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魔女が目覚める黄昏-ウタカタ-(第3回/全3回)

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魔女が目覚める黄昏-ウタカタ-(第3回/全3回)

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■エンディング

 玄秀は、ゆっくりと浮上していく自分の意識を感じた。
「……ここは…?」
 徐々に形作られていく思考能力。なぞの敵に背中を割られたまでしか記憶がない。
 直後、走った激痛に漏れそうになった悲鳴を、ぎゅっと奥歯を噛んで耐え、すりつぶす。
「目が覚めた?」
 傍らから覗き込むティアンの顔が見えた。
 瞳も表情も穏やかで、まるで昔の彼女のようだ。そのことに目を奪われて、ほおや二の腕についた切り傷に気づくのが遅れた。
「ああ、これ?」玄秀の目線で気づき、ほおをこする。「なんてことないわ。ただのすり傷よ。ちょっと手ごわかったけど、向こうも広目天王と2人と気づいてからは、深追いはしてこなかったから」
 ティアンが助けてくれたのだ。
 彼女があのなぞの敵と戦っていなければ自分は死んでいたということ、そしてその戦いの間じゅう自分はだらしなく気を失っていたということがなんだかもやもやとして、複雑な気分でふいと目をそらす。
 そんな彼を見て、ティアンはふふっと声に出さず笑う。
「今は休んで」
 ぽんぽんと上掛けの上から軽くたたいて、枕元を離れた。
 昔の彼女のように。


※               ※               ※


 砂埃を上げながら、数騎の騎馬が疾走していた。
「え、エルシャイドさま、少し速度を落としてください! 脱落する者が出ています!」
「泣き言を言うな! 急げ! ついて来れる者だけついて来ればよい!」
 側近を叱責し、馬にかかとを入れてさらに速度を上げる。ひたすら先を急ぐ彼らの前方をふさぐように木の影から現れたのは、騎乗したセテカとその側近たちだった。
 手綱を引き絞り、馬を止めた直後、周囲を囲うように騎士たちが現れる。
 とまどいつつも主君エルシャイドを守るように彼の騎士たちが周りを固めたが、セテカの騎士たちは彼らの3倍はいた。
「エルシャイドさま……これは」
「静かにしろ」
 この事態になって、逆に腹が据わったか。エルシャイドは馬上で背をただすと、威厳を持ってセテカを見据える。
 セテカはエルシャイドの前まで馬を進めた。
「レアルさん、お急ぎですか」
「セテカ、いくらネイトの息子といえど、12騎士たるわたしの前をふさぐとは無礼であろう。そこをどけ」
 いくら隠そうとしても、どうしてもいら立ちがにじんでいた。エルシャイド自身それと分かってか、ぎらつく目でにらみつける。たたきつけるような殺意も本物だ。少しでも隙を見せれば抜刀しそうな彼の様子にセテカは軽く肩をすくめて見せると、懐から1通の手紙を取り出した。
「無礼をして申し訳ありません。お急ぎなのは分かりますが、その前にこれに目を通すくらいのお時間はいただけるかと思いまして。
 騎士長からあなた宛ての手紙を預かっています」
「ネイトから?」
「はい。なに、ほんの数分です。ナハル殿もその程度の時間、お待ちくださいますよ」
「……っ!」
 ひったくるように奪い取ったエルシャイドは、引き破る勢いで封を切る。
 最初の1行に目を通した時点で、見た目にもはっきりと顔が引きつった。
「……きさま……きさまたちは…」
 一気に蒼白した顔で絶句するエルシャイドに顔を寄せると、セテカはつぶやいた。
「これがどういうことを意味するか、あなたならお分かりでしょう。アズィール家の先のためにも受けた方が利口です。もちろんそうなれば、わたしからも推薦状を出させていただきます」
 今にも飛び出しそうなほど目をむいて手紙を凝視し続けるエルシャイドのなかで、対立する2つが目まぐるしく渦巻いているのが分かる。あとは軽く背を押すだけでいい。
「今度の件について、報告するなとは言いません。ただ、子どもの存在だけを抜かせばいい。あなたは忘れていたのです」
「だが……いずれは知れる…。こんなことは、無意味な…」
「そう思うのであれば、受けてもさしさわりはないでしょう」
「……だか……だか…」
 震えるこぶしのなかで、ぐしゃりと手紙が握りつぶされた。


※               ※               ※


 数カ月後、ネイト・タイフォンの騎士長引退が公示された。始祖の書盗難事件の責任を取るかたちでの引責である。
 このことにより、イスキア家の騎士、オズトゥルク・イスキアが12騎士騎士長、騎士団長に任命された。
 そしてネイトの1人息子であるセテカ・タイフォンが跡を継ぎ、タイフォン家の騎士として新たに12騎士へと加わったのだった。

 



『魔女が目覚める黄昏 −ウタカタ−第3回  了』

担当マスターより

▼担当マスター

寺岡 志乃

▼マスターコメント

 こんにちは、またははじめまして、寺岡です。

 今回もまたお待たせてしてしまうことになり、本当に申し訳ありませんでした。
 土下座してもし足りないようになってきましたが、とにかくひたすら土下座させてください…!

 とにもかくにも『魔女が目覚める黄昏−ウタカタ−』はこれにて終幕です。
 たくさんのご参加をありがとうございました。

 入れる場所がなくて書けませんでしたが、イルルヤンカシュはクリスタルとともにあの地に残ってアタシュルク家が育てることになりました。
 育つにはまだまだ時間がかかるでしょうが、いずれかの地で本当に幸運を授ける竜として親しまれるのではないかと思います。



 それでは、ここまでご読了いただきまして、ありがとうございました。
 次回はまだ決まっていませんが、そちらでもまたお会いできたらとてもうれしいです。
 もちろん、まだ一度もお会いできていない方ともお会いできたらいいなぁ、と思います。

 それでは。また。