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まほろば遊郭譚 第三回/全四回

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まほろば遊郭譚 第三回/全四回

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第一章 つみの花1

 東雲(しののめ)遊郭の薄暗い路地を遊女がひとり這うように進む。
 役に立つ情報を一つでも手にいれなくては……。
 幕臣の馴染みを呼び出すことぐらい、妓楼の若い衆(使用人)にいくらか金を積めばできるだろう。
 お上は、世間に隠して金を集めている。
 マホロバの黄金を――。
 何に使っているかは知らないが、遊郭から巻き上げた金で私腹を肥やしているのだろう。
 それを証明出来れば、あの方はまた来てくれる。
 明仄は顔を上気させて考えた。
「きっと喜んでくださるはず……!」
 しかし、馴染みのはずの幕臣からの返事は素っ気無いものだった。
 天神(てんじん)という地位にまで上り詰めたというのに、彼女は野良犬のように追い払われていた。
 明仄はそのまま咳き込み、座り込んだ。
 竜胆(りんどう)屋から明仄を忍んで追ってきた七刀 切(しちとう・きり)は、しばらく様子を見守っていたが、こらえきれずに駆け寄り、遊女を抱き起こした。
 地面には血痕がある。
明仄(あけほの)さん!」
 明仄はビクっと体を震わせた。
「……どうして? とっくに帰ったかと思ったのに……今夜のお代は返しますから、アタシのことはほっといてくださいよ」
「ワイは案外物好きでね。なんでも首突っ込みたがる性質(たち)なのさ」
 何気に客として遊郭に立ち寄った切であったが、遊女は彼のもとから逃げ出して、路地で血を吐いている。
 このような場所でも、何かが起ころうとしていると切は感じていた。
 だから、彼女を追ってきた。
「どうしてっていうなら、理由は簡単。ワイの目標は誰もが幸せになること。皆がハッピーエンド。夢物語に終わるかはこれからの行動次第だろ。目指したって罰は当たらんぜぃ?」
 切は明仄を担ぎ上げると、思ってた以上に遊女の身体が軽いことに驚いた。
「ちゃんと食ってるのか?」
「放してったら……!」
 明仄は抵抗している。
 切は素知らぬ顔であたりを見渡していた。
「さてと……医者か。こんな時間に診てくれんのかな」
 彼らは暗い路地を歩む。