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【光へ続く点と線】遥か古代に罪は降りて (第1回/全3回)

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【光へ続く点と線】遥か古代に罪は降りて (第1回/全3回)

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インテグラル・ナイト出撃

 今回イコン化実験段階のインテグラル・ナイト動作データを取るため出撃しているキロス・コンモドゥス(きろす・こんもどぅす)。アクリトは自艦のイコンデッキで実験用の機体を前にいくつかの微調整を行っていた。
「シーカー教授。インテグラルナイトの件、私たちも協力させてもらえない?
 イコン化……といっても実体は巨大生物に近いんでしょう? だからイコン乗りじゃないキロスに頼んだ。違う?」
天空騎士の異名を持つタシガン空峡の義賊、リネン・エルフト(りねん・えるふと)が声をかけてきた。アクリトは白衣のすそを翻して振り返る。
「いや、そういうわけでもない。……彼がたってと望んできたのだ」
「……そっか。でも、生物である以上、なにか役立つかもしれない、搭乗させてもらえないかしら?」
「それはかまわんが……あくまでも実験段階のものだ。そこはしっかり覚えておくように」
そこに背後から高らかな笑い声が響く。
「フハハハハ、我が名は世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、天才科学者ドクターハデス!
 ククク、インテグラル・ナイトのイコン化実験か。 ……面白い!
 その実験、天才科学者であるこの俺が協力してやろうではないか!」
ドクター・ハデス(どくたー・はです)である。
「……そうか。よかろう」
「インテグラル・ナイトを研究して実用化した暁には、我らの世界征服のための尖兵として使わせてもらうがな!
 だがデータはしっかりと取得し、分析に協力しようではないか。フハハハ!」
ハデスの最終目的はインテグラル・ナイトをオリュンポスの戦力とするための研究である。それゆえ実験についてはまじめに協力するつもりである。そしておもむろに背後に静かに控えていたアルテミス・カリスト(あるてみす・かりすと)を振り返る。
「というわけで、アルテミスよ!
 お前はインテグラル・ナイトに搭乗し、キロスと共にゴーストイコンの群れの迎撃に当たるのだ!」 
「了解しました、ハデス様! それでは、インテグラル・ナイトに搭乗して出撃します!」
「うむ。ただちょっと待て。まだやることがある。見ておれ。ククク……」
ハデスはアルテミスを従え、割り当てられたインテグラル・ナイトの格納されたブースへと向かう。
鳴神 裁(なるかみ・さい)がパイロットスーツとしてドール・ゴールド(どーる・ごーるど)を身に着け、黒子アヴァターラ マーシャルアーツ(くろこあう゛ぁたーら・まーしゃるあーつ)をその上に羽織り、腕組みしてインテグラル・ナイトを見上げる。
「ごにゃ〜ぽ☆ ……融合型インテか……まさか次世代機候補……なのかなぁ。
 まぁ、それはそれとして、融合型ならあれだね☆ ユニオンリングで3身合t……えっと?
 ……一人乗りってことは……ユニオン(合体)してるとイコン搭乗できないん?」」
アリス・セカンドカラー(ありす・せかんどからー)が喜色の笑みを浮かべたまま凍りつく。
「うん、あれよね☆ 3身合t……え?」
変身ポーズのままぴたっと固まり、ぎっぎっぎという効果音が聞こえそうな動きで首だけをアリクトにむける。
「ユニオン(合体)してるとイコン搭乗できないとか……?」
「今回インテグラルとの同化があるからな。魔鎧装備は別だが」
アクリトが無表情に頷く。
「そんな、そんなこと……!!」
裁がちらっと変身ポーズのまま固まってるアリスを見、つかつかと近寄りその肩をポンと叩くと、アリスの全身がビクっと硬直する。
「運命とはかくも過酷なものなんだよ……」
重々しく言い放つ。恐る恐る振り返るアリス。
「いや、いやよ、それだけはいや」
いやいやをすように首を振るアリス。しかし現実は無情であった。
「待機LCにもどるのはいやーーーーーーーー!」
泣き声の尾を引いてダッシュでイコンデッキを飛び出してゆく。
(……こ、この程度で2軍落ちするほど薄いキャラはしてないわっ! ……してないわよね?)
脳裏で不吉な想像が渦巻くアリスであった。
アリスを見送った裁はにこやかにブースのインテグラル・ナイトを見上げた。
「ぶっちゃけ、ユニオンできないなら1人乗りイコンにはナラカ人のが使えるかもだし☆
 同化のロマンには逆らえなかったよ☆
 さて、茶番も終わったとこで出撃といきますか。まぁ、ボクとしてはもっと小型の方が好みなんだけどね。
 正式版にはポーンでもいいから、小型サイズのもだしてもらえるようダメ元で提案してみようかな?」
と、魔鎧の胸部から黒子アヴァターラの声がする。
「そういえば、アリクト教授、インテグラルなら通常のイコンと違って投げ技とか関節技とかできるのかな?
 こういった技を使うことで壊れやすいってイメージは湧かないし。できるようなら戦いの幅も広がります」
「今回の機体はインテグラル・ナイト型だからな。
 上半身を巧く生身の時のように扱えるようになれば、あるいは可能かもしれないが……。
 現状では、操縦者の意思伝達が未だスムーズに行えない。下半身が馬体であることもあり、難しいだろうな」
「……なるほど」
そこにリネンが口を挟む。
「それと一つ確認……お願いがあるんだけど、緊急時を想定してリミッターの解除権をもらえないかしら?
 あくまでも予想外の事態が起きたときのために、ですけど?」
「それは出来ない。まだコントロールが不安定なのだ。
 それゆえ今回の実験機ではパイロット側からのリミッター設定を操作できない状態にしてある。
 更なる災害を呼び込みかねないからな」
「そういうこと……わかったわ」
リネンは振り返り、パートナーであり『シャーウッドの森』空賊団の団長でもあるヘリワード・ザ・ウェイク(へりわーど・ざうぇいく)に言った。
「空賊団でのバックアップを頼むわね」
「ニルヴァーナはシマじゃないんだけど……ま、アガルタの協力者の保護って名目にしときますか」
一旦言葉を切り、インテグラル・ナイトを見上げる。
「……これも使えるなら空賊団に欲しいしね。後ろは任せなさい。いってこい! 
 ……ただし暴走は勘弁してよ!」
もう一人のリネンのパートナー、フェイミィ・オルトリンデ(ふぇいみぃ・おるとりんで)は少し離れて仏頂面でインテグラル・ナイトを見上げていた。
「なんであんな肉人形みてーのにわざわざよぉ……。
 お前にはオレの熾天使の力があるだろうが!
 それともなんだよ…やっぱフリューネとじゃなきゃイヤだ、ってか!?」
リネンが宥める。
「そういうわけじゃないけど、実験データはなるべく多くあったほうがいいと思うしね。
 万が一暴走した場合は……お願いね」
これ以上はないという不機嫌そうな顔のまま、フェイミィが頷く。万一の際、このインテグラルナイトをどう破壊すれば怪我させずに救出できるか。それはリネンだけではなく、同様にインテグラル・ナイトで出撃するものたちへのバックアップともなる。フェイミィはアクリトの元に、インテグラル・ナイトの詳細なデータや、胸部への同化ということだが、パイロットのダメージの少ない部分などの確認に急いだ。無論アクリトとてその対策については考えているであろう。だが開発者や研究者と違った視点からもチェックすることが出来れば、新たな対策を施せるかもしれない。
 リネンはインテグラル・ナイトに近づき、声をかける。
「まず…名前がいるわね。女王の忠実なる騎士……エーデルリッター。
 ちょっと長いし、エーデル(ドイツ語で貴族の意)どうかしら? ……よろしくね、エーデル」
インテグラルに知性や意志があるのかは不明だったが、彼女は巨大生物同様に意志を尊重する態度で臨むつもりでいたのだ。データチェックを行っていたフェイミィは、その様子を見てしかめ面をすると背を向け、再び自分の仕事に専念しだした。
 いよいよ出撃である。格納庫前でハデスはアルテミスを前に満面の笑みを浮かべた。
「アルテミスよ、せっかくなのでこのごくごく短時間にインテグラル・ナイトを強化改造しておいたぞ!
 先端テクノロジー、機晶技術、ニルヴァーナ知識、イノベーションすべてを駆使してな! フハハハハハ!
 当然、自爆装置も搭載済みだ」
インテグラル・ナイトの右手には斧の代わりに巨大ドリルが取り付けられ、カラーも暗めの悪っぽい色に塗られておいる。わき腹には大きくオリュンポスの紋章も描かれている。
「さあ、アルテミスよ! 
 インテグラル・ナイト・オリュンポス・スペシャルを駆れ!
 そしてキロスとともにゴースト・イコンどもと戦闘を行うのだっ!」
アルテミスはハデスの指示通りインテグラル・ナイト・オリュンポス・スペシャルに近づいた。
ガッコーン……ゴンッ!!
鈍い音と共にドリルがナイトの腕から転げ落ちた。
「むぅ……仕方がない。斧を持ていっ! フハハハハハ!」
何が起きてもめげないハデスなのであった。
 裁の機体はドールにより簡易ではあるが迷彩塗装を施されていた。
「まあ。気休めかも知れませんけれど。
 あとはミスディレクションによる実践的錯覚で一瞬認識から外れるようにも考えてみます」
ドールが言うと、黒子アヴァターラが続ける。
「殺気看破で索敵を行いますね。
 うまくいくかわかりませんけど、タイムコントロールで時間を加速してみます。
 うまくいけば行動予測しやすくなるでしょうし、回避行動もとりやすいのではないかと。
 あとは一定のリズムを保ちつつ行動、動きに緩急をつけることで敵側からの距離感を狂わせることも出来そうですね」
 「では同化を行う。準備はいいか?」
アクリトが声をかけ、パイロットたちは神妙な表情で頷いた。同化の瞬間、全員が奇妙な感覚に囚われた。ぱあっと目の前が白くなる。そこはどこともわからない空間で、無数の光が飛び交っていた。その中に自分が浮いている……。だがそれはごく短い間だった。彼らはインテグラル・ナイトの胸部に収まり、一斉にアクリト艦から飛び立った。艦の近辺ではすでにキロスがナイトの巨体を駆り、接近してくるゴーストイコンと戦っていた。
「ああっ! くそッ! 思うように動きやがらねえ!! この野郎!」
機関銃のようにののしりながら、斧を振り回してゴーストイコンを叩き割り、後足で強力な蹴りを見舞う。アルテミスもまた動きづらさを感じながら、ナイトを駆っていた。
「なるべく無理はせずに、インテグラル・ナイトのデータ収集を中心に……って、キ、キロスさんっ!
 動きにくいのに一人で突出しないでくださいっ!」
新たに出現した8機に向かって単身突っ込んでゆくキロスを追う。
「仕方ありません。キロスさんっ! 背中は私に任せてください!」
リネンも戦艦が後にしてきたアイールの街側に機体を移動させ、そちらのほうへ向かっていこうとするゴーストイコンを相手取っていた。ヘリワードが空賊団を率いて援護射撃やゴーストイコンの撹乱を行ってくれている。
「あなたの意思も尊重するわ、でも、私の意も感じ取って頂戴」
リネンはナイトに意思を通わせようとしながら、斧や蹴りで接近してきたゴーストイコンを慎重に叩いてゆく。やはり巨大生物の知識が幾分役立っているようだ。だが思うとおりに動けるようになるには時間がかかりそうだ。
フェイミィが心配そうな表情で、空賊団に混じって心配そうにこちらを見守っている。
 裁もナイトを駆ってゴーストイコンと闘っていた。
「機動性でもってヒット&アウェイで翻弄するのがボクの基本的なバトルスタイルなんだけど、これ動きがトロイし。
 もしかしてドールやブラックさんの小技を補助じゃなくメインで使う必要もあるのかなー?
 ま、ゴーストイコン殴りまくってればそのうち慣れるか☆」
無茶な機動で、ただでも操作しづらいナイトの体に強烈なGが発生するが、裁は無頓着だ。ドールが気を利かせて超人的肉体で強烈なGによる負荷を軽減してはいるが。
 ゴーストイコンの向こうに、瘴気を放つあのイコンの姿も見え隠れしていた。
「クソッ! 着ぐるみでもまとっているみたいだぜ。思うとおりに動きやがらねえ。
 首を洗って待っていやがれ、こいつら片付けてすぐ行ってやる!」
キロスが息巻いて、間にいるゴーストイコンを一機、また叩き割った。