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□2日目
スヴァトスラフと取引をした和馬は、その足で「ミツエ探索」に乗り出した。
取引――スヴァトスラフの「従龍騎士」にすること。
それを条件に、彼に手を貸した。
お尋ね者の和馬には、安住の地が必要だったのだ。
そして2日目。
彼はついにミツエを発見した。
小型飛空艇を駆って、和馬はフマナ山中の洞穴上空を、ゆっくりと旋回する。
「イコンの最大稼働時間は10時間。
それは教導団製でも変わりはないだろう、か」
彼はスヴァトスラフに告げた台詞を復唱する。
だから、洞窟や入り組んだ地形を捜せばいるだろう、と断言したのだ。
「ヤマが当たってよかったぜ!」
ホッと胸をなで下ろしつつ、地上を見下ろす。
洞穴の前では、パートナーのエトワール・ファウスベルリンク(えとわーる・ふぁうすべりんく)が淡々とミツエ達を説得にかかっていた。
「乙王朝の秘密兵器のヒントはエリュシオンにあるかもしれないわよ。
エリュシオンに来れば、あなたの野望がかなえられるかもしれないわね」
応答はない。
エトワールは凛として、説得を続ける。
「中国の諺にあるわね。敵を知り己を知れば百戦危うからずってね」
和馬は携帯電話を取り出す。
約束通りスヴァトスラフと【鏖殺寺院】の仲間に連絡した。
「やっとミツエの居場所が分かったぜ!
山中の洞窟だ。
……あ? ああ、そうだな。
近くまで来たら案内してやるぜ!」
和馬は洞穴周辺に意識を集中させる。
だから、エトワールの背後に隠れている3人の伏兵には、まるで気づかなかった。
■
……洞窟の中。
奥に隠された教導団製のイコンの中では、エトワールの狙い通り混乱が起きていた。
ミツエらのヒステリックな声が飛び交うイコンの隣には、桐生 ひな(きりゅう・ひな)の駿馬がある。
「よいしょー、桐生ひな参上なのです〜!」
「ミツエの側近」こと、桐生 ひなは、むぎゅむぎゅとイコンの操縦席に無理やり乗り込んだ。
「ひとりで操縦席は、占拠しちゃいけないですー」
ミツエにお尻ぺんぺんを繰り返す。
やめれ! と身をよじって逃れようとするミツエ。
まあまあまあ、と劉備が穏便にひなをなだめた。
「ペンペンなどしてる場合ではないのですよ」
「予想外に早く見つかっちまった!」
「それに敵は『おっぱいストーカー』なのだ。
心してかからねばならん!」
「は? 『おっぱいストーカー』???」
ひなは尻を叩く手を止めて、3人の英霊達に目を向ける。
「そうよ! 龍騎士団って、『おっぱい大好き騎士団』なんでしょ?」
ひなの手から逃れて、ミツエは偉そうに決めつけた。
「だから、『おっぱいストーカー』」
「なるほどですー♪」
ひなはポンッと手を打って、次の瞬間にはサッと顔色を変えた。
「そんな変人が相手とあれば、尚更緻密な策を立てなければならないですよー! ミツエ」
「だからこうして私達、皆でオロオロしているのですよ」
「敵は、1人ではないようだしな」
うーん、とひなは人差し指に手を当てて、ブラックコートを彼等の頭にかぶせた。
ギャッと声を立てる3人に向かって。
「まずは善後策を立てるですー!
『変人』相手となればなおさらのこと。
まずは戦況をひなに話して下さいませんか?」
仲間も集めなくっちゃいけないですしねー♪
ひなは携帯電話を取り出そうとして、手を止めた。
「仲間なら、ほら!
只今参上だぜ! ひな」
その声はイコンの外から聞こえてくる。
ミツエ達は顔を見合わせる。
イコンのモニターに注目した。
瓜生 コウ(うりゅう・こう)、風祭 優斗(かざまつり・ゆうと)、風祭 隼人(かざまつり・はやと)の3名が、イコンの前でにこやかに手を振っている。
その時、洞穴の外がにわかに騒がしくなった。
「おっぱいストーカー」こと七龍騎士・スヴァトスラフが現れたのだ。
■
「スヴァトスラフ、ここだぜ!」
和馬に伴われ、スヴァトスラフが現れる。
スヴァトスラフは、こころなしか顔色が悪い。
だが表面上は、対して面白くもなさそうに洞穴を眺めた。
「ふん、これでお遊びの時間は終わりだな? ミツエ」
間もなく和馬の紹介で、同じ【鏖殺寺院】のジャジラッド・ボゴル(じゃじらっど・ぼごる)に、【餌龍屍怨】の東園寺 雄軒(とうえんじ・ゆうけん)とバルト・ロドリクス(ばると・ろどりくす)がスヴァトスラフの前に現れる。
和馬と同じ身の上の彼等は、ミツエを捕まえる代わりに、エリュシオンでの安全を買いたいと頼みこんだ。
「ミツエを大帝に献上して、『逃亡者』の汚名を注ぎたいのです」
ジャジラッドは涙ながらに訴える。
「それに相手はたかが人間の小娘です。
神たるあなたのお手を煩わせることもないでしょう」
確かに、と頷くスヴァトスラフ。
「だが、ミツエとてかよわき娘。
騎士たるもの、御婦人に手荒なまねをすることは、気が進まん」
それに、と考える。
これほど胡散臭い連中に処置を任せても良いものだろうか?
「っ!!」
心臓が妙な具合に高鳴った。
心なしか呼吸も苦しい。
「暫し、待たれよ……」
スヴァトスラフは平静を装い答えた。
表向きは従者の如く首を垂れて指示を待つ和馬達を見据えて、彼は大きく呼吸を繰り返す。
内心では舌打ちをしつつも、算段を巡らした。
(そうだな。ミツエも、自分と同じ地球人やシャンバラ人達に捕えられた方が、いっそのこと諦めが尽くのかもしれん……)
かの女性は、いずれエリュシオンの力となるお方。
自ら進んで捕らわれた方が好都合と言うもの。
騎士道に反することだけはしたくないものだが、とボヤキつつ。
「『成功』が条件だ。これ以上は譲歩できん」
スヴァトスラフは大きく息を吐き出しながら、ぶっきらぼうに言う。
「ありがたき幸せ……」
和馬はおどけたように馬鹿丁寧に告げると、仲間達と顔を突き合わせてひっそりと笑った。
■
再び、洞穴の中――。
「やーい、やーい!
ドージェに振られたミツエ!
貧乳のミツエェエエエエエエエエエッ!」
ジャジラッドの声が洞穴に響く。
ついで和馬達の嘲笑。
「ふふんっ。
そんな悪口につられるような、あたしじゃないわ!」
ミツエは教導団製のイコンの前で、唇の端をヒクつかせていた。
「そうですよ! ミツエ」
「ミツエも大人になったもんだぜ!」
3人の英霊達はミツエの裾を掴みつつ、口では褒め称える。
「あったり前よ!
あたしは、エリュシオンに朝貢させる女なんだからね!
あは、あは、あはははーっ!」
「……無理に笑わなくてもいいぜ、ミツエ」
コウはミツエを落ち着かせるべく、肩に手を載せた。
コウの隣では、ひながイコンを見上げている。
「で、コウの助言に従ったはいいけどですぅー」
ひなは不安そうにコウに目を向ける。
「確かに、逃げるには目立ち過ぎますけど。
こう囲まれては、脱出することも出来ないですぅー!!」
「俺のパートナーが時間稼ぎをしてくれる」
「マリザが?」
尋ねたのはミツエ。
「シャンバラの離宮を守護していた6人の騎士の1人かぁ。
心強い味方だわ!」
一瞬気が抜けたらしい。
ジャジラッドの悪口雑言がミツエの耳に入った。
「やーい、やーい!
ドージェに振られたミツエ!
貧乳のミツエェエエエエエエエエッ!」
「何よ! うっさいわね!
成人すれば、胸くらい大きくなってみせるわよ!!」
あちゃー。
ミツエ以外の洞穴の面々は片手で顔を押さえる。
「がはははははっ!
引っ掛かったな! 貧乳のミツエ!
今そこへ行って、ふん縛ってやるぜ!」
ジャジラッドの勝ち誇った声が響いた。
はっとミツエは正気に戻る。
コウが冷静に告げた。
「ここは洞穴にいるより、打って出た方がよさそうだな。
外に行くぞ!」
携帯電話を取り出し、パートナーに指令を送る。
■
「何、我に楽と踊り捧げたい、と。そう申すのか?」
「はい、龍騎士様」
セミロングの美しい女が、スヴァトスラフの前で恭しく一礼していた。
マリザ・システルース(まりざ・しすてるーす)。
その正体は、シャンバラの離宮を守護していた6人の騎士のうちの1人であるが、スヴァトスラフは知る由もない。
「私の歌と踊りで、一時神と共にいる栄誉に預りたいのでございます」
「なるほど……」
スヴァトスラフは悩んでいるようだ。
その時マリザの携帯電話に着信があった。
こっそりとメールの内容を確認する。
コウからのもので、「保険金殺神」の推論が当たってないことを告げるものであった。
(では、この推論をして彼に取り入るのは無理そうね?
何とかしなければ……っ!)
だが、スヴァトスラフは頭を振った。
極めて残念そうに。
「我は神であるが、役目を抱えた大事な身。
されど、貴方の好意だけは受け取っておくことにしよう」
マリザは外に出されてしまった。
(でも、まだよ!
あきらめちゃ駄目。
コウ達に奴らの情報を送ることが、私の役目。
抜け道はどこかにきっと、必ずあるはず……)
慌ただしい物音がして、洞穴の入り口に目を向けた。
ミツエを守って進むコウ達の姿がある。
彼女達の前に、勝ち誇った笑みを浮かべる和馬達の姿――。
そして、戦闘は開始された。
■
「待っていましたよ、ミツエ!
今日こそ、年貢の納め時ですっ!」
洞穴の前で、雄軒は悠然と構えていた。
サッと手を上げ、バルトを傍らに立たせる。
六連ミサイルポッドを構えるバルト。
「エリシュオンの膨大な知識を我がものとするため!
あなたは私に、大人しく捕まりなさい!」
「絶対に、嫌っ!」
洞穴から出てきたところで、ミツエはあっかんべーをする。
そのまま、回れ右!
洞穴のイコンを目指そうとするミツエに向かって、バルトは容赦なく六連ミサイルポッドを使って攻撃した。
間髪を容れず、雄軒のサンダーブラストが炸裂!
「ミツエ!」
「ミツエ殿っ!」
爆風による砂塵の中で、ミツエと英霊達は分断された。
「ミツエ! これで逃げろ!」
コウはミツエに【ブラックコート】を着せた。
「どこかに身を隠すんだ! 早く!」
「で、でも……曹操達が……っ!」
「生きていれば、何とかなるぜ!
だが大将が捕まってしまえば、戦は終わりだ!
ミツエ、あんたは俺達の何なんだ?」
「っ!! わ、わかったわよ! でも後で必ず助けに行くんだから!!」
ミツエはコウにいざなわれて、一旦退却する。
一方のスヴァトスラフ勢――。
「ふん、コウめ! 【情報攪乱】まで使いやがったな!!」
スヴァトスラフの元、和馬達はミツエの姿を見失って、慌てていた。
我が身の安全を買うため、己が欲望のため。
彼等にとって、いまやミツエは貴重な「宝」なのだ。
「ミツエを取り逃がしたら、約束は守れんな」
「わーってますよ! 龍騎士殿」
何か策はねぇのかよ!
和馬はジャジラッドに目を向ける。
「ふん、奥の手だ!」
和馬に耳打ちする。
「やーい、やーい、貧乳のミツエ!
巨乳を選んだドージェは、先見の明があったという事だな!!
がははは!!」
ザマァみろ!
2人は小馬鹿にして笑う。
「何よ!
胸なんか! いくらでも大きくなるわよ!」
ブラックコートを脱ぎ去り、ミツエ参上!
あーあ、と。
どこからか、コウの溜め息が流れてくるのだった。
ん? と、ミツエの目が丸くなる。
雄軒が【餌龍屍怨】の南 鮪(みなみ・まぐろ)を伴っていたからだ。
「ヒャッハーッ! 和馬。
俺も手伝ってやったぜぇ」
彼の手には、曹操を捕えた縄がある。
曹操の服には土がついていた。
「盛り土でひっかけてやったぜぇ」
鮪は自分の頭をチョンチョンと指さす。
「ここを使って。
トラッパーに光学迷彩と防衛計画を活用したからなぁ」
「して、これからが本番じゃ! 皆の衆」
尊大に、織田 信長(おだ・のぶなが)は捕えた曹操を見下ろしていた。
■
混乱に乗じて、洞窟に逃げ込んだのは、優斗、隼人、コウ、ひな、それに2人の英霊達だった。
仲間にイコンの管理を任せて、優斗と隼人は入り口そっと外の様子を窺う。
「知らんな……」
聞覚えのある声が流れてくる。
「ああ! あれは、曹操さん!」
「え? 優斗、何だって!?」
隼人は驚いて、兄の視線を追う。
そこには、和馬らに囲まれ、信長に説得されようとする曹操の姿があった。
その言い分はと言うと――。
『権力を追求する割に、情のみに走った内輪の仲良し遊びに傾倒し、色恋感情に振り回される今のミツエに、覇王の資格無し。
まして開戦もしていない強国相手に、後先考えず喧嘩を売る等、愚の骨頂。
むしろ今はあらゆる組織に先んじ、エリュシオンの技術を手にできる最大の機会。
さすれば天下に一番近付ける。
できるものは利用し尽す必用がある。
よってあえて己らから進み捕まり、エリュシオンに向うべきだ!
建前が必用なら、我等に捕まった事にしろ。
後世では、それが器の大きさの証にもなる』
と、はたから聞けば、仰々しいことこの上ない。
だが特技を使っているらしく、説得力があるのも確かだ。
実際に曹操ものらりくらりとかわしつつも、瞳が不安定に揺らぎ始めているではないかっ!
■
ミツエ、シリーズはじまって以来の大ピンチッ!
■
「ミツエさん! 曹操さん!
クッ……こうなったら!」
「優斗! 何をする気だ!」
隼人は優斗の利き手を掴む。
「……すまない、隼人。後は頼みます!」
優斗は隼人の手を振り払う。
優斗! と叫ぶ弟の声に目を瞑って、優斗は洞穴の外へと躍り出た。
「スヴァトスラフさん!
ミツエさんをかけて!
僕と決闘してください!」
「何? 我と決闘とな?」
意外なことの成り行きに、スヴァトスラフは目を丸くする。
だが次の瞬間、あっはっは〜と豪放に笑った。
「小僧! 面白いぞ! 気に入った。
よし、ではかかってくるのだ!」
「くっ。愚弄しますかっ!
だが僕は、どこまでもミツエさんの為!」
キンッ。
優斗はスヴァトスラフに挑んで、あっという間に玉砕した。
「剣を振り下ろす速度が……見えなかった……なんて……」
空を掴んで、ドウッと倒れる。
ミツエが悲痛な声で叫ぶ
「きゃあああああああ! 優斗っ!」
「優斗、兄さん……貴様っ!!」
洞穴から事の次第を見守っていた隼人は、しゃにむに突っ込もうとする。
が、血まみれの優斗をそのままにしておくことは出来なかった。
「優斗……俺は、俺はどうすればいいんだ!!」
振り上げたこぶしを、近場の岩に叩きつける。
兄を担いで、空いた方の手で自分の携帯電話を取り出す。
それをスヴァトスラフに投げつけた。
「俺の電話番号が入っている。
今は退散するが……いずれ、そいつで決闘を申し込んでこい!」
「我が? 格下の、貴公にか?」
スヴァトスラフは先程以上に大笑いする。
「はっはぁ、弟は兄の上をゆく大物よ!」
だが笑い物にされようと、隼人にはどうしようもない。
スヴァトスラフの爆笑を背に、隼人は苦々しい顔つきで退散したのだった。優斗を介抱するため……。
だが、事はそれだけで終わらなかった。
隼人と入れ替わるようにして、洞窟の中からブラックコートを着た少女が飛び出して行ったのだ。
見たとたん、曹操の顔がパッと明るくなる。
「おお! ミツエ!!」
「ミツエ???」
鮪は「?」を頭に掲げたまま、曹操を見た。
彼はわざとらしく口笛を吹く。
「いま、ミツエ、と申したな?」
スヴァトスラフは怪訝そうに、曹操に目を向けた。
「気のせいではないか? 高名な龍騎士殿」
曹操はあくまで違うと言い張る。
しかし人間「違う」と言われると、余計に疑ってかかるもの。
それはスヴァトスラフも同じで、ジャジラッドに居丈高に尋ねた。
「貴公はミツエを捕まえた! と申した。
だが、ミツエのパートナーの曹操は、逃げた娘を『ミツエ』だと申す。
どちらが本当のミツエなのだ?」
「いや、それはそう言われましても……」
だが、そう言われれば、手の内のミツエはスキルを使って化けた他人のように見えないでもない……。
迷いのために、ジャジラッドの手が一瞬緩む。
「今よ! 曹操」
「ほいさ、ミツエ」
ミツエと曹操は敵の手が緩んだすきをついて、スタコラサッと逃走した。
遠くに、ブラックコートを脱いで……ひながあっかんベーをしている。
「あっ! 待て、コラッ!」
鮪とジャジラッドが追いかけるも、後の祭り。
「ミツエ、待て!」
スヴァトスラフも、ドラゴンを駆りたてようとする。
その前に、マリザが立ちはだかった。
「龍騎士様、ひと時のお慈悲を……」
「今はそれどころではない!」
スヴァトスラフは無視して前進する。
ファトラ・シャクティモーネ(ふぁとら・しゃくてぃもーね)が両手を伸ばして立ちはだかる。
「あなたはセリヌンティウスと同じ『おっぱい大好き騎士団』でしょう?」
「な、ななな! 何を言い出すのだ! 娘!」
言いがかり的な決めつけに、スヴァトスラフは一瞬たじろぐ。
「ミツエのような貧相な胸を狙うのは、おっぱい大好き騎士団の名折れではなくて?」
「おっぱいを連呼するな! 狂女よ、道を開けるのだ!」
さもなくば! とドラゴンで踏み潰そうとする。
ファトラは一目散に逃げ出した。
スヴァトスラフはイコンの行方を目で追う。
既に地平線の彼方へ消え去ろうとしていた。
「和馬……貴公ら。
先程の怪しげな女どもを連れてこい。すぐにだ!」
程なくして、和馬達に捕まり、ファトラとマリザがドラゴンの前に再び放り出される。
「貴方達がミツエの仲間であろうことくらい、分からんでもない。
ミツエはどこへ行ったのだ?」
「し、知らないよ!」
「私も、存じ上げません」
ファトラは脅えて、マリザは真摯に、首を振る。
本当に知らないようだ。
スヴァトスラフは落胆して息を吐いた。
女どもに向かっては。
「用はない。
どこへなりと行くがいい」
ファトラとマリザは、急いでその場を立ち去って行く――。
入れ替わるようにして、教導団・龍雷連隊のフェイト・シュタール(ふぇいと・しゅたーる)、ファルコン・ナイト(ふぁるこん・ないと)、ドラニオ・フェイロン(どらにお・ふぇいろん)が現れた。
舌打ちしたのは、スヴァトスラフ以外の面々。
彼等にとって、フェイト達は招かざる客だった。
「そこの者は『ろくりんピック』でテロを働いたお尋ね者達でございます。
すみやかにお引き渡しを願います、龍騎士様」
フェイト達は和馬らを指さした。
和馬達は慌ててスヴァトスラフを盾にする。
「へっ! 何言ってやがる! くたばるのはそっちさ」
「へへ、こっちには七龍騎士がついてんだ!
やっちまってくださいよ!
スヴァトスラフの旦那ぁ!」
だが息巻く和馬達に、ドラゴンに乗るスヴァトスラフは冷ややかな目を向けただけだった。
「取引は失敗した。
我に貴公らを守る義理はない」
「そんなぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」
和馬とジャジラッドは情けない声を上げる。
雄軒ら【餌龍屍怨】の面々は?
この件に関係のない彼等は、サッサと逃げてしまったようだ。
となると、総合力で和馬達はフェイトらに劣る。
「戦いを積み重ねた実力を、お2人に見せて差し上げます!」
フェイトは和馬とエトワールに対峙した。
他の2人も脱走班達の前に立ちはだかる。
「たかがパワードスーツに頼ってるだけでは、無謀だ!」
ファルコンは、ジャジラッドに。
「仲間を魔法で支援して、脱走犯を拘束してやるぜ!」
ドラニオはやや離れた位置で、アシッドミストの体勢を整える。
「くそ! タダでは捕まらないぜ!」
和馬達は武器を構えて、フェイト達を迎え撃つ……。
……しかし、やはり無駄なあがきであったようだ。
仕上げに、ファルコンがジャジラッドに、轟雷閃によるトドメを放ち。
フェイトがサイコキネスで、サイコキネシスによる攻撃で和馬の背を突いた所で、勝負は決まった。
こんっと、和馬の背から落ちて行く、マ・メール・ロアの破片――。
「ご協力、感謝致します! スヴァトスラフ殿」
フェイトらはスヴァトスラフに丁重に一礼する。
マ・メール・ロアの破片を大事そうに拾うと、捕縛した和馬達を引っ立てて行った。
■
「はっ! これで、スッキリしたわっ!」
スヴァトスラフは、痛快な表情で笑った。
「では、ミツエを追うとするか!
やはり七龍騎士たるもの、俗物の手を借りてはならんな……」
その時、今までにない激痛で、スヴァトスラフは左胸を押さえた。
表情を硬くして、地平線を見据える。
「甘く見過ぎていたか? そろそろ本気を出さねば、な……」
地に降りて朗々と詠唱。
キンッ。
秘伝の魔法(ディテクトエビルの広範囲版の様なもの)をかける。
大きく息を吐いてから、一気にドラゴンの背に飛び乗った。
「さあ、これでどこにいてもあぶり出してくれるわ! ミツエ」
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