First Previous |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
12 |
13 |
Next Last
リアクション
viginti 三つ巴戦・コンロンへ
来たみたい、と、清泉 北都(いずみ・ほくと)は、パートナーの守護天使、クナイ・アヤシ(くない・あやし)に言った。
「はい」
セルウスを発見すれば、どうしたってその情報は漏れる。
勢力がそこに集中するに違いなかった。
北都はその中で、アンデッド恐竜軍勢への対処に的に絞った。
宮殿用飛行翼を装備して、アンデッド恐竜達の目前を飛行し、注意をこちらに向けさせようとする。
しかし、恐竜達の目の機能は働いていないようで、北都を見なかった。
「そうか、死体なんだよね」
動物的な本能すら持たず、ただ徘徊する死霊なのだ。
「ならばこれではどうでしょう」
レッサーワイバーンに乗ったクナイが、風術を放つ。
攻撃を受けて、初めて恐竜は反応した。
「北都。操っている者を狙いましょう」
「うん。訊きたいこともあるしね」
こんな乱戦の中だが、可能なら、何故セルウスを狙うのか、駄目元で問い質したい。
ナッシングは、後方の骨恐竜の頭上に立っていた。二人いる。
「悪いけど、セルウスさんのところには向かわせない。暫くは僕達に付き合って貰うよ」
アルツール・ライヘンベルガー(あるつーる・らいへんべるがー)のパートナー、英霊のシグルズ・ヴォルスング(しぐるず・う゛ぉるすんぐ)と司馬懿 仲達(しばい・ちゅうたつ)は、念の為、パワードスーツのマスクで顔を隠した。
以前乙王朝と敵対していたことがあり、身元がばれることによって、所属するイルミンスールに迷惑がかかってはと危惧し、念の為の処置だ。
「名乗りを上げて堂々と、と行きたいところだが……。面倒を避ける為には止むを得ないか……」
パワードスーツを着込みながら、シグルズがぼやいた。
アルツール本人は、今回は変装をしてない。
セルウスを助け、協力する自分達の敵は、キリアナ達であり、乙王朝と戦うつもりではなかったからである。
三つ巴の戦闘の中に、アルツールは召喚獣、サンダーバードを突っ込ませた。
「きゃあっ!」
「い〜とみ〜!」
鳴神 裁(なるかみ・さい)に憑依した物部 九十九(もののべ・つくも)や、ポータラカ人の蒼汁 いーとみー(あじゅーる・いーとみー)が、その攻撃を喰らってしまう。
「師匠達みたいな人がいるっス!」
北都達、上空に位置していた者は、概ね避けたが、要領の悪い守護天使のアレックス・キャッツアイは、逃げ損ねてその攻撃を受けた。
「兄貴、命を惜しまないわね……!」
戻ってきた双子のサンドラ・キャッツアイが、とりあえず治療する。
アルツールは更に、不滅兵団を投入した。
数にものを言わせた鋼鉄の軍勢で、場を混乱させようとしたのだ。
この隙に、シグルズと司馬懿が、セルウスをこの場から逃がす、という計画だった。
一気に場の人口密度が上がる。
恐竜に踏み潰された者もいた。
「行かせませんよ!」
不滅兵団の一人を斬り払い、その背後から、フィアナ・コルトが攻め込んだ。
手近にいるシグルズを狙い、剣を一閃する。隙をつかれた。
「早いっ……!」
シグルズは、避けきることも受けきることも出来ずに、攻撃を受ける。
フィアナは続けて司馬懿を狙ったが、横合いからソロモン著 『レメゲトン』(そろもんちょ・れめげとん)が飛び出した。
「させぬ!」
光術による目潰しで、フィアナは怯む。
続けてサンダーブラストでたたみかけようとしたが、すかさずパートナーの相田なぶらがフィアナを回復させた。
フィアナは素早く飛び退き、体勢を整える。
「退却だ、アルツール!」
「仕方あるまいっ……」
レメゲトンの声に、アルツールはウェンディゴを召喚した。
ウェンディゴをしんがりに置いて時間を稼ぎ、その場から退却する。
なぶらとフィアナは左右に回ってその雪の巨人の攻撃範囲から避け、死角から、同時に攻撃を仕掛けた。
九十九は、アルツールの不滅兵団を片っ端から殴り倒した。
「こーなったら、い〜とみ〜行けっ!!」
「い〜とみ〜!」
びしっ、と指を指され、いーとみーは野生の蹂躙による、大量の魔獣を呼び出す。
走り抜ける魔獣の群れに、戦場が更に混沌化したところで、九十九が装備する、魔鎧のドール・ゴールド(どーる・ごーるど)が教えた。
「範囲魔法が来るようですよ〜?」
「また?」
「恐竜さんの大きさを利用させてもらって、盾にしたらどうでしょう?」
「そだねっ、それでこの召喚兵達は全滅するだろうしっ」
勿論、いーとみーが呼び出した魔獣も一緒に滅されてしまうに違いないが。
それには触れずに九十九といーとみーは、近くの恐竜の足元に走り、邪魔な不滅兵をそこから蹴り出した。
一方、北都はアンデッド恐竜の群れに向けて、ファイナルレジェンドを放った。
連発は出来ない大技だが、長期戦をやるつもりもない。
恐竜達は、魔法の光を叩きつけられる。
「やったかな?」
「ダメージは大きいようですが、致命傷にはなっておりません。操る者は……」
クナイが言った。
恐竜の頭上に、ナッシングが居ない。
が、北都が視線を移すと、別の恐竜の頭上に移っていた。
「? 場所を変えることに意味があるのかな? どっちにしろ範囲内だと思うけど」
「一度倒れた後、別の所に現れたように見えました」
北都の疑問に、クナイが返す。
「不死身ってこと?」
「千眼睨みを試みてみましょう。石化できたら、連れ帰れます」
そうすれば、尋問もできるかもしれない。
クナイはナッシングにシーリングランスを仕掛けて牽制し、体中に目玉を浮かび上がらせる。
見上げたナッシングは、シーリングランスの攻撃には身を揺らめかせたが、千眼睨みには反応しなかった。
振り上げられる鎌を逃れて、再び距離を置く。
「手応えが、はっきりしません。まるで、そこに居ないかのようです」
「仕方ないね。
別に倒す必要は無いんだし、持てる手を全部出して、撤退しよう。セルウスさんは?」
北都の問いに、クナイはセルウスの様子を確認する。
「見当たりません。皆様、上手く誘導されたようでございます」
「よし、行こう」
北都は、二発目のファイナルレジェンドを放つと同時に、クナイと共に退避した。
「さてと、今回は周りを気にする必要も特になし、ね」
リカイン・フェルマータは喉を鳴らした。
何せ、周りは全て敵、みたいな状況だ。
「咆哮が思い切り使えるわ」
それはリカインの伝家の宝刀。一応、余程の時でなければ使わないようにしてはいるのだが、今回は誤爆の心配も無いと、そのリミッターも外した。
思い切り戦える機会など、そうそう無いのだ。
「悪いわね、フィス姉さん」
全く、人のことは言えない。
響き渡るリカインの咆哮に、恐竜達が怯む。
その足元では人間達も攻撃を喰らっていた。
そんな人間達には目もくれずにシルフィスティ・ロスヴァイセが、至近の恐竜に、疾風突きの一撃を食らわす。
「とどめっス!!」
そしてアレックスの則天去私で、何体かのアンデッド恐竜が倒れた。
先に北都によってダメージを受けていたのも効いていたのだろう。
「すごい、兄貴が倒したみたいに見える!」
絶賛するサンドラに、何気に酷い、と、アレックスはがくりと肩を落とした。
「い〜とみ〜! い〜とみ〜!」
いーとみーが何かを訴えているのだが、意味が解らないので放っておいたら、ドールが言った。
「セルウスさん、無事に逃げたみたいですね〜?」
「あっ、そうなの? じゃあもう、此処で戦う必要もないね。ちゃっちゃと撤退しようか。
もうちょっと時間を稼いで、セルウスの安全を確信できたらねっ」
「い〜とみ〜……」
いーとみーの声が沈んだ様子から、それを伝えたかったのかもしれない、と九十九は思う。
混戦の中で、数では圧倒的に負けていたが、相手の数には惑わされなかった。
多数対一ではなく、一対一を多数戦やる、と考える。
「100対1じゃあ勝てないけど、1対1を100回なら、勝ち目はあるんだよね!」
一度に相手する数はなるべく少なく、そして少ない手数で勝って行く。
隠れ身を使った九十九の姿を見失い、パラ実生が動揺する。
九十九は密かに、その背後に周り込んだ。
三道 六黒(みどう・むくろ)が、牽制の為のヴァルザドーンの砲撃を乱戦の中に叩き込んだのは、アルツールがサンダーバードを召喚するより、少し前である。
六黒は、混戦の中、多くの者がアンデッド恐竜に向かうのを見て、ミツエ軍勢の方へ向かった。
六黒は、セルウスの相やら運命やら、そんなものには興味はなかった。
セルウスに何があるかなど、解る瞬間に解ればいい。
どの勢力がどう動こうが、過程に意味はなく、ただ最後のその瞬間に、自分の腕が、セルウスの首根を掴める位置にあることだけが望みだった。
その為に必要な仕事ならばしよう。
「人目を引き付けて、派手に暴れればよいのだろう。何、いつも通りよ」
そう呟いて、六黒は、ミツエの軍を相手に立ち回る。
派手な武器、派手な技をあえて選んで、戦場を混乱させた。
やがて戦場が混迷を極め、頃合かと思った頃に、北都の二発目のファイナルレジェンドが放たれる。
六黒はそれに乗じて撤退した。
アルツール達がセルウスを助け出すことは叶わなかったが、それは別の仲間が実行した。
あとは逃げるのみ。機動力が勝負である。
遅れてセルウス達に追いついたアルツール達は、囮を買って出た。
「わしが追手を引き付ける。その間にセルウス達は別方向に向かって逃げればよい」
司馬懿は、軍用バイクに、セルウス代わりのカカシを積んだ。
「でも」
「落ち合う場所を教えてくれ。後から向かう」
言いかけたセルウスに、アルツールが言う。
司馬懿だけが単独で逃げれば、囮であることはバレバレだ。
複数の囮を同時に放つのである。
翔一朗も、派手にセルウスと共にパラ実生達から逃げ回ったことで、ここは囮に回る。
その隙に、セルウスはドミトリエ達の飛空艇と一旦落ち合い、飛空艇に回収されたと見せかける。
その後で、四散している全員が、サルヴィン川で合流する、という予定だった。
「礼はいらん。
だが、そうだな、もしイルミンスールに来ることがあったら、俺の義理の娘達と友達になってくれんかな」
「うん」
セルウスは笑った。
「楽しみにしてる」
First Previous |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
12 |
13 |
Next Last