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聖戦のオラトリオ ~転生~ 最終回 ―Paradise Lost―

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聖戦のオラトリオ ~転生~ 最終回 ―Paradise Lost―
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large}第五曲 〜女神転生〜


第一楽章「回帰」


 原初のイコン、『白銀』の【ジズ】が古代都市最深部に広がる広大な空間へと飛翔した。
『ノヴァ!』
 その姿を視界に映した、館下 鈴蘭(たてした・すずらん)が通信回線を開いた。
『私は鈴蘭、館下 鈴蘭よ』
『初めまして、と言うべきかな?』
 少年とも少女とも取れる、中性的な声が聞こえてきた。
『まずは知ってもらいたいことがあるわ』
 戦う前に言っておかなければならない、最も重要なことを伝える。
『この世界は繰り返されている。白金の【ナイチンゲール】と白銀の【ジズ】は、こうやって何度も対峙しているのよ』
 さらに言葉を続ける。
『私には分からないわ、あなたの目指す世界が本当に正しいのか。あなたが知っているかは分からないけれど、ジズ、ナイチンゲールの妹であるあなたなら同じようにループを感じてはいない?』
『「分かってる。けど、伝えるなとローゼンクロイツから念押しされてた」ってさ。まあ、ローゼンクロイツが妙に思わせぶりなことばかり言ってたから、そんなに驚きはしないけどね』
 やっぱり、こうなるようローゼンクロイツなる人物が仕向けていたのか。
『君は結局、破壊のために力を使おうとするの?』
 今度は霧羽 沙霧(きりゅう・さぎり)が問うた。
『違う。壊すわけじゃないよ。この世界を変えるのさ。あくまで僕の目的は「再生」だよ。破壊や殺戮じゃあない。ただ僕は、みんなを救いたいんだ。この歪んだ世界から』
 おそらく、再生とループは関係している。
 もしかしたら、戻っているのではなく、その度に一から世界が再構築されていたのではないのか?
 だが、何度やっても世界はほとんど変わらない。しかも、ノヴァ自身が記憶を持ち越していないということは、常に失敗し続けているということになる。
『前の戦いで、マヌエル枢機卿っていう人も同じように、世界を救うためだと言ってたよ。だけど、彼は自分の都合でしか、狭い視野でしか考えてなかった。
 君も彼と同じで、一辺倒からものを見ただけで全てを決め付けてしまうの? 高いところから見ていたって、下に隠れているものは見えないんだよ』
 子供は断片的にしか物事を考えることが出来ない。そんなことを言いながらも、あの男は全体を見ているようで、実はその中の一部を切り取ってそれが全てだと思い込んでいた。
 ノヴァも同じだ。
『私達は知らないことが多過ぎるわ。あなたの名前だってつい最近知ったのよ』
 この世界には、まだ分からないことの方が多い。
『ノヴァ、人は弱いわ。ほんの少し何かを手に入れただけで傲慢になって、間違いを犯す。でも……やり直すことの出来る生き物だとも思うの。間違ったことにさえ気付ければ、変われる。「この世界」で、やり直せるわ』
 全て消してしまったら、なかったことにしてしまったら、教訓も失い省みることも出来なくなってしまう。
『駄目なんだよ。この世界じゃ。僕はここでは、やり直せない』
 初めてノヴァから憂いのような感情が窺えた。
『どうしてそう決めつけるの? あなたもここに、同じ高さに来ればきっと変わるはず。一緒に人として生きて欲しい。何も手を尽くさずに駄目だから滅ぼすなんて、ただの我侭だわ。せめてその前に色々試して欲しいの。何をやっても駄目だったら……そのとき滅ぼすのでも遅くないでしょう?』
『それでも、僕はこの世界ではやり直せない。この世界の人達を歪みから救い、「次の世界」に行く。それが僕に与えられた、やり直すためのチャンスだ』
 こちらの言葉は届かない。

『ノヴァ、「応え」を待ってるって言ったよな』
 和泉 直哉(いずみ・なおや)は、コックピット越しに、【ジズ】の機体を直視した。
『確かに、この世界はろくでもないかもしれない。俺自身、幼い頃に両親に捨てられてから、生きる理由なんて見失っていた。それでも今日まで生きてこれたのは……他者との「繋がり」を感じられたおかげだ』
 最初は、そうではなかった。
 自分は一人でも大丈夫だと考えていたが、一年ほど前カミロに敗北したのを期に少しずつ変わっていき、今の自分がある。
 人は、変われる。成長していける。
『妹の結奈。本気で闘った相手。学院の仲間たち。そしてイコンとも。これまでの過去は、決して良いことばかりじゃなかったし、過ちもたくさんあったが……。それらを消してしまうことは、みんなとの「繋がり」を消してしまうことに等しい。
 だから、全てを洗い流すなんて、神だろうが何だろうが許すわけにはいかない。それが、俺の「応え」だぜ!』
 彼に続き、和泉 結奈(いずみ・ゆいな)に声をぶつけた。
『あなたの乗ってる【ジズ】だって、この世界で生まれたもので、この世界との「絆」を持つものだよね。なのに、その力で世界を洗い流してしまうの?』
『彼女は理解してくれてるよ。それに、ジズもループから解放されることを望んでいる』
 やはり、言葉では止まらない。
『言ったはずだよ。こんな世界に価値があるって感じているのなら止めに来いって。だったら分かるよね――この世界の価値を証明してくれよ。さあ、見せてくれよ、君達の意志と、覚悟ってやつを!』
 やはり戦わなければならない。
 ならば全力で戦い、仲間やイコンと築いた『繋がり』……『絆』の力を示すまでだ。
 直哉はジェファルコンの機体のスラスターを閃かせ、【ジズ】へと飛び込んでいった。
 己の意志を、その身で示すために。