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第四師団 コンロン出兵篇(序回)

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第四師団 コンロン出兵篇(序回)

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「あ、おい、ピエロ? お前、何処へいく!」
 甲板に出てくる湖賊の船員を振り切って、船縁に走っていくナガン ウェルロッド(ながん・うぇるろっど)
「現役の空賊に敵うと思ってるのかァ?」
 そう言いながら、そのまま空飛ぶ箒に乗っかると飛び去っていってしまった。
「お、おい!」「一合交えぬ内に離脱しやがった」「ピエロ、あいつ〜。俺たちが勝てないとでも言うのか!」
「敵が来るぞ!」
 
 湖賊旗艦にも、舳先の方から続々乗りかかってきた雲賊たち。
 すでにこちら側からも迎撃が出ていることもあり、降り立ったのは、それでも二、三十はいるか。
「やい、おぬしら! 我と尋常に勝負せぃ!」
 秘伝 『闘神の書』(ひでん・とうじんのしょ)が前に立つ。だが慎重に殺気看破を行っており、相手の戦術を計っている。敵はめいめいに剣、槍、斧と武器を取り切りかかってくる。
 白兵戦か、なら!
 闘神の書は、船のいちばん先頭にとくに強い気を感じとった。おそらく敵将か指揮官か。乗り込んできているのだ。
「まずは雑魚どもだ。行くぜぃラルク!」「うっし、こんなやつらに手傷を負わされるな?」
「あたりまえだぜぃ!」
 闘神の書は初手で抜刀術を決める。瞬時に抜かれた刀に敵の一番手が倒れ、後続は一瞬ひるむが、二人、三人とまとめてかかってくる。闘神の書は斬りかかる敵を受け太刀で交わすと、疾風突きで仕留めていく。
 隣では、ラルクがドラゴンアーツを拳に込めた格闘技で、襲いくる相手を次々、倒していく。
「ぐぁ」「ぎゃ!」
「チッ。あのでかい野郎」ボーガンを向けてくる敵雲賊。
「おっ。
 ……離れてても無駄だぜ?」
 ラルクは余裕の表情。次の瞬間には、相手はラルクの繰り出した龍の波動に弾かれ、ぶっ飛んでいく。今度は、
「うらぁぁ!!」「油断したな死ねや!」――後ろと側面から。
「おっと。この二撃で沈めてやんよ!」
 鳳凰の拳。左右の拳がそれぞれのみぞおち、脇腹に入る。「ぐ!」「う、……」
 敵は、ラルクらの勢いに、前面の腕に自信のある傭兵集団を避け、艦内の攻撃を命じた。
 後方から、翼のあるものたちがこちらの前衛を避けて飛ぶ。ヴァルキリーもいるのか。そのなかに、黒い重装を纏った青い翼の女。あれが敵指揮官か?
 ラルクはそのまま、闘神の書と手分けして甲板を駆け、入り込もうとする賊らを蹴散らしにかかる。
 空中戦には慣れないものの、船のうえでは湖賊の男たちも負けてはいない。
 ラルクらの戦いぶりに意気も上がる。
 ノイエの精兵も揃っているのだ。ゴットリープは各入口を固めさせる。
 夏野、文治らは、他の兵と艦内から身を潜めての援護射撃に回っている。
「……」
 無言、一人、二人、確実に仕留めていく文治。
「……」
 夏野。(「当たらないよ……?」)
 夏野はばっと立ち上がり、窓べりに上って叫んだ。
「ええい狙って当たらないなら弾をばらまけー(弾幕援護使用)!」
「うお。元気な娘だぜ。
 ……さて、しかしこれで甲板はあらかた掃除できたか?」
 文治が辺りを見渡すと、皆のフォローをしようと甲板をウロウロしている水月と、(ヒロイックアサルトが使えないので)「陸地に着いたら串刺し祭りじゃ!!」とまっかな誓い(謎)を叫んでいるヴラドの姿が見えた。
「……。
 セオボルトはどうだ」
 文治は外へ出て、舷側から空中を見る。甲板で戦いが繰り広げられている間、空中でもまた、艦を狙ってくる敵小型艇の迎撃が展開されていたのだ。生身の鴉兵らはやはり、苦戦状態にある。
 文治は今度はそちらへ遠距離の狙いを定め、援護に入る。
「おっ。セオボルト。いたか……」
 ライフルのスコープに紅い翼が映った。
 ただ一騎、レッサーワイバーンを操っているセオボルト
 小型艇の間を飛来し、ヴァーチャースピアを振り回している様子が見られる。
 バランスを崩した敵艇を、味方の砲撃が撃ち落していく。
 味方小型艇の一つ、運転しているのは月夜で、バスタードソードを構えた刀真がそこから身を乗り出していた。殺気看破で四方を警戒。雲賊の身軽な攻撃も、スウェーで交わし、一振りの反撃で相手を落としていく。
 周囲では、刀真らの安全を確保しつつ、自らもヒロイックアサルトを纏い箒に乗った玉藻。ファイアストームとブリザードを交互に繰り出し、敵艇を巻き込んでいく。
「刀真」
 箒から、玉藻が呼びかける。
「そろそろ、敵の数も減ってきたぞ」
「……親玉がいる。付近を蹴散らしたら、それを片付ける」
 近くに、雲のなかに敵旗艦がいる。刀真はそれを察知していた。
 だいぶ数は減ってきているが、まだちまちまと小型艇を吐き出してきているようだ。「方角は、あっちだな」
 同じく、付近の空で戦っていたミューレリアも、合流してくる。
「樹月刀真か。
 もう、あらかた片は付いたぜ? 戻らないのか。旗艦はあっちだぜ」
 レッサーワイバーンに乗ったセオボルトもやって来る。
 刀真は、敵旗艦へこのまま攻め込む考えを述べた。雲のなか、ちらちらと、敗残した敵が小型艇でおそらく旗艦へ、戻っていくのが見られる。この機を逃すと、敗兵を撤収した旗艦に撤退されてしまうだろう。
「私も行くぜ」
「では、自分はすぐに湖賊および本艦に知らせてまいりましょう!」
 セオボルトはレッサーワイバーンの手綱を取ると味方旗艦へ、刀真とパートナーら、ミューレリアはみずねこを率い、敵旗艦の待機するであろう方角へ飛び立っていった。
 その頃、
「あっ。……お頭」
「あんたか、ナイン
 湖賊旗艦の、艦長室付近。
「まだ、出ない方がいいわ。
 取り逃がした強敵が、入り込んでいるのよ。さっきも一人やられて……」
 シェルダメルダは柄に手をかけ、
「じっとしてはいられないよ。
 あたいも戦いに身をおいてきた湖賊だ」
「……」
 ナインは、艦内廊下の端に殺気を感じとった。「はっ」
 今向かい合っているシェルダメルダの後ろだ。暗がりにまぎれた鎧姿、大剣をするりと抜くと、青い翼を伸ばし一直線に飛びかかってきた。
「頭。危ない……」
 ナインはカービンを取る。
 


 
 機関部付近では、黒い煙がもうもうと上がっている。教導団旗艦の速度が著しく低下し始めた。
 敵艦からの砲撃がやんだ。
 何とか、目の前の相手を仕留めたライス
 しかし……
 ライスのもとへ、マーゼンの部下がやって来て、何か指示を与える。
「え、甲板の下の船内区画へ……? わ、わかった」
 曖浜やライスらの奮戦で、非戦闘員らは規定の場所へ避難を終えることができた。
 しかし、機関部が被弾したという。さきの揺れがそうなのだということだ。
 これから、敵がなだれ込んでくるだろうと。ライスはごくりと唾をのみこむ。本格的な白兵戦になるのはこれからか。敵はこちらを略奪し、士官らの首級を上げにくるのだろう。
「とにかく、侵入した敵を、先ほど指定した区画へ誘導してくれ。
 無理に戦闘はしないでいいのだ」
「あ、ああ」
 ……同じように、旗艦内で白兵戦をしていた曖浜少尉や、砲座をはなれた孔中尉らも、マーゼンの部下に指示された一区画へと、敵を引き寄せつつ、退いていた。
「いいぞ、いいぞ。フフフ」
 マーゼン・クロッシュナー(まーぜん・くろっしゅなー)は、そこに兵を並べ、待っていた。
「来たか。ようこそ、諸君。
 ……撃て!」
 味方が誘い込んできた敵勢を包囲すると、一斉射撃を浴びせかける。
「ハハハ。たわいもないわ」
 煙幕は機関部に被弾したように見せかける、作戦であった。「盛大に焚きすぎたかな? さて、再始動だ。油断している敵艦艇を一気に叩くぞ」
 あとは甲板から、艦橋付近に散らばっている敵を掃討する。
「よーっし、今だ、鬨の声を上げろ!」
 トナカイに乗ってアクィラが叫ぶ。
「ちゃっちゃと降伏しなさいよね!」「お祈りは済ませた? 命乞いの準備はOK? ……ちょっとしたジョークよ」
 アカリ、パオラら敵を追い詰める。
「にゃに! 味方が敵の罠に嵌って、艦内で一網打尽にゃった?!」
 帽子をかぶったマント姿の猫が、残る虎戦士どもを収拾し撤退を命じた。あいつも敵指揮官の一人か。
 パティは追いすがり、艦橋から六連ミサイルポッドをぶっ放す。
 敵艦に穴が開く。不動煙がパートナーらと浮上し攻撃をかけている。上方につけていた敵艦は、強引に飛び立ち、逃走した。が、これでこちらも思うように動けるようになった。
 旗艦は反撃を開始し、すっかり制圧したも同然と思い側面に寄せてきていた敵艦に砲撃を撃ち込み、これを沈めることに成功した。
 


 湖賊旗艦に乗りかかってきた敵勢は、そう時間はかからずに掃討された。残兵は幾つかの小型艇で逃げ去っていったのであったが、雲間に待機していた敵旗艦はその収容に手間取っていた。
 まさか、相手が少数で近付いてきているとは思いもしない。
 刀真は、風上からしびれ粉を撒くのではどうかと案じた。
「なるほど。ここでもしびれっ粉作戦か。有効そうだぜ
 よし、それが効いたら、私たちも乗り込んで制圧だぜ!」しびれ粉散布から数分経つと、小型艇とミューレリアのみずねこ艇数隻が敵艦に駆けていく。
 ブラックコートを羽織り、左手にバスタードソード、右手に光条兵器を持ち降り立つ刀真。甲板の敵には、しびれ粉が効いている。
 艦内には、光学迷彩のねこたちが侵入し、各室制圧していく。
「みゅーれりあ、かんちょうしつに敵将にゃ!」
 ミューレリアが駆けつけると、
「まさか、追いすがってくるとは!」
 ピンクの髪の若い女魔法使いだった。魔力を込めた杖を向けてくる。
 ミューレリアは二丁拳銃をくるりと回した。
 杖から、雷術がほとばしる。ミューレリアの身体が感電する。
「どうしたの嬢ちゃん、もうおしまい?」
 姿は若いが、その声はどこか老獪だ。魔女なのかもしれない。おぞましい高笑い。
 刀真が入ってくる。その光景を見、
「……殺すぞ」
 バスタードソードを構え斬りかかる。
「なっ、速い!」
 女はしかしまだ余裕の笑みを浮かべたまま、避けると放電する杖を振り下ろした。それを無表情に交わす刀真。女魔法使いも笑みを浮かべる――この子は……久々に楽しませてくれそうだわね、と。そのとき。
「私は、まだやられていないぜ?!」
「何?」
 感電して床に沈んだミューレリアがふっと消え、刀真と打ち合う女魔法使いの後ろに、ミューレリアの姿が。
 ミューレリアが身に纏うリリウム・ホワイト(りりうむ・ほわいと)のミラージュの力であった。
 拳銃が杖を撃ち落とし、刀真の光の剣筋が魔女の身体を打った。
 女は醜い老婆の姿を晒して床に伏した。
「刀真!」
 月夜、玉藻が駆け入ってくる。
「……もう、終わった」
「操舵が!」「船が、沈む」
「何。……」
「これは、まずいぜ」
 雲のしたへ、沈んでいく敵艦。刀真、ミューレリアらは何とか脱出する。上方に、砦のような形の雲が見える。砦のような……? 砦? しかし、激しい気流に巻かれ、小型艇は思うように飛ぶことはかなわない。