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リアクション
☆7・一点差☆
一点差を追う西チーム応援席。
人数で圧倒的優位を誇る西シャンバラチームだ。応援席ははじめ楽観ムードだった。
だが、相手にリードされ、応援席にも重い空気が流れている。
「元気だそうよ、まだまだ逆転できる。金団長だってこれからなんだから」
その空気を吹き払おうと神矢 美悠(かみや・みゆう)は、西シャンバラチームの応援歌をメドレーで演奏し始めた。
主に使用する楽器は、アコーディオンだ。
美悠は、他に、トライアングル、カスタネット、タンバリン、太鼓などの打楽器も用意している。
アコーディオンのみ自分の手指で演奏し、それ以外の楽器はサイコキネシスを用いて操る。
「必殺サポートは使えないかな」
苦笑している。
美悠の必殺サポートは、「気まぐれ時計」。西チームの攻撃時間を延ばし、東チームの時間を短くするものだが、あまりにも展開がめまぐるしく、使い時を考えている。
「私にもやらせて」
トランペットを手にしたのは天津 麻衣(あまつ・まい)だ。
こげ茶色のボブカットが水に濡れている。頭を振るとプールの、夏の匂いがする。
麻衣は、傷付いた味方選手を治療するためにプールに入った。
「とにかく、すごい流れなのよ」
麻衣は、プール内を覗き込む。
今、泳いで、仲間に回復措置を行っているのは、アンゲロ・ザルーガ(あんげろ・ざるーが)だ。
再びメンバーは大きく入れ替わっている。プール内に入っているもの、交代要員として既にウォーミングアップが済んでいるもののリストだ。
東のゴールキーパー、赤羽 美央のみが残っている。
ウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)
メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)
セシリア・ライト(せしりあ・らいと)
フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)
ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)
ロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)
メリッサ・マルシアーノ(めりっさ・まるしあーの)
西
アンゲロ・ザルーガ(あんげろ・ざるーが)
エルフリーデ・ロンメル(えるふりーで・ろんめる)
ラグナル・ロズブローク(らぐなる・ろずぶろーく)
リーリヤ・サヴォスチヤノフ(りーりや・さう゛ぉすちやのふ)
フェイト・シュタール(ふぇいと・しゅたーる)
芦原 郁乃(あはら・いくの)
秋月 桃花(あきづき・とうか)
アンタル・アタテュルク(あんたる・あたてゅるく)
鷹村 真一郎(たかむら・しんいちろう) がゴールキーパーだ。
日差しで氷は解けつつあるものの、時折、氷山の名残がプール内を漂流している。
朔が、氷をソリ代わりにして、水上を駆けている。
「雪だるま王国は自分にとって大切な場所。ここでは負けられない!」
スラーダーにもぐりこみ、出口まで来たとき、水中から水しぶきが挙がった。
水中銃である。
朔は、反射的に後ろに飛ぶ。しかし、後方に戻ることは出来ない。
水中に隠れていたのは、フェイト・シュタールだ。フェイトゴール付近の守備役として参加し、相手選手からゴールを守り抜く為に伏兵として水中に隠れて、ストロー状の竹を水面に出し、それで息をしながら、水中に隠れていた。
銃は、相手に怪我をさせないよう矢ではなく、少し太めの棒を使用している。
その棒が、朔の頬を掠めた。
「私も負けるわけには行かないのです」
フェイトはボールを奪い取ると、そのまま流れに乗る。
傷を押して、朔がそのあとを追いかけようとした、そのとき―――――ー、
既にプールより出た雪だるま王国の皆が駆け寄ってきた。
「朔、よく頑張った。後は皆に任せて、勝利を信じよう」
「傷の手当が先だ」
皆の手が、朔の両手を掴み、プールより引き上げた。頬の傷、かすかに血が滲んでいる。
ボールは…。
フェイトが持っている。一点のビハインドがある。何としても点を取らなくてはならない。
守備役のフェイトは、ボールをラグナル・ロズブロークに渡す。
「ふーっ!はははーっ!!やっと俺の出番だ!」
ラグナルは豪快に笑う。彼の生前はヴァイキングの英霊だ。水泳用ゴーグルに水泳帽を装備、ベンチでは身体を冷やさないようスクールジャージを羽織り、体調万端に整えて、この時を待っていた。
226メートルの長身である。ダイナミックなバタフライで、流れるプールを泳ぐ。あっという間に進んでいく。
プール中ほどまで快適に泳ぎ進むうち、異変が起こった。なんとなく、身体が重い。痺れ薬だ。
ラグナルは、直感する。
近くに誰か潜んでいる。
ラグナルの足に何かが絡み付いた。
巨体をずるずると水の中に引きずり込もうとしている。
「小人の妨害ですよ」
声が聞こえる。ウィング・ヴォルフリートだ。
隠形の術を行使した状態を維持して水中に潜んでいるために、声しか聞こえない。
足が動かなくなったラグナルを怪力の小手で一気に水中に引きずり込む。
しかし。
ラグナルは一人ではなかった。
「いやっ!い、いま競技にかこつけて胸に触りましたね!?」
ラグナルの隣に愛らしい女性が。
「言いがかりです」
「…でも貴方になら…い・い・か・も」
「女性でも容赦しませんよ」
女の子は、エルフリーデ・ロンメル。水泳用ゴーグルに水泳帽を装備。髪の毛はお団子にして水泳帽の中に入れている。
「ふぅっ。ねぇ。い・い・こ・と…しない?」
「あの、気持ちは分かるんですが、そのストイックな身なりで、その・・・」
ウィングがラグナルに対する術を掛けたまま、流れに押されて身動きもとれず、しかも、しどろもどろになったとき、加勢が現れた。
「駄目だよ、正々堂々と戦わなくっちゃ」
百合園女学院の水着を着ている。ミルディア・ディスティンだ。
エルフリーデは不服そうだ。
「あの…私に言ってます?」
「両方だよ」
ウィングが一瞬の隙をみて、ラグナルの右手を石化させる。
そのまま、プール外にラグナルを飛び出させるウィング。
「卑怯な手ではありませんよ」
ウィングは、奪い取ったボールをミルディアに渡す。
「ゴールを目指してください、私は」
ウィングがエルフリーデのいた方角に振り向いたとき、彼女の姿は消えていた。
「不思議な子でしたね」
ミルディアが、返事をしようとしたときには、ウィングの姿は消えている。
「あたし、このメンバーで戦える?」
交代要員で回復係を自称していたミルディアだが、ボールを手にして、心が決まった。
「よしっ! 全速全開……いくよっ!」
ゴールポストを目指す。
「ひゃぅっ!お、おにいさん!こんなとこでダメだよぅ」
「何やってるの?」
先ほどのエルフリーデと全く同じことをしているのは、リーリヤ・サヴォスチヤノフ。エルフリーデと同じに、水泳帽子にゴーグルをつけている。
話しかけてきたのは、エルフリーデだ。
「おにいさん…東チームにいないよ」
10才のリーリヤも一応、セクシー路線で相手を惑わす作戦だったが、プール内に男性が少ない。
そのとき。
支倉 遥(はせくら・はるか)らしき白スーツのやくざまがいに見える男が、山葉涼司にいちゃもんつけているのが、見えた。
「おんどりゃ!!」
遥は、涼司をプールのなかに叩き落としているのが見えた。
「見つけた!」
「うん」
二人は、なずけて「ローレライの甘い誘惑作戦」を遂行するために、プール壁にしがみつき、
涼司が流れてくるのを待った。
後の展開は、いつもと同じである。
「馬鹿だなぁお前、こんな手に引っかかるなんてよ…」
10才のリーリヤの容赦ない罵倒が聞こえてくる。
☆8・ベンチリポート☆
ろくりんピック「水球」競技には、約90人ほどが選手登録している。西シャンバラチームと東シャンバラチーム、人数に多少の偏りはあるが、ベンチには常時30人から40人が待機して、熱戦を見守っている。
観客席とは違う熱気がある。
西と東、ふたつに分かれての戦いは、異なるチームカラーとなった。
試合の合間、自称公式ろくりんくんのキャンディス・ブルーバーグは、百合園女学院にいるパートナーの茅ヶ崎 清音(ちがさき・きよね)のためにも、様々な情報を発信している。
浅葱 翡翠の実況と合わせて聞けば、実際にこの場にいなくても、観客席にいるような興奮を味わえるようにとの配慮かもしれない。
暑さに負けて、冷房の効く実況席に篭っていたキャンディスだったが、試合が中盤になり、白熱するにつれ、外に出ている。
今行っているのは、ベンチリポートだ。
「白熱する水球会場からのレポートデース。まず、西シャンバラチームをデースー」
☆西シャンバラチーム
中央には、モチロン金団長が座っている。その両側にいるのは、今回、副リーダーの名乗りをあげた松平 岩造(まつだいら・がんぞう) と 情報収集をした監督補助戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)だ。
まず、キャンディスは岩造にマイクを向けた。
「どんな作戦ですかァ?」
本来なら、作戦など話さないのだが・・・。岩蔵は試合がすでに終盤であることを理由にこれまでの作戦を語りだす。
「情報戦による謀略・回復役への攻撃などをおこなっている。現在、戦う選手たちが心がけているのは、ゴール防衛だ」
実際、岩蔵は、チームのGKは鷹村に任せ、GKだけでは足りないといけないから選手2、3名辺り護衛につかせて、守備をきっちり固めて禁猟区の結界や罠による戦術や伏兵や背の大きい人をゴール付近に配置させる作戦を取っている。
「他にもあるが、それはまだ秘密だ」
現在、行われている最大の攻略は、GKの赤羽未央への対応だ。ただ、これ科らの作戦だ。今は話すわけには行かない。
キャンディスは、次に、小次郎にマイクを向ける。
「戦部さんの役割は何ですカ?」
「情報収集です」
小次郎は、それだけ話すと口をつぐんだ。収集した情報の詳細を語ると、これからの試合展開だけでなく、このほかの競技にも影響が出かねないからだ。
小次郎は、事前に審判団にルールを再確認し、自分のチームに対してはそのルールの周知を徹底することで無用な反則をしないようにしていた。
会場を破壊することを審判団は恐れているようだ。
(なんといっても、我がチームには鯨とシャチがいる)
鯨は既に登場済みだが、シャチはまだ、その力を温存している。もし逆転できなかったら、そのときは…。
小次郎は、マイクの前で無言を通している。
「…」
少し、困ったキャンディスはその横にいる、影野 陽太にマイクを向ける。
「現在、負けています…が?」
陽太が考えているのは、ラスト数分で逆転するシナリオだ。今のままでも構わない。
にこにこ笑っている。
返事を引き出せず、困ったキャンディスは金団長にマイクを向けた。
「これからは、どーなりますかぁ?」
「勝つのみ」
金団長は、にこりともせず、一言呟いた。
「一点負けているせいか、空気、重いネ」
キャンディス話しかけられて、ティファニーは真っ白な歯を光らせて笑う。
「負けてる?カンケーナイです、最初からずーと同じヨー」
キャンディスは、のろのろ、次の東シャンバラチームベンチに向かう。
「こっちはきっと・・・」
☆東シャンバラチームベンチ
こちらも中央に、ミツエが座っている。チアリーダーだったはずだが。
「どうして試合に出ちゃいけないの?」
「試合に出るには、選手登録が必要なんですよ」
冷静に諭しているのは、フィリップだ。
「ミツエさん、もう、あきらめたほうがいいです」
隣で、ヴァーナーがミツエのスコートを引っ張って言う。
「そうだ、この試合終わったら、プール行かない?あたし泳げないけど、浮き輪あれば平気だから」
葵が助け舟を出している。
既に暑さでばてばてのキャンディスは、そっと、ささやくように、ミツエに聞いた。
「これからは、どーなりますかぁ?」
「負けるわけ、ないでしょ」
団長もミツエも、答えは簡潔だ。
観客席から悲鳴と歓声が同時に湧き上がった。
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