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【ザナドゥ魔戦記】イルミンスールの岐路~抗戦か、降伏か~(第1回/全2回)

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【ザナドゥ魔戦記】イルミンスールの岐路~抗戦か、降伏か~(第1回/全2回)
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 壁役となっていた巨大魔族が2体倒されたことで、クリフォト、その周囲に展開する魔族を守る壁にも穴が生まれ始めていた。
 この穴を突いて中の魔族を討つことが出来れば、上空を舞うイコン部隊への対空迎撃も減り、戦闘を優位に展開できる。当然敵もそのことは理解しており、それまで動かずにいた巨大魔族も、位置を変え背後の魔族を敵の攻撃から守るために動き始める。

「ここであのデカブツを倒すか、もしくは動きを止めることが出来れば、敵はとっても困ると思うのよね。
 というわけだから、イリス、行くわよ! あ、カインは後から付いて来てね、この子キミのこととっても嫌いだから」
「仕方ねぇなぁ……ま、地上までザナドゥ化されちまったら、せっかく俺が地上に出てきた意味ねぇからな。
 あいつらには地下に引っ込んでてもらうぜ!」

 そんなやり取りがあって、イリス・ラーヴェイン(いりす・らーう゛ぇいん)を装着し、イリスに騎乗した如月 玲奈(きさらぎ・れいな)が、樹を守る巨大魔族をターゲットに定め、接近を試みる。
「って、これじゃ近付けないわ!」
 しかし直ぐに、内側の魔族からの大量の魔弾が迫り、玲奈はなかなか攻撃を繰り出せない。
「カイン、なんとかしなさいよ!」
「なんとかしろったってなぁ……お、そうだ。どうせあいつらまともに陽の光なんざ浴びてねぇだろ。
 ほらよ、これでも見てせいぜい眩しがってな!」
 玲奈の要請を受けて、カイン・クランツ(かいん・くらんつ)が光術で強烈な光を生み出す。人間でさえ目を覆いたくなる眩しさに、陽光の差さない地で長く暮らしてきた魔族が我慢出来るはずもない。途端に対空迎撃の精度が下がり、玲奈は今度こそ、巨大魔族への接近を果たすことが出来た。
「さっさと終わらせて帰るんだから、さっさと倒れなさいよね!」
 すれ違いざま、振るった槍の一撃が巨大魔族の身体を捉える。うめき声をあげた魔族が反撃する前に範囲から離脱し、やはりカインの光術の援護を受けて接近、一撃を与えての離脱を繰り返す。倒すまでとはいかなくても、その巨大魔族の動きを止めるには十分な役目を果たしていた。


(現時点で、内側に潜り込めそうなポイントは2つか……。1つは僕達、もう1つはルイさん達に任せる感じかな?
 次にイコン部隊が仕掛けた時に行く……そう伝えておこうか)
 地上、クリフォトから少し離れた地点に潜んでいた八神 誠一(やがみ・せいいち)が状況を確認し、事前に連絡を取り合ったメンバーであるルイ・フリード(るい・ふりーど)葦原 めい(あしわら・めい)ラムズ・シュリュズベリィ(らむず・しゅりゅずべりぃ)に仕掛けるタイミングを伝える。めいには現在確認できている“穴”とは反対方向に攻撃を加えるように言い、注意がそちら側へ向いた時に、元々の穴目掛けて突っ込む、とルイに伝える。
(やっぱあの樹を潰さないと、どうにもならないよねぇ。今でもカナン方面に向かった敵を食い止められるか微妙なところなのに、これ以上増援送り込まれたらほぼ確実にこっちの負けだよ。作戦は組んだけど、果たして今の戦力であの樹を潰せるのかどうか分からないし。ラムズさんのパートナーさんは妙に自信あり気だったけど、どこから来るのかねぇ。……あぁ、メンドくさいなぁ)
 心ではそんな事を呟きつつ、しかしやることは的確な誠一であった。

「めい、誠一さんから連絡が来ました。次に私達が仕掛ける時に決行するそうです」
 緑のウサちゃんに騎乗する八薙 かりん(やなぎ・かりん)が、めいへ誠一からの通信を伝える。
「いよいよ決行だね! ウサちゃん、めい達の働きに成功がかかってるんだよ、だからがんばろうね!」
 ドラゴンなのにウサちゃんと呼ばれているドラゴンだが、なぁ〜ん、と鳴いて応える辺り、当の本人は受け入れてしまっているようであった。
 そのウサちゃんは、森をギリギリの高さで飛び、魔族に気付かれることなく所定の位置まで飛ぶ。誠一とルイが強襲をかける位置からなるべく離れ、注意を引きつけるのが二人の役目だった。
「攻撃したら、やっぱり飛んできたりするのかな?」
「どうでしょう……今の所、この場ではそのような報告は上がっていませんが……めいは気にせず、目の前の敵にだけ対処して下さい。
 余計なことを考えていると、出来ることも出来なくなりますよ」
「はーい」
 かりんの言葉にめいが素直に返事をして、そして、誠一から準備が整った旨を知らされる。
「了解しました、では、こちらは巨大魔族に対し、攻撃を仕掛けます。
 ……めい、行きましょう!」
 報告をしたかりんの言葉を受けて、めいがウサちゃんに命じれば、咆哮をあげたウサちゃんは巨大魔族へ飛び迫る。
「ここからなら、反撃出来ないでしょ!?」
 内側の魔族の放つ魔弾の射程外から、めいが魔法の投げ矢で巨大魔族を攻撃する。敵を発見した巨大魔族が移動を開始し、めいたちを落とさんとする。
「めい、回避しようとして魔族の射程に飛び込まないように!」
「大丈夫、分かってるよ!」
 ウサギは逃げるのが得意なんだよ、そう付け加えて、めいがウサちゃんを敵の攻撃の届かない範囲に上手く誘導する。そこに別のイコンも加わり、徐々に攻撃が激しく、魔族にとって無視できないものへとなっていく。

 ルイと、リア・リム(りあ・りむ)シュリュズベリィ著・セラエノ断章(しゅりゅずべりぃちょ・せらえのだんしょう)ノール・ガジェット(のーる・がじぇっと)の控える場所から前方で、魔族に動きが生じる。彼らから見て後方の敵に対処するため、巨大魔族が移動を開始し、その分“穴”が大きくなっていく。
「魔族が動き出しましたね! 後は八神さんの合図を待って――」
 呟いた矢先、誠一たちが潜んでいる地点から光の玉が撃ち出される。襲撃開始を知らせる合図だった。
「リア、セラ、ノール、後は手筈通りに! ではまた会いましょう!」
 乗り物型に変形したノールにリアとセラが乗るのを見届け、ルイが一人、敵陣に向けて飛び出す。
(あの、ザナドゥの世界樹が出現しただけで、森が瞬く間に……。
 私は恐れているのでしょう。一瞬にしてあれほどの木々が倒され、朽ちていったのを、見たことがありません。
 ニーズヘッグさんもケガをされてしまいましたし……)
 ここに来る前、挨拶をしに行ったルイを、ニーズヘッグはいつもの調子で「よぉ、また無茶しに行くのか?」と出迎えてくれた。お腹の辺りに巻かれた包帯をさすりながら、「ま、オレもテメェのことをとやかく言えねぇな」と呟く姿は、ほんの少しだけ弱々しく見えた。
(……本当なら、戦い以外の手段……話し合いなどで解決を図りたい。しかし、一方的に攻めてくるのでしたら、私も遠慮はしません)
 怪我を負わせようとする相手を、そのまま放っておけはしない。その為に自分はこれまで、一心不乱に身体を鍛え上げてきたのではないのか。
(仲間と共に、この肉体と拳……全力で振るうのみです!)
 目にも留まらぬ速さで駆けるルイ、それとは別方向に走り抜けるノールとセラ、リア。向かってくる影が二つなら、そのどちらも迎撃しようとして、結果一つ辺りの迎撃量は減少する。ルイの突撃を成功に導くために、一行はこの作戦を選んだのだった。
(くぅ〜……ここが最前線でなければ、やっと女の子を乗せられたことに思う存分涙を流せたであろうに!
 だがここで心折れてはならぬ! 一分一秒でも長く乗せていたい、だから我輩頑張るのである!
 たとえ装甲が穴だらけになり、アームが千切れようともぉぉぉ!!)
 彼としては至極正しい理由でもって奮闘を誓ったノールを、早速大量の弾幕が出迎える。彼らの対応面はせいぜい全周の8分の1程度であるにも関わらず、常に十を超える魔弾が視界に飛び込んでくる。
「ノール、防御は全て任せる! セラ、ノールを援護してやれ!
 ……僕の持ちうる全火力を以て葬ってくれる、これ以上勝手はさせん!」
 リアが両手にレーザーガトリングを携え、射線に身体を晒して真っ向から撃ち合う。そのリアの身体を、ノールの展開する氷の盾が守り、セラが背後から氷の盾を強化して支える。
(イルミンの森には一杯、楽しい思い出があった。……でも、瘴気に侵されて酷い事になっちゃった。
 セラの大好きな居場所を、これ以上失いたくない……失わせるわけにはいかない!
 だから戦うんだ! これ以上好き勝手に荒らされてたまるかぁ!!)
 強い決意を胸に、セラの発動させた氷の礫が魔族を氷漬けにする。所詮数の差は圧倒的、いずれは押し返されてしまうかもしれないが、今この時点ではリアたちは魔族を圧倒していた。
 そして、それだけの隙を作ってくれれば、この男には十分であった。
「ぬぅぅぅん!!」
 巨大魔族の間を縫って飛び込んだルイが、目についた魔族に飛び膝蹴りを見舞う。首がもげてもおかしくない衝撃を受けて、魔族が大きく吹き飛ばされる。肉薄され、混乱が見られる魔族を、ルイは己の拳と蹴りで圧倒していく。