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聖戦のオラトリオ ~転生~ 最終回 ―Paradise Lost―

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聖戦のオラトリオ ~転生~ 最終回 ―Paradise Lost―
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リアクション

『景勝、本気か、その作戦?』
 デビット・オブライエン(でびっと・おぶらいえん)は、桐生 景勝(きりゅう・かげかつ)から聞いた「メアリーちゃん攻略法」に耳を疑った。
『本気も何も、これくらいしかメアリーちゃんに勝てる見込みはねぇよ』
『だが、それで先輩が死んだら寝覚めが悪い。とはいえ、私達だって下手をすれば……いや、普通に危険だが』
 笹井 昇(ささい・のぼる)も苦言を呈した。正面からぶつかっても勝ち目がないという意味では、確かにこのくらいのリスクを負わなければ厳しい。それはデビットも分かっている。
『俺の女王の加護が告げている。大丈夫だ、問題ないと』
『それは、私にいい考えがある、と言うと大抵外れるのと同じくらい当てにならなそうなものだが……まあ、ベトナムの件もあるし先輩の悪運の強さに賭けてみるか』
 何もしないよりは、やってみるしかなさそうだ。
『ったく無茶なこと考えやがって……死ぬなよ。死んでも葬式は行ってやんねえからな』
 上等だ、と残して景勝が通信を切り、ミス・アンブレラ――メアリーの【アスモデウス】に挑んだ。
 ジェファルコンに対し、エネルギーシールド――エナジーウィングシールド化の援護をブルースロートが行う。
 景勝達の機体が【アスモデウス】に対し、二本の新式ビームサーベルで斬りかかっていく。最初から全力だ。
 だが、その剣が空を斬った。そこに【アスモデウス】のレイピアが突き出され、それをサブスラスターを閃かせ、かわしていった。
 さらに、ジェファルコンが覚醒から完全覚醒に移行する。爆発的なエネルギーの増大によって、エナジーウィングの光翼部が拡大した。
「レーダーが乱れる! 何つー出力だよ」
 だが、座標計算が出来ないとサポートが困難になるため、目視の位置とレーダーとのズレを見て補正していく。
 明らかに尋常ではない変化が起こっているのに、【アスモデウス】の優位は変わらない。まるで景勝の機体がどう動くかをあらかじめ知っているかのように、機体性能が劣った状態でも先手を打っている。
 とはいえ、【アスモデウス】の運動性能は異常だ。完全覚醒は別次元の存在だとして、それと渡り合えているというのがそもそもおかしい。
 今のジェファルコンはイーグリット九機分の戦力に相当する。つまり、彼女は簡単に例えれば単独で学院の二個小隊と同等の力を持っている、ということだ。
 完全覚醒になってようやく両者は互角、といった具合だ。座標計算が大変だが、エナジーウィングの盾を利用し、出来る限りの援護をする。
(このまま倒せりゃ問題ない。けど、時間切れになったら)
 例の作戦実行だ。
 
「ったく、いくらなんでも強過ぎるだろメアリーちゃん……!」
 完全覚醒における空気抵抗無視の最高速度による斬撃も、撹乱しようと機動力を生かして飛び回っても、【アスモデウス】はそれを予見しているかのように、ほとんどその場から動かない。
 こちらから仕掛けても、逆にカウンターを繰り出してくるほどだ。
 積極的に前には出てこない。やはり彼女は心が読めるのではないか?
「景勝さん、限界時間、あと一分です」
 リンドセイ・ニーバー(りんどせい・にーばー)が告げる。
(これが駄目なら、あれをやるしかねぇ)
 昇達と示し合わせた作戦をすることになる。極力避けたかったが、一か八かやるしかない。
 だが、その前の一分を精一杯もがく。
 【アスモデウス】に対し、タイミングをずらしながら新式ビームサーベルによる二連撃を繰り出す。
 向こうはレイピアの先をビームサーベルの柄の部分に当てることでこちらの剣を防いでいる。対ビームコーティングがなされていそうなものだが、受け止めることはしない。
「時間が……」
 完全覚醒の限界時間を迎え、ジェファルコンから発せられる機晶エネルギーの光が消えていく。
『昇ちゃん、デビットちゃん!』
 呼び掛けると同時に、ブルースロートがエネルギーシールドを展開したまま、【アスモデウス】へと突っ込む。
 ちょうど【アスモデウス】が減退したジェファルコンに近付こうとしたその瞬間だ。
 だが、メアリー機のレイピアがブルースロートの肩部スラスターの片方を貫き、それを引き抜いたかと思うと、ちょうどジェネレーターの位置に突きを行った。
『すまねえ、景勝……』
 バランスを崩したブルースロートが海に吸い込まれていく。
『殺してはいませんわ。あくまで戦線に復帰出来ないようにしただけですわよ』
 機体は着水していた。
 ブルースロートはエネルギーシールドの関係もあり、水の中でも大丈夫だ。
 高度を下げ、様子を見に行こうとする。しかし、当然のごとく【アスモデウス】が立ちはだかる。
(メアリーちゃん)
 一旦向かい合ったまま、メアリーにテレパシーを送った。
(こんな世界に価値があるかって、そっちの偉い奴が言ってたじゃんか)
(ええ。問いかけましたわね)
(俺は、メアリーちゃんやニーバーちゃんと遊んでるだけで楽しかったし、そんな時間があるだけで価値があると思うぜ? 羨ましいって言ってたけど、今からだって遅くないんじゃねぇかな。俺達じゃ駄目なのか?)
 あの日一緒にお茶を飲んだことさえも、メアリーの孤独を埋めるには至ってなかったのだろうか。
(夢か夢でないかの証明は俺には出来ねーが。俺と戦っても、勝つと想定してるだろ?)
(あなたでは、わたくしには勝てませんわ。さっきので分かったでしょう? わたくしはどうしても分かってしまうのですわ)
 後ろを振り向き、ニーバーに目配せすると、彼女が静かに頷いた。
(確かにさっきの反動で機体性能が思いっきり下がっちまったが、俺は負けねーぜ? 絶対に。メアリーちゃん、思いっきりコックピットを狙って来いよ。当たれば一発で勝負が決まるぜ?)
(……死にますわよ。それに、わたくしにとってそんなのは造作もないことですわ。あなた達を殺したくはありませんが、「実感」を得るためなら躊躇いませんわよ。死んでしまったら、「やっぱり」という感慨しか抱けないでしょうが)
(なら話は早い。メアリーちゃんの想定通りだったら、ジェファルコンのコックピットにそのレイピアが突き立てられて俺は死ぬ。だけど、俺が勝つときは……その機体が海にダイブすることになる)
(撃墜されるわけですから、当たり前ではありませんの)
 それを聞いて、安心した。
 メアリーにとっての「想定外」は、おそらく起こせる。
(メアリーちゃん、現実を実感したいんなら、遠慮はなしだぜ? 俺も……本気だ)
 スラスターを噴かせ、【アスモデウス】に迫る。
 そして、そのまま新式ビームサーベルを振り下ろす。
(遅すぎますわ)
 両手の手首から先が落とされる。
(あなた達との思い出だけは、現実であって欲しかったですわ……さようなら)
 ジェファルコンのコックピットのある胸部に、【アスモデウス】のレイピアが突き立てられた。

 しかし、

(言ったろ? 俺は負けねーって)
 景勝の目と鼻の先に、レイピアの先端があった。
「ニーバーちゃん、ワイヤーを」
「はい、景勝さん」
 両腕に装着されていたワイヤーを射出し、そのまま自分達ごと拘束する。
(なぜ……確かに、全力でしたわ。どうして途中で止まって……)
 その声には、明らかに焦りがあった。
『ったくほんとヒヤヒヤしたっつーの』
 デビットからの通信が入る。
『しかし、上手くいってよかった』
 景勝と昇達の作戦は、こうだ。
 完全覚醒が切れたときに昇達が助けに入る。そこで、「わざと」撃墜される。メアリーのことだから、景勝の友達かもしれないパイロットを躊躇いなく殺すことはないだろう。それに、彼女なら実力的にも殺すことなく無力化で出来るはずだ。まずはそれに賭けた。
 それが成功したら、戦線を離脱したフリをして海面から二機の様子を確認。景勝が指定した座標でいつでも機体干渉がかけられるように演算を行う。
 あとは、景勝機が実際にその場所まで行き、メアリーからの攻撃が胸部に接触しかけた瞬間に機体干渉で【アスモデウス】を一瞬だけ止める。
 そして、
(撃墜されなくても、こんな感じで海にダイブすることはあるんだぜぇ?)
(まさか……)
 ニーバーがブースターを起動し、ワイヤーで拘束したアスモデウスと一緒に、太平洋へ向かって急下降していった。
(メアリーちゃん、これが「現実」だ――受け止めろ!)
 ジェファルコンと【アスモデウス】が海面に激突した。