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パラ実占領計画(最終回)

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パラ実占領計画(最終回)

リアクション

 ガイアと種モミの塔を目指していた吉永 竜司(よしなが・りゅうじ)だったが、途中で合流した高崎 悠司(たかさき・ゆうじ)により、戦いの場がヒラニプラのほうに移ったことを知り、急遽方向転換をした。
 ガイアの手のひらに乗って移動する間、竜司はやや機嫌が良かった。
 ガイアが正気に戻ったからだ。
「オレの超上手い歌のおかげだな!」
「歌……?」
 詳細を聞いた悠司は疑問を感じたが、わざわざ言うことはしなかった。
 竜司はガイアを見上げて尋ねた。
「レンと決着をつけに行くのか?」
「それもある……が、その前に、パラ実のみんなに謝りたい。許されるとは思わないが」
「そうか」
 竜司は賛成も反対もしなかった。
 彼にとっては、これからガイアが何をするにしても、彼女がダチであることに変わりはない。これは、ガイアの問題だ。
 それなら竜司は、ガイアが思うまま動けるように手伝うだけだった。そのための懸念への手も打ってある。
 それにしても、とガイアを見上げながら竜司はまったく別のことを考えていた。
 ガイアはどんな顔なのか?
 相変わらず巨大すぎてわからない。
 身を乗り出してもっとよく見てみようとした時、
「見えた」
 と、悠司が前方を指差したため、竜司は姿勢を戻して状況を把握することに努めた。

 時々、ロケット組の仲間に助けられながら走る良雄の耳に、レンの声が聞こえてきた。
「まずいっス! ミンチにされるっス!」
 何で自分がこんな目に、と思いつつも、捕まったら終わりなので必死に足を動かす。
 さらに、レン達の足音の他にもっと重い足音も加わり、恐怖のあまり良雄は振り向くことができなかった。
「バレンタインのアピールとか、どうしてそんなこと思ったんスかね!?」
 石原校長の配下に囁かれたことを、いまだに自分のひらめきだと思い込んでいる。
 重い足音がどんどん近づいてきた時、聞き覚えのある声を捉えた。
「良雄ォ! もっと走れェ! 食い止めてやらァ!」
 思わず振り向いた良雄の目に、ガイアとその手のひらの上から呼びかけている竜司の姿が映る。
「先輩!」
 当然レンも気づいたが、良雄捕縛を優先したため振り向きもしない。
 しかし、身長百メートル超の走りに敵うわけもなく、レン達はガイアに行く手を阻まれてしまった。
 これ幸いと良雄は走った。
 地上に降りた竜司と悠司がガイアの両脇に立つ。
「オレはいつでもいいぜ」
 ガイアを見上げて言った竜司に頷くと、彼女はレンを見下ろして話し始めた。
「……レン、オレはこれ以上パラ実を裏切れない」
 レンはガイアと目が合った時からそう言われることをわかっていたかのように、ニヤリと笑う。
「お前は四天王狩りにも消極的だったしな、そんなとこだろうと思ってたさ。だが、いいのか? オレはまだお前の妹のための治療費を払ってるんだが……? 難しい病だ、今、病院から放り出されたら困るだろう」
「それでも……だ」
「己のために妹を見殺しにするというわけか」
「……」
 ガイアの拳がきつく握り締められる。
 彼女がどんな顔をしているのかうかがうことはできないが、全身から滲み出る悔しさで簡単に想像がつく。
 竜司は、とうとう我慢ならなくなって口を挟んだ。
「関係ねぇ妹を巻き込むのもたいがいにしろよ。ガイア、妹の治療費くらい、オレ達のカンパでどうとでもしてやる。お前は、オレ達の仲間だろ!」
 心強い言葉にガイアは泣きそうな顔で小さく笑みを浮かべていたのだが、地上からでは彼女の表情を見ることはできなかった。
 実際、竜司の案で治療費がどうにかなるかわからないところだが、ガイアは心からの感謝と決意をこめてレンにきっぱりと決別を告げた。
「お前とは、もう関係ない」
「そうかい。まあいいけどな。ふつうならここで制裁といきたいが、そいつは後回しだ。苦しむ妹と一緒に待ってろ」
「あー、それは困るんだ。てめーを行かせるわけにはいかねぇんだよ」
 レンを見据える悠司。
 鞘に収めたままの刀を担ぎ、やる気なさそうな口調で、けれど人を小馬鹿にしたような目で言う。
「レン坊ちゃんは、仲間とてきとーに遊んでりゃよかったんだよ。必死で親父に認められようとして、挙句の果てに親父の部下に助けてもらっても勝てず、親父も失ってるようじゃ、まあ、親バカの親父さんも浮かばれないねぇ」
「言ってくれるじゃねぇか。だが、あんなジジイはどうでもいいんだよ。あのジジイは俺を利用する。俺もあいつを利用する──テコの原理ってやつだ」
 大真面目にレンは言ったが、悠司は内心で首を傾げた。面倒くさいので言わないが。
 レンは金属バットを悠司に突きつけた。
「俺は、遊びも本気でやる。煽ったんだ、付き合えよ」
「しょうがねぇな」
 と、そこにレンについてきていたハスターが、彼を守るように壁となった。
 竜司が血煙爪に手をかける。
「そう来ると思ったぜ。高崎、あいつらは任せろ」
「任せた」
 言いつつ、悠司は竜司に僥倖のフラワシを降ろす。少しでも有利になるように。
 竜司は雄叫びを上げると同時に荒ぶる力を発動させると、うなる血煙爪を振り上げて突進した。
 ハスターもスウェーやドラゴンアーツを駆使して対抗する。
 囲むようにやって来るハスターに、竜司は足止めとして連れてきた武者人形とヤンキーを使った。
 血煙爪と棍棒がぶつかり、火花を散らす。
 力比べになった。
 竜司に殺到するハスターを潜り抜け、栄光の刀でレンに斬りつける悠司。
 レンは斬撃をバットで弾き、甲高い音を響かせて攻防が続く。
 が、レンがうまく刀の軌道を横にそらし、悠司のあいた胴を強く突いた。
 後ろに飛ばされ、手を着いた悠司は、すかさずその手に砂を握り締めてレンに投げつける。
「クッ……!」
 とっさに手でかばったが少し目に入ったのだろうか、悠司が接近しないようにメチャクチャにバットを振り回した。
 チャンス、と悠司はもう一体の僥倖のフラワシを降ろす。
 とたん、レンは地面から突き出ていた小石に足を取られてバランスを崩した。
 悠司は強く地を蹴ってレンの死角から斬りつけようとした。
 ところが、バランスを崩したついでにバットがレンの手からすっぽ抜けて、悠司の頭に直撃してしまった。
 目から火花とはこのことか。
 悠司は額を押さえ、ふらつく足を叱咤して、とにかくレンから離れた。
 レンはというと、まだ目が痛むようだが視界は取り戻したようで、転がったバットに飛びつき、悠司をぶん殴ろうと睨みつけている。
 その時、ガイアが悠司を拾い上げた。
 次はお前か、と好戦的な笑みでガイアを見上げるレン。
 ガイアは鋭い視線を返した。
 レンがバットを構え、ガイアが拳を振り上げた時、両者の間に小型飛空艇が滑り込んできて、あっという間にレンを連れ去ってしまった。
 小型飛空艇はガイアの周りを一周すると、ロケット打ち上げ場のほうへ飛んでいく。
「追いかけろ!」
 誰が叫んだかわからないが、喧嘩は一時中断して彼らはすぐに走り出した。
 この時、振り返った竜司は、偶然にもガイアの顔を見ることができた。
 ハスター相手に暴れているうちに距離があいたため、やや斜め下からだったが見えたのだ。
(あれは、進●の巨人……! いや、そこまで凄くねぇか)
 第一印象はそんな感じだった。
 少なくとも美少女顔やアイドル顔でないことはハッキリした。

 その頃、ガイアの妹が入院している病院では。
 上永吉 蓮子(かみながよし・れんこ)が妹の病室に来ていた。
 ガイアがレンと手を切ることで、万が一妹に危害が加えられることを案じた竜司が使わしたのである。
 蓮子は妹を怖がらせないように、かわいい感じの服装で病室を訪れていた。
 竜司達がレン達と喧嘩を始めたことは精神感応により知っていた。
 そのため、明るく会話をしながらも周囲への警戒を強めていた。
 しかし、今のところ不穏な気配は感じられない。
「おねえちゃん、あやとり、しよう」
「ああ、いいよ。私に勝てるかな?」
「ふふふ……がんばるよー」
 少女が枕元から毛糸を取り出している間に、蓮子は後ろの窓から外をうかがう。
(特に何もなし、か。この子も竜司のダチだ。それなら私のダチでもある。……そうだよな?)
「おねえちゃん、やろう」
 少女の呼ぶ声に、蓮子は彼女に向き直って笑顔を見せた。


 小型飛空艇でレンを連れ去ったのは白津 竜造(しらつ・りゅうぞう)だった。
「てめぇは何であんなところで油売ってんだよ。標的は良雄だろ?」
「俺と遊びたいって奴がいたんだよ。ともかく、お前が来てくれたのはラッキーだった」
 これで楽に良雄に追いつける、と続けるレン。
 それから彼は竜造に尋ねた。
「そういやお前はいいのか? またあの女と戦いたいんじゃねぇの?」
 竜造はわずかに目を細め、どこか憧れるような楽しむような、同時に獰猛な笑みを薄く浮かべる。
 あの女とは牛皮消アルコリアのことだ。
「あれはいい女だった。圧倒的な力、存在感、何より狂気が、これまで相手してきたどんな奴よりもよかった。名前ぐらい聞いとけばよかったな」
 くつくつと笑う竜造に、
「物好きなやつだ」
 と、レンはやや呆れたように返した。

 大和田は配下を連れてすぐにレンを追いかけた。
 レンを連れ去った者のことは敵ではないと知っていたので、そういう心配はしていなかったが、蓮田組の大事な息子としてはとても心配だった。
 良雄の周りには味方が大勢いるのだ。
 小型飛空艇の位置を確認しながら岩場を走る大和田の足が、急遽止まる。
「待て!」
 配下に鋭い制止の声をあげたが急には止まれなかった。
 大和田より数歩飛び出した配下の足を、光弾が貫いた。
 うずくまる彼に駆け寄ろうとした時、強い殺気が刃のように迫った。
 反射的にドスを突き出すと、甲高い金属音を立てて櫛状の短剣がぶつかってきた。
 溝にはまっていた刃を折られる前に、大和田は素早くドスを引く。
 ソードブレイカーの主、ネル・マイヤーズ(ねる・まいやーず)は休むことなく切っ先を繰り出した。
 応戦する大和田は、内心で舌打ちする。
 これではレンのもとへ行けない。
 それに、先ほどから断続的に来る不自然な眠気は何なのか。
 おまけに時々体に奇妙な抵抗力を感じる。
 大和田は集中力を乱されていた。
 彼がそう感じる原因を作っていたのは、斎藤 邦彦(さいとう・くにひこ)だった。
 大和田の配下の足を撃ちぬいたのも彼の曙光銃エルドリッジだし、原因不明の眠気や体の鈍さはヒプノシスやサイコキネシスを仕掛けているせいだ。
 大和田も何となくそれに気づいていたが、ネルの猛攻のために邦彦にまで手が回せなかった。
 一方邦彦は、超能力攻撃に耐える大和田に、自身と同じプロ意識を感じずにはいられなかった。
「さすがに不良達とは違うな……」
 宇宙やら人面ロケットやらのことはパラ実生に任せ、邦彦はレンを必ず手助けするだろう大和田の足止めに専念することにした。
 それを話したら、ネルも賛成してくれた。
 倒せるものなら倒したいが、一番の目的は大和田を抑えることだ。
 そのため、ネルも無茶な攻撃はしていない。
 その時、大和田が配下に邦彦を潰すように指示を出した。
 邦彦は向かってくるヤクザ達に銃を向け、そしてネルを援護できなくなった代わりに、隠しておいた機晶犬を差し向けた。
「ちょっと予定が狂ったがな」
 本当なら自分とネルと機晶犬で波状攻撃を仕掛けるはずだった。
 そして自分は迫るヤクザ達に意識を集中させた時、思いがけない援軍が現れた。
「私も、ご一緒しましょう」
 ふだんはツインテールの銀色の髪を下ろし、どこか愛想のない雰囲気だったのに何があったのかやわらかな微笑みを浮かべているシーマ・スプレイグ(しーま・すぷれいぐ)である。
 握られた水晶でてきた剣が陽光を透明に反射させる。
 シーマとは、こんな人物だったかと邦彦はおぼろな記憶をあさったが、引っかかるものは出てこなかった。
 困惑を感じ取ったのか、彼女は悪戯が成功したように楽しげな声をあげた。
「私……じゃなかった。僕はシーマ。シーマ・スプレイグだよ。……ふふ」
 別人だ、と確信するしかない。
 事実、このシーマはシーマであってシーマではない。奈落人のアコナイト・アノニマス(あこないと・あのにます)が憑依したシーマだった。
 その証拠に、シーマの金色の瞳が青色に変わっている。
 シーマはヤクザ達に向き直ると、
「痛みを、分け合いましょう」
 静かに言葉を残して駆け出した。
 ヤクザの振り下ろした警棒とシーマのシュトラールが、耳障りな音を立ててぶつかり合う。
 オートガードを張っているにも関わらず、かすかに走った手のしびれに、アコナイトは悦ぶ。
「嬉しい……奈落の底から来た甲斐がありました」
「奇妙な奴だ」
 ヤクザに呟かれた言葉も褒め言葉に聞こえてしまう。
 力比べから一転、お互いを弾き飛ばすように大きく距離を開けた時、別のヤクザがシーマに発砲した。
 銃弾は確かにシーマの頭を撃ち抜いたはずなのに、微動だにしない彼女。
「残念、映像です」
 背後からの声に、警棒のヤクザはとっさに反応し、斬られることからは逃れたが警棒は使い物にならなくなった。
 メモリープロジェクターにより映像を撃たされたヤクザの銃は、邦彦の光弾が弾き飛ばしていた。
 だからと言って彼らが戦いを諦めたわけもなく、まだ無傷のヤクザもいる。
 それでもシーマの口元の笑みは揺るがなかった。