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神々の黄昏

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神々の黄昏
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 □3日目
 
 
 ……荒れた大地に、骸骨が散らばる。
 フマナにほど近い活火山の火口付近。
 それを踏みつぶして進むドラゴン。
 落ちていく鮮血。
 
 ぐふっ。
 
 口元に手を当てて、一回荒い呼吸をするスヴァトスラフ。
「ミツエめ! どこへ逃げた!!」
 髪の毛を振り乱し、周囲をサッとみる。
 その様子に、先日までの余裕はみじんもない。
 全身が淡く光りはじめた。
「見つけたぞ! かの地のどこかにいると言うのだな?」
 出てこい! ミツエ! 
 彼は叫んだ。
 荒野に木霊が返るだけだ。
「出てこぬというのであれば、七龍騎士・第2位の名にかけて!
 あぶり出して見せるわっ!」
 
 はっ。
 
 闘気は飛んで、瞬時に一帯の物を消滅させる。
 鳥も、瓦礫も、岩山も……。
 その砂塵を、ドラゴンの炎が瞬時に溶かす。
 クツクツと狂人の如く、スヴァトスラフは笑った。
「そこにいるのは分かっておるのだ!
 死にたくなかったら正々堂々と出て、我と勝負するのだ!!
 ふはははーっ!」
 
 ■
 
 一方のミツエ。
 
 近くの断崖の影に隠れて、曹操達とビクビクしていた。
 探しに行かなくとも分かっていた。
 スヴァトスラフの気は強すぎて、「見つけて下さい!」と言わんばかりなのだから。
 彼行く所、大岩が割れ、大地が裂け、大気が音を立てて怒りの声を上げる。
 余りの闘気に、ゴゴゴオオオオオオオオオオオオッ! いう効果音さえ聞こえんばかりだ。
 
「な、何よ! 女には手荒なことはせん! って。
 昨日のあれは、何だったのよ!」
「騎士道に反することは出来ない! とか?
 ブツブツ言ってましたですぅー、あの人」
 辛辣な批評は、ひな。
 その隣にイコンの勇姿。
 イコンからは、活動時間の助言に基づいて降りていた。
 そこへ偵察に入っていた英霊達が帰って来た。
「やっぱりストーカーですねー、彼は」
 汗を拭き拭き、ミツエの下へ。
「死を前に、トチ狂ったか!」
「とんだ怪物に気に入られたもんだぜ、ミツエ」
「いや、噂に名高いミツエのおっぱいが見たいだけかもしれない。
『おっぱいストーカー』よ?
 ミツエを見せれば助かるかもしれないわ!」
 というファトラの意見は軽く無視される。
 だがこのままではあぶり出される前に、死を待つだけだ!
 ひなは溜め息をつく。
「せめて、ミツエ達が脱出できる時間さえ稼げれば……」
 そこへローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)の小型飛空艇を借り、優斗を救急所へ送り届けてきた隼人が合流した。
 彼女はフマナの地形から、ミツエらの居場所を特定。
 3人のパートナー達――上杉 菊(うえすぎ・きく)エシク・ジョーザ・ボルチェ(えしくじょーざ・ぼるちぇ)典韋 オライと共に昨晩この河口付近で合流したばかりだった。
「ここは、俺の出番だな! 借りを返してやるぜ!」
「まって! 隼人、その前に……」
 ローザマリアは、チョイチョイと人差し指を押し曲げ、全員集合。
 ごにょごにょと耳打ちをはじめた。
 ミツエの大きな目が見開かれ、次の瞬間には意地悪く細められる。
 
 ■
 
「スヴァトスラフ!
 そんなに勝負したけりゃ、逃げも隠れもしないわよ!」

 ミツエのイコンが、断崖の脇から現れた。
 すんぐりとした地味な形のそれは、そのまま荒野を疾走。
 スヴァトスラフに直接突進!
 ……と見せかけてスルーする。
「おあいにく様! 私が刺客だ!」
 イコンの影から、エシクが現れる。
【その身を蝕む妄執】をドラゴンにかけた。
 ドラゴンは突如脅えて暴れ回る。
 その脇を「比羅仁電力公司」のロゴの入った小型飛空艇が向かって行く。

『そこのドラゴン、止まりなさい。只今この空域では気流観測をしています気球打ち上げの妨げになりますので至急退去して下さい』

 そして通り過ぎざま、搭乗者の観測員……ではなく、観測員に扮装したオライが【対イコン用爆弾弓】を放つ。
 【サイコキネシス】でドラゴンの両目にロックオン……と見せかけて直前で回避。
 ドラゴンが気を取られている間に、翼下の付け根に【さざれ石の短刀】を刺そうと突き出した。
 だがそれは、スヴァトスラフの剣に薙ぎ払われてしまった。
「甘いぞ! 娘。
 我の反射神経を侮るでない!」
「ならば、これではどうです?」
 同じロゴの別の小型飛空艇が、上空から直下に、矢にグリースを塗り吸着力を高めた【対イコン用爆弾弓】を放った。
 菊の攻撃だ!
「矢にグリースを塗った【対イコン用爆弾弓】ですよ。
 この吸着力に対抗できますか?」
 だがそれも、スヴァトスラフの一喝で正気に戻ったドラゴンの火炎掃射により、防がれてしまった。
「単なる観測員バイターのやった、不幸な事故ですよーだっ!」
 3名は「比羅仁電力公司」のつなぎを着たまま、一目散に退散した。

 イコンの中から、隼人が飛び出す。
 勝負に出る。
「優斗の、(まだ死んでないけど)敵!」
「貴公、昨日の……?」
 スヴァトスラフは剣を抜き去って、ドラゴンから降りてきた。
 これには当の隼人も驚く。
 戦いやすくなるからだ。
「なぜ、ドラゴンから降りた?」
「……貴公はミツエの仲間だ!
 倒せば、居所くらいわかろう!」
 剣の一振りで、隼人を吹き飛ばす。
 その一撃で、隼人は崖に打ちつけられ動けなくなった。
(なんて……パワーだ……)
 隼人の負け。
 彼が身動きできなくなったことを確認して、スヴァトスラフはイコンのコクピットをのぞきこんだ。
 誰も乗ってない。
「ミツエは、どこにいる?」
 剣の切っ先を突きつけて、隼人に尋ねる。
「貴公1人、か。
 なぜ無謀にも、単身で勝負に挑んだのだ?」
「約束したから、な。
 携帯電話、渡しただろ?」
 スヴァトスラフは苦しげにむせた。
 唇の端に付着した血を片手でふき取りつつ。
「雑魚の戯言なんぞ、覚えておらん」
「雑魚? 俺が、雑魚だと言うのかよっ!!」
 睨みつける隼人。
「ミツエはどこにいる?」
「…………」
「? 貴公……黙っておるのは、ただ言いたくないだけではなさそうだな?」
「…………」
「答えろ! 答えるのだ! さもなければ……」
 剣を大きく振り上げるスヴァトスラフ。
 へっと、隼人は上を見て薄く笑った。
 まさかっ! とスヴァトスラフは空をみる。
「こやつ、囮かっ!」
 空の彼方にローザマリア達の小型飛空艇。
 既に小さくなりつつある。
 小型飛空艇で、大きく手を振るミツエ達の姿。
「逃げの一手とは!
 それは、ありなのか〜〜〜〜〜〜〜〜っ!?」
 スヴァトスラフ、頭を掻きむしって、絶叫する。
 だがすべては後の祭りだ。
 周囲の岩山に、破壊の「気」で八つ当たりした。
 岩山は、あっという間に砂の塊へと形を変える。
「おのれ、小娘! 卑怯千万っ!
 地の果てまでも追いかけてくれるわっ!」
 スヴァトスラフはドラゴンを駆り立てた。
 唸る、ドラゴン。
 再び、追いかけっこが再開される。
 
 隼人はやっとのことで上体を起こす。
 イコンのコクピットに乗って、慣れない操作をはじめた。
「これで、追いかけることくらいは出来るかな?」
 
 ■
 
 ……追いついたのは、しばらく後のこと。
 隼人が見たのは、イコンを壊され、小型飛空艇を半壊され……両手を上げてスヴァトスラフの前に投降するミツエ達の姿だった。
 魔法にあぶり出された結果だ。
「逃げ切れなかったようだな……。
 だが、そう落ち込むことも無い。
 我は七龍騎士なのだ!
 褒めて使わそう、ミツエ」
 額に剣を突きつけ、スヴァトスラフは勝ち誇ったように笑った。
「これで、おわりだな」
「いいえ、あなたの負けよ!」
「何だと?」
 その時、ミツエの携帯電話のアラームが鳴る。
「いまちょうど、シンデレラのベルが鳴ったわ!」
「最終日。そなたに協力者がいなかったのが、運の終わり」
 曹操は気の毒そうに合掌。
 途端、剣を落とし、スヴァトスラフは体中の血管という血管から流血させた。
「何と! 我が……七龍騎士・第2位のこの我が!
 小娘1人に負けるというのか……っ!」
「まだ、間に合うわ! メイガスに解呪させれば、助かるのでしょ?」
 手を貸そうと差し出すミツエ。
 スヴァトスラフは淡く笑って頭を振った。
「馬鹿ね! 何気取ってんの! 命大事になさい! て言ってんのよ!」
 喝っ。
 皇氣がほとばしる。
 スヴァトスラフはあまりの気高さに撃たれて、地に足をついた。
「その、皇氣、気高さ……我が大帝とパートナー契約をするに、ふさわしき……残念だ、ミツエ……」
 スヴァトスラフは事切れた。
 懐から、何かが転がり落ちる。隼人の携帯電話だ。
 あっと驚いて、隼人は目を見張る。
 それをそっと拾い上げて、ミツエは沈痛な面持ちで言葉を吐き出した。
「あんたみたいな奴!
 犬死させるような奴との契約なんて、あたしはごめんよ!」
 
 ■
 
 ふと、地鳴りがして、ミツエは彼方を見た。
 その手にはスヴァトスラフが身につけていた装備が、しっかと握られている。
(ドージェ、達也さん……)
 彼女は平原を眺めて、かつての想い人に思いを馳せた。
 そこにはしかし、フマナの貧しい村々が点在する。