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三つの試練 第三回 砂漠に隠されたもの

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三つの試練 第三回 砂漠に隠されたもの

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2.


 翌日。
「すっげー迫力だったなぁ!」
 金城 一騎(かねしろ・いつき)が、興奮した様子でそう口にした。
 彼は、遠野 御影(とおの・みかげ)とともに、ドバイ観光へと繰り出した口だ。
 市内観光は、基本的に自由行動だったので、とりあえず目玉らしき噴水を見に行ってきたところである。
 ドバイ・ファウンテンは、噴水の一種だが、いわゆる噴水をイメージしていくと、おそらくは愕然とするほどのスケールの代物だ。使用する水は、一度に八万三千リットル。50色を越える6000以上のライトが設置されており、千以上のパターンでパフォーマンスをすることが可能だ。噴水の水の高さが、最大で地上一五〇メートルに達するといえば、その巨大さが理解しやすいかもしれない。
 なにより、この砂漠の国で、これだけの水を使ったパフォーマンスが出来るというそのものに、どうしたって驚いてしまう。
「どうせなら、夜に見たかったけどね」
 御影は、街の風景をデジカメに収めつつ、そう答えた。
 明日は御前試合の裏方として仕事があるし、ゆっくり過ごせるのは今日くらいだ。せっかくの記念にと、御影は観光に熱心だった。
 一騎も興味津々の様子で、始終あちこちをきょろきょろと見ては、ふらふらとそちらへ行こうとするので、先ほどから御影はそんな彼を引き戻してばかりだ。なにせ、一騎が行こうとするのが、世界一のビルであったり、博物館ならばともかく、ちょっと怪しげな路地であったり、市場だったりするからだ。
「まったく……もう少し慎重に動いてくれよ」
 やれやれと御影はため息をつく。のんびりしたいと願っていても、それはなかなか儚い願いのようだ。
「けどよ、石油があるってのは、金になるんだな」
 やや歩いたところで、妙にしみじみと一騎が呟いた。
 頭ではわかっていたことだけれども、こうして目の当たりして、つくづくと思いしったというところだろう。その気持ちは、御影にも理解できた。
「まぁ、そうだな。けどそれも、永遠じゃない。だからこそ、観光に力を入れてるって話だ」
 2020年に至っても、エネルギー問題は完全な決着を見てはいない。石油と核エネルギーにとってかわるような、クリーンなエネルギーは、常に人類の夢だ。
「だからこそ、パラミタへの希望もあるわけで……っと」
 御影がそう続けようとしたところで、彼の視界に、一軒の書店が入ってきた。どうやら、かなり巨大な本屋らしく、ビルの数階がまるまる書店部分になっているようだ。
「あー……」
 途端に目を輝かせる御影と対照的に、一騎は肩をすくめた。もともと、歴史書の類を欲しがっていた御影だ。こうなったら、しばらくはここから動きはしないだろう。
(しょーがねー、翻訳マンガのコーナーでも探すか)
 そう思いながら、意気揚々と本屋に向かう御影の後ろを追う一騎は、ふと見覚えのある人物を見つけ、足を止めた。
(あれ、たしか教導団のおっさんだったよな……。ひとりで何してんだろ?)
「一騎?」
「悪ぃ、すぐ行くから、ちょっと本屋で待っててくれ」
「……だめだ」
 またろくでもない場所にすっとんでいこうとしてるんじゃないだろうな、と御影の眉間にしわが寄る。
「いや、別に、すぐだって」
 一騎はそう抵抗するが、御影は聞く耳もたず、半ば強引に書店へと引きずっていったのだった。



「ほう。これが水煙草の器具ですか。美しいですね」
 アーケードのように、木製の天井がついた直線の通路の左右に、天井まで届くほどの商品を並べた店がずらりと並んでいる。スークと呼ばれる、市井の市場だ。その店先で、のんびりと店主と言葉を交わしていたのは、魯粛 子敬(ろしゅく・しけい)だ。
 どうやらここは香辛料がメインの市場らしく、様々な香りが混じった、不思議な匂いが立ちこめている。
 子敬の契約者であるトマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)は、今日はヤシュブを尋ねに行くといい、別行動をしていた。
 トマスがイエニチェリを目指すと言い出したときには、全くどうなることかと思ったが、どうにかそれについては諦めてくれたようで、内心子敬は安堵を禁じ得なかった。おかげで白髪が増えたくらいだ。
 様々なことに興味をもち、探求することそのものは素晴らしいのだが、かといって教導団を抜けるようなことになるのは、やはり困る。
「こちらは、いかがですか? 王族も使っているという特別な一品ですよ!」
 店主がにこやかにそう薦めてくるが、王族が云々というのはでたらめだろう。まぁ、こういった市場では、一種のお約束のようなものだ。
「ほほぅ、それは素晴らしいです」
 にこにことそれに答えながら、子敬はのらりくらりと会話を続ける。そのうち、トマスに似合うかとも思い、金細工を一つばかり買い求めた。もちろん、値段交渉はした上で、だ。
「……ところであんた、パラミタの人なのかい?」
 買い物を終えて、一杯の茶をすすめてきた店主が、やや声を潜めて尋ねてきた。
「ええ、そうですが」
「見張られてるみたいだよ。気をつけな」
 それだけを言うと、店主はまたぱっと笑顔になり、「良い買い物をなさった! アラーアクバル!」と子敬の肩を叩いていった。
(やはり……なにかあるようですね……)
 トマスの身に危険がなければよいのだけれども。子敬はそう思いながら、出された茶をそっと飲み干した。