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地球に帰らせていただきますっ!

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 ひーちゃんの帰省 
 
 
 夢野家には年1回、家族全員参加がデフォルトになっていることがある。夢野 久(ゆめの・ひさし)の双子の妹、裕美の墓参りだ。
 去年はゴタゴタに取り紛れて、久はこの墓参りをパスしてしまったが、幸い今年は時間を取ることができた。家族の顔を見がてら墓参りをしようと、久は実家に帰ってきた。
「ただいまーっと」
「あ、ひーちゃんお帰りなさい」
 久の帰宅の挨拶に答えたのは、長女の夢野 日美子だけだった。
「その『ひーちゃん』っての止めろつったろーが」
「あらひーちゃん、ちゃん付けで呼ばれるの、恥ずかしい?」
「いや、恥ずかしいからじゃなくてだな……」
 言いかけた久はふと気づいた。いつもなら賑やかに響いている姉妹たちの声が聞こえない。
「あれ? 日美子姉1人か?」
「うん。今は家に私だけよ」
 日美子はそう言って、他の家族がどうしているのかを説明し出した。
「ひーちゃんとひーちゃんはひーちゃんのお墓参りのお花とかの買い物。ひーちゃんはひーちゃんとひーちゃんとひーちゃんを連れて遊園地。ひーちゃんとひーちゃんとひーちゃんは友達と水族館に行ってて、ひーちゃんはお婆ちゃんにお小遣いせびりに行ってるの。分かった? ひーちゃん」
「何ひとつわからねーよ!」
 久しぶりだっていうのに何も変わってないと、久は頭を抱えた。
 夢野家の子供は、久以外全員女性だ。
 年齢順に並べるなら、一番上が目の前にいる日美子。その下は、姫子、雛子、平子、の3人が同い歳。次が、久と今は亡き裕美。そして、瞳、聖、光。日向、日陰、日文、日鞠の4人が一番下になる。
 その全員を日美子は『ひーちゃん』と呼ぶのだ。誰が誰やら訳が分からない。
「分からない? どうして?」
「だーかーら! 全員同じ呼び方じゃ判別できるのは日美子姉だけだろーが!」
 不思議そうな顔すんなと久は言ったが、日美子はそれを、あらあら、で流してしまう。
「そんなことよりひーちゃん、お土産ちょうだい」
「土産? 俺は手ぶらだぞ」
「品物じゃないの。土産話をいっぱい、ね?」
 そうねだる日美子に久はパラミタでの事件や戦争の話をぽつぽつと語っていった。喧しいのが軒並み出ていることだし、話し込むのには丁度良い。
「パラミタは大変そうね」
 口調は心配そうだけれど、そう言いながら日美子はせんべいをばりんと齧っている。
「ふん、たいしたこっちゃねえさ。正直パートナーの2人の相手する方がよっぽど大変なくらいだぜ」
「そうなの?」
「ああ、本当あの2人ひでえんだよ。ルルールは一度会っただろ? 一事が万事寝言しか言わねえし本気で馬鹿だしわがままだし身勝手だわ……妹共8人全員足し合わせて人数で割らないみたいな奴だよ。豊美さんは動いてくれれば頼りになるが、基本動かないし面倒くさがりだし……後、スイッチ入るとアレで滅茶苦茶するしな。変わりもんで傍若無人でとぼけてて……こっちは姉貴共4人を混ぜた感じか。いや、この表現まじでしっくり来るな」
 そこまで言ってから、つまり自分は地球でもパラミタでも、周囲の人間に同程度振り回されているのだということに思い至り、久は遠い目になった。そんな心中にも気づかずに、日美子は楽しそうね、なんて笑った。
「……まあ、お陰で退屈はしねえが、な」
 ふ、と日美子につられるように久も笑う。
 これもまた、自分の巡り合わせなのかも知れない。そんな諦めにも似たことを考えながら。