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【ザナドゥ魔戦記】イルミンスールの岐路~抗戦か、降伏か~(第1回/全2回)

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【ザナドゥ魔戦記】イルミンスールの岐路~抗戦か、降伏か~(第1回/全2回)
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「……たとえ事実がどうあれ、アーデルハイト様がザナドゥ側についてやった行為には責任が発生しますわ。
 過去にも似たような例がございましたけど、その時も無罪放免とはなりませんでした。故に、アーデルハイト様も公正に裁かれるべきですわ!
 私はアーデルハイト様の罪状をハッキリさせるため、シャンバラ政府がしっかりとした司法を用い正しい裁きを行い、その結果を持ち帰ることで皆様の信頼に応えることを、ここに宣言しますわ!」

 一方、ミスティルテイン騎士団の会合では、セルフィーナ・クレセント(せるふぃーな・くれせんと)エルフィ・フェアリーム(えるふぃ・ふぇありーむ)が自身の思いに基づき、以上のような発言を行っていた。イルミンスールを守るために、アーデルハイトを裁き、エリザベートに罪を償わせ、臨時の校長の下で事態解決を図るべきであると。
「……なるほど。確かに、アーデルハイト様の犯した行為は、その全てが明らかになった暁には公正な場でもって裁かれるべきであるし、パートナーであるエリザベートもその罪を甘んじて受けるべきであろう。その点については否定しない。
 ……だが、今はその時ではない。一定の目処も立たぬ現状で校長を変える、それで一体何が解決するというのか。とにかく変えて臨時の校長を据えて問題が解決する話ではないと私は考える。責任問題はいずれハッキリさせねばならぬ議題だ、私もそのことを否定するつもりはない。だが、時期は今ではないのだ」
 ノルベルトが必死に弁解し、強引に場を切り上げる。セルフィーナの発言と、その根拠となるものは、“正しくもあり正しくもない”。不信感が生まれ始めている、の件は、言葉としては正しいが、例えばそれが一人の話であったら、正しくない。マホロバの件に至っては、彼女はその場にいない以上、話を交わした当の本人以外(むしろ、彼らもどうなったのかを詳しくは把握していないかもしれない)は真相を知り得ない。何より、今皆が取り組むべきは、イルミンスールがザナドゥの侵攻を受けているという問題を解決するための手段を考えることである。セルフィーナはこの時既に、エリザベートを失脚させることを中心に考えているように思われた。エリザベートが失脚して臨時の校長が据わったところで、肝心の問題が解決する保証はどこにもないのだ。
 とはいえ、ノルベルトもセルフィーナの発言を明確に否定できない以上、やっぱり変わった方がいいんじゃないか、という思いはミスティルテイン騎士団議員の中に蔓延しつつあった。


 そして、いよいよ3日目、最終日。
 この日は議員が一堂に会し、出された案件に対して議決をとり、過半数を超えれば可決、そうでなければ否決、という流れであった。

「……皆様にお渡ししたデータを元に、現在パラミタで使用されているアルマインとは別の、EMU製のイコン開発を行うことを提案いたします」
 壇上にフレデリカが立ち、先に諮問会で述べた案件についての進捗報告を述べていく。既に入念な話し合いを重ねただけあって、つっかえることなくスムーズに話を進めるフレデリカは、どこか頼もしくも見えた。この時ばかりは議員も、ついにEMUも独自の機動兵器を手に入れられるのか、と夢を見ていたかもしれなかった。
「……また、ザナドゥ軍侵攻時の敵軍のデータにより、魔族相手でも十分渡り合えることが証明されています」
 しかし、事がザナドゥのことになると、途端に場が不穏な空気に包まれる。前の諮問会でも話題に上っていたザナドゥの侵攻、しかもそこにミスティルテイン騎士団創始者のアーデルハイトが関わっているとあれば、そうならない方がおかしいとも言えたが。
「君の提出してくれたデータや報告は、本当に正しいのかね? 私達は都合のいい情報だけを提示されているのではないのかね?」
「そのような事はありません。私達は、ありのままを伝えているだけです。損害報告についても省略することなく記載されているはずです」
 ここに来て、特にホーリーアスティン騎士団派の議員から、質問が続出する。内容は一つには、『ミスティルテイン騎士団が、情報を正しく伝えていないのではないか』というものであった。自分たちに都合の悪い事実は隠蔽し、都合のいい事実だけを誇張して伝えているのではないか、というものであった。もう一つは、『このままエリザベートに、イルミンスールの校長という役職を任せていいのか』というものであった。これについては『他に適任がいない』という意見で一旦は引っ込んだものの、『では、校長を補佐する新たな役職を設けるべきではないか』という意見が出てきてしまう。
「……つまり、校長を補佐するそうですね、教頭、という役職が必要であると?」
「その通りです! もはやワルプルギス一族ばかりに任せてはおけません。アーデルハイト様が失われた今、エリザベート校長を補佐する役職は必要なはずです!」
 そう強く主張するのは、先日ホーリーアスティン騎士団への所属を希望したエリスその人であった。この時もやはりロットスに行動の自由を奪われ、彼の思うままに操られている状態であった。そしてその訴えに、頷く声はホーリーアスティン騎士団派からだけでなく、ミスティルテイン騎士団派からも聞こえていた。
「……では、今回議決をとる案件は『エリザベート校長の補佐を務める、教頭という役職を新たに設ける』とします。
 皆様、お手元のボタンで投票して下さい」
 議長を務めるエーアステライトが淡々と告げ、議員たちはそれぞれの思惑を胸に、ボタンに手をかける。投票権がないフレデリカは、投票結果が明らかになるまでの僅かの時間を、期待と不安がないまぜになった気分で待つ。
 そして、投票結果が電光掲示板に表示される――。

 賛成:38
 反対:37


 僅か一票差、しかし、得票は過半数を超えている。
「本案件は可決されました。教頭に推薦する人物は、校長を送り出している派とは別の派である必要があると思われますが、皆様如何でしょうか」
 エーアステライトの提案に、「異議なし!」という声が多く飛ぶ。ミスティルテイン騎士団派は、不満こそ抱えているものの表立って反対意見を口に出来ない。校長を送り出している以上、教頭も身内から出すという意見を、おいそれと口には出来ない。
(フフ……流石に校長を退かせるのは、エリザベートが世界樹と契約していることからも難しい。
 ですが、校長を補佐する役割を設ける、という案は一定の支持を得るはず。目論見が当たりましたわね)
 無論、ベストは校長の座だが、今は十分な成果と言えた。
(後は、この事をクロウリー様とメニエス様にお伝えして……おそらく教頭の座にはメニエス様がお座りになられるでしょう。
 フフフ……さあ、これからどうなりますか……)
 会議終了を告げるエーアステライトは、浮かんでしまう笑みを手で隠しながら足早に会場を後にし、やるべき事を早急に行おうとしていた――。