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薄闇の温泉合宿(最終回/全3回)

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薄闇の温泉合宿(最終回/全3回)
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○     ○     ○


「それじゃ、パーティの時だけは、特別に花火とか色々なものを取り寄せるんですね」
 年末にカウントダウンパーティを行うという話を聞き、七瀬 歩(ななせ・あゆむ)は何か手伝えることはないかと、ゼスタ・レイラン(ぜすた・れいらん)のところに相談に来ていた。
「そうだな。面倒な来客があったり、終了テストをやったりするんで、そっちのリストアップなんかは七瀬や皆に任せていいか」
「わかりました。皆楽しみにしていますので、頑張りますね」
 相談している最中にも、彼の元に人が集まっていく。
 彼自身に用がある者の他、彼のパートナーである、神楽崎 優子(かぐらざき・ゆうこ)に用がある者も多かった。
 この近くからは基本的には携帯電話は使えず、都市からもかなり離れているため、東シャンバラの要人に連絡を取る際には、ゼスタと優子を通すより他なかった。
「ロイヤルガード志願について、話がしたいんだけど……あなたでいいのかしら?」
 会話が切れたチャンスにリュシエンヌ・ウェンライト(りゅしえんぬ・うぇんらいと)がゼスタに話しかける。
「あー……お前は百合園生だよな。なら、神楽崎と直接話した方がいい」
 そう言い、ゼスタは優子に電話をかける。
 カウントダウンパーティに必要なものの手配をいくつか頼んだ後、携帯電話をハンズフリーにしてリュシエンヌに向けた。
「合宿当初からロイヤルガード入りを目指して頑張ってた娘だ」
 ゼスタは優子にそう言った後、リュシエンヌに頷く。
 頷き返した後、リュシエンヌは簡単に挨拶をして、優子に志願理由を語り始める。
「シャンバラが東西に分かれている現状につけ込まれて、エリュシオンなるハイエナがシャンバラを扱き使っている事が正直気に入らないの」
 今回も皆で協力をして盗賊を退治したというのに。
 突然現れた龍騎士に美味しいところを持っていかれそうになっている。
 でもそれは、些細なことで。
 近いうちに、再びエリュシオンの手伝いか、尻拭いをさせられるだろうと、リュシエンヌは感じ取っていた。
 そして、不快感が限界に来ていることを優子に話していく。
「志願した一番の理由は『シャンバラを立派な国として建国させる為』。新たに見つかった女王候補を正式な形で女王にした後に、他国の言いなりにならず、シャンバラを屈強な国として繁栄させて欲しいから。その手伝いをするために、ロイヤルガードになりたいと思ってる」
『リュシエンヌ・ウェンライト……キミは帝国に操られていたティセラ・リーブラについていた娘だね』
 携帯電話から優子の声が流れてきた。
「その時はあまり物事を考えてなかったかもしれない。でも今は、やるからには私は本気よ。立派な建国が出来るなら何だってするわ」
 子供と思えないほどの、しっかりとした声と口調でリュシエンヌは言い切った。
『……賊の討伐での貢献についても、報告は受けている』
 優子はそこで言葉を一旦切った。
 そしてしばらくして、こう続けていく。
『キミの志願理由は……とても危険だ。そういう考えを持っているということに対して、理解は出来る。だが、現在の百合園と、ヴァイシャリーのことを考えると、キミの行おうとしていることは東シャンバラロイヤルガードとしてふさわしいというより、寧ろ逆、敵対しかねない考えだ。……いいか』
 優子はゆっくりと穏やかにリュシエンヌに語る。
『ヴァイシャリーはエリュシオンに恭順を示した。そして現在エリュシオンの支配下にある。東シャンバラのロイヤルガードのトップは、私でもラズィーヤさんでもなく、エリュシオン帝国大帝の娘だ。指揮下にはエリュシオン所属の者等もいる。その組織に入るというのに、トップ……つまりエリュシオンに反意を持つ考えを志願理由として述べてしまうことは、とても危険なことだ。ロイヤルガードの戦いは、国家神を……国を『護る』戦いだ。特に東シャンバラのロイヤルガードの戦いは、忍耐が必要になる。キミの作戦時の協調と、能力については十分見せてもらったと思う。あとは限界を超えても、護るために忍耐が出来る人物かどうかを、見せてほしい』
 優子の話を聞き、リュシエンヌは軽く目を伏せた。
(今は……時期じゃないってことかもね。むしろ、ルーシーは西シャンバラのロイヤルガード向きなんだろうな)
 軽く苦笑した後、リュシエンヌは「わかったわ。少し考えてみる」と言葉を残して、退室したのだった。
 その後、ゼスタは優子と一言二言言葉を交わした後、電話を切った。
「忍耐……ですか」
 浮かない顔で、ロザリィヌ・フォン・メルローゼ(ろざりぃぬ・ふぉんめるろーぜ)が近づいてくる。
「ロザリィヌ・フォン・メルローゼか……。お前、神楽崎に剣を向けたんだってな」
 ゼスタは瞳を光らせながら、にやりと微笑みを浮かべる。
 ロザリィヌは先日、西シャンバラ側と共に、ロイヤルガード隊長である神楽崎優子に切り込んだ。
 傷つけることが目的ではない。優子を止めたかったから……。
「単刀直入に言うと……優子様にロイヤルガードも白百合団もやめて欲しいと思ってますわ。あの時の事もそのためにしたんですの……」
 ロザリィヌはまっすぐにゼスタを見つめながら、彼女を――パートナーの神楽崎優子を止める気はないかと、相談を持ちかけていく。
「俺に神楽崎を止める理由はない」
 ゼスタのその返答に、ロザリィヌは軽く眉を顰める。
「重荷を背負わせる事が優子様の幸せになると思っていますの?」
 ゼスタは訝しげな表情を見せる。
 ロザリィヌは憂いを含んだ目で、言葉を続けていく。
「優子様は……必要以上に責任を感じて……頑張ってしまいますわ。それを助けるために周りの子達も無理をしてしまう……」
「神楽崎のせいで、神楽崎の周りに集まる者……お前の大切な人が傷つくとでもいいたいのか?」
「ゼスタ様次第ですわ。西に寝返るのでも……何でも構いません。優子様に不信感が募れば、ただの生徒に戻すことができますの……」
「神楽崎に不信感が募れば、ただの生徒に戻ることができる? いや、それは彼女にとって凄く不幸せなことだろ。――神楽崎よりもキミだ。お前は自分が望む未来を得ようと他人の気持ちを考えずに、自分だけの考えで押し進めることで、神楽崎や、神楽崎の周りに集まる者達を悲しませている。彼女達の意志を、お前の個人的な思いだけで踏み躙ってしまいかねない。そして結果的に彼女達の負担を増やしてしまっている。このままお前が妨害を続けていけば、お前への対策も打たなきゃならなくなる。今のお前は、明らかに自分の目的に反した行動をしているぞ? 本当は他に何か別の理由があるんじゃないか」
 穏やかに語られたゼスタの言葉に、ロザリィヌは押し黙る。
 優子や亜璃珠をこれ以上頑張らせたくない。
 しかし、ロザリィヌの敵対行動は優子達の負担を増やすだけだった。
 ロザリィヌには、きっかけとなった決して言うつもりのないことも……ある。
 ロザリィヌはずっと――広い視野を、持てずにいた。自らの思いの中に、閉じこもっていた。
「それから俺は、神楽崎の幸せを特に願ってはいない。ただ、今のような現場の指揮は、危ないんで、もう少し出世して総隊長の地位について欲しいと思っている。それも、神楽崎の身を案じてではなく、彼女が傷つくことでの、自分への影響を考えてのことだ。……というわけでロザリィヌ・フォン・メルローゼ、俺でも狙ってみるか? 俺が重体に陥れば、神楽崎も満足に動くことは出来なくなり、地位を失うだろう。ただ、ヴァイシャリーにいる契約者で、彼女の代わりとなれる人物は今はまだ居ないと俺は見てるぜ」
 それはきっと、より多くの者が傷つくことに。
 そして、百合園も、生徒達も、ヴァイシャリーの民もより傷つくことになるだろうと、ゼスタは言葉を続けるのだった。
「……ゼスタ様のお考えはわかりましたわ。わたくしは……百合園を放校になる覚悟もとっくに出来ていますわ。それまでに、為すべきことはしておきたいですわね」
 軽く頭を下げて、ロザリィヌは部屋を後にする。