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続・冥界急行ナラカエクスプレス(第1回/第3回)

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続・冥界急行ナラカエクスプレス(第1回/第3回)
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第3章 ゴーストライダー・イン・ザ・スカイ【2】



 ナラカエクスプレス。
 九条 風天(くじょう・ふうてん)は先頭車両の屋根で、迫り来るゴーストライダーの群れを見つめる。
 青鋼の全身鎧を纏い鋭い槍を持つ彼ら。颯爽とゾンビ馬を駆るさまはナラカの勇士と呼ぶにふさわしいだろう。
「どんな理由があるのか知りませんが、無抵抗の街ひとつ潰すとは随分とナメた事をしてくれるではないですか」
 その背には白絹 セレナ(しらきぬ・せれな)坂崎 今宵(さかざき・こよい)の姿もある。
「悪鬼外道、誅滅すべしの信念の元。犯人一派を叩き潰し、存分に苦汁を舐めさせ、代償を支払わせてやりましょう」
「まぁ、罪も無い一般人を一方的に殺戮したのだ。犯人は相応の報いを与えられるべきだろう」
「殿。準備は万全です。何時でも出られます」
 風天は頷き、三人は出撃する。
 先頭をきるのはセレナ。光る箒に乗って高く上昇すると、掌に焔の魔力を収束させた。
「将を射んとするなら何とやらだ。ゾンビ馬なら良く燃えるだろう」
 戦いの始まりをファイアストームの業火が告げた。
 渦を巻いて大地を焼き払う炎をゴーストライダーの一団は左右に回避。
 そこに、左に回り込んだ小型飛空艇ヘリファルテを駆る風天が攻撃を仕掛ける。
「狙うは馬の足……」
 地面すれすれに飛空艇を走らせ、海神の刀を抜き払う。
 刃にライトブリンガーを纏わせると、加速と共に疾風突きを繰り出した。
 しかし、騎兵の槍捌きに流され、あてどもなく虚空を断ち斬る。
「なに……!?」
 間をおかず、反撃の無慈悲な槍が放たれる。
 風天は受太刀で攻撃をいなし、返す刀で再び間合いをとった。
武器の技量はボクが8:2で上回り……、騎乗戦闘技術はそちらが3:7で上回る、か……
「…………」
 ゴーストライダーが槍を構えると、背中に控える仲間とともに突撃を仕掛けてきた。
「数の上では向こうが有利、地の利も向こうにある……慎重に作戦を立てていて正解でしたね」
 その瞬間、一条の閃光が騎兵を貫いた。
 小型飛空艇ヴォルケーノを駆る今宵が挟み撃ちにするようにこちらへ走る。
「殿! ここは私にお任せくださいませっ!」
 曙光銃エルドリッジによるクロスファイア、流星のごとき光線が背後から騎兵を撃つ。
 銃痕からは正体不明の紫煙が噴き出た。狙い通り光輝属性は効果的らしい、次々に騎兵は失速し転倒していく。
 風天と対峙していた騎兵も奇襲に戸惑ったのか、暴れるゾンビ馬をなだめるのに気を取られた。
「斬り捨て御免!」
「……っ!?」
 神速の抜刀術。刃が閃くと同時に一文字が走り、ドス黒い血が吹き上がった。
「成敗っ!」
 今度こそ疾風突きは正中を捕らえ、騎兵は馬から放り出された。
「ご無事ですか、殿!?」
「ええ、助かりました。この調子で先頭車両の防衛に努めましょう。敵は多い、各個撃破を心得ましょう」
 動力集中方式を採用したナラカエクスプレスは、先頭車両に『操縦室』と『動力部』が搭載されている。
 言わばここは列車の脳と心臓。ここが破壊されることは列車の死を意味する。
「攻めてきたんですか!?」
「そのようよ。元校長の車両も襲撃を受けたってさ。あの騎兵隊結構機動性があるみたいね……!」
 火村 加夜(ひむら・かや)緋ノ神 紅凛(ひのかみ・こうりん)は先頭車両に向かって走っていた。
「またカンナさんを狙うなんて……」
「おい落ち着きなよ」
「だって、カンナさんを時間稼ぎに殺したりする人達なんですよ! 人の命を何だと思っているんですか!」
「……どうとも思ってないのよ。連中は」
 先頭車両との連結部に辿り着いた。
 ところが、先頭車両に通じる扉は開かない。
「ちょ、なんで開かないのよ!」
「そう言えば、トリニティさんが前に言ってたような気がします……」
「なんて?」
「先頭車両は機密だから誰も入れないようにしてるって」
「くそ……、じゃあ屋根の上に行くしかないわね」
 そう言って、紅凛がヘリに手をかけようとすると不思議な力で弾かれた。
「っ!」
「ど、どうしたんですか?」
「なんか今、バチッて。バチっていった。静電気かしら、むかつく」
 無論、静電気ではない。ナラカエクスプレスのセキュリティシステムが作動したのだ。
 このシステムは無賃乗車防止のシステム。乗車券なしに降車しようとすると発動する。連結部は(むき出しとは言え)乗客も行ける範囲だが、屋根は流石に外部と判断される。乗車券『Naraca』なしには行けない。
 そして、ビジネスライクな彼女がその許可を出すことはまずないだろう。
「もしかして、紅凛さん……」
「うん……、忘れちゃった……」
 そうこうしてると、連結部の両際にゴーストライダーが並んだ。
「こ、ここは危ないです!」
 連結部は猫の額ほどの空間。格好の的である。
 その上、最悪なことに紅凛は乗車券がないから屋根に逃げることもできない。
「な、なめるんじゃないわよ!」
 拳にはめたセスタスから遠当てを放つ。
 しかし、車両に挟まれたここは視界が悪く、うまく狙いを定められなかった。
「後ろのゴーストライダーに気をつけてください、紅凛さん!」
「なっ!」
 一方に気を取られてる間に、もう一方の騎兵が槍を繰り出した。
 慌てて防御するも凄まじい衝撃に吹き飛ばされ、二両目の扉を粉砕しつつ車内に転がった。
「ぐ……ああっ……!」
 扉の破片が身体に刺さり血が滴る、攻撃を凌いだ腕はビリビリと痺れ感覚がない。
「こ、こんなデタラメな攻撃力だなんて……」
 と言って、加夜はハッとする。
「もしかして、紅凛さん……」
「うん……、忘れちゃった……、デスプルーフリング」
 ナラカに満ちた穢れの前では、現世の人間はその実力を十分に発揮することはできない。
 奈落の軍勢相手に穢れ対策なしでガチンコを仕掛けるのは無謀と言えよう。
「……こうなったら私が!」
 飛行翼を広げて加夜は飛んだ。
 騎兵の頭上を取り行動予測、ゴーストライダーの動きを観察しあとの行動を読みとる。
「攻撃も防御も素早さも高い……、でも主力は槍の近接攻撃のみのようですね……。それなら!」
 魔道銃を向ける。
「狙うのは馬が一番ですね! そしてこれも……文字通り食らってください!」
 射撃と同時に大量のにんじんを放り投げた。
 腐っても馬、にんじんと見れば思わず鼻をひくひくさせてしまうのは、大自然の摂理。
 騎兵が腹を蹴って落ち着かせようとしても時既に遅し。
 魔弾が馬の足を撃ち抜いた。高速移動中の騎兵はバランスを崩して転がっていった。
「よし! まずはひとりです!」
 小さくガッツポーズをしたその時、飛行翼を衝撃が揺らした。
 敵はもうひとり、後方から近付いた別の騎兵が槍を翼に突き刺したのだ。
「そんな……!」
 みるみる失速し列車から離されていく。高度も保てない。すごい速さで流れる地面が目の前に……!
 そして、だめ押しのように騎兵が迫る。
「……涼司さん!」
 目を閉じた途端、ふわりと浮遊感に包まれた。
「えっ?」
「しっかりせんか。現世におぬしを待っている者もいるのだろう?」
「せ、セレナさん……!」
 箒に股がるセレナが上から空飛ぶ魔法↑↑で間一髪、引っぱり上げることに成功。
「ありがとうございます!」
 突き出された槍の切っ先を軽く飛び越え、全体重を乗せた龍殺しの槍でひと突きにした。
「やああっ!!」
「……っ!!」
 転がり落ちる騎兵をさらに火術で焼き尽くす。
「涼司くんを守るためにここに来たんです……、こんなところで倒れるわけにはいかないんです!」