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聖戦のオラトリオ ~覚醒~(第3回/全3回)

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聖戦のオラトリオ ~覚醒~(第3回/全3回)
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リアクション


(・デルタ)


【デルタ小隊】
【デルタ1】【C搭乗】天司 御空(あまつかさ・みそら)白滝 奏音(しらたき・かのん)/TACネーム【ホークアイ】
【デルタ2】【E搭乗】玉風 やませ(たまかぜ・やませ)東風谷 白虎(こちや・びゃっこ)/TACネーム【バンシー】
【デルタ3】【C搭乗】葛葉 杏(くずのは・あん)橘 早苗(たちばな・さなえ)/TACネーム【ポーラスター】
【デルタ4】【E搭乗】和泉 直哉(いずみ・なおや)和泉 結奈(いずみ・ゆいな)/TACネーム【スプリング】
【デルタ5】【E搭乗】端守 秋穂(はなもり・あいお)ユメミ・ブラッドストーン(ゆめみ・ぶらっどすとーん)/TACネーム【セレナイト】

* * *


「イレール、状況は?」
「敵は以前よりも大分強くなっています。ですが、まだこちらの方が優勢かと」
 グエナは戦況を分析する。
 海京の南方からは、ベトナムからの新兵器マリーエンケーファーが投入され、向かっている。
 北方からは強化人間の空挺部隊が輸送機に乗って襲撃を仕掛けようとしている。
 そして自分達が西を、カミロ様が東を、それぞれ担っている。
「本当にお前達が護りたいものがあるというのなら、護ってみせろ。かつて俺が出来なかったことを、成し遂げて見せろ」
 コックピットの中で、グエナは静かに声を漏らした。

* * *


「奏音……大丈夫かい?」
「ええ、私なら……大丈夫です」
 デルタ1、【ホークアイ】の中で奏音はセルフモニタリングで自らの感情を抑えた。
(今は戦いに集中)
 『レイヴン』の存在を風間から聞かされ、それを乗りこなせれば設楽カノンに勝つことが出来ると知った。
 にも関わらず、まだ答えは出ていない。怖いからだ。
 まだ誰にも扱えていない。自分に扱える保障もない。失敗したらどうなる?
 一ヶ月間、そのことが頭から離れないままだった。
『デルタ小隊、これより状況を開始する』
 指揮官を引きずり出すためにも、敵の数を減らさなければならない。
『前回有効打がほとんど入らなかったのは、相手のずば抜けた回避の予測精度が原因だ』
 御空の指示の下、コックピットのモニターに射線と動線を引いて他の小隊機へと送信する。
『なら火線を集めて回避経路を限定してやればいい。射線と動線で檻を創り、敵機の動きを誘導する。連携開始!』

 合図と共にデルタ4、【スプリング】は前進した。
 【ホークアイ】から送られてきた機体状況を元に、機体の位置を移動する。それによって、後衛から射撃しやすいような状態に持っていく。
(兄さん、敵を誘導するよ!)
 結奈が機体を動かし、それに合わせて直哉がビームライフルによる牽制を行う。
(来い、こっちだ)
 旋回し、敵の部隊を引き付ける。
 【スプリング】に注意が向いているときがチャンスだ。シュバルツ・フリーゲが接近してくる。
(この前の指揮官か?)
 まだ分からない。
 だが、そこはさすが小隊長。動きが他の機体よりもいい。

(止まっているといい的……動かないと)
 【ポーラスター】が速度を上げ、射線を合わせる。
 それでも、なかなか隙を見つけられない。
 イーグリットの動きに気を配る。デルタ5、【セレナイト】はスナイパーライフルで狙いを定めている。
 シュバルツ・フリーゲの注意が二機のイーグリットに、完全に向いた。
「今っ!」
 【ポーラスター】の中で、杏が声を上げた。
 手首のスナップを効かせるようにして装備していた射出型ワイヤーを飛ばし、敵の指揮官機を拘束する。
 引っかかった部位は、敵の機関銃。すぐに空いた腕で剣を取ろうとするが、
「便利よねこの装備、相手を拘束出来るし。そして何より……」
 そんな隙は与えない。
「絶対にビームキャノンの先に敵がいるんですもの!」
 エネルギーを最大にし、放射する。
 直撃だ。
 それだけではなく、その背後に隠れていたシュメッターリングも巻き込み、破壊する。
『腕を上げたようだな』
 敵機からの通信。
 グエナ・ダールトンだ。
『各機へ告ぐ。前衛に気を取られるな。指示を出しているのは後方の支援機。最優先目標はそれだ』
 敵機の編成が変わる。
「やはり出てきたか」
 グエナの声に反応し、直哉が通信を飛ばした。
『一ヶ月前の借りは返すぜ。俺達は負けられない、全力で行かせてもらう!』
『その意気だ、来い!』
 【スプリング】の目標は、最も後方にいるグエナのシュバルツ・フリーゲだ。ただ静かに、それでいて全体を俯瞰しているかのような姿から、それこそが彼の機体だと感じ取る。
 シュメッターリングからの機関銃の弾幕をかわすため、機体が急下降した。
 だが、敵の布陣はこちらの機体の行動を予測し、張られている。イーグリットに突破する隙を与えないために。
 その分、グエナ周囲の機体が少なくなる。
「……見えてるよ。蒼天の鷹の眼、甘く見ないでもらおうか」
 射線は合っている。
 大型ビームキャノンから発せられた光は、一機のシュバルツ・フリーゲへと向かっていく。
 敵は大げさな回避行動を取らない。
 着弾のすれすれで、ただ動力を切るようにしてふわ、っと下降して避け、
『「流れ」を読まなくてはな』
 一気にブーストを効かせて距離を詰めてくる。
 その正面に、ビームシールドを構えて他の敵機を突破したデルタ2、【バンシー】が躍り出る。
 グエナ機は機関銃の射程距離を保つために減速、すぐに狙いを定めてきた。

 【バンシー】の中から、やませはグエナに向かって通信を送る。
『この前、あなたは「守るために戦う」と言いましたよね〜? その理由、私達が地球の……自分達以外の国のことを深く考えていないとでも〜』
 ビームライフルで応戦しながら、彼女はグエナに言葉を投げかける。
『お前達が何も考えていないとは思っていない』
『でも……なら、なおさら何故寺院で活動しているのですか〜? あなたほどの腕前、そして意思の強さがあればこちら側を内部から変えていくことだって出来たはず……いいえ、これからだって出来るはずです〜!』
 彼は戦争屋ではない。ならば、こちらの考えを理解してくれるはず。
『今、この海京へ向かっている巨大なイコン。アレを見てあなたはどう思いますか? 先進国に裁きを下す神の化身ですか? 私にはただの悪魔にしか見えません〜』
 シュバルツ・フリーゲが再び後退し、戦場を見渡し始めたように見受けられた。
『あなたはコクピットから出ていた私を撃たずにイコンの機能を停止させた……私を撃てば、確実に戦力を削れたと言うのに……本当に優しい人です〜』
『小さい的を狙うのは効率が悪い、それだけだ』
 嘘だ。
 グエナの射撃精度ならば、彼女を撃ち抜くことなど容易いはず。
『グエナさん、正直に言います〜……私達と共に戦ってください〜! あの巨大なイコンだけは、どう考えても「この世に必要のない物」でしょう〜?』
 全てを見下したかのような冷めた声。
 それが、あの巨大イコンを駆る者から放たれたものだ。グエナのような人間と相容れるものとは思えない。
『この戦いが終わったら、コリマ校長にあなたの……あなたが守る人達の手助けを行えるようにお願いします、だから……少なくとも今だけは〜……』
『……言いたいことはそれだけか』
 一切の乱れがない、静かな声が返ってきた。
『お前は同じことを言われたとき、「はい分かりました」と、そう答えられるか?』
 あのイコン、マリーエンケーファーを天御柱学院上層部に置き換えて考えれば、彼の言わんとしていることは分かる。
『もし、俺「個人」ならばその申し出を受け入れたかもしれん。だが、俺の後ろには多くの仲間がいる』
 グエナの声が続く。
『俺が預かっているのは、個人の命ではない。あいつらの信念だ。皆、それぞれの理由を持ってこの戦いに臨んでいる。中にはお前達を憎み、決して相容れない考えを持つ者もいる。
 分かるか? ここで俺がその申し出を受け入れれば、そいつらの気持ちをまとめて踏みにじることになる』
『だけど……』
『あのデカブツ、あれが何かは関係ない。現実から目を逸らしていると言いたいのなら、それでもいい。そんな俺を同じ「悪」だと言うなら、俺は悪人で構わない。ただ、相反する別々の勢力に属してしまった。たったそれだけのことだ』
 それでも、と最後にグエナが言った。
『仲間として受け入れたいというのであれば、倒せ。あのイコンも、俺達も全て。最初に言ったはずだ。俺達を超え、止めてみせろと。お前達が持つ信念、そして強さを今ここで――証明してみせろ!』
 正しいか間違っているか、正義か悪か、それは重要ではない。
 守るべきもののために、自らの意思を貫き通せるかだ。
 それを訴えかけるようであり、どことなくグエナが自分自身に言い聞かせているように、やませには感じられた。

* * *


『増援か……』
 グエナはこちらへ向かってくる八機編成を確認した。
 ダークウィスパーとの三度目の戦いが始まる。