校長室
【Tears of Fate】part1: Lost in Memories
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真奈の後ろからそっと、バロウズ・セインゲールマンが加わっていた。 小山内南の真相を知って、バロウズは安堵する気持ちと寂しさ、その両方を味わっていた。 「南さんはシスターじゃなかった……んですね」 おかしいとは思っていた。同族たるクランジに遭遇したときの共鳴し合う感覚、焦燥感にも似た、クランジだけがクランジに対して感じる独特の『じりじり』した気持ちを、バロウズは南を目にしても味わうことはなかったからだ。 たしかに、南とバロウズはほとんど接したことがなかった。とはいえローやオミクロン、クシー、あるいはラムダであれば、近くにいるだけであの感覚が肌に伝わってきたのだ。それはクランジ同士にしかないものである。 そういえば以前、空京大学で南は、今は亡きオミクロンとごく近い場所にいたことがあるという。そのとき本当に南がシグマであれば、オミクロンは何らかの反応を示したはずだった。しかしそんな話は聞いていない。それは図らずも、南がただの人間という証拠ではなかったか。 (「だから良かったんです。これで……」) 南は自分と同類ではなかった。ゆえに『クランジ』としての軛(くびき)から自由でいられる。やはりコードネーム『Σ』は欠番だったのだ。 しかし一人のクランジとしては、同胞が一人、欠けてしまったかのような気がするのも事実だった。 バロウズはそこから離れ、本棚の陰に隠れると、南が護送されていくのを見つめていた。 「南ちゃんだっけ、彼女、行っちゃうよ。声かけなくていいの?」 アリア・オーダーブレイカーが言う。すると、 「言う、って何をだ? 『やあ、クランジΩです。あなたが姉妹(シスター)でなくて残念です』とでも? そんな間抜けをしに行く必要もなかろう」 リアンズ・セインゲールマン(りあんず・せいんげーるまん)がたしなめた。 「まあ、それはそうだけど……」 一方でリアンズは、何か言いたげな表情で押し黙っているバロウズの背中を叩くことも忘れなかった。 「そう暗い顔をするな。姉妹を止めるために戦うという事態はまぬがれた。ここは喜んでおくべきところだぞ」 バロウズには明かしていないが、今回リアンズは、あえて憎まれ役も買って出る覚悟だった。つまり、必要とあれば南を手にかけることも想定していたのである。それをせずに済んだことには安堵している。 そんなリアンズの言にアリアも乗って、 「そうよ。いつまでも暗い顔してたら、また女装させちゃうぞ☆」 「えっ……」 それは勘弁して下さい、としどろもどろにバロウズは言い、撤退するエリザベート一行を守るべく後に続くのだった。 小山内南を含むエリザベート主従は出口を目指した。 これだけ護衛がいるのである。途上に障害があっても乗り越えるはたやすい。 エリザベートの手を握り、歩きながら、 「まずは作戦、成功と見ていいですね……」 ですが、と、神代明日香は耳を澄ませた。 「なにか聞こえるですかぁ?」 エリザベートが彼女を見上げて問うた。 「いえ、なにも……」 他のメンバー――きっと戦っている――は無事だろうか、と明日香は思っているのだった。