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薄闇の温泉合宿(最終回/全3回)

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薄闇の温泉合宿(最終回/全3回)
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第2章 奪還か強奪か

 梅琳と協力者達は、スキルで姿を見えにくくし、双眼鏡で確認をしながら龍騎士団の後を追った。
 合宿所からは少し遅れて出発をしたため、回り込んだり、罠を張ったりはできていない。
 龍騎士団はワイバーンを休ませて、休息をとっているようだが、護衛をしている契約者達が周囲に警戒をしているようだった。
「集まってくれてありがとう。心強いわ」
 梅琳は集った契約者達に、礼を言った。
「犯罪者や盗品、魔道書の移送には、東シャンバラの契約者も数名協力しているわ」
 梅琳が眉を顰めながら言った。
 彼女を側でサポートしているルカルカ・ルー(るかるか・るー)が頷く。
「分かってるわ。戦いが目的じゃなくて、任務の成功が目的よね」
 ルカルカの言葉に梅琳は頷いて、決定した作戦の説明を行った。
 作戦会議に加わり、主力として奇襲からユリアナの確保、教導団までの作戦に当たるのは、橘 カオル(たちばな・かおる)ルカルカ・ルー(るかるか・るー)とパートナーのルカ・アコーディング(るか・あこーでぃんぐ)朝霧 垂(あさぎり・しづり)とパートナーの朝霧 栞(あさぎり・しおり)ゾリア・グリンウォーター(ぞりあ・ぐりんうぉーたー)とパートナーのロビン・グッドフェロー(ろびん・ぐっどふぇろー)ザミエリア・グリンウォーター(ざみえりあ・ぐりんうぉーたー)の9名だった。何れも教導団員だ。
 呼びかけに応じて作戦に加わってくれることになったのは、エメ・シェンノート(えめ・しぇんのーと)伏見 明子(ふしみ・めいこ)クレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)樹月 刀真(きづき・とうま)久世 沙幸(くぜ・さゆき)如月 正悟(きさらぎ・しょうご)神楽 授受(かぐら・じゅじゅ)伏見 明子(ふしみ・めいこ)と、それぞれのパートナー達だった。
 指揮官の梅琳を含め、この作戦に当たる契約者の人数は31人だった。
 人数的には龍騎士団分隊の倍以上だ。
「まずは、ゾリア・グリンウォーター達が龍騎士団のワイバーンを狙って攻撃をしかける。直後に、協力者達で奇襲を行い場を混乱させる。同時に、教導団員でユリアナを救出する」
 梅琳は簡単に作戦を皆に話した。
「皆、時計は合わせたか? 秒までしっかり合わせろよ。……現在時刻、13時21分。休憩に入って3分30秒が経過した。頃合だな」
 カオルが双眼鏡を手に梅琳に近づく。
 梅琳は頷いて直立し、皆に厳しい目を向ける。
「最優先はユリアナ・シャバノフの奪還。第二は己を含む“シャンバラの契約者”の身の安全。第三が魔道書の奪取。目標確保後は、速やかに離脱すること。以上、作戦開始!」
 梅琳の作戦開始の号令を聞き、それぞれ乗り物に乗り、龍騎士団の方へと向かう。

 龍騎士団は泉の側で、休憩をとっていた。
 ワイバーンを休ませて、その側で従龍騎士達も各々休んでいる。
 罪人達は手錠で従龍騎士と腕を繋がれている。
 ヴェントにはファビオとクライス、ミューレリアが監視と護衛についている。
 魔道書を預かっているロザリンドの側には、円とパートナー達の姿があった。
 ユリアナはレストの側にいた。渡された水筒を両手で握り締めたまま、俯いている。
 彼女は拘束されてはいなかった。
 レストの他に、従龍騎士が2人彼女を……というより、レストを護衛している。
 接近したゾリアは、隠れ身で姿を消した状態で、ブラインドナイブスをワイバーンに放った。
 体を裂かれたワイバーンが悲鳴を上げ、血が飛び散った。
「襲撃か!? ただの蛮族ではなさそうだな」
 即座に、レストはユリアナを背に庇い、従龍騎士達は槍を手に配置についていく。
「最初からこうすればよかったのでは?」
 ゾリアに召喚で呼び出されたザミエリアが、傷ついたワイバーンに飛び込み、拳を叩き込む。
「人間は複雑怪奇ですわね、ククク」
 続いて、遠当てで、近くのワイバーンの翼を打った。
「契約者か!」
「……くっ」
 従龍騎士がザミエリアに槍を突き刺す。
 ザミエリアは脇腹を貫かれ、片膝を地についた。
(あと数分、頑張ってください!)
 姿を隠したまま位置を変えたゾリアが、ブラインドナイブスを放つ。
 ザミエリアに止めを刺そうとした従龍騎士にダメージを与える。
「楽しませてくださいますの……っ?」
 ザミエリアは片足で地を蹴って跳び、等活地獄で付近の従龍騎士、ワイバーンを攻撃する。
「避難を!」
 クライスが龍騎士とユリアナの護衛に回る。
「その男に、渡すわけにはいきません……。繰り返すわけには」
 刀真が、クライスに斬り込む。
 クライスは盾で受け止めるが、体勢を大きく崩す。
 月夜が銃を撃ち、クライスの足を傷つけ、転等させる。
「こっちに任せて欲しいんだけどね」
 円とオリヴィア、ミネルバが刀真に武器を向ける。だが、東側にそれほどまでにユリアナを連れていかなければならない理由は無いため、攻撃を仕掛けることはしない。ロイヤルガードの指揮の下、円もあくまで護りの姿勢だ。
 刀真が後方に跳んだ瞬間に、美海のファイアストームが炸裂し、辺りが紅蓮に染まる。
「離れてーっ!」
 沙幸が走りこみ、龍騎士とユリアナの側にいる者を則天去私で弾き飛ばす。
「狙いはユリアナか、魔道書か――両方か」
 レストが雷雲を呼び、強力な魔法を放とうとする。
 木陰に隠れていたクレアが、銃を撃ち詠唱を妨害する。
「帰りますよ」
 守護天使のハンスが、空から舞い降り光術を放つ。
「迎えが来たぞ」
 目を細めたレストから、正悟がユリアナを引き離し、後方に突き飛ばす。
「手荒な迎えですが、共に来て下さいますか」
 魔法で空から舞い降り、抱きとめたルカルカがユリアナに小声で尋ねた。
「西に……連れていって」
 ユリアナは拳を握り締めてそう答えた。
「分かりました。必ず」
 ルカルカはユリアナの手を引いて、木々の中へと駆け込む。
「追わせないんだからー!」
 気合を入れて、授受はエマと共にワイバーンを攻撃し、翼を傷つけていく。
「小娘が……っ!」
 従龍騎士が槍を振り、授受達の体を打つ。
「無理はしないで下さいね」
 即座にエメが加勢に入り、轟雷閃を従龍騎士に放つ。
 更に蒼が乱撃ソニックブレードを放ち、従龍騎士を倒す。
「大丈夫にゃう?」
 アレクスとリュミエールは、ヒールで授受達を回復していく。
「白百合団班長と……戦いたくないわ。魔道書をこちらへ」
 明子が魔道銃をロザリンドに向けた。
「渡しません」
 ロザリンドは盾を構える。
「ロザリー……」
 テレサはどうすべきか迷いながらも、ロザリンドの側で銃を構えておく。
「はあっ!」
 静佳が跳び込み、疾風突きを繰り出した。
 ロザリンドは盾で受けて、堪える。
「ゴメンな」
 隠れ身で後方から近づいたレヴィが、ロザリンドの足にスリングで石を放つ。
 ロザリンドは軽くよろめくが、固く身を守り、鎧の下の魔道書は決して放さない。
 シャンバラの民は傷つけない。それは今作戦の目標でもある。
 明子達はやむなく離脱し、ロザリンドがそれ以上狙われることはなかった。
「退くぞ!」
 カオルが小型飛空艇で近づき、大声を上げる。
 西の作戦に参加をした契約者達は、一斉にその場を離れる。
 カオルは鬼眼で威嚇をし、無傷のワイバーンを怯ませる。
「梅琳、ユリアナを頼むぜ……っ」
 宥めて従龍騎士が背に乗ったワイバーンの側を低空で飛行し、注意をひきつける。
 そして、こちらに向かってきたところに、弾幕弾を打ち込み、逃走をする。

「あそこか!?」
 素早く空へと飛び立った従龍騎士の1人が、ルカルカとユリアナを発見した。
「そっちに1人いくよ、早く離れて!」
 地獄の天使で上空から監視していたアコ(ルカ)は携帯電話でルカルカに連絡を入れた後、後方にファイアストームを放つ。同時に急降下し、小型飛空艇ヴォルケーノへと下りた。
「巻き込まれたりしないでよ!」
 すぐに、上昇するとやはり後方に、ミサイルを乱射する。
 魔法もSPタブレットで精神力を回復しながら、続けざまに放ち、弾幕のように視界さえ阻んでいく。

 アコの放った数々の爆撃に隠れながら、ルカルカ自身も煙幕弾や魔道銃を用いて、敵の視界をさえぎり、走った。
 そして、ユリアナを連れて、梅琳達が待つ飛空艇をとめてある場所に駆け込む。
「行って!」
 ユリアナの手を離し、ルカルカは彼女の背を押した。
「こっちよ」
 代わりに梅琳がユリアナの腕を掴んで、小型飛空艇に乗せ、すぐに飛び立つ。
「……行こうか」
 上昇した途端、別の方向から現れたレッサーワイバーンが飛空艇に近づき、乗っていた人物がユリアナを両腕で抱えて掻っ攫った。
「くっ……離して……!」
「暴れるな。落ちるぞ。俺は教導団員だ」
 抵抗するユリアナを抱えながら、その人物――垂が、囁いた。
 そして、追っ手を振り切るために、しびれ薬を撒いていく。
 それから、かぶっていた龍騎士の面をずらしてみせる。
「おまえを教導団に連れて行く……いいな?」
「……お願い」
 暗い声で、ユリアナはそう答えた。
 彼女を座りなおさせて、レッサーワイバーンを操りながら、垂は彼女に語りかける。
「細かい事は分からないけど、お前にはやるべき事があるんだろ?」
 ユリアナは何も答えない。
 ただ、龍騎士団の方を……レストが居た場所に目を向けていた。
「なら、諦めずにその目標を成し遂げようぜ、俺達も協力するからさ!」
 そう、垂は微笑みかける。
「……ええ、必ず」
 答えたユリアナの瞳の奥に、垂は強い輝きを見た。

「こっちはガードも固いし、無理か」
 栞は人型の魔道書ヴェントを発見していたが、彼は身動きの出来ない状態でファビオとミューレリアに護られていた。
「彼女と離しておいた方がいいと思うんだけど、どう?」
「さすがに、全部持っていくつもりじゃないよな?」
 ファビオ、ミューレリアの言葉に、栞はちょっと考える。
「んー、ま、連れて行くのは任務じゃなさそうだしな、多分」
 そしてそう答えた後、栞はヴェントに向かってこう言う。
「俺は朝霧栞。魔道書だ。今度ゆっくりと話をしようぜ!」
 直後に、栞は闇術を放ち、飛び立とうとした従龍騎士の視界を阻む。
 続いて、光術で強烈な光を発生させ、目をくらました。
 そうして、仲間が逃走をする時間を稼ぎ、自分自身も全速力で離脱する。

「ユリアナ・シャバノフ……確保完了にょろ」
 双眼鏡で確認をし、ゾリアは携帯電話でパートナーのゾリアにに伝える。
 そして、戦っていたザミエリアは、自分の側に呼び戻しておく。
「皆、退け!」
 ロビンはガードラインで防衛線を張り、皆を守っていた。
「足止めをする。乗り物に乗り込んで逃げろ」
 協力者達を後方に逃がすと、殿となり龍騎士団の攻撃を防ぐ。
 それから「こっちは大丈夫そうだ」と、ゾリアに連絡を返す。
 ワイバーンへの攻撃が効いており、龍騎士達の機動力は著しく低下していた。

 ユリアナ達を逃がした後、一人残り、従龍騎士を防いでいたルカルカは、仲間の合図により、撤退が完了したことを知る。
「行くわよ!」
 アコの杖で増幅した魔力で、ファイアストームを放つ。
 辺り一面、激しい炎に包まれる。まるで火の海だ。
 ミサイルも全弾発射。
 魔道銃も全面に乱射していく。
 そして最後に、ルカルカは乗っていた飛空艇に、魔法と銃を放った。
 飛空艇が爆発をし、破片が飛び散っていく。
 ――自爆を演じたルカルカは、光学モザイクで隠れながら、空飛ぶ魔法↑↑で、地上に着地する。
(念のため、迂回していこう。皆、ユリアナと梅琳を頼んだわよ)
 ルカルカは回り道をして、シャンバラ教導団へ向かうことにする。

 カオルは龍騎士団を振り切った後、木陰で私服に着替え、街路に向かい走っていた。
「皆、梅琳……」
 炎の影響で赤く染まっている空を目にして、僅かな不安を覚える。
 だが、仲間達のことも、大切な恋人の梅琳のことも信じている。
 梅琳はカオルの居場所だ。
 これからも、彼女の力になることを望み……。
 先に到着し、待っていてくれるだろう場所へ――シャンバラ教導団へと急ぐ。

「彼は変わってしまったわ……」
 教導団に向かいながら、ユリアナが呟いた。
「敵対するのなら……私が、この手で……」
 垂と合流した梅琳は顔を合わせて眉を寄せる。
 ユリアナは遠くを見ていた。
 焦点を定めずに、ただ遠くを――。

「これは団に命じられた任務ではない。これ以上追う必要はない」
 レストは従龍騎士達にそう指示を出し、自ら仲間とワイバーンの治療を行っていく。
 護送に加わっていた契約者達も、治療を手伝っていく。
 レストや従龍騎士の表情は厳しかった。
 だけれど、東シャンバラの契約者達が、完全に協力的で、ヴェントと片方の魔道書を守りきったために、怒りの矛先は西シャンバラにのみ、向いていた。
 襲撃者の殆どが顔を隠していたが、教導団主導の作戦であることは明白だった。
「残りの犯罪者をヴァイシャリーに護送する」
 治療を終えてすぐ、レストは指揮をとり、龍騎士団分隊はヴァイシャリーへと向かっていった。