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薄闇の温泉合宿(最終回/全3回)

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薄闇の温泉合宿(最終回/全3回)
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リアクション

「梅琳さん〜」
 オリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)が、口を挟む。
「シャンバラ教導団は、将来の国家建設時に警察及び軍隊として機能することを目標にしていると、記憶してるわ〜。法を軽んじ、自らの利益になるなら法を曲げ、どんな手も厭わないとしたら、将来全く信用されず、相手にさない団体になるのではない〜?」
 オリヴィアは、梅琳に釘を刺していく。
「現状、教導団の多々実行された強行作戦により、よろしくない状態かと思うわ〜。将来的にも見て、まずは基本的な所を見直してみるとよろしいかと思いますわ〜」
 オリヴィアの言葉に、梅琳は軽く微笑みを見せた。
「……今は教導団員ではなく、ロイヤルガードの一員として来ているの。シャンバラを守るためにね。とはいえ、私は軍人なのだけれど」
 そして、梅琳はレストにちらりと目を向けた。
 眉を寄せて、レストが口を開く。
「ここは、東シャンバラ政府の管轄下じゃないと? 随分と横暴な主張だな……だが、この場で西シャンバラと議論するつもりはない。西シャンバラの政府と交渉を行う権限も自分にはない。私は我国で書かれた魔道書を回収しにきただけだ。賊の護送も仕事ではあるが、その女一人に拘るつもりはない」
 ユリアナの問題は勝手に決着をつけろというように、レストは腕を組んで東シャンバラのロイヤルガードを見る。
「その魔道書についてですが……」
 まず、口を開いたのはクライス・クリンプト(くらいす・くりんぷと)だった。
 クライスはゼスタを通して、神楽崎優子、そして総督府に質問をしてあった。
「エリュシオン側の主張する、魔道書の所有者という人物は特にはいないと聞いています。しいて言えば、国のものだということです」
 詳しい説明を受けたわけではないが、優子から聞いた話によると、どうやら帝国にとっては数ある魔道書の1冊でしかなく、特に行方を探していたわけでも、求めているわけでもないように思えた。
 分隊がこちらに向かったのも、レストからその賊のアジトにエリュシオン縁の物があると思われるため、回収に向かいたいと申し出があったからだそうだ。
「ですが、その魔道書はイルミンスール魔法学校で長い間管理されてきたものです。現代の所有権はイルミンスールにあるといえます」
「そう……そして、その魔道書はイルミンスールから盗まれたという話が出ている。詳しいことを知っている人は、薔薇の学舎に所属している……西シャンバラの人」
 漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)がファビオに目を向けると、彼は軽く眉を潜めながらも頷いた。
「ユリアナの名誉の為に、その魔道書が盗品であるかの真偽を確認する為にも、魔道書はイルミンスールやファビオの協力の下で西シャンバラで調べるべき」
「タイトルに古代語でエリュシオン帝国と入っているはずだ。一目瞭然だろ」
 月夜の主張に、レストがそう答える。
 確かに本のタイトルには、古代の言葉でエリュシオン帝国と入っているようだ。
 更に、レストはこう続ける。
「魔道書――ヴェントは、先の大戦で、シャンバラに拘束され、長い間監禁されていたということだろう? それが不当であったとは言わないが、捕らえた者は捕らえた国に属することになるのか?」
「監禁ではありません。書物ですから。シャンバラ古王国時代に戦いで、パートナーを失ってからは人型になることはなかったそうです。そして、現在のパートナーはここにいる、ユリアナ・シャバノフという女性であり、彼女と契約したことにより、魔道書はまた人の姿をとるようになったようです」
 イルミンスールは今は、東シャンバラではないので、持ち主であるユリアナ共々百合園で預かってはどうかと、クライスは提案してあった。総督府や優子の返答はそれで構わないというものであり、ロイヤルガード達に命令まで下されることはなかった。
「……今の東西のバランスが崩れているのはご承知だと思います。よしんば戴冠式を阻止出来たとしても、契約者の数が絶対的に足りず、心もとない状態です。この情勢で名目はどうあれ、龍騎士をヴァイシャリーに駐留できるのは充分価値あるかと」
 そして、クライスは、レストにも一時的に百合園で保管したい旨、説いていく。
「法と規律を重んじる帝国の龍騎士様が、犯罪の嫌疑が未だ晴れる者を適正な法的手続きを経ずに……などということはないですわよね」
 更に、イルマがレストに釘を刺す。
 レストは僅かに険しい表情を見せた後、こう言った。
「我国が建てた、ヴァイシャリーの魔法院に預ければいいだろう。ユリアナも魔道書も」
「では、そのように提案してみます」
 クライスは、ひとまずそれで良しとした。最低でもユリアナをシャンバラに留めたい――エリュシオンに連れていかれることだけは、防ぎたくての行動だった。
「そうですわね……」
 イルマも現状で最悪なのは、帝国に連れて行かれてしまうことだと思っていたので、ヴァイシャリー内に留められるのならと一応納得する。
「魔道書はなんともいえないけれど、ユリアナは連れて帰らせてもらうわ」
 しかし、梅琳もユリアナに関しては、頑として譲らない。
「いいですか?」
 桐生 円(きりゅう・まどか)が手を上げる。
「どうぞ」
 メティスの許可を得て、円は梅琳と西シャンバラ側として会議に参加している者達にゆっくり語りかけていく。
 色々、問題も起こしてきた自分だから。
 説得力はないかもしれないけれど……。
「人の形を取れ、意識を持っている時点で魔導書はパートナー。特殊な物です。柔軟に対応する必要があります。つまり意識を持っている、人と同じで人権があると思う」
 人権的には、所有権は現在ユリアナにあると円は考えていた。
 ヴェントにはあまり意思能力がないようであり、それなら、ユリアナが保護者、後見人の立場でもあるから。
 また、ユリアナの死後には、エリュシオンに返却する義務はあるとも考えていた。
「西の方々にお聞きするが、貴方達はロイヤルガードとして自国の我を通し、火種を作るのではなく柔軟に対応すべきでないのかい?」
 国の寿命はユリアナさんの寿命を簡単に超える事が出来る。
 しかし、個人の寿命は有限であり、ユリアナも地球人だ。
 円自身ももパートナーを亡くしたことがあり、心に大きな穴が開いた状態を、実際体感した。
「契約者にとってパートナーは家族も同然の筈。パートナーを安易に引き離すという行為は、与えていい苦しみじゃない」
 円は首を左右に振った。
 失ったパートナーの姿を思い浮かべながら。
「ヴァイシャリーの魔法院に通うのは良いとして、あそこは学校とは違うから、ユリアナは百合園に転入してもらい、百合園女学院の寮で預かってはどうかと思う。エリュシオンとイルミンスールが魔道書の権利を主張するのなら、百合園は第三者的立場になるからね」
「魔道書についてはそうかもしれないけれど、ユリアナについては第三者じゃない、わ。ユリアナ・シャバノフは連れて帰ります」
 梅琳はそう言葉を発したが、何故第三者ではないのかなどの、説明はしなかった。
 そして、梅琳はユリアナに目を向けた。
「……ヴァイシャリーに、行きたくないです。ここから一番近い里――寧ろ、この場で裁判を行っていただければ……」
 ユリアナは小さな声で、そう話していく。
 戸惑いの表情で言葉を続ける。
「魔道書は、私のだから、もう返して」
 苦しげな、声だった。
「犯罪者には人権はないなんて言わないわよね? 彼女もそう言っていることだし、意見は平行線のようだから、ユリアナは西へ、魔道書はヴァイシャリーで管理ということで、手を打ちましょう? もちろん、裁判が済んで、償いも終えたら、彼女達の自由を互いに阻みはしないということで」
 梅琳がそう提案するが、円は首を左右に振り、反発する。
「なるほど、パートナーが離れる事が特に重要ではないということは、女王様、両代王様の苦しみを軽んじているとそう捉えてもよろしんですね?」
「見ての通り、私もパートナーと一緒に行動してないわ。東のロイヤルガードの隊長だって、パートナーとはあまり会ってないみたいだし? ユリアナは魔道書を書物として必要としているけれど、今すぐ、彼女が持つ必要ないでしょう。犯罪者が愛刀を側に置いておきたいと求めても、認めるわけにはいかないのと一緒。どちらで彼女を保護するにしても、当分、一緒にいることは出来ない。一旦、決着をつけて裁判後に関係者同士で話し合いをして、2人のことは決めればいいと思う」
 どんな理由があったとしても、どんな提案を受けたとしても、会議の決着がどうであったとしても、梅琳は揺ぎ無くユリアナを連れて帰るつもりだということまでは、この場で説明をしなかった。
 それは教導団員――軍人の彼女にとって当然のことだった。ユリアナを連れて帰ること、それから東シャンバラの動向を探ることが任務なのだから。
 ……クレアが言っていたように、ユリアナ本人だけではなく、ユリアナと魔道書をセットで持ち帰ることが任務であることもわかっては、いる。