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リアクション
●精霊指定都市イナテミス:町長室
「……なるほど。話は聞き届けた。これまでにも小型、および中型の飛空艇については、君の整備してくれた発着場に配備していた。
しかし今後は、より大型の飛空艇も必要になるだろう。私としては異論を唱えるつもりはないし、イナテミスとして出来ることがあれば協力しよう。
……君たちの方はどう思うだろうか」
『大型飛空艇の開発・量産』『イコン整備が可能な旗艦・避難用の量産型の開発』を計画した日比谷 皐月(ひびや・さつき)の言葉に、話を聞いて返答したイナテミス町長、カラム・バークレーが精霊長の面々へ視線をやる。
「町長の心遣いに感謝する。俺たちとて、何が大事かは把握しているつもりだ。
イナテミス中心部に住んでいる精霊たちに働きかけて、作業を手伝ってくれる者を募ろう。その代わりと言うのもおこがましい話だが、彼らの意見に耳を傾けてやってほしい。直接作業に従事することで、周りの自然への影響をより小さくする対策を講じることが出来ると思うのだ」
「分かった。人手を貸してもらっているんだ、皆の意見は絶対に無下にしない。約束する」
皐月が頭を下げる。これでまずは、作業に着手する許可と、作業に従事する人手を確保することが出来た。
「次は、建造にかかる材料の調達と、費用の確保か……これは流石に、国軍やら天御柱学院に協力を仰がにゃいかんかね……?」
「……話は聞かせてもらったわ。この件、私に協力させて頂戴」
呟いた皐月の視界に、さも意外な人物が入り込む。
「御神楽環菜……? どうしてここに? 何故力を貸すなどと?」
「最後についてだけ答えるなら、イルミンスールにこれ以上、他学校・他国との関わり合いを持たせておきたくないの。
カナンは仕方ないとして、マホロバ……扶桑との件では相当揉めたから。それならこれまで通り、ある意味で好き勝手にやらせる方が楽だわ」
「……なんかよく分からねぇけど、とにかく製造は出来るんだな?」
「それについては保証するわ。……まあ、『イコン整備が可能な旗艦1隻』『避難用の旗艦2隻』『大型飛空艇10隻』ってところかしらね。
運用はザンスカール内に限定して、ザナドゥ侵攻が決着付いた日にはそれらを破棄する、が条件ね」
「破棄するだと? せっかく作った代物をそんな――」
「残しておくと後々面倒なことになるのよ。こういうものを作っていることが知られでもしたら特にね。
いいからさっさと仕様書をまとめて提出しなさい」
何やら強引に話をまとめられつつ、とにかく製造の許可が下りたことは確からしいので、皐月は一礼してマルクス・アウレリウス(まるくす・あうれりうす)の控える飛空艇発着場へ戻る――。
その飛空艇発着場では今まさに、ジャタの森に出撃するイコンの整備が急ピッチで行われていた。
「向こうのイコンは2番滑走路に置くんだ。1番ではスペースが合わない。……ああ、そのイコンは1番滑走路で構わない」
マルクスが、やって来るイコンを発着場のどこに置くかを指示していく。拡充作業が並行して行われているとはいえ、まだまだ発着場に十分なスペースは確保されていない。各学校のイコンに加え、次々と追加される新型イコンは大きさも装備もまちまちであり、それらを出来る限り類似した特徴で揃えるのはなかなかに困難を要した。
「……皐月か。……そうか、許可が下りたか。分かった、到着次第仕様書の作成に移ろう」
皐月からの連絡を受けたマルクスが、携帯を仕舞い、これからより忙しくなるだろうことを予感する――。
そして、皐月の到着と共に、イナテミスから補充の作業員(主に、精霊長の呼びかけで集まったイナテミス住民たち)も発着場にやって来る。
「ええと……はい、記録しました。では、あなたはこちらの方と作業に当たって下さい。次の方、お願いします」
その彼らを、ラデル・アルタヴィスタ(らでる・あるたう゛ぃすた)が一人一人名前と外見特徴を記録した上で、二人一組を組ませて作業に従事させる。何故このような措置を施したかというと、発端はパートナーの木崎 光(きさき・こう)の言葉からであった。
「まぁあれだ、ザナドゥ側につきたい奴等が、向こうへの手土産としてジャタの森防衛戦で良からぬ事を起こすんじゃねぇかってこった。
イルミンスール側としては、イコンで制空権を握るのが定石ってやつだろうから、ま、もし俺様が敵ならイコン基地……つまりここでテロ行為を起こすね!」
先の戦いでザナドゥ側についた契約者がいたのを覚えていた光の、今回も同様の可能性が起こることを危惧しての発言に、ラデルは「珍しく光がまともな事を言っている!」と驚愕した表情を浮かべる。
「まったく……正義の良さが分からないなんて、なんて可哀想な奴等なんだ。
だって正義って、カッコイイだろ? 俺様が正義を信じる理由? そんなの『カッコイイ』からに決まってんじゃん!」
「…………」
しかし次に続いた発言に、ああ、やっぱりいつもの光だ、とラデルは頭を抱える。
「つーわけで! 怪しい奴にはソニックブレード!」
「ちょ、ちょっと待て! 怪しい奴って君、いったいそれどうやって見分けるつもりなんだい。
……「俺様の正義レーダーが火を噴く!」だと!? だから待つんだ、光!」
……そんなことがあった末に、今はこうして『怪しい奴見分け作戦』と称して(無論それは裏の理由で、表向きとしては作業の効率化を図るため)、管理を行うことになったのであった。
「あーあつまんねぇの。俺様なら絶対、ここ狙うんだけどなぁ……」
「いやいや、襲撃がないことはいいことじゃないですか。光もサボってないで手伝ってくださいよ」
そして、一向に“裏切り者”の襲撃がないことに残念そうな光を、ラデルが苦笑しながら仕事に向かわせようとする。
整備を終えたイコンが、地を蹴り、飛び立つ。
向かう先は、クリフォト及び魔族の軍勢が確認された、ジャタの森付近。
……そこでは、契約者と魔族との、壮絶な戦いが繰り広げられようとしていた――。
●ジャタの森付近
「やれやれ、私も“安っぽい命”の仲間入りですね。
……あ、そうそう。ナベちゃんズいるー?」
出現したクリフォトに集結する魔族の軍勢に混じって、先の戦いで魔神ナベリウスと文字通り死闘を繰り広げた牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)が、ストレッチをしつつそのナベリウスを呼んでみる。
「はーい」
「はいはーい」
「よんだー?」
ひょこ、とクリフォトから頭だけ出して、ナナ、モモ、サクラが応答する。
「何か指令は? 何もなければジャタの森侵攻軍に混ざりますけど」
「しれい? うーん、ナナよくわかんなーい」
「とにかくまっすぐすすんでー」
「めについたものぜーんぶ、こわしちゃっていいよー」
「あ、しれいってそういうものなんだー。うんうん、それでいいよー。
まおーさまが、だいちがけがされればくりふぉともでられるようになる、とかいってたー」
要約すると、森を侵食すればそこにクリフォトが出現できるようになるらしいとのことであった。感覚的にはアメリカンフットボールである。同族異族問わず血でも流れようものならなおよし、ということをアルコリアは知る。
「そうですか。じゃあこちらからは、対イコン戦術についてお教えしましょう。
今まで戦ったイコンのデータをおまけで」
言ってアルコリアが、魔族たちを苦しめたイコンに対する戦い方を話す。『距離を取られるとキツイ、張り付いた方が戦い易い』『相手の“目”となる部分を破壊すると効果アリ』『対イコン武器とか、なければ魔法武器なんか効果的』の情報が、周辺の魔族とナベリウスに伝えられる。
「へー、わかったーありがとー」
「あ、そーそー、おのぞみのもの、あげたからねー」
「どんなにけがしても、げんきげんきー」
アルコリアがザナドゥ側について戦う際に望んだ、自然治癒力増強の効果を付与したという報告をして、ナベリウスが引っ込もうとする。
「あ、ナベリウス。どっかでおっ死んだら、皮ちょーだいね? きゃはははっ☆」
「いーよー、もってっちゃってー」
「さ、サクラ、なんだかこわいよー」
「こわいこわいー」
ラズン・カプリッチオ(らずん・かぷりっちお)の言葉に、妙にノリ気なサクラをナナとモモが引っ込めて、今度こそ辺りは静かになる。……いや、既に大勢集まった魔族の熱気というか雰囲気で、周囲は騒然としていた。
「さぁ、行こう。ロクでもない戦場へ」
ラズンの言葉に呼応するように、ジャタの森を侵攻する600の軍勢が、我先にと森の先を目指す――。