、サンダーブラスト。
ブルースの上に、雷が振る。避けるためにブルースは水中深く潜る。
飛鳥は、チームの面々が攻撃で体力を使うたびに、SPの補給を行っている。
それまで試合とは無関係に水中深くをナコト・オールドワン(なこと・おーるどわん)が、突然、顔を出した。
「お控え下さいませ。マイロードの御前ですわよ」
ナコトは神の眼を発動する。皆がひるんだすきに、ブルースの腕を掴む。
「なんだ、味方だぞ」
ナコトは無表情のままブルースをスライダーの筒になかに放りこんだ。
ゴール出口では、シーマ・スプレイグ(しーま・すぷれいぐ) が待機している。
「氷で塞ぐのは問題ないよな?」
スライダーの入り口を氷でふさぐ。
西チームベンチは色めきたった。
休息を得た、クレーメック、マーゼン、ゴットリープは、再び選手交代を申し出る。
しかし、この場所まで、皆が流れてこない限り、選手交代をすることは出来ない。
そのためには、まず、あのスライダー入り口の氷を溶かすか、プールを逆に泳がなければならない。
氷でふさがれたスライダー前に、アルコリアが泳いできた。乱撃ソニックブレードを使用しようとしたそのとき、氷でせき止められた水流が爆発する。
スライダー上流にいた皆は、そのまま宙に投げ出され、スライダー外側を滑るようにゴールに向かって落下する。
応援席で盛り上がっているのは、ミューレル・シンクレア(みゅーれる・しんくれあ)だ。
「ひゃっはー、やれー ぶっころせー」
「いまいましいどらごんのつめよ!」
敵味方の区別なく、応援している。
「ばんばんそらにらいふるをうちますよ、ひゃっはー」
高さ十メートルから水流とともに直角に落下してくる選手たちを見て、歓声を上げる。
「なんてのりのいいひとたちなんだ、アンナ高さから落ちてくるなんで」
アルコリアは余裕があるのか、ミューレルに手を振っている。
「がんばれあるくんてきをぶっころせー」
「おーけー!!」
「がんばれがんばれひがーしー」
その頃、ゴール前では帰せず、山葉対決が行われていた。
筒から出たボールを持ったブルースが山葉涼司にボールをパスしたのだ。
「よし、いいとこ見せてやる!」
「手加減しないぞ」
二人が対峙したとき、空から多くの水と人が降ってきた。涼司は水と共にゴール内に押し込まれる。
大量の水が落ちた後、ボールはゴール内に留まっていた。
ゴールが入ったのだ。
1対1だ。
歓声と共に、両チームから長いホイッスルが響く。
「ぴーーーーーーーーーーーーーーー!」
「ぴーーーーーーーーーーーーーーー!」
タイムアウトだ。見かねた両チーム共に同時期に笛を吹いた。
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