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古の白龍と鉄の黒龍 第5話『それが理だと言うのなら、私は』

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古の白龍と鉄の黒龍 第5話『それが理だと言うのなら、私は』

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「ミーナさんの提案の件で、現時点で通信できた人の賛否についてを纏めてみました。
 結論から言いますと、強く反対を述べている人は居ませんでした。条件を付けての賛成であったり、多くは提案に従うものになっていますね」
 ザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)の手によって纏められた意見書を、エリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)アーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)が順に閲覧する。ザカコが言った通り、天秤世界とイルミンスールを繋げて力を得る案に対し反対を述べる者は今のところおらず、条件付きの賛成はアリス・ハーディング(ありす・はーでぃんぐ)が出しており、他は程度の差こそあれど、『イルミンスールが消滅することを望んでいる者は居ない』というのが分かる結果となった。
「うむ、ご苦労じゃった。……まあ、より情報が浸透すればまた別の意見も出てこよう。
 差し当たっては、力を受けるに当たって考えられるリスクに対し、場当たり的ではなく組織的に対処する仕組み作りの検討……そういう事じゃろう?」
 ちら、と視線を向けた先に佇むアリスは、微笑のようなものを浮かべて言葉を発さない。その態度から見るに的外れではないだろう。アーデルハイトはそう判断し、事が済み次第早急に検討出来るように手配する。
「龍族と鉄族は停戦に至り、今新たに出現した敵に共闘する姿勢を鮮明にしました。
 一つの争いが去った後にまた争い……改めて、争いが支配する世界であることを実感させられます」
「うむ……それがあの世界の理じゃろう。そのルールで長い間、やってきたのじゃ。それを変えるのは容易ではない」
「そうですね……個人的には、争いが発展に繋がるという点は否定できませんし、切磋琢磨の様な物も争いと言えるので、厳密に争いが無くなると言うことはないと思っています。
 ですが、人を傷付け合う様な争いが無くなる世界は、まあ、理想ではありますが目指す事が出来ると思います。ふと思ったのは、『天秤宮』のような素性の知れない管理者に任せず、こちらが管理してルールを書き換えてやるとか、そういうものですが……」
 その言葉にはアーデルハイトではなくエリザベートが回答した。
「でもそれだったら、問題児たちを天秤世界に送る前に、私達が直接出向いて解決しちゃえばいいんですよぅ。私達にこれから求められるのはそういうことなんですからぁ」
 天秤世界はあくまで、物事を解決するための手段であり、本来は維持するべき世界ではない。エリザベートの言うように、送る必要がないようにすれば送らずともよく、天秤世界を維持する必要もなくなる。その分他の世界樹から、問題を解決するように指示が送られることになるだろうが。
「結局は、そうなりますか。……しかし、校長も立派になりましたね。
 先程のような言葉は、以前の校長であれば口に出来なかったのでは?」
 ザカコの発言は、天秤世界の役割を担うことに対して問うたアーデルハイトへの返答のことを言っていた。エリザベートはこの時、「それがイルミンスールと契約した自分の役目」と言った。
「そうですかねぇ。よく分からないですぅ。自分だけで言っちゃっていいのかとか思いますけどぉ、でもやっぱりやらないといけないのかな、と思うわけですぅ」
「……おまえ、何か口調がおかしくなってないか?」
「失礼ですねぇ。なんて言っていいか分からないんですよぅ」
 ふてくされるエリザベートを見て、ザカコがおかしく笑う。でも思えば、自分の思っていることを正しく言葉に出来るかと言われたら、自分も自信がないような気がした。
 だから、なんとか言葉にしようとしているエリザベートはそれだけでも立派なのだろう。
「どんな道を選んでも自分は、校長やアーデルさんの助けとなりますよ」
 そう言った所で、『深緑の回廊』を司っていたコロンがやって来て皆に報告する。
「おにいちゃんが、根っこをイルミンスールと繋げたよ。これで通信機器がまた使えるようになるはず」
「そうですか。……おや、事は早速、ヘルから通信が入りましたね」
 復活した通信機器をザカコが取って、強盗 ヘル(ごうとう・へる)と繋ぐ。

「ザカコか? 通信が回復したみてぇだな。
 報告としちゃ、こっちは天秤宮とイルミンスールを繋げる方向で決まった。もし協力が必要な時があったら連絡すっから、そん時はよろしく頼む」
『分かりました。……もし、事の途中でそちらに敵が来る可能性は、十分あると思います』
「だろうな。天秤宮にとっちゃ自分が無くなっちまうんだ、そりゃあ抵抗するさ。
 けど、何が来ようと、ここは死守してみせるぜ。だってさ、俺達が頑張りゃ、世界から戦争を減らすことが出来んだろ?」
 言ったヘルの脳裏には、自分がかつて縁のあった孤児院の子供たちが浮かんでいた。
 ――もしかしたら自分が、そういった子供たちを減らすことが出来るかもしれない。世界から悪党が消える事は無いだろうが、相手を憎み争うだけの世界でないと教えることが出来れば、その絶対数も減る。そうして、新しく産まれてくる子供たちが両親の元で元気に育ち、いっぱい楽しい思いをして生涯を過ごす。そんな世界が今後増えていくのなら、今苦労することは決して無駄ではないはず。
「……血を流すのは、俺みたいな奴だけで十分だぜ」


 ザカコがヘルと通信をしている間、イルミンスールで連絡役を担っていたシーサイド ムーン(しーさいど・むーん)は通信が復活したことで眠りから覚めた。……そして辺りを見回し、さてどうしようかと思い至る。本来はここに悪巧みに来た者に対しての彼だったため、もう今になってどうこうするような者も居ない以上、役どころを失ってしまったのだ。
「ふむ。だからといって無駄だったかといえば、そんな事は無いぞ? おまえがここに居たからこそ、悪巧みに来られなかったという可能性もあったのじゃからな」
 アーデルハイトがムーンを見つけ、帽子の上に乗せてやる。
「そういえばお前の主は、今はどこに向かっておる? 確か拠点に居た記憶があるが」
 アーデルハイトの問いに、ムーンはリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)シルフィスティ・ロスヴァイセ(しるふぃすてぃ・ろすう゛ぁいせ)と、ルピナスの下へ向かったと告げる。何でも世話になったから、だと。
「ルピナスか……。彼女はどの道を選ぶのかのぅ。
 しかし毎度毎度、よくもまぁ、契約者はお人好しじゃの。大方説得しにでも行っとるのじゃろう」
 それはアーデルハイトにとっては冗談のつもりだったが、自分だってかつては契約者に説得させられた身じゃないか、と言いたげにムーンがビリビリ、と電気を発しアーデルハイトを痺れさせたのだった。