リアクション
* * * ポータラカのドック。 小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)はホワイトスノー、罪の調律者と共にそこを訪れた。 シャンバラのイコン製造プラントの管理者として、本場での製造技術を学び、今後の第二世代機の製造に生かすためである。 (もうすぐ改修も完了、ってところまで来たかな) ぷるぷるとした丸っこい物体がテレパシーを送ってきた。 彼(?)がいじっているのは、シャンバラから持ち込まれているイコン、【饕餮】だ。 (あと、量産ラインにようやく乗せられるようになったよ。完全再現とはいかなかったけど) 【饕餮】の量産型を造るというのは、ポータラカ人との間で取り決められていたことである。 「その生産ラインって見せてもらえないかな?」 美羽がポータラカ人技師に尋ねる。 (こっちだよ。と言っても、特別な技術を使ってるわけじゃないけどね) 彼女達は彼の案内で、ポータラカの製造プラントを見学させてもらうことになった。 「ほとんど自動で組み上がるようになってるんだね」 (機体のデータさえ組み込めれば、こうやって作業は単純化出来るからね。シャンバラの製造プラントはどうなってるんだい?) 「シャンバラのプラントも似たようなものかな。効率でいったら、やっぱりこっちの方が上だと思うけど」 製造がプログラムに従い自動で行われるのは、ポータラカもシャンバラも共通している。 「あのプラントの設計自体は、彼らから教わったものよ。似ていても特段驚くことではないわ」 調律者が興味なさげに呟く。 「これのデータを見せてもらっていいか?」 (見せられる範囲で、だけど) ホワイトスノー博士の依頼を受け、ポータラカ人が量産型【饕餮】のデータを提示する。まだ調整段階らしいが、それを見てホワイトスノー博士が息を飲んだ。 「……なぜこんな無茶な設計で機体が動く? しかも、リモコン一つで操作可能とは」 (大元になったイコンがこういう構造だったってだけじゃないかなぁ? いつ頃造られたものかは分からないけど、技術が確立された時代の産物だとは思う。リモコンに関しては後付けだろうけどさ) シャンバラでは、ゼロからイコンを造ることは出来ない。新型機も登場し、一見ゼロベースで造られているようだが、実際は発掘されたイコンをベースに改良を加えたに過ぎないものである。 「そんなに凄いの?」 「自壊しないのが奇跡というレベルだ」 さすがのロボット工学の母も、理論上あり得ないものを見せられては驚きを隠せないようだ。 「ジール、そんなこと言っていたら、あのゾディアックだって構造的にあり得ないわよ。随分と妙な方向に発展させたものね」 調律者の方は、呆れ返った様子だ。 (驚いてるところ悪いけど、これでも別に並外れた力を持ってるってわけじゃない) 「でしょうね。シャンバラの人々が定義するところの第二世代機相当ってところかしら」 それでも、現シャンバラからすれば十分過ぎる戦力である。 (あとリモコンについて出てきたけど、プログラム次第で操縦を簡易化するのは可能だよ。あまりやり過ぎると、不具合が起こったときに対処が難しくなるだろうから、ほどほどにしないといけないけどね) 完全な自動化確かに危険だ。かといって、今のシャンバラのイコンは(パラ実のものを除いて)訓練を積んだ者でなければ性能をフルに発揮出来ないというのが現実だ。 「博士、ここで使われてる技術で第二世代機に取り入れられそうなのってある?」 美羽は確認を取る。 「今教えてもらった操縦の簡易化プログラムだ。といっても、ここで組んでもらって、それを持ち帰ることになりそうだがな」 (シャンバラで運用されているイコンのデータを見せてさえくれれば、その機体にあったプログラムは組んであげるよ) 博士がポータラカ人にフラッシュメモリのようなものを渡す。 (おお、これはこれは……) 「また後ほど取りに来る。それまでに作業をしてくれると助かる」 (任せて!) 実際に導入するかはまだ分からないが、プログラムを組んでもらうことになった。 「あと、このプラントの生産ラインって向こうのプラントでどこまで再現出来そう?」 今度は罪の調律者に問う。 「ほとんど同じ水準まで出来るわ。もっとも彼らのことだから、これでさえ『旧式』の可能性もあるけれど。ナイチンゲールに言ってプログラムを書き換えてもらえば、ラインの組み直しは十分可能よ」 彼女達の言うとおりなら、シャンバラに戻ってすぐに第二世代機開発プロジェクトにおける機体仕様が決定すれば、そう時間をかけずとも第二世代機を完成させることが出来るかもしれない。 * * * 続いて、彼女達はポータラカ人のイコン研究者らしき人物と顔を合わせた。まるでタイヤをいくつも積み上げたかのような姿をしている。 (それで、イコン開発についての意見が欲しいということですか?) そのタイヤ人間に話を持ちかけたのは、アルコリアである。 「というわけで、ぷりちーいけまさんにふさわしいキュートな機体の仕様は以下の通りです」 ポータラカの研究者と博士達に自作の仕様書を見せる。 「……またとんでもないものを考えてきたな」 ホワイトスノー博士が嘆息した。 まず、希望仕様として、 並みの身体能力・魔力じゃ乗れない。 むしろ、並みの契約者なら動かしただけで死ぬような機体。 超加速・変態機動。 基本性能でこれである。 さらに、魔力を用いた近接格闘機ということで、 主武装:グリモアストレート 魔法物質で作った刀 メイン・サブパイロットの魔力を増幅して送り込み、刃にする。 無属性。 副武装:ウィープスガール 咆哮や叫びのような兵器。 全周囲攻撃、マジ単機仕様、飛行兵殺し。 加えて、生身のスキルの増幅装置を搭載。 また、装甲を厚くすると機動が落ちるということで、魔力を用いたシールドを展開出来るようにしたい。 動力は魔道書や機晶姫を搭乗させることで増幅出来ないものかと提案。また、超能力や魔力を知覚出来るセンサーは搭載出来ないものかとも。 「…………」 これにはポータラカ人もびっくりのようである。 「では、補足致しますわ」 魔力使用、ということでナコト・オールドワン(なこと・おーるどわん)が具体的な説明を加える。 「武装の魔力を込めるものは魔法金属で適当なものがあれば、なければ水晶などの素材でもいいかもしれませんわね。魔力で刃を作るので、素材自体の耐久性は要りませんし、鞘に入れて使用時だけ抜刀。 他、動力、攻撃、防御に乗り手の高い魔力を必要とするのであれば、それだけで乗り手を選ぶ制限になりますわ」 バリアに関しては、虹のタリスマンやパラディンが使えるオートバリアなんかを流用出来ないものかと提案。 「魔法技術のイコン導入に関しては、まだシャンバラでは研究段階だが……ポータラカではどうだ?」 (我々は魔法というものの原理に関しても、一定の解を得ています) 「となれば、『不可能ではない』ということか」 ホワイトスノー博士が思案する。 「質問してよろしいか?」 シーマ・スプレイグ(しーま・すぷれいぐ)が研究者達の方を向く。 (なんでしょうか?) 「……基本的なことなのだが、機晶姫の機晶石の出力は、やはりボクと契約したての者とでは違うのか」 (はい。機晶石が本来秘めている出力は高いですが、機晶姫は基本的にリミッターが掛けられた状態です。有機生命体が潜在能力を抑えているのと同じと言っていいでしょう。鍛える……まあ、端的に言って身体的に『強く』なれば、徐々にリミッターが外れていく。そんなところですね) となれば、彼女が動力源になる可能性もある。 イコンと同じく機晶石を動力としているのであれば、身体をイコンと繋ぐことで補助動力としてエネルギー供給を行うことだって出来るかもしれない。 そうなれば彼女の力をもって機晶コーティングの強化や、レーダーなど基本性能強化部分を担当し、性能の底上げを図れる。 これは天御柱学院の超能力者専用イコンである「レイヴン」のブレイン・マシン・インターフェイスを機晶姫に適応させることで実現可能なものだ。 能力の機体反映は難しいが、機晶姫が直接「イコンの一部」として組み込まれることにより、機体制御を一人で行うことが出来る。そうなると、もう一人のパイロットが攻撃に専念出来るというわけだ。 「この機体の弱点となるのは、超長距離か? 機晶ガウスキャノンなど補助武装にあってもいいのではないだろうか?」 あるいは属性特化盾。とはいえ、そこまですればそれこそアルコリアでさえ扱いきれるかどうかという化け物仕様となる。 「ラズンも基本的な質問。超人のイコン操縦に優れる点って、なんなの? 前に言ってたレイヴンみたいな感じ?」 ラズン・カプリッチオ(らずん・かぷりっちお)がホワイトスノー博士に問う。 「確かに、レイヴンとの親和性は非常に高い。あとは、超人なら多少の無茶な操縦にも耐えられる」 「それなら、フォースフィールドのバリアや、サイコキネシスやレビテートの移動応用、テレパシーでの感応センサー、ソートグラフィーを応用してのカメラの策敵なんてのも出来る?」 「その程度なら、レイヴンでほぼ実現している。もっとも、BMIの機構を取り入れなければ、超能力を機体に入出力することは出来ないがな」 基本的に契約者が使える技能をイコンに乗った状態で使うことは出来ない。 アルコリア達のイコン案を聞いたポータラカ人は、 (むしろこの仕様に耐えられるという君の生体に興味があります。もはや単なる有機生命体の範疇を超えていますね。君の強さを再現するために代理の聖像が造られてもおかしくないほどですよ) イコンはパラミタの古代種族を再現するために造られたという説がある。ならば、アルコリアの「潜在能力」はそれに匹敵するということになる。 あくまで人間の枠には収まっている彼女だが、ポータラカ人に言わせればそういうことらしい。 「この仕様が難しいというのなら、ポータラカ人が趣味で作ったような、並みの人間では扱えないゲテモノ機とかありませんか? 予算ならもう少し出せますよ」 これにはポータラカのタイヤ人間も閉口せざるを得ないようだった。 「現時点では第二世代機開発プロジェクトを優先する関係もあって、非常に興味深いが個人の機体に注力する余裕はない、というのが実情だ」 だが、と博士が一つの案を持ちかける。 「その仕様を完全に実現……というのは難しいが、近いものを開発することは出来るかもしれない」 「どんな風に、ですか?」 アルコリアの生身での戦闘能力を最大限に生かすことも可能だという。 「BMIの応用だ。モーショントレーサー。パイロットの身体的な動きを機体へダイレクトに反映するためのシステムだ。イコンは地球人とパラミタ種族が乗らなければ本来の性能を発揮出来ないが、何も複座にする必要はない。お前のパートナーである魔鎧を纏えばそれで済む。これならば、身体能力に依存する技能はイコンに乗った状態でも使えるだろう。端的に言ってしまえば、『イコンのパワードスーツ化』だ」 これだけならばそう難しいことではないという。欠点としては、機体がダメージを受けた場合、それがパイロットに直接伝わってくることが挙げられる。また、空を飛ぶ場合はその制御をどうするのかと言う問題が出てくる。それについてはBMIを搭載し脳からの信号によって機体の安定、ブースターの起動を行えばいいとされるが、パイロットにかかる負担が大変なことになる。 「これに、魔法技術を導入したいならばどうするか。これも、パートナーが魔道書ならば本体があるだろう。本体を機体の魔力用ユニットに組み込む。これによって、魔法の入出力が可能になる。加えて、機晶姫を機体と直接繋げば、飛行及び管制制御を行うことが出来る。コックピットの搭乗人数は二人だが、実質四人でイコンを動かしている、という計算になる」 また、レイヴンと同じ仕様のBMIがあれば超能力も使用可能だ。場合によっては、超能力、魔法、格闘などを兼ね備えた正真正銘の怪物となる。 一機で彼女達四人分の力を集約出来るのだから。 「新型機を造ってやるのは難しいが、こういった改造案があることは頭に入れておいてくれ。もっとも、こんな機体、生身のパイロットには到底耐えられるものではないが、な」 「ふふ、むしろそのくらいが私にとっては丁度いいくらいですよ」 博士の案に、強い興味を示すアルコリアであった。 |
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