リアクション
* * * 「グエナ・ダールトン。やはりいたか」 DW―C3、【アトロポス】の中で、イングリットは敵の姿を捉えた。 チャーリー、デルタ小隊と何やら通信を飛ばしていたようだが、彼女が聞いたのは最後の部分だけだ。 ――お前達が持つ信念、そして強さを今ここで――証明してみせろ! ああそうだ。ここにいる仲間のため、自分自身の意志でお前を超えてやる。こちらを敵と言った、ならば向こうもまた「敵」だ。 『これで三度目だな、ダールトン』 『何故かな。また会うだろうとは思っていた』 やはり、相手もまた自分を覚えている。 『敵として、私達の名も覚えてもらうぞ――イングリッド・ランフォード』 『キャロライン・ランフォード、しっかりその耳に焼き付けてくださぁい』 『そして【アトロポス】、お前の運命の糸を断つ女神の名だ』 大型ビームキャノンのトリガーを引いた。 さあ、戦いを始めよう。 『ならば来い、イングリッド・ランフォード!』 グエナが部隊編成を変える。 ダークウィスパーだけでなく、周囲にはチャーリー、デルタ小隊もいる。 敵は五機編成の小隊を、学院側の小隊に対応させるように展開した。 『そしてここまで辿り着いて見せろ!』 すぐにキャロラインが同じ小隊に属するイーグリットの最適進行ルートを算出する。 (情報、送りますぅ) データはレンプンカムイを通してリアルタイムで更新される。こまめに連絡を行い、道を開く。 (行くぞ、ダールトン!) ビームキャノンをチャージしている間、ビーム式機関銃に切り換えて弾幕援護を行う。 それを受け、二機のイーグリットが前進していく。 DW―E1、【テスカトリポカ】とDW―E5、【アーベントロート】だ。 「行きますわよ!」 アンジェラとグラナートは、今回はイーグリットでの出撃だ。こちらも、敵小隊に対して上下から攻める。 「二時の方角から銃撃、来ます」 前へと攻めながらも、敵の動きはよく見なければならない。ビームライフルを構えて牽制射撃を行う。 敵の数を減らすことも必要だが、それ以上に強敵グエナ・ダールトン、また彼に随する小隊長クラスをどうにかしなくては、敵の士気をそぐことも叶わないだろう。 『私達の目標はダールトンです。まずは周りの一般兵を突破します!』 【テスカトリポカ】内部からエルフリーデが指示を出す。 ビームライフルを構え、突貫していく。ビームサーベルに比べリーチが長い分、敵の武器――機関銃を払う分には扱いやすい。 【アトロポス】からの援護はある。敵をじわじわとそいで、グエナの機体へと接近する。 『グエナ・ダールトン! 貴方が戦うべき相手、戦うべき戦場は本当にここですか!?』 ランスをグエナのシュバルツ・フリーゲに向かって投擲した。 イーグリットの最高速度からの一撃だ。だが、ダールトンはわずかな動作だけでそれを避ける。 当たるかどうか、それを確認するより早く【テスカトリポカ】はビームサーベルを引き抜いた。 グエナの理由は、前の戦いの後に知った。 ――今もなお地上でどれほどの人間が貧しさにあえぎ、虐げられ、苦しんでいるか知っているか? おそらく彼の下にいるのはそのような者達なのだろう。彼はただ、そういった仲間を守ろうとしているのだ。だが、それも彼のエゴに過ぎない。彼女はそう感じた。 『木から林檎を落としたとして、果たしてそれを拾うのはあなたの同胞でしょうか? 気付かないのですか? 貴方にそれを優しく囁いた相手がいるはずです!』 グエナへと訴えかける。 『俺の目的が単なるエゴに過ぎないことも知っている。仮に、もし違った形で……三年前のあの日より前に出会っていたとしたら、こうやって対峙することはなかったかもしれない。 だが、現実は違う。俺とお前達は敵として相対した。ならばどちらかが倒れるまえで戦うまでだ』 敵はこちらの言い分を理解してなお、敵であることを選ぶ。 『俺の後ろにいる仲間を、これ以上失うわけにはいかない。お前が仲間を守ろうとしているように、な』 その思いだけは同じだ。 グエナの機関銃の銃口が【テスカトリポカ】を捉える。 「く……!」 ビームサーベルの出力を調整し、刀身を短めにして弾丸をいなす。機体をそらして弾をかわすこともするが、 『どうした、それがお前の覚悟か?』 正確無比な銃撃は相変わらずだ。 「被弾。損傷率12%」 レプンカムイのモニターにダメージが表示される。 敵は機関銃で弾幕を張っているようで、その一撃一撃が全て機体の弱点である接合部を狙って放たれている。 これが伝説の傭兵部隊を束ねていたリーダーの実力だ。 (しかし……負けられません!) * * * 一方、天王寺小隊もグエナ率いる部隊との交戦に入った。 『行くよ、射線を合わせて……』 DW―C1、【ドラッケン】とDW―C2【ジャック】がそれぞれをカバーするように、大型ビームキャノンの照準を合わせる。 『DW―C1から天王寺小隊イーグリット全機へ。発射後、ビームに続いて突破。発射後は機関銃で援護するよ!』 沙耶が通信で指示を送る。 既に、敵はダールトンが直に動いている。あの指揮官を相手にするにはダークウィスパーだけでなく、先行して交戦していたチャーリー、デルタとの連携も必要になってくるだろう。 だが、敵の部隊は満遍なく展開されている。 この海京西方面だけで、敵は40機。対し、こちらは連携できる全機を合わせて17機。相手の実力を考えても、状況の悪さに変わりはない。 『ロックオン完了、行くよ!』 【ジャック】の中で、秋がトリガーを引いた。 位置取りとしては、【ドラッケン】と同時に撃った際、十字砲火となるような位置につく。 先制攻撃であると同時に、敵が回避しにくくするためだ。 駆動音を超感覚によって聞く。それによって、敵がどちらに避けようとするのかを予測する。 (一機、他とは違う音がする……これは) 敵部隊に飛び込んでいく、自小隊のイーグリットではない。 こちらに急接近してくる姿――剣を携えたシュメッターリングの乗り手となれば、一人しかいない。 DW―E2、【シュヴァルベ】の中でリオはその相手を見た。 タンカー護衛のときに初めて邂逅し、これで四度目だ。もう負けたくはない。 (フェル、僕は君の目と耳になる。だから、戦闘方法は全部任せる) きっと、相手もそうだったのだろう。 だからこの一ヶ月間、彼女達は互いの意思疎通の訓練を行った。それだけではなく、視界に頼らず音、そしてセンサーといったものだけで戦場を把握出来るように感覚を研ぎ澄ませもした。 (意識を広げるんだ……シュヴァルベの視点、大きさに、リオの五感に) そこだ。 エヴァン以外の機体の「流れ」を感じ、機関銃の銃弾をかわす。そしてすれ違いざまに、ビームサーベルで斬り裂く。 (センサーで捕捉してから表示までの時間、僕がそれを見て判断する時間でタイムラグが発生する……センサーの情報をもとに二歩先の行動を読むんだ!) やはり一番の判断材料は音だ。 エヴァンが近づいてくるのが分かる。だが、その前に (そこ!) 真下から迫っていたシュメッターリングを一閃する。ビームはすぐに消し、リーチの長さを悟られないようにする。 『やっぱり来ると思ってた』 『ふん、少しは「掴んだ」ようだな。十七夜 リオ』 相手はこちらを覚えていた。 『こっから先は通行止めだ! エヴァン・ロッテンマイヤー!』 『威勢がいいじゃねーか。惚れちまいそうだぜ』 『なっ……』 『冗談だ。誰が小娘なんかに惹かれっかよ。行くぞ』 通信が終わる頃には、眼前にまで迫っていた。 斬撃を繰り出すが、相手の剣によって止められる。 ブースターを逆噴射し、距離をとった上で一度ビームライフルに切り換え、牽制射撃を行う。 「ルーチェ、エヴァンを相手にしてるときはイコン戦の常識を捨てろ。あいつにそんなものは通用しない。人間を相手にしてると思って、お前自身の感覚で戦うんだ。剣の腕なら俺よりルーチェの方が上……大丈夫、兄ちゃんはお前のこと信じてるから! お前はミスをしない、俺もミスをしない。そして、トニトルスの力を信じろ。それで万事上手く行く! OK?」 エヴァン機と接触する前、DW―E3、【トニトルス】の中で和眞はルーチェにそう言った。 そして今、対峙する。 『この前の借り、返させてもらうッスよ!』 が一気にビームサーベルで斬りかかる。 『流石にいい反応ですね』 相手はそれを回避する。 だが、これはある意味予想通りと言えた。 ビームライフルでの牽制を行い、一旦距離をとる。そして、 『なら、これは……!』 サーベルをぶん投げ、それとは逆方向に加速する。 (頭部がサーベルを見た、よし) 頭部カメラの死角に入りライフルを撃ちながら接近する。 「今ッス!」 サーベルにはワイヤーが巻きついている。間合いが詰まったそのとき、一気にそれを巻き取り、サーベルを斬り上げようとする。 『違う、フェイクだ!』 【シュヴァルベ】からの通信で気付いた。 敵はこの攻撃を読んでおり、あえてサーベルに気を取られているフリをしたのだ。 『ち、気付いてやがったか』 【シュヴァルベ】によるライフルの銃撃を剣で弾き、さらに【トニトルス】の斬撃をスウェーのような形で避ける。 『やっぱり……気をつけて! エヴァンはカメラに頼ってない』 むしろ、正常な状態であるからこそ、それを囮として利用したのだ。 『イコンが見ている方向を、パイロット「二人」が見ているとは限らねーだろ』 今度はエヴァンが斬撃を繰り出す番だ。 『これがオレ達の本来の力だ』 すぐに【トニトルス】は反応する。 『へえ、剣技も上達してるじゃねーか』 一ヶ月前ならば反応出来なかっただろう。 その直後、【フレイヤ】がビームライフルで援護をしてきた。 『後ろはもうすぐ砲撃準備が整うわ。ここは三機で当たれば……』 (お姉ちゃん、何か……来る!) 剣だ。 エヴァンは剣を投擲し、すぐに加速してきた。 【フレイヤ】がビームシールドを構え、剣を受け止める。 シールドに突き刺さったかと思えば、すぐにエヴァンの機体が掴み、一気に斬り上げてくる 『何?』 だが、そこにあったのは盾だけだ。 『やああああああ!!』 盾で受け止めた瞬間、一気に下降し、敵の視界から消えていたのだ。 敵が斬り上げたそのとき、今度は敵の真下から【フレイヤ】が全速力で加速し、エヴァン機を斬る。 『ちっ!』 剣は間に合わない。 敵は状態を逸らし、回し蹴りを【フレイヤ】のサーベルを持つ腕に繰り出したのだ。 その回転を生かして剣を振るい、二方向からのビームを弾き飛ばす。 しかも今度はただ弾くだけではなく、続けざまに放たれた次弾に当てて相殺するという芸当をしてのけた。 相変わらずデタラメな戦い方だった。 『何を驚いてる? 俺を倒したいんだったら、このくらいのことはしてみろよ』 |
||