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【八岐大蛇の戦巫女】消えた乙女たち(第3話/全3話)

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【八岐大蛇の戦巫女】消えた乙女たち(第3話/全3話)
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●追記

「おお〜、和輝の予想通りの展開だ!!」
 というアニス・パラス(あにす・ぱらす)声で、カスパールは意識を取り戻した。
 切断された腕に包帯が巻かれている。
 血に汚れた肌が、綺麗に拭われていた。着慣れぬ肌触りに袖を調べると、服も病院着のような白いものに着替えさせられていることがわかった。
 暗い部屋だった。もう遅い時間帯のようだ。
「ここは……」
 カスパールが身を起こすと、
「わっ! 目を覚ましたっ!」
 テレビを見ていたアニスは飛び上がるくらい驚いて、佐野 和輝(さの・かずき)の陰に隠れたのである。どうやらアニスにとって、カスパールはずっと『怖い人』のままらしい。
「俺の隠れ家の一つだ……他に、連れ込む場所もなかったんでな」
 返答したのは和輝だ。ベッド脇のテーブルに座っている。
 鎮痛剤を打たれたのだろう。幸か不幸か、痛みは感じない。なので、ぼうとする頭で、カスパールは寝乱れた髪を右手で直しながら部屋を見回した。
 決して華美ではないが、こざっぱりして居心地のよさそうな部屋だった。必要最低限の家具が無駄なく並んでおり、落ち着いた緑の壁紙が貼られている。
 点けっぱなしのテレビには、ニュース映像が映っていた。
 映像は、八岐大蛇事件の後片付けの光景のようである。すべてはもう終わったらしい。
「どれくらい眠っていましたか……私」
「今日で三日目。いまは夜の九時過ぎだ」
 カスパールは、飛び降りた直後のことを思い出した。
「あなたに助けられるとはね……でも、お礼は申し上げておきますわ」
 と言いながらカスパールは、和輝のそばに獅子の面があることに気づいたのだった。
「感謝するのは俺の話を聞いてからにするんだな。気が変わると思うから」
 和輝は淡々と言った。
「グランツ教のツァンダ支部は閉鎖になった。二重スパイしている間に俺が集めておいた脱税や違法薬物精製の証拠が公にされたためだ」
 一拍おいて、続ける。
「決定的なのは、グランツ教が八岐大蛇復活の黒幕であったと知られたことだ。カスパール、お前があの日話したこと……全部ではないが一部、録音できていたんだよ。これも俺が仕掛けた盗聴器によるものだ」
「うう……」
 アニスは呻き声を洩らした。カスパールがおし黙ったことで怖くなったらしい。
「騙して悪いが、これも仕事なんでな。今回の一連の事件について、グランツ教ツァンダ支部が暗躍している証拠をつかむこと……それが俺が受けた依頼だ」
 しかしカスパールは怒ったわけではなかった。ただ、すべてを理解し、諦めたように溜息をついただけだった。
「……恨みますまい。私も、あなたから有力な情報を得ていましたから。それでは私も、しかるべきところに引き渡されるのですね?」
「どうして?」
「どうして、とは……?」
 カスパールは目を丸くした。
 一方で、和輝のほうは落ち着き払っている。当然のことを言っているだけ、といった風な口調だ。
「俺は『カスパールを捕らえること』という依頼は受けていない」
「だけどあなたは、空京大学や蒼空学園の……」
「元々、俺は利害関係であっちに協力していただけだ。それがなくなった今、協力関係もなくなっただけのことだ」
 カスパールが怒っているのではないとわかって、アニスも声を上げた。
「そうそう、アニスたちは正義の味方じゃないから、そんなことやらないよ〜♪」
「和輝様……」
 カスパールが声を詰まらせるのがわかった。
 和輝は、カスパールのほうを見ないようにして立ち上がった。
「少し食べ物を持って来よう。平らげたら、もう寝たほうがいい。数日してもう少し容態が安定したら、他の都市のグランツ教の施設にでも送っていく。支部によってはひとつの研究機関のようになっているものもあると聞く。それだけのの技術があれば、その腕も不自由ない状態にできるはずだ」
「待って」
 追おうとして、はらりとカスパールの胸元がはだけた。
 下着をつけていない裸身があらわになる。
「きゃ!」
 まともに目の当たりにしてしまってアニスは、同性なのに真っ赤になった。なんというか……ゴージャス! だったのである。
 石のように振り向かぬまま和輝は言った。
「言っておくが……着替えや体を拭くのはアニスに一任したからな。俺は……」
「わかっています。和輝様は紳士ですからね……二重スパイですけれど」
 なんと返したらいいのかわからず、少し頬をかいてから和輝は言った。
「……お前との会話は、それなりに楽しかったぞ。まあ、嫌いではなかったな」
「私は、あなたのことが好きになりそうですわ」
「……戻るまでに着ておけよ、服!」
 返す言葉がみつからなくて、足音高く和輝は部屋を後にした。



(【八岐大蛇の戦巫女】消えた乙女たち・了)
 

担当マスターより

▼担当マスター

桂木京介

▼マスターコメント

 桂木京介です。ご参加ありがとうございました。
 お疲れ様でした。シリーズ全3話、ここで完結です。

 前2回からの伏線については、回収されたものもあり、さらなる謎を残したものもあり……で、スッキリ爽快とは行かなかったかもしれませんが、とりあえずはここで一旦終了となります。
 謎については別の展開への持ち越しです。例のあの人については、またどこかで再登場することでしょう。も

 今回は戦闘描写に力を入れ、桂木としては超久々のイコン(記名シナリオでは初めてな気がします)登場と、新機軸も色々やってみました。なので最終回にして、異色回だったような気がするようなしないような……です。
 いずれにせよ、楽しんで頂ければ幸いです。

 毎回言っていることですが、仮にこのシナリオが楽しめたのであれば、それは他ならぬあなたのおかげです。皆様のお力がなければ、決して完結しなかったでしょうから。
 前話にいただいた感想やご意見も、ひとつひとつ、噛みしめるようにして読んでおります。私信にせよ掲示板にせよ、メッセージはとてもありがたいものです。このたびも機会があれば、お願いします。

 それではまた、新たなシナリオでお目にかかるとしましょう。
 桂木京介でした。



―履歴―
 2013年3月31日:初稿
 2013年4月1日 :修正版第二稿