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海に潜むは亡国の艦 ~大界征くは幻の艦~(第1回/全3回)

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海に潜むは亡国の艦 ~大界征くは幻の艦~(第1回/全3回)
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「しつこい!」
 アートゥラ・フィーニクスを振り切れないことが分かると、富永佐那がイコンホース・クリスニッツアを分離させて人型のドリェヴニー形態に変形した。
 高速のクリスニッツアを追いかけかけたアートゥラ・フィーニクスがあわてて反転しようとする。
「遅い!」
 富永佐那が、反転して戻ってくるアートゥラ・フィーニクスをバスターライフルで狙撃した。被弾したアートゥラ・フィーニクスが、こちらも人型に変形してビームサーベルを振り下ろしてくる。上を取られたドリェヴニーが右腕を切り落とされて機体が回転した。だが、蹴りあげられた爪先からビームサーベルがのび、アーテル・フィーニクスの腰部を斬り裂いて撃破する。
「ダメージコントロールは?」
「問題ありませんわ。クリスニッツアを呼び戻します」
 富永佐那の問いに、エレナ・リューリクが答えた。
 戻ってきたクリスニッツアを左手で掴んで、本体への帰還ルートに入る。すでに旗艦隊も戦闘に入っているので、もうルートを隠す必要もない。
 そこへ、アーテル・フィーニクスがまたも追いすがってきた。ドリェヴニーを追っていると言うよりは、本隊への攻撃にむかう機のようだ。
「ほんとに、しつこいわね」
 富永佐那が迎撃に出ようかと考えたとき、敵アーテル・フィーニクスを雷光がつつんだ。
『被弾してるじゃないか、早く行け』
 刃金から柊恭也が富永佐那に言った。敵イコン部隊を引き離すために旗艦とは逆の方向へと進んだために、逸早く富永佐那たちと遭遇できたらしい。
『了解』
 躊躇することなく、富永佐那が離脱する。
「味方に被弾させるなど、無様だな恭也」
「こいつは、高速戦闘むきじゃないんだよ」
 出遅れたことを柊唯依に責められて、柊恭也が言い返した。
 レーザーマシンガンで派手に弾幕を張って敵の注意を引きつける。
「もう少し、派手に行く方法はあるか、姉貴」
「あそこだな」
 柊恭也に聞かれて、柊唯依がシュヴァルツガイストを示した。すぐにシュヴァルツガイストの上に降りてそこを確固とした足場にすると、柊恭也は周囲に派手にサンダービームを放って敵を引きつけた。
 現在の各部隊の位置は、北にアトラスの傷跡の守備部隊、その南東からそれに近づくスキッドブラッドの艦隊、そこから南に敵別働隊、その西にフリングホルニの艦隊という配置だ。スキッドブラッドのイコン部隊は、半数がフリングホルニからのイコン部隊と交戦しつつ南西に移動してフリングホルニと敵別働隊の戦闘域に合流しつつあった。
 
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「対空防御。これ以上敵イコンをフリングホルニに近づけるな」
 HMS・テメレーアのブリッジで、ホレーショ・ネルソンが言った。
「テメレーア、前進。敵艦を近づけるな。各艦に伝達、防御フォーメーションに移行」
「各艦に伝達します」
 ローザマリア・クライツァールが復唱した。
 HMS・テメレーアからの指示で、H艦隊の四隻が対空砲座でイコンを攻撃しつつ移動を開始する。幸いにして敵は前方に集中しており、艦隊が包囲されているわけではない。
 HMS・テメレーア、伊勢ウィスタリア、土佐が横一列にならび、前後にならんだ全主砲副砲を敵艦隊にむけつつ盾となる。
 各艦の砲塔が回転し、敵艦隊にむけられた。
「敵攻撃来ます!」
 敵艦隊が砲撃を開始する。H艦隊が壁のように立ちはだかっているため、直接フリングホルニを狙えず。実体弾の主砲で山なりに砲撃を加えてきた。艦列は艦首をこちらにむけて密集しつつビームシールドを展開して防御壁としている。戦艦が前列となり、後方に駆逐艦が待機している状態だ。そこから、シールド越しに実体弾やミサイルで攻撃してきている。
 
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「ミサイル、落とせよ」
「カットアウトグレネード発射。敵ミサイルを攪乱します」
 柚木桂輔に言われて、アルマ・ライラックがウィスタリアから、カットアウトグレネードを射出した。磁気干渉を受けて、敵ミサイルが誘爆する。
「第二波来るぞ!」
 間断なく降り注ぐミサイル群が、フリングホルニの盾となっているH艦隊の各艦に少なからず命中していった。
 
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「主砲はまだなのか?」
 伊勢のレーザーマシンガンで弾幕を張りながら、鋼鉄二十二号が葛城吹雪に言った。動体センサーでミサイルを捉えることはできるが、数が多く、守るべき場所も広すぎる。
「指示を待つであります」
 さすがに防ぎきれず、被弾箇所の被害状況を確認しながら葛城吹雪が答えた。
 時間と共に、赤いシグナルは増殖していった。
 
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「要塞砲、グラビティ・キャノン、射角調整入ります。各艦、射撃連動システムリンク良好です」
 土佐の戦闘指揮所で、高嶋梓が弾道計算をしながら報告した。光線系と実体弾では、各種条件によって射角が違ってくる。
「陣風からのレーザー計測データ来ます。マージ完了。主砲、自動調整します」
 
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 HMS・テメレーアで、ローザマリア・クライツァールが各艦とリンクした照準データを各砲塔へと回した。砲の種類が違えば弾速も変わる。同時着弾を狙うのであれば、砲の発射タイミングは同時ではない。従来であれば、熟練の砲手と艦隊での訓練が必要となるが、現代戦ではかなりの部分を自動計算できるようになっている。それも、パラミタの機晶姫の能力あってのことではあるが。
「初弾で、敵の動きを止める。一斉射。撃て!」
 満を持してホレーショ・ネルソンが命じた。
 四隻の艦艇が砲撃を開始する。各艦の要塞砲が火を噴き、それを追うようにしてグラビティ・キャノンが発射された。
 敵艦前方のビームシールドで砲撃が防がれた。なかなかに、防御力は高いようだ。
 敵は、こちらに艦首をむけて前方被弾面積を抑えて防御を高めている。そのまま突入してくるつもりだろう。だが、ビームシールドを張っていては、水平射撃は不可能だ。
「さて、それでは、敵をこれから崩す。よく見ておくように」
「はい」
 ホレーショ・ネルソンに言われて、常闇夜月がうなずいた。
「敵前方中央艦に攻撃を集中。撃破後、敵艦隊中央でグラビティ・キャノンによる爆縮攻撃を行う。要塞砲、砲塔挙げ。グラビティ・キャノン用意。要塞砲、撃てっ!」
 ホレーショ・ネルソンの指示で、要塞砲が一斉に発射された。上方にむけて発射された砲弾が、敵のビームシールドを越えて降り注ぐ。集中砲火を受けた敵戦艦がバランスを崩し、艦首が跳ね上がった。一列に並んでいたビームシールドの配置が崩れる。
「あの隙間だ! 狙えよ!」
「無茶言いやがるぜ」
 ホレーショ・ネルソンの命令に、グラビティ・キャノンの準備をしていたテノーリオ・メイベアが唸った。即座に補正を入れてグラビティ・キャノンを発射する。リンクして、回頭したウィスタリアと土佐からも、グラビティ・キャノンが発射された。
 わずかに開いたビームシールドの隙間を縫って抜けたグラビティ・キャノンの重力子が、敵艦隊中央で爆縮を起こす。爆縮に巻き込まれた近くの駆逐艦が、イコンほどの球状の鉄塊にまで圧縮された後に爆散して飛び散った。さすがにその破片を避けて、敵艦隊の隊列が崩れた。
 だが、十分に接近を果たした敵艦船が、左右に散開してフリングホルニを包囲しようとする。
「各艦反転。魚鱗陣形を形成しつつ後退。敵を後方に回り込ませるな」
 ホレーショ・ネルソンが叫んだ。
 
    ★    ★    ★
 
「旗艦の前に出るぞ」
 前方にビームシールドを展開しつつ、閃崎静麻のツインウィングがフリングホルニの上方を前に出た。H艦隊を越えてくる敵艦砲射撃をビームシールドで受けつつ、周囲の敵イコンへガトリングガンの銃弾をばらまく。
「弾幕薄いわよ! もっと密度を上げていきなさい!」
 レイナ・ライトフィードが、各砲手にむけて叫んだ。
 下に回り込んで、ヴァラヌス・フライヤーがツインウイングの艦底をクローで斬り裂こうとする。
 艦底部ガトリングガンのターレットが回転し、接近しかけたヴァラヌス・フライヤーを銃撃で叩き落とした。その破片が、下方に位置するアイランド・イーリに降り注ぐ。
ビームシールド展開。どのみち、旗艦には砲塔もありませんから、イーリを盾代わりに前方に展開させます。本領、お見せしますわ
 ユーベル・キャリバーンが、ビームシールドを展開しつつ、アイランド・イーリをフリングホルニの正面やや上方に移動させた。ヴァラヌス・フライヤーの破片がビームシールドに弾かれて砕け散る。