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パラ実占領計画(最終回)

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パラ実占領計画(最終回)

リアクション

 目的の人工衛星まで少し時間があるということで、ロケット内の面々はしばらく宇宙旅行を楽しむことにした。
 窓の向こうの宇宙空間を眺めていた目を良雄へ向けたウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)が、大学受験を目指す彼を自らが所属する学部へ誘う。
「その気があるなら、空京大学考古学部の特別入試に招待しましょう」
「特別入試っスか?」
 良雄は推薦入学くらいに考えていた。
「リドルとトラップが仕掛けられたテストダンジョンの走破です。考古学者は、遺跡の深層部へ潜って史料を取ってこないといけない時がありますからね」
 さらりと告げられた内容に、良雄の笑顔が引きつる。
 参考書を見てもさっぱりわからない以上、実技試験があるならそれで点数を稼がなければならないのだが。
 緊張した顔で良雄はウィングに試験内容についてもう少し詳しく聞く。
「あの、リドルとトラップって、いくつくらいあるんスか……?」
「いくつ、と数を言うのは難しいですね」
 涼しい表情で教えられた答えに、良雄は一歩引く。複雑で過酷なダンジョンのどこかに、自分の骨が見えた気がした。
「むむむむむ無理っス! ふつうに受験するっス! 可能性低いっスけど!」
 自分で言って良雄はひどく落ち込んだ。
 【愛と正義の突撃魔法少女リリカルあおい】に変身して乗り込んでいた秋月 葵(あきづき・あおい)は、一緒に連れてきた横山ミツエ(よこやま・みつえ)と一つの窓から興味津々に外の様子を眺めている。
「本当に地球って青いんだね〜♪」
「きれいなものね……日本は見えないわね」
 二人の頭の中からは人工衛星破壊の目的など、スカッとなくなっていた。
 目をキラキラさせるあおいの口元の嬉しそうな笑みは消えることがない。
「一度は宇宙に行ってみたいって思ってたけど、本当にこんなチャンスが来るなんて思ってもみなかったよ」
「あの校長、なかなか侮れないわね」
 その校長からの依頼を忘れているのは、この二人だけではない。
 隣の窓からもアレフティナ・ストルイピン(あれふてぃな・すとるいぴん)の興奮した声が聞こえてくる。
「私も宇宙に来れるなんて夢にも思ってませんでした! お二人ももちろん初めてなんですよね?」
 もちろん、と声をそろえるあおいとミツエ。
 三人は会話を交わすものの、視線は外に釘付けだ。
「ここは、考えていたよりずっと暗くて少し怖いですけど、地球を見るとホッとします」
 アレフティナは誰にともなく呟いた。
 彼の横では、先ほどからずっと泉 椿(いずみ・つばき)がデジタルビデオカメラで外を撮影していた。
 アレフティナの言葉に反応したわけではなさそうだが、椿は「きれーだな」と、ぽつりと言った。
「どこまでも星が広がってる……。何で宇宙に来てまで人間同士で戦わなきゃなんねぇんだよ。細けぇことはいいじゃねぇか」
 寂しそうな声に、アレフティナはどう返すべきかわからず、黙って聞いていた。
 と、沈みかけた空気を払拭するように、椿が明るく言う。
「なあ、宇宙って、星の王子様がいるんだろ? どのへんかな?」
「え、ええ!? ほ、星の王子様ですか? えーとえーと……」
「あれじゃないかな?」
 あたふたするアレフティナと、適当に目に入った星を指差すあおい。
「あっちにもいるかもしれないぞ」
 ひょいと現れて、あおい同様適当な方を示すスレヴィ・ユシライネン(すれう゛ぃ・ゆしらいねん)
「たくさんいたら選ぶの大変だな」
「う〜ん……顔と心がきれーな人がいいなあ」
 真面目に考え込む椿に、スレヴィは思わず笑みがもれた。彼としては軽い気持ちで言ったからだ。
 その時、何かを思い出したように椿が「あ」と顔をあげた。
「父ちゃんも星になってるんだった……。忘れたら怒られちまうな」
 父親の星を探すように、椿の瞳が揺れる。
「……そうか。星の王子様が泉に交際申し込んでも、星の王様になった父親が認めるかどうかが問題なんだな」
「かわいい娘を巡る宇宙規模の争いかぁ」
「大事な娘の将来を左右するかもしれない相手だから、父親としては見る目は厳しくなるよなぁ」
「ヘンな星のヘンな王子様じゃ不安だもんね」
「でも、今いるところの男がつまらない奴ばっかりだったら、宇宙に飛び出すのも手だと思うわ」
 頷きあうスレヴィとあおいに、さらにミツエのアグレッシブな意見が加わり、椿の恋愛事情が勝手におおごとになっていく。
 アレフティナはおろおろしながらその様子を見守る。
「おまえら……あたしで遊んでるだろ……」
 椿は、いっとき感じた寂しさを忘れて盛り上がっている三人へ呆れの目を向けた後、気の抜けたような微笑みを浮かべた。
 その時、トントンとマイクを弾くような音が船内に響いた。
「そう言えば、菊がライブやるって言ってたわね」
 弁天屋 菊(べんてんや・きく)が企画した宇宙ライブのことは、彼女の知り合いの耳にはだいたい届いている。
 マイクが入ったということは、ヒラニプラと放送の交渉にあたっていたガガ・ギギ(がが・ぎぎ)がうまく話しをまとめてくれたのだろう。
 不意にスレヴィが悪戯を思いついた子供のような笑顔でミツエに言った。
「なあ、ここから何か宣言してみたら? 宇宙から何か言うなんてアスコルド大帝もびっくりだと思うよ」
 ミツエはフンと鼻を鳴らすと、マイクの調子を合わせている菊のところへ行き、少しだけそれを貸してくれないかと頼んだ。

 ヒラニプラのある民間放送局。
 ガガの持ち込んだ『四十八星華メンバーによる宇宙ライブ』の企画に興味を示した局が、放映を請け負ってくれた。
 放映権や視聴料ことも話した。
 目的が単に自分達のためだけのライブではないことも気に入ったようだ。
 映像や音声は佐野誠一やビリーと連携してガガが調整している。
 船内の今の様子などが送られてきていた。
 局でもすでに緊急ライブとして、この映像をシャンバラ各地に発信している。
 その時、突然ミツエの声が流れてきた。

「宇宙まで連れてきたら、あたしが『地球はあたしのもの宣言』とかすると思ってるの? 『この青い星がすべてあたしのもの』とか『朕に跪く六十億の民を見下ろすのは最高の気分ね!』なんて、言うわけないでしょ! 言うまでもなく天下はあたしのものなんだから!」

 カメラがマイク片手にふんぞり返っているミツエを捉えた。
 ガガは、後ろの局員へぎこちない動きで振り返る。
「全部、流れちゃったかねぇ?」
「ええ……全部、流れましたね」
 局員は何とも言えない顔で答えた。
 しばらく気まずい沈黙が流れたが、何かを思い出したことで立ち直った局員が、ガガに一つの楽譜を渡した。
「種モミ女学院の校歌が送られてきたんです。菊さんと卑弥呼さんに歌っていただけませんか?」
「いったい誰が?」
 目を丸くするガガに、局員は困り顔で肩をすくめる。
「誰だかわからないのですよ。でも、ちょっと良さそうな曲なんです」
 楽譜に目を落としたガガは、ふぅん、ともらす。
 タイトルは『千の種になって』。
 何かのパクリのようなタイトルだ。
 歌うかどうかの判断は菊に任せることにして、ガガはそれをビリーへ送った。

 ロケットでは、ミツエの演説を聞いたスレヴィが爆笑していた。
 何がおかしいのよ、とミツエに怒られているが笑いがやむことはない。
 が、その笑い声も、菊と親魏倭王 卑弥呼(しんぎわおう・ひみこ)の歌声にかき消される。
「宇宙ライブなんて、あたしらが史上初だと嬉しいな」
 菊の挨拶が始まった。
「これから戦いに行く仲間達に、精一杯応援の歌を贈るよ。地球に戻るまで喉が枯れても歌い続けるから、おまえらもきっちり勤め果たしてこいよ!」
 アップテンポなイントロで始まったのは、驚きの歌。
 用意した即席ステージの周りに集まった者達の士気が高まっていく。
 菊と卑弥呼は、声を重ね、あるいは絶妙なハーモニーを生み出し、曲を歌い上げていく。
 これが四十八星華としてのデビューとなる卑弥呼は、菊と一緒に舞台に立てることに震えるほどの喜びを感じていた。
 ここにいるみんなを応援するのはもちろんだが、何より想い人である董卓に、歌声とそこにこめられた気持ちが届いてほしいと願っている。
(ナラカの底にいる董卓さま……)
 実は董卓はナラカではなく、別のところで赤いイコンに乗ってシ●アを気取っていたりするのだが、この時はそんなことは誰も知るはずもない。
 菊と卑弥呼に合わせて一緒に歌う者もいれば、後ろのほうで盛り上がっている様子を楽しむ者もいる。
 そんな彼らの中には、菊が用意した細巻きの海苔巻きを手にしている人もいた。
 それは米の代わりにパラミタトウモロコシを使った代用寿司だ。
 四十八星華のライブを初めて間近で見た良雄が、目はステージに釘付けのままそれを口に運ぶ。
「……ッ!」
 何とも言えない味だった。未知の味、とでも言おうか。
 ヘンな顔をしている良雄にウィングが、
「どうしました?」
 と、やや心配そうに尋ねる。
 そんな彼に良雄は黙ってもう一つの海苔巻きを差し出した。
 何となく好奇心のままにそれを食べ……。
 ウィングはコメントを控えた。
 その横ではアレフティナがおいしそうに食べている。
 パラコシを主食としているゆる族には、おいしいと感じる味なのだろう。
 地上のガガから『千の種になって』を受け取っていた菊は、ついでだからと歌ってみた。
 この宇宙ライブは大反響を呼んだ。
 後日、イリヤ分校に一台のバイオエタノール精製機が届けられる。
 これはガガのいた放送局が、このライブを荒野の恵まれない人達のためのチャリティーと勘違いしていたことが原因だったりする。
 つまり、放映権や視聴料は菊のもとに入らなかったが、代わりに精製機が送られたのだ。
 届け先がイリヤ分校だったのは、菊がそこに所属しているからだ。

 ロケットに設置されている座席で、ぎこちなく身じろぎするベアトリクス・シュヴァルツバルト(べあとりくす・しゅう゛ぁるつばると)
 これでもだいぶ落ち着きを取り戻したほうだ。
 ライブ用に照明を落とした船内のステージはまるでお祭りのように賑やかだが、この隅のほうの席は少し静かだ。
 みんながステージに注目しているため、誰もベアトリクスの様子に気づかない。
 そのほうがありがたい。
 と、ゆっくり息を吐き出した矢先に、隣の支倉 遥(はせくら・はるか)の手が伸ばされ、ベアトリクスの手に重ねられた。
 息を飲み、肩を揺らす彼をおもしろがるように、小さく笑みをこぼす遥。
 恨みがましい視線を向けてもそれはかえって逆効果で、遥の笑みは深くなるばかりだった。
 こんなにもベアトリクスの心が掻き乱されているのは、ライブが盛り上がった頃の出来事による。
 薄暗くなった船内と満ちる歌声を盾に、遥は不意にベアトリクスを引き寄せて告げた。
「キミに『剣の花嫁』じゃなく、『オレだけの花嫁』になってほしいんだ」
 唐突な告白に目を丸くするベアトリクスに、触れるような口づけを落とす。
 みるみる頬を赤くしていく様は、薄暗がりでも充分にわかった。
「こ、こ、こ、こんなところで……ッ」
「まあまあ。あんまり大声出すとヘンに思われるぜ」
 遥は別に見られても気にしないが、ベアトリクスはとっさに口を押さえた。
 ベアトリクスにとって遥は、いつも自分を振り回したり驚かせたり、ある意味退屈しない存在だった。
 けれど、それ以上はないと思っていた。こちらがどう思っていようとも。
 自身の容姿からくるコンプレックス故に自分から言う勇気もなく、半ば諦めていた時の不意打ちの告白だった。
「オレの法螺や奇行に付き合ってくれるキミが愛し」
「待った!」
 むぎゅっ、とかなり強い力でベアトリクスの手が遥の口を押さえつけ、台詞を遮る。
 けれど、止められた言葉の先はしっかり目が語っていた。
 遥はベアトリクスの手を離すとそっと握りこみ、しばらくの間、何も言わずにそのぬくもりだけを感じていた。

 七瀬 歩(ななせ・あゆむ)がロケットに乗ったのは、人工衛星となった蓮田組前組長を破壊するためではない。
 良雄と共にロケット打ち上げ場に向かっていた時、レンは前組長と本当の親子ではないということは本人の口から言われたことだったが、だからといって、そこには何の情も通っていないとは思えなかった。
 できれば、まずは話し合いを……。
 誰に打ち明けよう、とさまよう歩の目に止まったのは姫宮 和希(ひめみや・かずき)だった。
 ライブを楽しんでいるところを悪いなと思いつつも、人工衛星を捉えた後では遅いのだ。
「和希さん」
「うん? どうした?」
 ちょっとお話が、と言うと和希は嫌な顔もせず頷いて歩が指差すほうへついていく。
「あのね、聞きたいことがあるんだけど。人工衛星を破壊したら、その後はどうするの? その、レンくんのお父さんのこと」
「いや、特にどうもしねぇけど」
「殺しちゃったりとか……」
 和希はきょとんとして目を丸くした後、クスクス笑い出した。
「おまえ、過激だなぁ! まずはパラ実への攻撃をやめてくれって言うつもりだ。校長との因縁も聞きたいし、話の内容次第では別の解決方法がねぇか考えるぜ。確か、椿もそんなこと言ってたな」
「そ、そうだったんだ……よかったぁ」
 和希は安堵する歩の肩をポンと叩く。
「何とかできるよう、がんばろうぜ」
 歩が頷いた時、誠一が目標が見えたことを告げた。