リアクション
(・エヴァン・ロッテンマイヤー)
――歌が聞こえる。
「ねえ、ボクはね、ずっと思ってたんだ。イコンはただの道具なんかじゃないって。君は……もう一人のボク。
ボクは君で、君はボク……だから……ボクは……。
ねえ、力を貸して、フォーチュン。どうかボクの見たい夢の続きを一緒に見せて!」
祠堂 朱音は願った。
「……朱音の見る夢を共に見るために頑張りましょうね。声なき声を聞かせて……」
シルフィーナ・ルクサーヌも同じように。
機晶の輝きに包まれる中で、彼女はこれまでとは異なる感覚を得た。
「……これは、なんだ? よくわからないけれど、機体が軽くなったような……?」
水鏡 和葉もまた、突然何かが変わったことに気付いた。
「違う、ボクの想像通りに、より忠実に動くようになった? まるで自分の身体を動かしているように……」
光の中で、和葉は思う。
「けれど……これなら、今まで以上の狙撃の腕をふるえる気がするよっ!」
自分の目で見ているかのように、相手の動きがよく分かる。
「……見つけた。そこだよっ!」
スナイパーライフルで敵機を撃ち抜いた。
どこを撃てばいいのか、敵が次にどこに動くかも見える。
今回も軽くあらわれた。
【ブレイク】の中で、大羽 薫は唇を噛み締めていた。
(俺は、こんなんじゃねぇ。リディアがいる、一緒に戦うみんながいる。そして……こいつが、俺の愛機、いや相棒がいる。だからこそ、負けるわけにはいかねぇ! いかねぇんだよ!)
「かおるん……」
その様子を、リディア・カンターが見つめていた。
「俺にだってなぁ……意地ってもんがあるんだよぉっ!」
そのときだった。
機体から光が発せられたのは。
「リディア、俺に力を貸してくれ! 俺とリディアと、相棒が全てをぶち壊す!」
「……うん! かおるんのためだもん、リディアもがんばる!」
【ブレイク】はダークウィスパーのイーグリットが交戦しているエヴァンの機体めがけて飛んでいく。
「もっとだ! もっともっと速く! 限界なんてぶち壊してやる!」
* * *
「ねぇ……フレイヤ、本当のあなたの力はこんなものではないのよね? 十分に引き出せないのは、やっぱり私達が未熟だからなのかしら……。
でも……今回は絶対に負けられないの。私達の海京が大変なの……だから、フレイヤ、お願い! 私達に力を貸して! あいつらを倒す力を――みんなを守る力を!」
蒼澄 雪香は【フレイヤ】に呼び掛ける。
その想いに呼応するかのように、内に秘められた力が解き放たれる。
「兄さん、機体の出力が」
「分からないけど、これならいけるッスよ」
【トニトルス】の狭霧 和眞とルーチェ・オブライエンもそれを感じていた。
それまで捉え切れなかったエヴァンの動きが見えるようになっている。
それでも相手が常識外の戦い方をするのは変わらない。
(今のこの状態で連携していけば……!)
(なんだろう、ジャックが後ろからポンっと背中を押してくれてる気がする)
光の中で、高峯 秋はそう感じた。
【ジャック】の中で光に包まれることで、自分の五感が広がり、見えざる力に後押しされている、そういうイメージがある。
(いこう、アキくん)
今はジャックを、エルノを信じ共に戦おう。
眼前の敵機を見据える。
「こうして戦争に向かうことだって、ボク達が決めたことなんだ。それがたとえ、誰かによってレールを引かれた道であったとしても……今、ボク達は貴方達を倒したい。自分達のいる『居場所』のために」
* * *
「なんだ、連中の動きが変わった?」
エヴァンは訝しげな表情を浮かべた。
敵の機体が輝きに包まれているのは見れば分かる。だが、そうなったときからこれまでとは「違って」いた。
「ん、なんだろう? この歌が聞こえ始めたときからだよね」
その音に耳を傾けるエヴァンとアンリエッタ。
「面白ぇ。そのくらいじゃなきゃ――見せてくれよ、お前達の本気ってヤツをよ」
* * *
本来の力を発揮したことにより、より自分の身体をとしてイコンを駆ることが出来るようになった。
だが、感覚の拡大をすぐに、完全にコントロールし切れるとは限らない。
(なんて、加速っ! 想像以上にじゃじゃ馬だ、この子っ!)
【シュヴァルベ】の中で十七夜 リオは悪戦苦闘していた。
ちょっと前へ出ようとしたが、元々機動性に優れた機体だ。急加速に感覚が追いつかない。
直接、その風を肌に感じる、そんな気がした。
(感度が良すぎっ! 落ち着いて、シュヴァルベ!)
フェルクレールト・フリューゲルの声が頭に響く。
(無理に押さえつけちゃ駄目だ! 力の流れを意識して)
(意識をこの子に併せて、導くパイロットバードに……そっか、パイロットってそういう意味もあるんだ)
少しずつ、感じる。
空の中に、立っている自分の姿をイメージする。
そうだ、今の【シュヴァルベ】こそが自分達なのだ。
『エヴァン!』
チャーリー小隊の【ブレイク】がエヴァンのシュメッターリングに斬りかかっていく。 エヴァンはそれを受け止め、弾こうとするが、
「チイ、抑えれねぇ」
そのまま受け流すようにして機体を傾けた。
そして、今度は彼に一矢報いるために、【フレイヤ】、【トニトルス】、【シュヴァルベ】が接近していく。
(前は彼らに任せて――)
【ドラッケン】の中で、沙耶は照準を合わせた。
相手は大型ビームキャノンの砲撃さえも斬り裂く。だが、今の、真の力を発揮した今の攻撃に対しても同様なのか。
ロックオン。
最大出力で放出する。
両腕にマウントされた砲身から放たれた二本の光条。
それが一本の光の束へと収束していき――
「――――っ!」
エヴァンが剣を振り上げた。
だが、今度は完全に斬ることが出来ない。剣を盾にするようにして、ビームの下へと下降してそれを避ける。
ビームは装甲をかすめ、一部を削り取っていた。
『エヴァン、これで決着だ!』
サーベルを展開し、斬り合いに持ち込む――ように見せかけて、腰を軸に機体を大きく回転させた。
それによって相手に向かっていくのは伸ばされた射出型ワイヤーだ。
『ワイヤーが効くかよ』
すぐに敵はそれを斬り落とす。
だが、ワイヤーに剣が当たった瞬間、
「忘れてもらっちゃ困るッスよ!」
【トニトルス】が真上からビームサーベルで斬りかかる。
『この前の右腕の借り、ここで返させてもらうッス。三位一体なんて大層なことは言えないけど……これが! 三人の力を合わせた一撃だ!」
加速し、一気に振り下ろす。
エヴァンが右手に握った実体剣を離し、機体をそらして【トニトルス】の攻撃を避けようとした。
『…………くッ!!」
エヴァン機の右腕が切断された。
だが、怯むことなく腕から一度話した剣を左手で掴み取る。
『しゃらくせぇ!』
カウンターで斬り上げようとしたその瞬間、実体剣にビームライフルから放たれた一撃が加わる。
『今よ!』
【フレイヤ】からだった。
剣は真ん中から折れる。戦いで消耗した相手の武器は、もう限界に達していたのだ。
『あああああああああ!!!』
【シュヴァルベ】が、渾身の一撃でエヴァンのシュメッターリングを薙いだ。
上半身と下半身に二分され、エヴァンのシュメッターリングは墜ちていく。
* * *
「くそ、まだだ、まだオレは……!」
堕ちゆく中、エヴァンはまだ抗おうとしていた。
奇跡的に機体のコントロールは失っていない。
「駄目だよ、もう。それに、ロッちゃんは生きなきゃ。あの子のためにも」
だが、負けた。
機体のプログラムをいじり、アンリエッタがエヴァンを機体から落とす。
「何を……!」
「爆発に巻き込まれたらどうしようもないでしょ。エネルギーが暴走しかけてる。せめてロッちゃんが着水する海上まで余波が来ない場所まで――」
万が一のことがあってはいけない。
だから、彼女はせめて自分のパートナーだけは確実に助けようとした。
「今までありがと――バイバイ」
そのまま残っているエネルギーを使い切るつもりで、加速する。
「アンリエッタぁぁぁ!!!」
海へと落下していく中、エヴァンは遠くでさっきまで自分が乗っていた機体が、一瞬の光と共に消えるのを見た。