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聖戦のオラトリオ ~転生~ ―Apocalypse― 第2回

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聖戦のオラトリオ ~転生~ ―Apocalypse― 第2回

リアクション


・魔法技術


「忙しい中、時間を貰ってすまないな」
「構わない。何かアイディアがあるのだろう?」
 夜薙 綾香(やなぎ・あやか)は、第二世代機開発プロジェクトにおける魔法技術導入について話すため、ホワイトスノー博士の元を訪れた。
 基本的なことについては前に来たときに話している。そのため、今日はより具体的なことについてを詰めていこうと考えていた。
「ああ、そうだ。エネルギーコンバーターの改良案と、ついでにフローターの一部機能を魔法で代替する案を持ってきた。そんな複雑なものではないので、調整すれば使えると思うが。もし問題ないようなら第二世代機開発プロジェクトの方にもデータは流しておいてくれ」
 綾香はメーガス・オブ・ナイトメア(めーがす・ないとめあ)に目配せをした。
「まずはエネルギーコンバーターからですね」
 メーガスに憑依したアスト・ウィザートゥ(あすと・うぃざーとぅ)が説明を始める。
「基本構想はこの間お話した通り機晶石から直接魔力を取り出します。そのため、動力炉に付随する形になると思いますが。後は魔力伝達の際に、より伝達率の高い物質に変更。これは貴金属……銀が適していますね。金はそれ自体に魔力を持ちますのでこういった用途には不適格ですし……欲を言えばミスリルあたりがあれば良いのですが」
「ミスリルか。実在していたとはな」
 意外そうな顔をする博士。
 どちらにせよ希少な金属であることに変わりはないため、そうそう持ってくることは出来ないのだが。
「魔力の純度が上がれば、魔術兵装の消耗そのものも抑えられるはずです。無論、誤作動なども減るでしょう。それと、伝達物質を変えましたから、以前よりはコンバーターの寿命も延びるはずです」
 続いて、フローターの説明に移る。
「フローターについてですが、天学のイコンのウリの一つが空を飛べることです。しかし、飛行に機晶エネルギーを食うために継戦能力に難あり。ですよね?」
「それが現行イコンのネックでもある」
「そこで、フローターの内、『浮く』機能を魔力で代替し、機晶エネルギーの消耗を抑えよう、という案です。具体的にはミニア半島から出る浮遊機晶石の浮遊力を魔術で増幅し、機体を浮かせるモノです。後の推進力は通常のブースターを使う。これならば、従来の操作法を大きく変える必要もありません。石の浮力の増幅率を変えることで、上昇や下降を行うイメージです。
 これにより、高度維持が楽になると推測されます」
「確かに、今は浮遊感覚を身に付けるのも楽ではないからな。それが実現出来れば、パイロットの数も増えるだろう」
 エネルギーコンバーターと浮遊機晶石を連動させることによって、燃費を良くする。簡単に言ってしまえば、そういうことだ。
「さて、エネルギーコンバーターが搭載できれば、魔力供給面では問題なくなる。あとはプログラムだが……結界による防護障壁とか、魔力を攻撃に使うとかは然程難しくはないな。イコン用まじかるステッキとかあるくらいだし。
それ以外をどうするか、何処まで強化するかは実機を弄らせてもらったほうが良い」
「結界の展開に関しては、自動計算では難しいだろう。それは試作第二世代機のブルースロートで証明されている。付けるのは易いが、扱うのは簡単ではない。機構そのものは……現行の機体に追加するよりは、全学向けの第二世代機での導入にした方が良さそうだ。拡張性のある構造で検討されていることもあり、パイロット次第では魔法特化機体にすることも十分可能だからな」
 ホワイトスノー博士としては、魔法技術の導入にかなり前向きであることが窺える。
「と、そうだ。以前読んだ資料に『神がイコンの機晶バリアを無効化し、イコンの攻撃を防げるのは聖霊の加護による所が大きい』みたいなのがあったが……。
 単刀直入に聞こう。【イコンに聖霊の加護を付与する事】は可能か?」
「精霊の加護?」
「……これはそっちの……罪の調律者、だったか。貴女に聞いた方が良いかな? これが可能ならば、敵の防護を無効化し、此方はより強固な障壁で守られる、まさに神の如きイコンが出来上がる。『神の代理』ではなく『神の器』を作れる。不可能だ、と断言できないならばその研究をさせてくれないか? 無論、こんな物を量産する気はない。が、事態がどう動くかわからん以上、切り札は握っておくべきじゃないか? だからこそ、第二世代機とは別に、究極のイコンを研究させてもらいたい。科学と魔術と機晶技術。その全ての粋を以って。あらゆる脅威に打ち勝てる力を作らないか?」
 もちろん、タダでとは言わない。
「その途中の成果物は第二世代とかにフィードバックするし、経過は逐次報告しよう。如何かな?」
「打ち勝てる力を作って、それでどうするのかしら?」
 調律者の反応は冷ややかなものだった。
「そうやって『究極の力』を求めた末に造られた聖像が、パラミタの各地に存在するわ。クイーン・オブ・ゾディアックも、その一つでしょうね。精霊の加護の原理については、わたしは知らない。そもそも、わたしの時代と今の時代では『神』の定義も違う。かつて、エリュシオンはその魔法技術を聖像に組み込む研究をしていた。彼らがそれを完成させたかは定かではないけれど、不可能ではないはずよ」
 だが、首を縦には振らない。
「切り札が欲しい、その気持ちは十分に分かるわ。けれど重要なのは、それが単なる探究心から来るものなのか、『あいつら』みたいに力を極め、破壊の道具として使おうとしてのことなのか。後者なら到底許せるものではないわ」
 イコンを力として利用する者に対しては厳しい姿勢を崩さないのが、この罪の調律者だ。
「一言余計だったな。研究者として、科学と魔術と機晶技術の粋を結集したイコンというのは、大変興味深いものだ。だが、大き過ぎる力というのは同じ大きさの危険をも内包する」
「貴女がそれを理解しているのならば、研究自体は止めないわ。けれど、手を貸すことは出来ない。それはわたしの望む聖像の在り方ではないから」
 綾香にとっては、イコンの可能性を追求するという意味合いが大きい。それが戦争に使われるかどうかは別として、どこまで強化出来るのか、神域に達することが出来るのかという興味だ。
「そういうことだ。やりたければ、そっちはあくまで個人的に行ってくれ。コイツは平和な未来を拓くことを目的としている。だからこそ、『必要以上の力』は持たせたくないのだ」
 彼女のパートナーでもあるホワイトスノーとしても、その想いを尊重したいとのことらしい。
 イコンに魔法技術を導入するのは現実味を帯びたが、それ以上となると協力を得るのは難しい、というのが今回の面会で綾香が得たことだった。