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リアクション
●イルミンスール:校長室
『ニーズヘッグに連れ去られた生徒たちの帰還』は、アーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)の命を受けて校長室に情報網を構築した武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)の目にもしっかりと映っていた。
「愚弟、関谷未憂達から連絡が来たぞ。今、回線をつなげる」
直後、『精霊指定都市イナテミス』及び世界樹イルミンスール周囲の情報整理を担当する武神 雅(たけがみ・みやび)から牙竜へ、関谷 未憂(せきや・みゆう)から送られてきた情報がもたらされる。
コーラルネットワーク内でニーズヘッグに話をしに行き、戦闘の衝撃で気を失ったところをニーズヘッグに助けられ、ユグドラシルに運んで貰った事。
地球人と契約した世界樹は今のところイルミンスールだけであり、口にはしないが気にしている者は多い事。
ユグドラシルがイルミンスールに干渉する理由も、それが理由かもしれないという事。
ユグドラシルの言っている事をラタトスクが彼なりに噛み砕いて伝え、それを聞いてニーズヘッグは行動しているが、実際にユグドラシルの言わんとしている事は誰にも分からない事。
ニーズヘッグはずっと『死』を食べ続けて、でもまだ生きている事。
五月葉 終夏(さつきば・おりが)、立川 るる(たちかわ・るる)と共にこれまで未憂が経験してきたこと、彼女たちとユグドラシルで共に行動し、ここまで連れて来たというラタトスクやフレースヴェルグから聞いたことが、そこには綴られていた。
そして、情報は以下の一文で締め括られていた。
私達はニーズヘッグに、「ありがとう」を伝えに来ました。
「灯、これらの情報をまとめ、可能なら生徒が参照出来るようにしておいてくれ」
「分かりました。念のため、帝国を有利にする情報の漏洩防止、及び虚偽の情報への対策に努めます」
牙竜から指示を受けた龍ヶ崎 灯(りゅうがさき・あかり)が、PCを操作して情報をまとめ、それらが適切に利用されるよう手配する。
「アーデルハイト殿。彼女たちの心からの言葉を、イナテミスも含めたすべての人々に聞こえるようにしてくれ。この思いは必ず、人々の心に届くはずだ!」
「まったく、お人好しにも程があるぞ。
……じゃが、それが『弟子』の望みであるなら、『師匠』たる私が手を貸さぬわけにはゆかぬの。やってみよう。
……イナテミスへは、精霊塔を介せばよいかの。後は水晶を用いて……」
アーデルハイトに頼み事を伝え、牙竜はイルミンスール地下から回収した機動兵器、『アルマイン』の交戦情報収拾を担当する重攻機 リュウライザー(じゅうこうき・りゅうらいざー)の下へ向かう。
「アメイア・アマイアとアルマインの交戦状況は?」
「出撃した内の数機が、既に戦闘を開始しています。
また、閃崎静麻より戦場周辺の状況、機体の消耗具合に関する情報が送られてきています」
リュウライザーがPCを操作すれば、プロジェクターを介してイルミンスール周囲のマップが三次元的に表現され、そこに複数の点が色分けされて表示されていく。
「ほう……アルマインの戦闘関連のプログラムにデータ、それにアメイアの能力分析か。相変わらず抜け目がない」
牙竜が、「三分くらい巨大化したい」の呟きに「そりゃヒーロー路線が違うだろ」とツッコミを入れてイルミンスールを発った閃崎 静麻(せんざき・しずま)の仕事振りを感心するように呟く。
(アメイア……確か「私が認めた者以外が、気安く触れるな」と言っていたな。
……ならば、触れずにこうして追い込んでいる俺を、お前はどんな顔で見る?)
卑怯者と罵るか、それとも素直に賞賛の言葉をかけるか――少しばかり、興味を抱く牙竜であった。
「アーデルハイト様、お願いがあります」
作業をしていたアーデルハイトに、神代 明日香(かみしろ・あすか)が声をかける。
その、普段と異なる真剣な表情に、アーデルハイトも一旦作業の手を止め明日香に向き直る。
「アーデルハイト様が私に用意した予備の身体を、アーデルハイト様に返却したいのです」
「それは構わんが、何も今でなくとも――」
「こんなものに頼っていたら、本当の気持ちは伝えられませんから。
……あ、アーデルハイト様のことを馬鹿にしてるわけじゃないですよ?」
口調は冗談交じりだったが、明日香の表情は決して、笑っていなかった。
「……分かった」
頷き、アーデルハイトがピン、と指を立てると、そこに薄茶色の毛が一本挟まって現れる。
明日香の毛と思しきそれをフッ、と払い、回収が完了した旨を明日香に告げた。
「エリザベートさん! 負けないでください! がんばってください!」
時折頭を振り、辛そうに何かを耐える表情を浮かべるエリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)の背中から、ノルニル 『運命の書』(のるにる・うんめいのしょ)が小さな身体で懸命に声援を送る。
「……明日香様? どうしましたの?」
戻って来た明日香に、エイム・ブラッドベリー(えいむ・ぶらっどべりー)が声をかける。
何かは分からないけど何かを考えている、主がそんな風に見えたエイムの言葉に、明日香は、
「何でもありませんよぉ」
そう、答えるのだった――。
「ケイ。改めて聞きますが……これからどうします?」
エーファ・フトゥヌシエル(えーふぁ・ふとぅぬしえる)の問いに、峰谷 恵(みねたに・けい)は迷いなく答える。
「最初に言った通り、見送りと護衛を続けるよ。ボクだけが投げ出すわけにもいかないからね」
恵は、自ら言い出した『アメイア・アマイアの見送り』と、アメイアに指示された『フィリップ・ベレッタ(ふぃりっぷ・べれった)の護衛』を完遂するつもりでいた。
それは、アメイアが『自分が守る』と宣言していたナレディ・リンデンバウム(なれでぃ・りんでんばうむ)と名無しの 小夜子(ななしの・さよこ)を宣言通り守り抜いたことも一因としてあった。
「そうですか。私達はもちろん、ケイに従います。ですが、相手は巨大化しており、こちらの生徒もアルマインで向かっている以上、私達が取れる手段は限られてしまいます。
……せめて、アルマインがあればまだ――」
そこまで呟いた所で、エーファがふと何かを思い立ったように言葉を発する。
「……そういえば、アメイアさんはここまでどのように来られたのでしょう?」
『言われてみれば……ここイルミンスールからユグドラシルまで、まさか徒歩で来たとは考え難いですね』
恵を介して、レスフィナ・バークレイ(れすふぃな・ばーくれい)が意見を口にする。徒歩でないというのなら、何らかの乗り物で来ているはず。
そして、龍騎士の乗り物といえば――。
「……イコン」
ぽつり、とグライス著 始まりの一を克す試行(ぐらいすちょ・あんちでみうるごすとらいある)が呟く。
「行きましょう、ケイ。それを探してからでも、遅くはないはずです」
龍騎士の乗るイコンも、地球人とそのパートナーが乗ることで、力を発揮する。もし手に入れば、恵が目的を達成できる可能性が高まる。
「……分かった、探してみよう」
パートナーと共に、恵が浮上する前のイルミンスールの場所へと向かっていく。
しばらくして、イルミンスールの正面階段にラムズ・シュリュズベリィ(らむず・しゅりゅずべりぃ)とクロ・ト・シロ(くろと・しろ)が姿を現す。
「イルミンなんざ、オレじゃない誰かが救ってくれるわwwwオレ等はオレ等にしか出来ないことやろうずwwwwww」
相変わらず特徴的な口調のクロだが、それでも一度行方不明になったナレディのことを心配しているようであった。
(無事である事は分かっても、それがずっと続くとも思えません……と言う事にしておいて下さい)
結果としてアーデルハイトに何も言わずに出ていこうとすることに、ラムズが心の中で謝罪の意味を含めた呟きを漏らすと、
『おまえたち、見えとるからの? ……なに、おまえたちの考えてることなどだいたい分かる。それを止めるつもりはない。
……むしろ一つ、頼まれてくれんかのう』
そのアーデルハイトの声が聞こえ、次の瞬間、二人の眼前に巨大な筒状の何かが出現する。
『鼎が「ライフルだ! ライフルがいい!」とうるさいのでな、特別に用意してやったわ。これを鼎の下へ届けてやってくれ。ナレディもそこにおるのじゃしな』
どうやら目の前の筒状の何かは、アルマイン用の狙撃銃であるらしかった。
『近くまで行けば、アルマインの方にも到着を知らせる連絡が入るようにしておる。頼んたぞ。
……まったく、何を言い出すかと思えば……ま、これでアルマインの運用方法にヴァリエーションが考えられる故、悪くはないがの……』
何かの呟きを残して、アーデルハイトの声が途切れる。
「……とにかく、これを運んでいけばいいんでしょうかね」
「重ぇwwwwwwいや無理だからwwwwww」
とり回しに苦労しつつ、二人は武器を六鶯 鼎(ろくおう・かなめ)の乗るアルマインへ届けるため、イルミンスールを発った――。
●精霊指定都市イナテミス:町長室
「……ラピュタだ! ラピュタは本当にあったんだ!」
「刀真、それ何? アニメ?」
そんなやり取りをしていたのが嘘のように、樹月 刀真(きづき・とうま)と漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)はイナテミス各地から送られてくる情報をまとめ、またイナテミスへ送られてくる情報を受け取り、各地が情報を共有できるように手配していた。
『……以上が、関谷さんの送ってくださったニーズヘッグに関する情報です』
封印の巫女 白花(ふういんのみこ・びゃっか)が送ってきた情報を、月夜がすぐにイナテミス各地に控える生徒たちが参照できるよう手配し、必要なメンバーには送信も行う。
(ニーズヘッグ、私達は死なない……貴方を独りにしない。
それを証明してみせる、だから……くるなら本気でくれば良い。
私達はそれでも皆生きて、貴方の前に立ち続けるから。
そして……皆が貴方に声をかけ続けるから)
強い決意を胸に抱く月夜、その間に刀真は、各地に散った【イナテミスの守り手】として行動を起こす生徒たちと意見を交わし合い決まった方針、精霊塔に『ブライトコクーン』のみを展開してもらうよう、ケイオース・サイフィード(けいおーす・さいふぃーど)とセイラン・サイフィード(せいらん・さいふぃーど)に通信を送る。
『分かった、そのようにしよう。
後、アーデルハイトから、ニーズヘッグに想いを伝えようとする者の声をイナテミスにも届けてほしいと申し出があった。
それはこちらの方で準備する』
「そのようなことが出来るのですか?」
『ええ。精霊塔には基地局としての設備も備わっていますわ。多少の魔力を必要とはしますが、そうすることがこの街にとっても、イルミンスールの皆さんにとっても大切なこととわたくしは思います。了解していただけますでしょうか?』
「分かりました、では、そのようにお願いします」
通信が切れ、刀真がふぅ、と息を吐いて、椅子にもたれかかる。
「死を喰らい、死を背負う……か」
ぽつり、と呟いて、刀真が自分の手を見つめる。
(生を実感できる場所で何となく感じる孤独……それは俺がこの手で、幾人もの敵を殺してきた故。
だがおそらく、ニーズヘッグはこの何倍……いや、到底計り知れない孤独を、感じてるのだろう)
ぐっ、と手を握り、刀真が続ける。
(そしてその孤独は、何だかんだで殺さずに未憂達を助けてしまう優しさのある奴を、どれほど苦しめているのだろう)
刀真が目線を横へ向ければ、作業を続ける月夜の姿がある。
(俺には月夜や白花、牙竜達、そしてシャンバラの各地にいる友人達がいる。
彼らがいたからこそ、俺は孤独を感じながらもここまで来られた。
……ニーズヘッグ、お前にもきっと現れるさ。お前の孤独を埋めようとするお節介達がな)
身を起こし、刀真がディスプレイに映る黒き竜、ニーズヘッグを真っ直ぐに見つめ、彼に宣言するように心に呟く。
(来いよ、ニーズヘッグ! お前がどれだけ死を与えようとしても、俺達は決して死なない!)
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