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【光へ続く点と線】遥か古代に罪は降りて (第1回/全3回)

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【光へ続く点と線】遥か古代に罪は降りて (第1回/全3回)

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謎のイコンと戦え!

 遺跡に向かったメンバーたちが、光条兵器を発見したころ、アクリト艦を中心とするイコン部隊は並居るゴーストイコンの群れをだいぶ減らすことに成功していた。中継基地のの援護領域までもう少し。そこに到達すればさらなる強力な攻撃のバックアップが得られる。
 清泉 北都(いずみ・ほくと)クナイ・アヤシ(くない・あやし)とともにルドュテに乗り、インテグラル・ナイトに同化した面々と共にゴーストイコンの群れと戦っていた。
「ヒトガタが狙われるには何か理由がある筈。それを解明する必要があるんだ。渡すわけにはいかない」
遠距離射撃の援護を受けながら、ルデュテは近接戦闘を行っていた。クナイが禁猟区でセンサーやレーダーだけに頼らず、警戒を行っている。エネルギー残量、ダメージ負荷のチェックも怠らない。北都の機体はゴーストイコンの群れの前線を駆け抜けながらソウルブレードで敵の頭部を貫き、あるいは叩き斬って離脱する。回避と機動力重視の機体ならではのヒットアンドアウェイの戦法だ。ルドュテが最前線を叩いたところでナイトのメンバーが突っ込み、斧を振るっている。援護射撃のウィッチクラフトピストルを撃ち込みながらモニターでキロスのインテグラル・ナイトの暴れっぷりを見ていた北都は、通信機を取り上げた。
「インテグラルナイトに乗る人は無茶しないようにね。リミッターが万一解除されたら何が起こるか分からないんだし。
 いきなり味方が敵になったら洒落にならない。特にキロスさん、頭に血を上らせないように。冷静に行こうね。
 あと、影人間にも注意して!」
そう言いながらも北都は万が一のことを考え、アクリトらにナイトの暴走が起きたとき、搭乗(?)する契約者たちにダメージが及ばない倒し方をあらかじめ聞いていた。胸部に同化するとのことなので、頭部か胴を狙えばいいらしい。ただし同化ゆえ、痛みやメンタルダメージはかなりあるらしい。
「……わかってる。だがあれは何とかしなきゃだろ」
図星を突かれて不機嫌そうなキロスの声が響く。
 ゴーストイコンの群れと共に、あの瘴気をまとったイコンが大分接近して来ていた。リーラ・タイルヒュン(りーら・たいるひゅん)をパイロットスーツの代わりに装備した柊 真司(ひいらぎ・しんじ)ゴスホークのモニターに映るそれをじっと見つめていた。
「コイツが報告にあったアクリト教授達を襲ったイコンか……。悪いがこれ以上好き勝手にはさせん」
彼は南ニルヴァーナのアイール防衛戦に参加を表明していたが、ゴーストイコンの群れに“瘴気をまとったイコン”がいると聞き、今まで体力を温存してきた。ベストのコンディションで全力を振るわねばならないだろうと予感していたからだ。同様に考えた契約者たちと共に機会を待って待機していたのである。
(他のゴーストイコンと違ってコイツは明らかに気配が違う。気を引き締めて戦うとしよう)
ヴェルリア・アルカトル(う゛ぇるりあ・あるかとる)が計器類のチェックを手早く行う。
「コンディション・オールグリーンです。機体とのシンクロ率78%」
リーラがのほほんと呟く。
「噂には聞いてたけど、いかにもボス! って感じね〜」
そこに斎賀 昌毅(さいが・まさき)フラフナグズから通信が入る。
「今まで散々な目にあわせてくれたインテグラルをコントロール出来るとか聞いてアイールに見物に来たんだが。
 なんだか面白そうなことに巻き込まれたぜ。
 どうせなら生真面目な実験より実践の中でその性能見させてもらうつもりだったんだが……。
 なんか敵の群れの中にガス噴出して自己主張の強そうなのがいるじゃねぇか。
 流石にアレの相手は実験体じゃ厳しそうだな。面白れぇ、あれは俺の獲物だ!」
サブパイロットのマイア・コロチナ(まいあ・ころちな)が、忙しく機器の調整を行いながら言う。
「キロス達のインテグラルの実験体も気になりますが……。
 どうやら今はそんな事言ってられるような感じじゃないですね……。
 あれは……相手側の指揮官機ってことでいいんでしょうか?
 少なくともここでボク達が倒してしまうなり、足止めするなりしておけば他の雑魚はどうにかなりそうですね。
 油断しないできっちり仕事こなしましょう」
勇む昌毅にレーヴァテイン桐ヶ谷 煉(きりがや・れん)が穏やかにけん制の声をかけた。
「あのイコンは危険だ、協力して当たろう。俺たちでとめるぞ」
柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)の{ICN0005093#アクティヴ・イーグル}も全面攻撃を行うつもりらしい。
「あの謎のイコン、どうやらゴーストイコンのボスクラスみたいだな。
 となると、あれを撃破出来ればゴーストイコンの群も撤退する可能性があるか?
 それに、俺達が知らないタイプのイコンみてぇだし、上手く残骸回収出来れば今後のイコン改造に役立つかもしれねぇな。
 他の雑魚は極力無視して、謎のイコンだけ狙うべきだな」
煉のパートナー、柊 唯依(ひいらぎ・ゆい)が周囲のゴーストイコンをレーダーと目視でチェックしながら言った。
「ふむ、最近の敵は数で攻めてくるのが主流なのかね。
 まったく、こっちは戦艦が多く艦載機が少ないと言うのに。……まぁ愚痴を言っても仕方ない、仕事だ仕事。
 雑魚ゴーストイコンは護衛機に任せた。 私達が狙うべきはあの謎のイコンだ。
 あれに戦艦が狙われたら、その火力ですぐ落とされるだろうしな。
 常に位置を把握し、絶対に逃がさないようにしなければ」
そこで一旦言葉を切ると、煉に向かって言う。
「……しかし、謎のイコンとは言いにくいな。アンノウン捕捉。……おい恭也、あれにコードネームは無いのか?」
「コードネーム? 知らん、今はノスフェラトとでも呼んどけ。後で確認しとく」
ゴスホークとレーヴァテインが敵の出方を見るための攻撃に出る。真司は素早い動きが必要とされるため、機体とのシンクロ率を上げた。ヴェルリアがセンサー類のチェックを行う。
「現在のシンクロ率83%」
G.C.Sによる空間歪曲場を展開して守備を固め、接近しすぎないよう気をつけながらプラズマライフル内蔵型ブレードで牽制射撃する。
「まずは手の内を暴かせて貰う」
反対側からはレーヴァテインが滑るように接近し、機晶ブレード搭載型ライフルを連射しながら接近し、ブレードをすれ違いざまに切り裂くように放つと、うるさそうに払う敵の腕を高速で回避する。エヴァ・ヴォルテール(えう゛ぁ・う゛ぉるてーる)がその結果などをセンサーなどを使用して分析する。
「どうだ? エヴァっち?」
「ゴスホークのもレーヴァテインのも、攻撃はヒットしてるが……ヤツはノーダメージだぜ!
 オマケになんも仕掛けて来ねえ」
「な〜んかヤな感じね〜」
リーラが呟く。北都がそれを見やって言った。
「“瘴気をまとったイコン”には一体で対処するのは無理だね。パワーが違うし、覚醒を使っても難しいと思う。
 相手はヒトガタを奪うのが目的であって、破壊は避ける傾向にある。
 ヒトガタの近くでは強力な攻撃はして来ないんじゃないかな?」
そこに朝霧 垂(あさぎり・しづり)黒麒麟紫月 唯斗(しづき・ゆいと)魂剛と、周辺のゴーストイコンを蹴散らし、こちらに向かってくる。垂が周囲のゴーストイコンの群れを見て言う。
「相変わらず敵さんはスゲ〜数いるよなぁ……とは言え、負ける訳にはいかねぇんだ、根性入れていくぜっ!!」
唯斗は瘴気を放つイコンを睨みつける。エクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)は機体のコンディション、コントロールの担当だ。黙々と意識を集中して周囲の警戒と機体のエネルギー監視を行っている。
「ったく! ゴーストイコンの群れをわらわらとけしかけてきやがって!
 毎度毎度相手にしてる余裕は無いんでな、司令塔っぽいのを叩かせて貰う! 恭也! 垂! 行くぞ!」
陽動作戦は失敗に終わった、敵は挑発に乗ってこない。真司は他のイコンと綿密な連絡を取りながらの一斉最大攻撃を覚悟した。ディメンションサイトによる空間把握と行動予測を駆使し、敵が反撃に出た場合を念頭にポイントシフトによる瞬間移動で一気に間合いを詰める。プラズマライフル内蔵型ブレードと左手に持った風斬剣での二刀流の攻撃だ。ヴェルリアは武器の残弾数を常にチェックしながら敵イコンの攻撃パターンや回避パターンを観察、収集・分析しながら、さらにレーザー・ビットを展開し、全方位から攻撃を仕掛ける。ミラージュでの幻惑効果も忘れない。
 垂は唯斗のイコンを黒麒麟の背に乗せ武者騎馬として、ジャマなゴーストイコンを跳ね飛ばしながら真っ直ぐに瘴気を放つイコンに向けて突進していった。の状態にし、唯斗が攻撃に専念し、こちらは移動に専念するというスタンスだ。
「騎神剣帝!! 気合と根性でフルパワー攻撃だあっ!!!」
突進しながらヴィサルガ・プラナヴァハを発動し、覚醒する。漆黒の巨躯を持つ黒麒麟の足首に翼が生じる。その上に跨る唯斗の魂剛が、瘴気を放つイコンとの間に群がるゴーストイコンをアンチビームソードで斬り捨ててひたすらに突き進む。その様はまさに騎馬の侍である。黒麒麟はまさに軍馬そのものといった動きで、戦場を駆け抜けてゆく。唯斗が吼える。
「おおおおおおおおおおお!! 邪魔するんじゃねぇよ!
 俺は!アイツを! 叩き斬る! 面倒くせぇ!邪魔する奴も纏めて、ぶった斬る!
併走する恭也が、アクティヴ・イーグルの荷電粒子砲を放ち、道を切り開く。
「布都御魂を斬艦刀モードでぶち込んでやるぜ!
 前はジェイダスイコンのタックルを食らっても無傷だったらしいが、流石に斬艦刀2発は防ぎ切れねぇ筈だ。
 ……葦原イコンの最大戦力、舐めんなよ?」
唯依が釘をさす。
「紫月や他の機体とタイミングを合わせろ、ここで確実に潰すっ!」
唯斗がデュランダルで周囲一帯を薙ぎ払い、周辺のゴーストイコンを切り捨てる。
「神武刀・布都御霊! 超大型剣形態解放! 問答無用の絶対火力! 防げるもんなら防いでみろよ!
 エクス! 出力全開! ココですべて出し切れ!」
「理も無茶も無謀も、もとより承知ッ! ただ、押し通せッ! 押し切れッ!」
真司も彼らのタイミングにあわせ、エヴァがヴィサルガ・プラナヴァハを使用した。機体が明るい光を放つ。その状態でG.C.Sグラビティコントロールを最大出力で使うと、瘴気を放つイコンの周囲の空間がくにゃりと歪む。リミッターを解除したファイナルイコンソードが炸裂する。
「切り札をきらせてもらう!! 行くぞッ! ファイナルイコンソード!」」
煉の機体もまた、覚醒の淡い光に包まれる。右手のデュランダルを最大出力で形成し、その巨大化したビームサーベルを構えたまま、高く舞い上がる。アクセルギアを最大起動し、万一の際の回避の準備も怠らない。そのまま落下し、重力加速度を加算して真上の死角から獲物を狙うタカのように急降下する。モニター越しに敵機をひたと睨みすえ、エンド・オブ・ウォーズを仕掛けたのち、神武刀・布都御霊を大型剣に変形させファイナルイコンソードを叩きつける。
 昌毅の機体も覚醒を使った。目的は味方機の援護と遠距離からのトドメだ。
「なかなかのパワーをお持ちのようだが、出力ならこのフラフナグズも負けちゃいねぇ。
 どんな強い攻撃でも相手に当たらなきゃ意味がねぇんだよ!
 てめぇの攻撃とフラフナグズの主砲どっちが先に相手の身体に大穴開けるか勝負だ!!
 頼むからそっぽ向いて目標へまっしぐらみたいな寂しい真似はしてくれるなよ?
 てめぇの目的は戦艦にある「ヒトガタ」だそうだが、それを盾にしたりするような真似はしないから安心しろ!」
マイアが忙しくコンソールの上に指を走らせながら声をかける。
「敵の狙いはヒトガタのようですから最悪戦艦を背にするように戦えば相手の行動を絞る事も出来る……。
 と思ったんですが、やっぱりそういう戦いはお望みじゃないんですよね。
 いいですよ。ボクは昌毅に合わせるまでです。
 いつも通り昌毅が思いっきり戦えるようにするのがボクの仕事ですから」
覚醒のエネルギーで猛烈な火力を持った荷電粒子砲の白熱したビームが通り道のゴーストイコンを焼きながらゴーストイコンに生き物のように向かう。
 全員のフルパワーの攻撃が、瘴気をまとうイコンの文字通り全身にヒットした。白熱したエネルギーがその全身を包み込み、周辺にいたゴーストイコンが巻き込まれ、炎に落下した紙くずのように蒸発する。
 だが、エネルギーが霧散したとき、そこにあったのはほぼ無傷に近い状態の瘴気をまとうイコンの姿だった。周辺のゴーストイコンを片付けていた北都らは、すぐに覚醒を使った機体のサポートに入った。急ぎ機動要塞に帰還しなければ危険だ。クナイが全員の安全確認と、最も近い機動要塞の座標を伝える。
「なんだあれは! 化け物か!」
「だが……あれほどの力を持ちながら何故何も仕掛けてこない?」
エクスが呻くように言い、唯斗が不審げに応える。総攻撃を行った全員が同じ感想を持っていた。今の戦闘のデータを取り続けていたライゼ・エンブ(らいぜ・えんぶ)がおもむろに外部通信で呼びかけた。
「お〜い、そこのイコンの搭乗者さ〜ん。可能だったら返事をして〜」
すると、突然瘴気をまとうイコンが黒麒麟に向き直った。
『何だ?』
イコン自体の口と思われる部分が開き、虚ろで深い男の声が応えた。頭部の目に当たる位置が紅い光を放っている。
「イ、イコン自身が話してる……のか?」
ライゼは一瞬虚を突かれたが、すぐに気を取り直すと話しかけた。
「そっちが何でヒトガタを運ぶ戦艦に攻撃してくるのか、その理由を知りたいんだよ」
『ヒトガタが、光条世界に通じる重要なファクターであるためだ』
そういえば、前にインテグラル・クイーンの姿を見て戸惑う様子が見受けられた。つまり、ニルヴァーナに関する者が乗っている? そう考えた北都も呼びかけてみる。……どうやら、この“イコン自身”が受け答えしているようだったが。
「キミは誰? 何が目的?」
『私は既に滅んだ大陸で産まれ、大陸の崩壊後に生き延びたもの。
 今解き放たれて行く光条世界への道を、脆弱な者たちの手より奪い守るため、ここに』
「ソウル……アベレイター……?」
『今の私はそう呼称され、また、そう呼ばれる者たちの一部と志を共にしている』
「クイーンの知り合いなの?」
『クイーンたちもまた……今は特別な力を持っている』
「クイーン……たち?」
ライゼがオウム返しに呟いた。謎のイコンの紅い瞳が暗く翳った。
「そうだ」
そのとき、アクリトから全員に通信が入った。
「中継基地の迎撃システムの射程圏内に入った。防衛システムが今各座標をチェックしている」
全員が一様に安堵し、士気が高揚する。瘴気を放つイコンは考え込むような様子でしばらくその場に佇んでいたが、ヒトガタを載せた戦艦を一瞥すると、ゴーストイコンの群れを率いて突然退却していった。